ヒト iPS 細胞(hIPSC)から分化誘導した 疾患肝臓・膵臓細胞の作製

ヒト iPS 細胞(hIPSC)から分化誘導した
疾患肝臓・膵臓細胞の作製
Disease modelled hepatocyte and pancreatic preparation from hIPSC-derived cells
松永昌之, Marcus Yeo, Ludovic Vallier
英国ケンブリッジ大学から 2012 年にスピンアウトしたバイオ系ベンチャーDefiniGEN Ltd.は、独自に開発し国際特許を取得している分化誘導技
術・OptiDIFF プラットフォーム™を用い、効率的かつ高性能なヒト iPS 由来細胞を製造している。OptiDIFF プラットフォーム™では、内胚葉系細胞
への分化後の生成物である、肝臓・膵β細胞・肺細胞・小腸細胞・胃細胞等への分化経路が特定されており、ラボスケールにおいて、各細胞が
持つマーカー等の特定が完了している。DefiniGEN では、現在までに iPS 細胞から誘導された肝臓及び膵β細胞について、野生型(wide type)
および疾患モデル(disease model)の製造・品証プロセスを完了させた。肝臓系の遺伝疾患モデルとして、家族性高コレステロール血症(familial
hypercholesterolemia: FH)、グリコーゲン貯蔵病 1a 型(glycogen storage disease type 1a: GSD1a)、α1 アンチトリプシン欠損症(α1-antitrypsin
deficiency: A1ATD)を現在までに上市し、今後疾患タイプを増やす予定。各種疾患モデルの作成については、今後野生型の iPS 細胞に対し遺
伝子改変技術を用いた導入方法を採用していく。また、細胞は凍結保存された状態においてグローバルに供給できるシステムを、大手国際輸
送企業とのタイアップにより構築させた。自社開発による凍結・解凍技術により、80%を上回る解凍後の細胞生存率(viability)を保証している。
コア技術 “OptiDIFF プラットフォーム™”
肝臓細胞(Def-HEP WT)を上市する予定としている。
OptiDIFF プラットフォーム™の原型は、英ケンブリッジ大学再生医
療研究所において開発された。同研究室は幹細胞研究におけるグ
疾患モデルの拡大(肝臓系: Def-HEP)
ローバルリーダーとして、iPS 細胞のみならず、胚性幹(ES)細胞に関
遺伝的代謝疾患の治癒に向けた創薬開発は、言うまでもなく全世
する知見も豊富に有している。ヒト iPS ライブラリーから内胚葉(一部
界的に重要なヘルスケア領域におけるターゲットと位置付けられて
中胚葉)への誘導を経た後、肝臓および膵臓への分化経路が特定
いる。ヒト iPS 細胞から目的の疾患を有する肝細胞が製造されること
され、今日では肺・小腸・胃・脂肪細胞へも応用されている。
は、初期段階の創薬開発の手法を大きく変化させる可能性を有し
DefiniGEN では、効率的な商業生産および、高いバッチ間安定性と
ている。DefiniGEN では、肝細胞を中心に各種疾患モデルを調製
解凍後の生存率(viability)の高さを維持することを目的に、各種プロ
する技術を確立しており、単性(monogenetic)の疾患モデルを中心
セスにおける最適化を行い、現在の OptiDIFF プラットフォーム™を
に、今後 Crigler Najjar, Tyrosinemia, Wilsons 疾患などを上市する
完成させいる。OptiDIFF プラットフォーム™は、その分化の過程で
予定としている。また、複合型の疾患モデルとして、胆汁鬱滞や各
供される培地等の組成が全て化学的に特定されていることが最大
種 NAFLD の原因となる遺伝子欠損系の開発を行う。疾患モデルの
の特長であり、分化された細胞のバッチ間の安定性などが高まる。
調製には、予め疾患遺伝子を有する患者から承諾を得た細胞を起
源とし「疾患 iPS 細胞」から疾患肝細胞を作成する方法と、野生型の
1)
EBiSC: 欧州 iPS 細胞バンクの主要メンバーとして
iPS 細胞に対し遺伝子改変技術により疾患モデルを作成した後、分
OptiDIFF プラットフォームにより誘導分化された細胞は、欧州 iPS
化誘導を行う2種類の方法を採用している。今後は、嚢胞性線維症
細胞バンク(EBiSC: IMI European Stem Cell Bank)プロジェクト内で
(cystic fibrosis: CF)モデルなどを作成していく。
評価されている。EBiSC には、EFPIA メンバーとしてのメガファーマ
企業を中心に、主要な学術機関も参画している中で、DefiniGEN は
1)
家族性高コレステロール血症 (FH)
