生検−画像支援脊椎骨生検

IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:田頭周一, 他
連載 3
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IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・
生検−画像支援脊椎骨生検
岡山大学医学部 放射線科,岡山済生会総合病院 放射線科
田頭周一, 金澤 右, 安井光太郎
はじめに
各種画像モダリティの普及と多様化によって骨病変
に遭遇する機会も増加したが, 画像診断が容易でない病
変も少なくない。一方でモダリティの進化に加えて細
径針の開発によって生検手段の幅も広がった。骨生検
の中でも臨床現場で求められる頻度の高い椎体骨に対
する CT ガイド下生検について筆者らが頻用する
OSTYCUT(angiomed, Germany)針(図 1)を用いた方
法を中心に述べる。極めて基本的な記載もあるが, これ
から骨生検をするという先生方にも参考にしていただ
ければと考える。
適応∼なぜ骨生検をするのか
・画像診断で良悪性の確定的診断が得られていない
・画像診断で atypical な所見がある
・既知の悪性疾患がある
・臨床医の心理として良性であることの確信を得たい
・臨床医の心理として悪性の確証を得ないと治療に踏
み切れない
など, 理由は挙げられるが優秀な muscloskeletal
radiologist がいないからではないかという耳の痛い声も
聞こえてくる。Carrasco ら 1)の論文によっても適応の
参考にされたい。
禁忌
1)
Carrasco ら が述べるように経皮的骨生検を行う上
での絶対的禁忌はないが, 以下のような条件では慎重な
検討を要す。
・出血傾向がある
・穿刺経路に大血管や明らかな神経路があり, 回避でき
ない
図 1 OSTYCUT 針, 16G
1)
1)
椎体骨針生検の特異性と特徴
・一般に組織が硬い
・通常は軟部組織を経るのみで病変に到達できる
・呼吸性移動がない
・神経大血管が近くにある場合がある
・標本固定に脱灰を要すため, 診断までに時間が掛かる
・経皮的生検では open biopsy よりも感染出血の危険性
2)
が少ない
前処置・前投薬
前処置として絶食・静脈ライン確保を行う。手技中
は酸素飽和度・血圧モニターを行う。最近では著者ら
は外来での骨生検を行っており, 前投薬は使用しない。
手技
①事前に得られている画像を参考にして患者の体位を
決める。骨生検では硬い骨を貫くために時に加重を
掛けることがある。そのため斜位では次第に体の傾
きが変わり, ゆえに針の刺入角も変わることになるの
で, 筆者は腹臥位(または背臥位)を基本としている。
②体位を決めて寝台に寝かせ, 穿刺部位付近と予想され
る皮膚面にマーカー
(カテーテルを切断したものなど)
を貼り付けて CT scan する。
③得られた CT 画像上で穿刺点を決定し, 前述のマーカ
ーから穿刺点までの距離を計測(図 2)。著者らは
transpedicular approach3)を基本的に計画する。肺生
検のように, 穿刺しながらルートを曲げて修正すると
いう小技はあまり効かないので, ここで決めた直線的
なルートを守って穿刺して行くこととなる。
④局所麻酔。22G カテラン針を用いて, 1 %塩酸リドカ
インで皮膚面から骨膜までを連続的に麻酔する。術
者の好みによって, 麻酔針を残してタンデムに生検針
を刺入する方法と一旦抜去してから生検針を刺入す
る方法を選ぶ。
⑤5 a ほ ど の 皮 切 を 加 え て 皮 下 を 十 分 に 郭 清 す る 。
OSTYCUT 針はドリル様にねじりながら進めるので,
ある程度皮下を郭清しておいてもなお皮下組織を巻
き込みやすい。
⑥OSTYCUT 針を刺入し, 骨皮質に達すると抵抗があ
る。ここまでにも適宜 CT scan をしながら針の進行方
向を確認するが, 骨膜レベルでは必ずスキャンして,
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予想される針経路が適正か確認する(図 3)。呼吸移
動のない椎体骨生検では conventional CT scan で正確
な穿刺が可能である。筆者らは近年 CT 透視下に行
い, こまめな針先の確認が可能となったとともに CT
図 2 CT 画像上での計画
室と操作室との出入りを減らすことで, 手技時間の短
縮につながっている。骨内に針が入った後は進行方
向の修正はわずかしか出来ないので, この時点でしっ
かりと方向確認しておく。
⑦椎弓根を通過する際にはこまめに CT をみて断面内お
よび頭尾方向へのズレがないか確認する(図 4)。断
面内でのズレは脊柱管への迷入, 頭尾方向のズレは神
経根への接触の可能性がある。患者が下肢への電撃
痛を訴えた時には, 針を椎弓根よりも手前まで戻し
て, 穿刺経路を変更してやり直す。
⑧目標の近傍まで内針を装填したままで用手的に進め,
採取する予定の病変手前からは外筒のみで進める。
OSTYCUT の場合は外筒にねじ目が切ってある(図 1)
ので時計方向に回転させながら進める。病変が硬く,
用手的先進が困難な場合は OSTYDRILL(Angiomed,
Germany)
(図 5)の補助も利用する。この時もこまめ
に針先の進捗状況を CT で確認する(図 6)。
⑨病変の採取: OSTYCUT 付属のシリンジで針内に陰
