abstract

鉄系超伝導体エピタキシャル薄膜の作製と光電子物性
平松 秀典 1,神谷 利夫 1,2,平野 正浩 1,3,細野 秀雄 1,2,3
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科学技術振興機構 ERATO-SORST 〒226-8503 横浜市緑区長津田町 4259 東工大内 S2-13
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東京工業大学 応用セラミックス研究所 〒226-8503 横浜市緑区長津田町 4259 R3-1
東京工業大学 フロンティア研究センター 〒226-8503 横浜市緑区長津田町 4259 S2-13
我々のグループは、鉄を含む新規超伝導体 LaFeAsO を今年の 2 月に報告した[1]。その報告以来、多くの
グループから構成元素の一部を置換することによる超伝導転移温度の更新が報告されるようになり、今やそ
の最高転移温度は SmFeAsO の 55K にまで達している[2]。そして、このわずか 10 ヶ月間で鉄を含む超伝導体
は、結晶構造で大別すると、ThCr2Si2 型の BaFe2As2[3]、Cu2Sb(anti-PbFCl)型の LiFeAs
[4]
、PbO 型の FeSe[5]と、
ZrCuSiAs 型の LaFeAsO 以外に 3 種類も見いだされている。さらに我々のグループは、ごく最近、LaFeAsO
の酸化物層をフッ化物層に置換した ZrCuSiAs 型の新規超伝導体 CaFeAsF を報告した[6]。一連のどの結晶も、
局所構造は LaFeAsO と同じ FeAs4(または FeSe4)四面体構造の正方格子がフェルミ面を形成する層状化合物
である。そういった類似物質の超伝導特性が数多く報告される一方で、その報告の多くが多結晶焼結体に関
するものであり、物性解明には必要不可欠な単結晶合成およびその特性に関する報告はまだ出始めたばかり
である。我々は、この新規鉄系超伝導体の物性解明、そしてジョセフソン接合をはじめとする超伝導デバイ
スへの応用展開を進めていくためには、高品質エピタキシャル薄膜が必要不可欠であると考え、今年の 3 月
からその開発に着手した。
これまでに我々は、LaFeAsO と同じ ZrCuSiAs 型構造を有するワイドギャップ p 型半導体 LnCuChO (Ln =
希土類, Ch = カルコゲン) の光電子物性に着目して、エピタキシャル薄膜の作製およびその高品質化に取り
組んできた[7]。超伝導体である LaFeAsO も同じ結晶構造、そして同じような 4 元素からなる化学組成を有す
ることから、着手当初は、LnCuChO と全く同じもしくは類似した薄膜成長法が適用可能であると考えていた。
しかしながら、数多くの実験を行った結果、エピタキシャル薄膜を得るどころか、その結晶相を薄膜という
形態で得ることすら困難であることが分かった。そこで我々は、パルスレーザー堆積(PLD)法を用いて薄
膜作製を行う上で、次の 2 点を改良した。一つは、PLD ターゲットの高純度化であり、もう一つは PLD 法と
しては一般的ではない Nd:YAG レーザーの第二高調波を励起レーザーとして利用することである[8]。その改
良により、LaFeAsO エピタキシャル薄膜を得ることには成功したものの、得られたエピタキシャル薄膜は超
伝導転移を示さなかった。そこで、ThCr2Si2 型構造の超伝導体であるコバルト添加 SrFe2As2[9]に対象物質を変
更し、LaFeAsO エピタキシャル成長で得られた上述のノウハウを適用した結果、バルク多結晶体とほぼ同じ
約 20K で超伝導転移を示すエピタキシャル薄膜の合成に成功した[10]。
本講演では、LaFeAsO と同型構造をもつ LnCuChO、そして LaFeAsO や SrFe2As2 などの FeAs 系化合物の
エピタキシャル薄膜作製の詳細とその光電子物性について述べる。
参考文献
1.
Y. Kamihara et al., J. Am. Chem. Soc. 130, 3296 (2008).
2.
X. H. Chen et al., Nature (London) 453, 761 (2008); Z. A. Ren et al., Chin. Phys. Lett. 25, 2215 (2008).
3.
M. Rotter et al., Phys. Rev. B 78, 020503(R) (2008); Phys. Rev. Lett. 101, 107006 (2008).
4.
X. C. Wang et al., arXiv:0806.4688; J. H. Tapp et al., Phys. Rev. B 78, 060505(R) (2008).
5.
F. C. Hsu et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 105, 14262 (2008); Y. Mizuguchi et al., Appl. Phys. Lett. 93, 152505 (2008).
6.
S. Matsuishi et al., J. Am. Chem. Soc. 130, 14428 (2008).
7.
For reviews, see H. Hiramatsu et al., phys. stat. sol. (a) 203, 2800 (2006); J. Europ. Ceram. Soc. 29, 245 (2009).
8.
H. Hiramatsu et al., Appl. Phys. Lett. 93, 162504 (2008).
9.
A. Leithe-Jasper et al., arXiv:0807.2223.
10.
H. Hiramatsu et al., Appl. Phys. Express 1, 101702 (2008).
http://apex.ipap.jp/link?APEX/1/101702/ にてフリーアクセス可