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修士論文要旨
論文タイトル:「在中日系企業の人材育成」
学籍番号:AM12026
氏
名:李筱萌
指導教授:池島
政広教授
【論文の構成】
はじめに
第1章
問題意識の提示と研究目的
第2章
問題状況の分析と先行研究の検討
第 3 章 仮説の提示
第 4 章 実証的分析
第 5 章 事例研究
考察
【論文の内容】
1.研究目的と研究方法
「改革・開放」(1978 年)などの中国政府の政策以来、特に鄧小平の「南巡講和」(1992 年)以降、
中国で様々
な産業が開放された。その結果、諸外国企業の対中国投資がブームとなり、激しい競争が形成された。
そのなか、日本企業は中国との関係が緊密になり、多くの日本企業が中国に現地法人を設立している。
中国市場での競争に勝ち抜き、シェアを拡大させるには、「ヒト」に関する問題を重視しなければならな
い。人材は企業の基盤を作るのに大きな役割を担っており、企業の成功の可否の鍵を握っている。しか
し、ここ数年の人件費の上昇と新労働契約法による中国人材市場の変化の中、日系企業は、人材管理面
で大きな困難に直面している。必要な人材を採用するのが難しいだけでなく、せっかく採用しても、定
着させられないのが多くの日系企業は現在抱えている問題である。そして、近年、中国人材に「発展空
間」(1)を企業に求めている傾向がある。つまり、中国人は、その仕事を通して、自己成長を感じれば、
満足して、その会社に勤め続ける意欲も高くなる。
本研究は、上記の在中日系企業の定着難の現状と中国人の仕事観を踏まえ、在中日系企業では人材育
成の度合い(人材育成に力を入れる程度)が中国人従業員の定着率にどのような影響を与えるかを研究
目的とする。研究の対象としては、中国人幹部人材を中心に研究する。研究手法は、まず、アンケート
調査を通じて、人材育成の度合い、従業員の満足度と従業員の定着率との関係を検討する。そして、事
例研究を通して、在中日系企業で質的にどのような人材育成の手法が効果的であるかを検討する。
2.先行研究
ここ数年、在中日系企業の人材確保の対策を論じる研究が多数なされている。しかし、中国人幹部の
確保に焦点を当てた研究が少ない。そして、報酬や昇進・昇格などに着目し、従業員を引き止める方法
についての論議がよく挙げられるが、人材育成という視点に着目し、人材育成の度合いは「発展空間」を
重視している中国人の定着率にどのような影響を与えるか、そして、一体どのような人材育成の手法が
効果的であるかについての研究がまだ少ない。そこで、本研究の視点として、中国人幹部人材を中心に、
人材育成の度合いが中国人従業員の定着率にどのような影響を与えるか、そして、どのような人材育成
の手法が従業員に効果的なのかを検討していく。
3.仮説提示と仮説実証
上記の先行研究に基づき、人材育成の度合いと従業員の満足度と従業員の定着率の関係を論証する。
この論証に基づき、本研究では、仮説 1「在中日系企業で人材育成に力を入れるほど、育成に満足する従
業員が多くなる」、仮説 2「育成に満足する従業員が多くなるほど、従業員の定着率が高くなる」という 2
つの仮説を提示する。
そして、池島研究室で今回のアンケート調査により、仮説 1 と仮説 2 を実証した。
4.研究結果
以上の分析により、在中日系企業は人材育成に力を入れるほど、従業員が満足して、従業員の定着率
が高くなると結論付けることができる。最後に、YKK とダイキンの事例研究を通じて、具体的にどのよ
うな人材育成の手法が中国人材に効果的であるかを提言する。
① 示すべき情報を明文化(2)することが重要である。
② 幹部人材の流出を防止するには、企業の経営実情を現地幹部に公開するのが重要である。
③ 現地幹部人材にある程度権限を委譲するのが重要であるが、「遠心力」と「求心力」(3)のバランスを取
ることも必要である。
④ Off-JT 、特に通信教育を充実させるのが不可欠である。
⑤ 研修コースの設定については、「一律」ではなく、「一人ひとり」の適性を見て、それぞれの独自な成
長の仕方を設定するのが効果的であろう。
⑥ 日本的教育手法のジョブローテーションを生かすことが必要である。
注
1)
2)
3)
「発展空間」とは、任された仕事を通じて、知識、スキルや経験がどれぐらい積み重なるかということである。
明文化とは、はっきり文書で書き示すことである。
「遠心力」は、現地の事業をスピーディーに展開していくには、海外の人材を積極的に登用して各拠点の自主性を発揮
していく上で、欠かせないものである。その一方で、グループとしての一体感を高めてグループ全体で経営効率を最
大化するためには、グループ経営理念を共有する「求心力」も欠かせない。
【主要参考文献】
1.
張英莉(2007)「在中国日系企業の人材マネジメント」『埼玉学園大学紀要』No.7,pp.77-88.
2.
小池和男(1981)『日本の熟練―すぐれた人材形成システム―』有斐閣.
3.
小池和男(1995)『日本の雇用システム―その普遍性と強み―』東洋経済新報社.
4.
小泉大輔・前川尚大・朴弘文・平野光俊(2011)「中国における YKK グループの人材マネジメント」『神戸大学経営学研
究科 Discussion paper』(神戸大学大学院経営学研究科)pp.1-16.
5.
守島基博(2004)『人材マネジメント入門』日経文庫.
6.
柴田弘捷(2011)「在中国日系企業の人事管理(1)―中国人の就業意識・行動と「現地化」の問題―」『専修人間科
学論集』(専修大学出版会),Vol1,No.2,pp.81-92.
7.
白木三秀(2011)『チェンジングチャイナの人的資源管理 : 新しい局面を迎えた中国への投資と人事』白桃書房.
8.
志田貴史(2009)『会社の業績がみるみる伸びる「社員満足(ES)」の鉄則』総合法令出版.
9.
鈴木康司(2012)『アジアにおける現地スタッフの採用・評価・処遇』中央経済社.