唯一の iPS 細胞製造企業として同コンソーシアムの主要メンバーと
家族性高コレステロール血症(FH)は、血中の LDL の異化を行う
して採用されている。EBiSC では、iPS 由来細胞の商業的な活用を
LDL 受容体(LDLR)のほか、アポリポ蛋白 B-100 (APOB)の遺伝子
推奨するための標準化作業を行っており、現在は iPS 由来の肝臓
変異により生じる常染色体優性疾患である。DefiniGEN では、疾患
野生型細胞が有する代謝活性を肝毒性評価に採用させるためのプ
モデル「Def-HEP FH」として、LDLR タイプ(E101K)と APOB タイプ
ラットフォーム作りを行っている。DefiniGEN では、EBiSC 内での評
(R3500Q)の2種類を用意している。Def-HEP FH は、図 1 に示す通
価ならびにデータ集積が行われた後、代謝活性評価を目的とした
り、初代肝細胞と比較し、アルブミンや A1AT を中心としたマーカー
DefiniGEN Ltd. June 2015
が十分に発現されていることが確認・保証されており、総合的に初
象として用いた初代肝細胞(PHH)や細胞株(HepG2)と比較し、より
代肝細胞と近い機能を有する。
多くのポリマー化 A1AT が細胞内に取り込まれていることがわかる。
図 1. トータル A1AT 発現を免疫染色法による初代肝細胞と比較
図4. ELISA法による2C1mAb(ポリマー化したA1AT)の量の比較。左図は細胞内、右側
は細胞外の比較を表す.
糖尿病研究への挑戦(膵臓系: Def-PANC)
全世界に 3 億人以上とされる糖尿病患者に対する効果的な創薬研
究を行うため、インスリンを合成・分泌する細胞であるヒト膵β細胞
図2. (左) ウェスタンブロッティングにより、Def-HEP FHにおいてLDL受容体が欠損して
が、高品質かつ安定的に供給されることが望まれている。iPS 細胞
いる結果を示した結果、(右) FACSによる結果。Def-HEP FHにおいて顕著にDiI-LDL
から分化誘導した膵臓細胞は、こうした要求に応え得るツールとし
の取り込み能力が損なわれていることが確認できる
て注目を集めているが、その機能が十分に保証されることが必要条
件となっている。
2)
DefiniGEN が開発に成功した「Def-PANC」細胞は、膵β細胞に最
グリコーゲン貯蔵病 1a 型 (GSD1a)
糖原蓄積症とも言われる GSD1a は、グリコーゲン分解に必要な酵
も求められる機能である、グルコースに対するインスリン分泌を行う
素代謝における先天的異常により、肝臓や筋肉などの組織に、グリ
ことが確認されており(図 5)、創薬や治療の分野に応用されることが
コーゲンが分解されずに異常に蓄積される疾患である。疾患モデ
期待されている。Def-PANC も、OptiDIFF プラットフォーム™を基本
ル「Def-HEP GSD1a」(図 3)として上市済。
とし設計され、初期段階における definitive endoderm 期には、この
期に必要となる CXCR4 がリッチであることが確認され、その後 4 段
階の分化プロセス後においては、80%程度の細胞が PDX1 を発現し、
その殆どにおいて SOX9, HNF6, HNF4, NKX6.1, GATA4 等の発
現マーカーが共存していることを確認している(図 6)。PDX1 を発現
している細胞を効率的に収集し、これを必要期間培養した細胞から、
十分なレベルの C-ペプチド(c-pep: インスリン分泌の指標として用
いられるマーカー)が得られることを確認している(図 5)。
図 3. Def-HEP GSD1a の PAS 染色画像
3)
α1 アンチトリプシン欠損症 (A1ATD)
A1ATD は、最も一般的な遺伝疾患として知られ、変異した A1AT
(タンパク質分解酵素阻害剤)がポリマー化し、肝細胞内に蓄積す
ることで肝機能障害を誘発すると同時に、体内のタンパク質分解酵
素が異常活性化し、肺が破壊されることにより肺気腫の原因となる。
図 5. グルコースとの反応後の C-Peptide (C-PEP)放出の変化量
図 4 は、ELISA 法により、細胞内に蓄積したポリマー化された A1AT
(2C1mAb)と、細胞外に出された全 A1AT 量を比較している。比較対
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2)
流れ
ユーザー様は、血液(好ましくは末梢血単核細胞:PBMC)または皮
膚繊維芽細胞 (fibroblast) の細胞を DefiniGEN に送付する。この
サンプルは最新の mRNA リプログラミング方式により iPS 細胞を生
図 6.
