ニュータウン 車社会に持続する都市構造の模索 荒川 俊介 (株)アルテップ代表取締役 ニュータウンの基本計画・個別プロジ ェクト立ち上げ・活性化計画等から出 発し、地域戦略づくりや、近年は既成 市街地・地方都市・団地の再生に関与。 ●車社会のなかで顕在化する問題 ●ニュータウンの計画と車社会化 いま多くのニュータウン、特に比較的早く開発 された千里・高蔵寺や多摩ニュータウンの早期開 発地区では様々な問題が顕在化し始めている。そ の要因は色々あるが、自家用車の普及つまり本格 的な車社会化も大きく影響している。 まず、 「近隣センター」の衰退がその代表例とし て挙げられる。消費の高度化、大型冷蔵庫の普及 や共働き世帯の増加も相俟って消費行動が大きく 変化し、車による日用品のまとめ買いが一般化し た。その結果、車による寄りつきが概して不便で 品揃えも少ない住区内の近隣センターが大打撃を 受け、替わって周辺に立地する大型店に日常的な 買いものの主力が移った。 こうした現象は買い物に限らない。通勤にしろ 保育園の送り迎えにしろ、あるいは公共公益的な 施設を利用するにしろ、車がないと不便なニュー タウンも少なくない。多くのニュータウンで早朝 深夜に家族が車で駅まで送り迎えする所謂キス& ライドは日常的に見られる風景であり、保育園や 幼稚園の送り迎えに車を使う家庭も少なからず見 られる。 より深刻な問題は、高齢者、特に身体が弱化し た高齢者の外出が困難になっていることにある。 車が運転できない、あるいは危険で不安が伴うお 年寄りは、どうしても外出しにくくなり家にこも る時間が増える。特に、丘陵地にあって高低差が 大きいニュータウンでは、歩いて外出するのも躊 躇する場合が多い。そのためにやむを得ず転出す る世帯も見られる。 こうした問題は、何もニュータウンに限ったこ とではなく多くの都市で起きている。特に近隣セ ンターの問題は地方都市の中心市街地の問題とほ とんど同じ背景を持っているだろう。 いままさに、こうした問題にどのように対処す るかが問われている。 1960 年代から 1970 年代中頃までにかけて計画 され事業着手された比較的初期のニュータウンと いえども、自家用車の普及、本格的な車社会の到 来を予期していなかった訳ではない。多くのニュ ータウンでは、むしろこうした状況変化を計画に 織り込み、道路や駐車場等の基盤施設を高水準に 整備してきた。あるニュータウンでは、 「過剰整備 ではなかったか」と揶揄されるほどの幹線道路網 がつくられている。 その一方で、車社会が引き起こす弊害に対処す るために、多大な努力も払われた。いまや多くの 住民から評価されまた貴重な社会資本にもなって いる「歩行者専用道路」「緑道」のネットワーク、 「歩車分離」の思想などはその代表例であろう。 このように基盤整備あるいは技術的な面での車 社会への対応については、一般市街地に比べて格 段にその責務を果たしてきたと言える。 しかし、こうした変化が生活者の行動や諸施設 の立地原理をここまで大きくまた急激に変えると は必ずしも予想していなかったように思われる。 これほどの高齢社会化もまた予想外であったろう。 いわば車の普及がもたらす社会的変化の面で問 題予見が不十分であったと思われる。少なくとも 計画が現実に超えられた。 その根本的背景には、ニュータウンごとに様々 な工夫や改変はなされたものの、基本的には今や 古典的とも言える「近隣住区理論」をベースにし て都市構造がつくられたことがある。また、実際 の土地利用計画面では「用途純化主義」がつい最 近まで金科玉条のごとく是とされてきたこと、あ るいは事業面で二次交通システムの整備が難航し てきたことが、今日の状況を一層困難にしている。 車社会のなかでニュータウンが持続するために は、こうした根本問題を再検討する必要がある。 ●人と車の関係を考える 車社会はもはや否定できない。高齢化が進めば 車利用は減るという人も多いが私はそうは思えな い。少なくともなお暫く車利用は増え続けるだろ う。例えば、高度経済成長期を謳歌した団塊の世 代は、まだまだ元気だし車の呪縛からそう簡単に は抜け出せない。年をとれば一回あたりの運転ト リップ長は減るが利用頻度はさほど減らないだろ う。ましてや足腰が弱り始めたとき、今以上に車 を使う可能性が高い。 何よりも、今や車は単なる移動手段ではなくな っている。残念ながら、かなりの人たちにとって それはほっとするプライベートな密室であり、自 己表現の時空間であり、重い荷物を運べる便利な 道具である。 幾つかのニュータウン等でレンタカーや共同保 有システムを導入して車の保有や使用を減らす試 みがなされたが、殆どがうまく行かない所以はこ うした点にもある。 幻想を捨てこうした事実を冷静に見据えた上で 抜本的な対応を進めることが不可欠である。高低 差が大きい郊外丘陵地のニュータウンでは、自転 車利用さえ計画者の思いどおりに進まないのが実 情である。 【車利用を前提とする施設等の再配置】 一方で、もはや車利用が成立基盤となっている 施設や土地利用については、幹線道路沿道などに 移し替える。近隣センターも検討対象になろう。 小売り店舗の多くはこうした場所に移し替え、そ の回りでも居住密度を高め用途複合を進める。こ れまでのセンターは分解しコミュニティセンター 的な性格に質的転換する。 【新たな骨格構造:環境インフラの創出】 これまで幹線道路や鉄道で規定されてきたニュ ータウンの都市構造に、新たな構造を加える。そ れは、公園・緑地、宅地内空地、水系、歩行者専 用道路・緑道、歴文資源等をネットワークする環 境文化系の構造空間であり、そのなかに、歩行・ 自転車利用のためのルートを設ける。同時に余暇 施設や医療・福祉系施設等は、こうした空間に近 接して設置し、更に災害時の対応空間やシステム もそのなかに埋め込む。 港北ニュータウンで先駆的につくられた「グリ ーンマトリクス」の発展型としてイメージされる。 長期的にはこうした基幹的な構造空間を周辺に も伸ばし地域を覆うことによって、人口減が進み 下手をすると今後荒廃する可能性がある大都市郊 外の都市構造を再編しひいては再生を進めるため の、実体空間・都市システムの一つとしても構想 される。 ●複眼的な都市構造再編 ここで一つの試案を提起したい。それは自家用 車と公共二次交通・自転車・徒歩の分担関係を組 み立て直し、良い関係で相互補完しあう街にする、 そのためにニュータウンの都市構造を時間をかけ て徐々にしかし最終的には大きく改変するという ことである。 それは車社会の弊害を極力抑えながら、同時に ニュータウンの活力や魅力を強化するというある 意味では常識的な命題を、現実的に徹底して解く という路線選択である。 【歩いて快適に暮らせる人とエリアを増やす】 そのためにまず、居住密度を再編すると同時に 土地利用・建物用途の複合を進める。 特に、建て替えやリニューアルを機に、二次交 通の利用が不便な地区の居住密度を減らし、鉄道 駅やバス停、あるいはまとまった規模の公共・公 益施設の近傍などに再配分する。併せて、こうし た高密度化エリアで、基礎的な生活サービス施設 等を最大限に複合立地させる。均質主義、用途純 化主義との決別である。 ■港北ニュータウングリーンマトリクス(ささぶねの道)
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