シンポジウム 「いま改めて考えよう地層処分」 高レベル放射性廃棄物の地層処分 (地層処分の仕組み・技術的背景そして日本の地下環境について) 吉田 英一 名古屋大学博物館・大学院環境学研究科 [email protected] 1 本日の話の内容 1) 高レベル放射性廃棄物とは? 2) なぜ、地層(地下)処分なのか? 3) 多重バリアとは?(なぜ、多重バリアなのか?) 4) 日本の地質環境の特徴は? 5) まとめ 2 1)高レベル放射性廃棄物とは? 現状 ◆現在、約2000本が保管 ◆約25000本分が使用済み核燃料 (約17,000トン)として原子力発電所に保管 高さ:約1.3 m 直径:約0.4 m 容積:約150 ℓ 重さ:約500 kg ガラス固化体 出典:日本原燃 3 3 ガラス固化体の外部被ばく線量の低下(製造時と1000年後の比較) ガラス固化体製造直後 ガラス固化体製造から1000年後 【時間あたりの被ばく量】 1000年後 オーバーパック 4 2)なぜ、地層処分なのか?(地層処分以外の方法/1960年代より検討) 宇宙処分 氷床処分 海溝処分 海洋底処分 その他の処分方法についても、国際的な取り決め や条約によって、現在は凍結状態にある Newton 2014年4月号 (C)Newton Press 5 海溝処分のアイデア:地球科学の取り組み(1980年代以降〜) 海溝に処分する方法を提案 Nature (1984) Natural Analogies… 自然にもっと学ぶべきでは… 6 そもそも… 地層処分という発想はどこから来たのか…? オクロ天然原子炉の発見 ◆天然原子炉とは.. 自然の状態で、地下で核分裂反応が生じ た跡(化石)。今から20億年ほど前に発生 したもの(1970年代にIAEAが中心になっ て調査研究) ◆場所:アフリカ・ガボン共和国 ◆天然原子炉の炉心部(写真の黒褐色部分) 現在は、当時、地下約400メートルの深さで発熱して、地 下水と反応したときの「原子炉の化石」が地表に露出し ている(ウラン鉱石を採掘する段階で発見・掘り起こされ たもの) ◆1970年代、フランスの鉱山会社が、 ウラン鉱床を掘削、鉱石を採取してい るときに発見。 採掘の段階で調査した結果、プルトニウ ムなどの超ウラン元素(中性子との反応 で生成された核反応物質)が原子炉の 周辺に残っていることが確認される なぜ、残ったのか? ⇒ 地下環境の物理的隔離機能 ⇒ 地下環境の化学的溶解度制限機能 (還元状態:酸素の少ない状態) オクロ天然原子炉画像:スイス放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)提供 7 3)多重バリアシステムとは?(その役割) (人工バリア/天然バリアの複合システム) バリア1 ガラス固化体 バリア2 オーバーパック バリア3 緩衝材 バリア4 地質環境 (高レベル放射性廃棄物) (金属製の容器に封入) (締め固めた粘土で覆う) 高さ約1.3m 300m以深 直径40cm 重さ500kg 岩盤 それぞれにバリアとしての役割がある 地下施設 (約2km四方) (画像提供:NUMO) 8 バリア1・ガラス固化体:なぜ、ガラスなのか? ガラスの分子構造のイメージ 色が着けられる 色が抜けにくい ガラスは非晶質(アモルファス)なため、いろいろな元素 を分子構造の中に取り込める性質がある 9 バリア1・約8000年前の天然ガラス(黒曜石) シリアでの遺跡調査 地中でも溶けにくい性質 地中から見つかった黒曜石ナイフ (名古屋大学博物館門脇助教提供) 10 10 バリア2・オーバーパック:なぜ、鉄なのか? ローマ時代の鉄製釘の腐食に関する研究 約2000年前に、ローマ軍がイギリス(スコットラン ド)から撤退するときに、当時貴重だった鉄くぎを 略奪されないように、数メートルの穴を掘って隠 したものが、1995年に発見される。 埋設した釘の本数は数十万本におよぶ。そのほ とんどは、未だ建築にも耐えうるほど腐食が進 んでいないことが調査の結果判明。 理由は: 1)埋設した周辺の粘土層が、地表からの雨水 や酸素の侵入を防いだこと 2)外側の鉄釘が錆びて、内部を還元状態に なったこと 長さ約25センチ 11 バリア2・オーバーパック:数千年〜数万年後の姿 処分場数千年後のイメージ 廃棄体に、もし酸化した地下水が到達してもオー バーパックの腐食で周辺は還元状態が維持され ることが期待される Newton 2014年4月号 (C)Newton Press 12 バリア3・緩衝材:なぜ、粘土なのか? 