Def-PANC WT のモルフォロジー(左)、および染色法による PDX1(中)・C-
成した後、OptiDIFF プラットフォーム™により分化、バンキングされ
た後、試験成績書と共に納入される。
Peptide (C-PEP)の発現解析.
プロセスの過程で得られる iPS 細胞については、シーケンス解析に
カスタム細胞生産
より、遺伝疾患が継承されているか確認を行い、そのデータがユー
DefiniGEN は、ユーザーから提供される細胞を起源にした iPS 由来
ザー様に提供される。この確認作業の後、細胞の増殖~バンキング
肝細胞を生産させるサービスを新たに開始させた。このサービスに
~凍結保存までのプロセスが検証され、得られた細胞は凍結バイア
より、ユーザーは疾患タイプや人種などが特定された独自のサンプ
ルの状態にて、必要数納入される。細胞には、遺伝的な詳細、表現
ルを起源とした iPS 由来肝細胞を研究に活用することが可能になる。
型の解析結果、及びユーザー様が必要とされる追加の分析項目が
DefiniGEN は 、 iPS 細 胞 の リ プ ロ グ ラ ミ ン グ を 経 た 後 、 独 自 の
記載された試験成績書が添付される。
OptiDIFF プラットフォーム™により、肝臓などの目的の細胞までの
尚本サービスに必要となる期間および費用は、サンプルの種類、分
分化を完了させ、凍結バイアルとして納付する。この際には、遺伝
化難易度、および納入形態(バイアル数、分析項目等)によって変
子型(genotype)と表現型(phenotype)を解析した情報を添付し製品
動する。
を保証する。
1)
概要
本サービスは、細胞株等を使用している研究者からの要望により誕
生した。「遺伝的背景や、特定の人種をベースにした細胞を豊富に
入手し、創薬の研究等に活用したい」との声に、DefiniGEN が独自
の技術で応えている。肝細胞系を中心に、主要な遺伝性代謝疾患
であるα1-アンチトリプシン欠損症 (A1ATD)、グリコーゲン貯蔵 1a
病 (GSD1a)、家族性高コレステロール血症(FH)、クリグラーナジャ
ー (Crigler Najjar) 症候群、チロシン血症などへの分化を行うことが
出来る。これらの疾患については、酵素変異、レセプター不全から、
ミスフォールドされたタンパク質の蓄積の解析に至る表現型におけ
研究開発
る影響を細かく解析することが可能である。DefiniGEN の iPS 由来肝
DefiniGEN では、当社 CSO でもある Dr Ludovic Vallier が研究活動
細胞は、初代ヒト肝臓細胞 (primary hepatocyte) と比較しても、細
の拠点としているケンブリッジ大学再生医療研究所および、Sangar
胞内アルブミン、グリコーゲン貯蔵、LDL コレステロール接種、
Institute と密接な情報交換、および人材の交流を行うことにより、次
CYP400 活性が同レベルであることに加え、細胞株を用いた際の問
世代製品の開発を目的とした研究開発に力を入れている。既にプ
題である「クラブツリー効果」が起こらないことを確認している。
ロセスが確立している肝臓及び膵臓細胞への分化誘導の更なる最
適化や、肺・小腸・胃・脂肪細胞への分化経路特定に関する研究を
行っている(一部学術発表済み・図 8)。DefiniGEN では次なる上市
ターゲットを、肺および小腸と定め、典型的な肺疾患である慢性閉
塞性肺疾患(COPD)や、肺・膵臓・肝臓などの複数の臓器に影響を
及ぼす嚢胞性線維症(cystic fibrosis: CF)の疾患モデル作成に取り
組んでいる。また、DefiniGEN では、このような新たに開発された細
胞(健常型・疾患モデルとも)を先行評価して頂ける製薬メーカー等
図 7. A1ATD, GSD1a, 家族性高コレステロール血症を含む代表的な肝臓遺伝性疾患
の開発パートナーを募集している。
に関するモデル図.
