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海藻酵母水(フミンゲン)の
特性・生理活性効果
高知大学教育研究部
植物環境システム学
教授 石川勝美
Ⅰはじめに
地球は約45億年前に誕生し、地球上にはじめて生物が誕生したのは海水
中とされている。生命が誕生した原始の海はまた「原始のスープ」とも呼ば
れている。当時地上の硫化水素やアンモニアガス、メタンガスとともに陸から
溶出した岩石中のミネラル組成はアミノ酸、タンパク質、多糖類を生み出し、
嫌気性バクテリアが出現する。
生命誕生と進化:「原始のスープ」の時代の嫌気性バクテリアに変わり、光
合成ラン藻類の登場はその卓越したエネルギー代謝機構により30億年前の
海洋を覆いつくし、ストロマトライド等その痕跡は生命の化石として世界各地
で発見されている。また溶解していた鉄イオンは酸化第二鉄や水酸化鉄とな
り海底に沈殿することになるが、葉緑体内のチトクロームや人類の体内ヘモ
グロビンには原始スープと同じ濃度の鉄分が含まれていることが知られてい
る。
大量発生した溶存酸素により生物は生命の危機を迎えるが、17億年前、
好気性バクテリアの出現により酸素を解毒する酵素による新しい方式の呼
吸に組み込まれることになる。酸素呼吸は嫌気性エネルギー代謝(発酵)に
比べ約20倍の効率的なエネルギー獲得法であり、以降の生物進化に大き
な影響を与える。
生物由来の有機物を栄養源とし、生体触媒としてのバクテリアの代
謝活動には、生化学反応の触媒となるタンパク(酵素)など代謝産物
とその再合成物の作用機構を有する。数億年前に堆積してできた海
底地盤がその後隆起してできた地盤(日本列島)の中に、生物由来の
沈殿物の堆積岩があり、その一つに四万十帯の岩石がある。本岩石
(セラミックス)の浄化・活性化作用が石川らにより検証され、国内外
での学術的な成果発表も行われている。
本研究では、海洋性資源を利用した生態系農業への構築を図るた
め、海藻、藻類がバクテリアの代謝活動を受け、地下80m層で堆積し
ている海洋性腐植層(古代海藻腐植物質)に注目した。本海洋性腐植
層にはラクトバチルス菌(乳酸菌)、サッカロミセス属の酵母菌が発見
されている。
そこで、海洋性腐植層に対して四万十帯岩石を用いて成分抽出し、
界面動電処理を施した「海藻酵母水(フミンゲン)」の特性と生理活性
効果について紹介する。
海藻酵母水(フミンゲン)」の特性・生理活性効果







フミンゲンの原液:pH;2.81、EC;0.3S/m
1000倍希釈液:希釈液濃度は、ほぼ水道水並のEC
(16.7dS/cm)
pH緩衝能:0.1N-NaOHを添加して比較→HCl液と比べpH緩
衝能は高い
種子に対する生理活性(1):小麦のシュート長、ルート長ともフ
ミンゲン( 1000倍希釈液)区>水道水区
種子に対する生理活性(2):発芽に対する浸漬処理効果はフミ
ンゲン>塩酸
NFT水耕栽培試験:コマツナ;成長速度(草丈)、SPADともフミ
ンゲン( 1000倍希釈液)区>水道水区
収穫後の鮮度保持:フミンゲン( 1000倍希釈液)区>水道水区
表1
海藻酵母水のpH,EC,ORP
pH
EC
ORP(mV)
原液
2.81
0.300 S/m
578
10倍
4.66
42.9 mS/m
505
100倍
6.76
19.60 mS/m
359
1000倍
6.97
16.92 mS/m
309
水道水
6.81
16.76 mS/m
242
表2-1 海藻酵母水のイオンの定量分析
カチオン(mg/L)
Li
Na
NH4
K
Mg
Ca
水道水
0.007
5.85
0
0.987
2.19
24.1
1000倍
0
5.7
0.005
0.905
2.24
25.6
100倍
0
6.15
0.133
0.888
25.6
30.1
表2-2 海藻酵母水のイオンの定量分析
アニオン(mg/L)
PO4 F
Cl
NO2 Br
NO3 SO4
水道水
0.00 0.00 6.26
0.00 0.00 4.59
9.68
1000倍
0.00 0.00 6.38
0.00 0.00 5.67
12.9
100倍
0.00 0.00 6.92
0.00 0.00 5.57
28.3
14
12
pH
10
8
6
原液
HCl
4
2
0
0
5000
10000
15000
0.1N-NaOH 添加量(μ l)
図1 海藻酵母水のpH緩衝能の比較
20000
表3 小麦の発芽・初期成育試験
シュート(mm)
根長(mm)
根数(本)
原液
9
(4.69)
a
9 (2.93) a
4 (0.90) a
10倍
32
(14.28)
b
29 (4.96) b
5 (0.60) a
100倍
36
(7.43)
b
31 (6.18) b
5 (0.60) a
1000倍
35
(11.75)
b
33 (9.25) b
5 (0.62) a
水道水
32
(14.38)
b
27 (6.71) b
5 (1.14) a
異文字間に5%水準で有意差あり
()内は標準偏差
120
発芽勢(%)
100
80
60
無処理
原液浸漬
水道水浸漬
40
20
0
8h
10h
12h
14h
16h
置床後経過時間(h)
図2 発芽勢の比較(コマツナ)
18h
20h
表4 コマツナの初期生育の比較
根長(mm)
胚軸長(mm)
無処理
37 (5.77) a
16 (2.11) a
原液浸漬
46 (13.98) b
13 (3.43) b
水道水浸漬
34 (10.98) a
14 (4.17) ab
浸漬時間:1時間
異文字間に5%水準で有意差
あり
()内は標準偏差
120
発芽勢(%)
100
80
60
蒸留水(浸漬)
原液(浸漬)
塩酸(浸漬)
40
20
0
8h
10h
12h
14h
16h
置床後経過時間(h)
18h
図3 コマツナの発芽勢の比較
20h
表5
コマツナの生長比較
根長(mm)
胚軸長(mm)
蒸留水(浸漬)
35
(2.14)
a
15
(0.93)
a
原液(浸漬)
44
(2.26)
b
14
(0.94)
a
塩酸(浸漬)
40
(1.68)
ab
15
(0.25)
a
異文字間に5%水準で有意差
あり
()内は標準偏差
コマツナのNFT水耕栽培試験
300
草丈(mm)
250
200
150
水道水
100倍
1000倍
100
50
0
6/29
7/6
7/9
月/日
図4 NFT水耕栽培における コマツナの生育比較
SP A D
40.0
39.0
38.0
37.0
36.0
35.0
34.0
33.0
32.0
31.0
30.0
水道水
100倍
1000倍
6/29 6/30 7/1
7/2
7/3
7/4
7/5
7/6
月/日
図5 コマツナのSPAD比較
7/7
7/8
7/9
12.00
水分減少率(%)
10.00
8.00
6.00
水道水
1000倍
100倍
4.00
2.00
0.00
3
6
9
13
収穫後経過時間(h)
図6 コマツナ収穫後の水分減少 率の比較
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