約200万年前の粘土層中に埋没•保存されていた化石化していない木材 (イタリア中央部Dunaroba地方) 粘土の水を透過させない働きで物質の変質が妨げられる 13 バリア4・天然バリアの働き(放射性元素の吸着・遅延機能) 深さ150m程度 天然の事例 東濃ウラン鉱床:今から約2000万年前に形成された、現在の日本 で唯一のウラン鉱床(岐阜県土岐市〜瑞浪市に分布)を用いて、 地層中のどこにウランが濃集しているのかを確認(岩石のバリア 機能の理解)。 14 バリア4・岩石(堆積岩)中での天然ウランの濃集鉱物による吸着) 20センチ ウラン鉱床を用いた研究結果 調査・分析結果 観察及び分析結果から、鉄や粘土鉱 物を多く含む鉱物(黒雲母や黄鉄鉱な ど)に濃集し、ウランが濃集した後の移 動は認められない ウランの含有量:約1wt% ウラン濃集部分:オートラジオグラフ (白い部分がウランの濃集ケ所) 15 バリア4・岩石(花崗岩)中の割れ目に伴う天然ウランの吸着 と遅延 酸化還元フロント 1cm 新鮮花崗岩 割れ目からの元素の移動状態を調査 (次のスライド) 1m 割れ目 苗木花崗岩(白亜紀) 1cm 変質花崗岩 16 バリア4・岩石(花崗岩)中の元素移動と濃集(ウラン) ウランは鉄酸化物に吸着 鉄酸化物 ウランの濃集ヶ所 鉄酸化物 黒雲母 石英 石英 1mm 1mm α-トラック法 17 バリア4・地下で確認される割れ目の状態(シーリングされた割れ目) シーリングされ、水みちとして機能しない割れ目 充填鉱物 割れ目(地下700mより) シーリングされて いるもの 充填鉱物 割れ目 変質 開口して いるもの 2mm 直径6cm 岐阜県瑞浪市の地下研究所な どでの研究結果 割れ目の隙間(水みち) 花崗岩 2cm 地下700mから採取した割れ目 天然の割れ目の約9割は天然 の鉱物(方解石)でシーリング されていることが確認される 2mm 現在も水みちとして機能している割れ目 18 3)多重バリアシステムの役割(まとめ) (人工バリア/天然バリアの複合システム) バリア4 地質環境 バリア1 ガラス固化体 バリア2 オーバーパック バリア3 緩衝材 (高レベル放射性廃棄物) (金属製の容器に封入) (締め固めた粘土で覆う) 高さ約1.3m 300m以深 溶解しにくい 直径40cm 重さ500kg 放射背線の遮蔽 と還元状態の維持 遮水性と放射性 元素の吸着・遅延 物理的隔離と水理 学的・化学的安定性 地下施設 (約2km四方) それぞれ素材としての特性を活かしたバリア効果を有している (画像提供:NUMO) 19 4)日本の地質環境とその特徴 Tokyo Osaka 海溝 Newton 2014年4月号 (C)Newton Press 20 日本列島の地質 約200万年前から現在までの未固結堆積物 約200万年前に噴出した火山岩 約2000万年~200万年前 約4億年〜2000万年前 約200万年前よりも古いところ 約2億年〜2000万年前 約2億年〜2000万年前 21 21 隆起速度・地温勾配と火山フロント 海溝から火山までの距離はほぼ一定 火 山 フ ロ ン ト 22 地下環境の安定性の事例(石油地下備蓄基地) 23 LPG地下備蓄(気体を液体で地下岩盤中に直接貯蔵する方法) 水封式地下岩盤貯蔵方式….地下水圧により常温のLPGを液体として貯蔵する方式 ◆ LPGが気化する圧力 (0.85MPa=8.5kg/cm2≒ 85m以深)よ りも少し高めの地下水圧となる地下に 貯槽を設けて、長期にかつ大量の貯 蔵する ◆地下水圧を安定化させることが必要 なため、水封水(すいふうすい)を供給 するためのトンネル、ボーリングを配置 し、地下水圧をコントロールする 地下水面(海抜) 動水勾配 2地点間の水位差を示す 海面(0m) 地下水の動きやすさは、導水勾配の傾きが重要 (海抜0mより深い環境での地下水の動きは遅くなる) 24 5)まとめ(地層処分の仕組み・技術的背景そして日本の地下環境について) ◆地層処分は自然に学んだ方法 ◆多重バリアは、数十年の研究成果と自然の素材を活用した方法 ◆岩石・地質には、状態を維持する働きがある (岩石が新鮮に保存され、化石などが発見される所以) ◆日本の地質環境は不均質 (不均質にはその必然性としての理由がある) 今後さらに進めて行くべきは… ◆地下環境に関する知見の蓄積 ◆技術の高度化 ◆技術の継承 ◆持続的人材育成 25
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