DefiniGEN Ltd. June 2015
製品情報
品番 製品名 Def‐HEP WT Def‐HEP Wild Type iPSC derived human Hepatocytes (ヒト iPS 由来肝臓細胞‐野生型) 図 8. 研究開発におけるポートフォリオ
Def‐HEP FH Def‐HEP disease model iPSC derived human Hepatocytes: Familial Hypercholesterolemia 凍結・解凍技術とグローバル供給体制の構築
(ヒト iPS 由来肝臓細胞‐ iPS から分化誘導された細胞は、分化誘導の最終段階で凍結され、
疾患モデル:家族性高コレステロール血症) ユーザーに納品された後に適切に解凍および最終的な処理(メン
Def‐HEP A1ATD Def‐HEP disease model iPSC derived human テナンス)が行われた後、試験に供されることが望ましい。
Hepatocytes: Alpha 1 AntiTrypsin Deficiency DefiniGEN では一般に難解と言われている iPS 由来細胞の凍結・解
(ヒト iPS 由来肝臓細胞‐ 凍後の生存率(viability)を最大限に高めるための技術を特許化し、
疾患モデル:α1アンチトリプシン欠損症) 80%以上の生存率を維持することを品質保証の一部に定めている。
Def‐HEP GSD1a Def‐HEP disease model iPSC derived human 図は、Def-HEP における凍結前後の生存率を示したチャートである。
Hepatocytes: Glycogen Storage Disease 1a 左 側 (a) に は 、 肝 臓 の 代 表 的 マ ー カ ー で あ る ア ル ブ ミ ン (ALB),
(ヒト iPS 由来肝臓細胞‐ HNF4a, α1 アンチトリプシン(A1AT)のレベルを比較し、右図(b)に
疾患モデル:グリコーゲン蓄積症) は A1ATD 疾患モデルにおけるポリマー化された A1AT(2C1mAb)の
Def‐PANC WT 細胞内における量、および細胞外におけるトータルの A1AT 量を比
Def‐HEP Wild Type iPSC derived human Pancreatic (ヒト iPS 由来膵臓細胞‐野生型) 較しているが、いずれも凍結前(fresh)と凍結解凍後(cryo)において、
【共通仕様】 統計的な差がないことがわかる。DefiniGEN ではこの凍結技術の他
単位:1バイアル(凍結)、セル数:>5million、生存率:>80% に、グローバル輸送メーカーである FedEx と、特殊コンテナにより液
輸送・保管条件:液体窒素、保証期間:製造後1年間 体窒素雰囲気化での安定輸送を可能にしている Cryoport 社とタイ
※価格は問合せ下さい。細胞バイアルの他に、解凍用培地、細胞維持用培
アップすることにより、グローバルな供給サービスを展開している。
地も用意しております。
問合せ
DefiniGEN Ltd.
Babraham Research Campus, Cambridge CB22 3AT, U.K.
Tel: +44 (0)1223 497 106
図 9. 凍結前後における細胞の生存率(viability)の比較 (左) 肝細胞の代表的マーカ
Tel: +81 (0)90 9653 3295 (日本国内お問合せ・担当:松永)
ーである ALB, HNF4a, A1AT の比較結果、(右) ポリマー化した A1AT (2C1mAb)の細
E | [email protected]
胞内・外における存在比比較.
DefiniGEN Ltd. June 2015
W | www.definigen.com