図 3 骨膜レベルでの CT scan : 針先からでるアーチファ
クトで, 以後の針経路を予測する。
図 4 椎弓根を越えるまでこまめにスキャンする。
図 5 OSTYDRILL
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図6
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圧をかける(図7)
。陰圧をかけた後はシリンジ内筒を戻
しても, 外筒針の中に取り込まれた組織は逸脱しない。
⑩標本の処理:付属の Pusher で組織を外筒から押し出
しホルマリン固定する(図 8)。前述の陰圧をかけた
シリンジに血液を主体とした液状検体が採取される
場合もある。それでも凝血塊をホルマリン固定して
提出することで診断可能な症例も経験される。
合併症
3)
Murphy ら の報告では合併症発生率は 9500 例中で
0.2 %とされている。報告された合併症には気胸・肺
炎・結核播種・傍椎体血腫・片麻痺・尖足・髄膜炎が
あり死亡例報告もあるが, 自験例では少数例で一過性の
疼痛を経験したのみであり, 重篤なものはない。
成績
一般的な傾向として, 著明に硬化した病変や嚢胞性病
変や中心壊死を伴う病変では適当な検体が得られにく
2)
い 。骨硬化の強い病変で FNB が有効であったとの報
3)
告 や, 骨硬化性病変の方が骨軟化性病変よりも正診率
4)
が低いとの報告もある 。
自験例での正診率は 93 %(179/195 例)であった。
False negative や technical failure の症例については骨硬
化性病変と溶骨性病変に偏りはなかった。
コツと注意点
極めて基本的な内容にも言及するが, 自験例を元にコ
ツと注意点を以下に述べる。
・骨検体は一般的に脱灰を要すため診断まで約 10 日を
要す。HE 染色で処理をするが, 予想される病変によ
っては特殊染色も追加する。このため可能な限り十
分な量の標本を採取する。または複数箇所の生検も
試みる(図 9)。
・溶骨性病変の場合, 骨皮質が完全に溶けていれば,
semiautomatic needle など軟部組織採取用の生検針を
用いる。皮質のみ保たれ内部には軟部組織濃度腫瘤が
ある場合には OSTYCUT を外筒として semiautomatic
needle を内針とした coaxial 法を用いることも有用で
ある(図 10)
。
・OSTYCUT 刺入部皮下は十分に郭清しておく。回転
によって先進する針の性格上, 皮下組織が針軸にから
みつき, 抵抗が大きくなることを少しでも軽減する。
図 8 標本を pusher で押しだしホルマリン固定する。
図 7 シリンジで陰圧をかけ, 生検針内
に組織を取り込む。
図 9 同一部位に骨病変と軟部組織腫瘤形成がある場合。
図 10 骨生検針と軟部組織用生検針の組み合
わせによる coaxial 法。
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・CT gantry 内で穿刺点にガイディングビームを合わ
せ, 同時に穿刺針全長にわたってビームが当たるよう
心がける。この点に注意すれば針先端は必ず刺入点
と同一断面内にある。
・自制内の疼痛はしばしば訴えられるが, 同側下肢の痛
みや根症状があれば穿刺経路を変更する。
・OSTYCUT の場合, 採取目的の近くまで針が進んだら
必ず内針を抜き, 外筒だけで進めること。基本的事項
であるが, このことを忘れると組織が採取出来ないこ
とは自明である。
【文献】
1)Carrasco CH, Wallace S, Richli WR : Percutaneous
skeletal biopsy. Cardiovasc Intervent Radiol 14 : 69 72, 1991.
2)Stoker DJ, Cobb JP, Pringle JA : Needle biopsy of
54(296)
musculoskeletal lesions. A review of 208 procedures.
J Bone Joint Surg Br 73 : 498 - 500, 1991.
3)Murphy WA, Destouet JM, Gilula LA : Percutaneous
skeletal biopsy 1981 : a procedure for radiologists-results, review, and recommendations. Radiology
139 : 545 - 549, 1981.
4)Leffler SG, Chew FS : CT-guided percutaneous biopsy of sclerotic bone lesions : diagnostic yield and
accuracy. AJR Am J Roentgenol 172 : 1389 - 1392,
1999.
5)Renfrew DL, Whitten CG, Wiese JA, et al : CTguided percutaneous transpedicular biopsy of
the spine. Radiology 180 : 574 - 576, 1991.
6)Hodge JC : Percutaneous biopsy of the musculoskeletal system : a review of 77 cases. Can Assoc Radiol J
50 : 121 - 125, 1999.