G3-12 微生物と産業<医薬品> 「ゲノムとゲノム創薬について」2 石山 浩一郎 Q7: ゲノムの定義が間違っているのではないか。 回答: 私たちが大学の講義で用いている教科書「生物学入門(石川統編)」には「ひと つの生物が存続するのに必要最低限の遺伝情報量のことをゲノムという」と書いてあ ります。私は「ゲノムとは、一般的にすべての生き物の設計図である。」と発表しまし たが、そのように書いてある書籍もあれば、「生物が作られるための必要な情報すべ て」、と表記している書籍もありました。微生物学のプリントには「各々の生物が生き ていくために必要な 1 組の遺伝情報のセット」と書かれていました。これらのことを 踏まえた結果、 「一つの生物が存続するために必要な 1 組の遺伝情報のセットのこと」 がゲノムといえます。よって「一般にすべての生き物の設計図」という表現は不適切 でした。 参考文献・URL 生物学入門(石川統 編:東京化学同人:2001 年発行) ヒトゲノム・ワールド(清水信義 著:PSP 研究所:2001 年発行) 親と子のゲノム教室(元木一朗 著:ラトルズ:2003 年発行) 図解ゲノム Newton 別冊(日米共同企画:Newton Press:2001 年発行) 生物Ⅰの点数が面白いほどとれる本(大堀求 著) 微生物学のプリント(伊藤佑子 著:2007 年版) Q8: SNPとは具体的になにを決める遺伝情報なのか。 回答: SNP(single nucleotide polymorphism、 一塩基変異多型)とは、ヒトの DNA の塩基配列がおよそ 1000 塩基に1塩基のレベルで一人一人異なっていることで、遺伝 子レベルでの個性の要因であります。 例えば「アルコールに対する感受性」というものがあります。お酒に強い人、弱い人 がいますが、これは遺伝子レベルで決まっています。お酒に含まれるアルコールは体 内に吸収されるとアセトアルデヒドになり、その後酢酸に分解されますが、お酒に弱 い人 はアセ トアル デヒド を酢酸 に分解 する 酵素( アセト アルデ ヒド脱 水素酵 素、 ALDH) を持っていません。この酵素を持っているかいないかは、塩基配列の一つの 塩基対の違いにすぎません。この酵素を作る遺伝子は約 1500 個の塩基によって決定さ れていますが、このうち 14 番目の塩基がお酒に強い人はグアニンに、お酒に弱い人は アデニンになっています。このように、塩基一つの違いでアセトアルデヒドを分解で きなくなってしまいます。SNP について、最近は、薬の 効きやすさ 、 効きにくさ という点に注目されています。SNPs の違いによってお酒に強いか弱いか、薬の効きや すさなどの遺伝情報の違いがわかると同時に、遺伝子レベルでの個人差を知る手掛か りになります。 参考文献・URL 親と子のゲノム教室 図解ゲノム Newton 別冊(日米共同企画) Q9: どのような原理でSNPから効果的な創薬が可能となるのか。 回答: ある病気にかかっている患者のもつ SNP を解析し、それがもたらす体質や病 気発症のメカニズムを解明します。どの遺伝子が原因で発症するかが分かれば、その 遺伝子によって作られる物質、または、本来の正常な遺伝子によって作られるはずの 物質を制御することにより、効果的な治療を行うことができたり、ゲノム創薬によっ て薬を開発することが可能になります。疾患のメカニズムを特定してから、新薬候補 物質を探索していくゲノム創薬は、従来の偶然に頼り、選択していく方法に比べて、 遥かに効果的かつ、確実な探索法であるため、多くの製薬メーカーが注目し、取り組 んでいます。 参考文献・URL 図解ゲノム Newton 別冊(日米共同企画) http://www.chikennavi.net/word/genome-medicine.html Q10: 現在ヒトの遺伝情報はどのくらい解明されているのか。 回答: 現在、すでに遺伝情報は解読されています。2001 年 2 月にヒトゲノムの塩基配 列解読の概要版が公表されました。そして 2003 年 4 月に現在の技術で読み取れる限度い っぱいの 28.3 億塩基を 99.99%以上の精度で解読し、完全解読宣言がされました。しか し、DNA の塩基配列が明らかになったからといって、すべての遺伝子の働きが判ったわけ ではありません。 参考文献・URL ヒトゲノム=生命の設計図を読む(清水信義著) 図解ゲノム Newton 別冊(日米共同企画) http://www.iph.pref.hokkaido.jp/charivari/2005_03/2005_03.htm Q11: SNPによってすべての病気が分かるのか。 回答: SNP の存在が明らかになる前から、単一遺伝子の変異が原因で起こる多くの 遺伝子病については、遺伝子の変異と病気の関係が明らかになっています。現在、糖 尿病や心臓病、動脈硬化、がんなど、複数の遺伝子が発症に関与している病気につい て、SNPの研究が進められています。「体質」という曖昧だった言葉の正体が、いず れは遺伝子で解明されてくるでしょう。しかし「人体は遺伝子に支配されている」と 言うのはちょっと大げさです。事実、病気になりやすいSNPを持っていても病気に ならない人がいますし、逆に持っていなくてもなる人がいます。もし肥満遺伝子を持 っていても、 「肥満遺伝子を持つ私は節制しても無駄だ」と嘆くのではなく、その前に、 日々の食生活を見直したり、適度な運動を怠らず、生活習慣病から身を守ることが大 切でしょう。SNP を解析することによって病気に対する予防措置も可能になりますか ら、知恵を使うことが大切になってきます。人体は遺伝子だけに束縛されているので はなく、環境とも相互に関連し合っていることも忘れてはならないと思います。 発表参考文献・URL ●京都大学大学院薬学研究科 ゲノム創薬科学分野: http://gdds.pharm.kyoto-u.ac.jp/jp/research_works/index.html ● http://www.kenkobunka.jp/kenbun/kb32/sasaki32.html ● http://www.chikennavi.net/word/genome-medicine.htm ● http://www.yobouigaku-kanagawa.or.jp/kenkana/418p.html
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