ニュースレター14号

News Letter No. 14
2015 年 11 月 30 日発行
巻頭言
ロボット工学の夢と分子ロボティクス
機械システムとしてのロボットは、主要な構造部材(機構)に
加えて、センサデバイスやアクチュエータとしてのモータ、制御
用のプロセッサなどを構成要素として組み立てられる。従って、
通常ロボットの基本的な構造や形態は、それらの構成要素によっ
て決まってくる。構成要素は、部品というより、どちらかといえ
ば機能モジュールであり、中身まで分解して詳細に設計すること
はまれである。すなわち、ロボットをつくる上での設計の自由度
は、機能モジュールのスペックや形態・構造に大きく左右される
ことになる。これが、いわゆる従来型のロボット作りにおいて、
新学術領域「分子ロボティクス」
評価者
東京大学生産技術研究所
藤井 輝夫 先生
“なんとなく気に入らない” ところであった。つまり、特定のモ
ジュールの制約から逃れて “自由にロボット作りができる Building Block が欲しい” というのが暗黙の欲求であったように思う。
さて、分子ロボティクスのコンセプトを私が正しく理解してい
るとすれば、まさにそれは” 分子 “をそのような究極の Building
“部品一つ一つをくみ上げて、生き物のように振る舞う機械を
Block ととらえてロボットを作ろう、とするものであろう。分子
作る”、ロボット工学の一つの夢である。何を隠そう私自身も海
を部品に使うと、それを制約するものはソフトウェアや配線、ネジ
中ロボットの研究で博士を取得しており、15 年ほど前まではロ
穴の配置、などではなく、物理法則そのもの、ということになる。
ボットの研究を行っていた。その後、微視的な世界に興味を持ち、
したがって、我々は物理法則の支配を直接受けつつ、これを利用
マイクロフルイディクスの研究を手がけて現在に至っている。
しうるような部品あるいは機能モジュールを考える必要がある。
この間、本領域の萩谷先生や村田先生とは研究でご一緒する機会
それこそが、分子ロボティクスの方法論につながるものだと言う
もあり、ロボット工学の進展を横目で見ながら分子計算や DNA
こともできる。一方で、このようなロボットが実現できれば、物
ナノ構造等を使って何が出来るか、漠然とした問いを持ち続けな
理世界すなわち実世界に適応した振る舞いが期待でき、これはま
がら過ごしてきた。
さに冒頭に述べたロボット工学の夢の一つの実現、ということに
さて、そんな中できいた新たなキーワードが「分子ロボティク
なり得る。
ス」
である。分子を Building Block にしてロボットを作る。当然、
評価者として、勝手なことを書き連ねて来たが、本領域に望む
入力は分子であり、出力は分子であってもよいし、力学的な動作
ことは、一例でも構わない、分子でできた機能モジュールのイン
でもよい。分子を出力とする方が、おそらく広範囲に影響を及ぼ
テグレーションを是非とも実現していただき、
「分子ロボティク
せる。できることならば、役に立つ出力であって欲しい。などな
ス」の、できることならば普遍的な方法論の先駆けを創出してい
どが、
「分子ロボティクス」という言葉をきいてぱっと浮かぶイ
ただくということである。ここで私が言うまでもなく、すでにそ
メージである。直感的に、これは面白い、と感じただけでなく、
の一部は完成しているものと思うし、また多様や専門分野から大
ロボット工学が進むべき一つの方向性であると理解するには時間
変優秀な研究者の皆さんが本領域に参画しておられることを踏ま
はかからなかった。
えれば、決して不可能なことではないと確信している。
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
1
BIOMOD2015 国内大会
開催日時 : 2015 年 9 月 5 日(土)
開催場所 : 東京大学本郷キャンパス小柴ホール
世話人 : 川又生吹(東北大学)
今年で 5 回目となる BIOMOD は学部学生主体の生体分子デザインコンテストで、毎年 11 月にハーバード大学
にて国際大会が開催されます。その前哨戦として、東京大学本郷キャンパス内の小柴ホールにて BIOMOD 国内大
会を 9 月 5 日 ( 土 ) に行いました。昨年度も参加した北海道大学、東北大学、東京大学、関西大学、九州工業大学に、
新たに筑波大学とお茶の水女子大学が加わり、合計 7 チームがプロジェクトを英語で発表しました。事前の web
ページの審査と当日の発表の審査により採点した結果、見事、東北大学のチームが優勝しました。今年の国内大会
は例年と比べ英語でのディスカッションが活発に行われ、プロジェクトの優位性を明確にする必要があるなど、
英語以外の課題が見つかるチームが多かったです。発見した課題を克服し、国際大会までの期間に理論的、実験的
にプロジェクトを完成させてくれることを期待します。
参加チーム
大学 チーム名
Kansai University Team Kansai
Kyushu Institute of Technology YOKABIO
Ochanomizu University The University of Tokyo Komaba
Ochadai
Team UTokyo-Komaba
University of Tsukuba
Team Tsukuba
Tohoku University
Hokkaido University
Team Sendai
BIOMOD Hokkaido Univ.
プログラム
13:00-13:03 開会
13:03-13:05 スケジュール、ルール説明
13:05-13:25 プレゼン 1 関西大学
13:25-13:45 プレゼン 2 九州工業大学
13:45-14:05 プレゼン 3 お茶の水女子大学
14:05-14:25 プレゼン 4 東京大学駒場
14:25-14:30 集合写真
14:30-14:50 休憩
14:50-15:10 プレゼン 5 筑波大学
15:10-15:30 プレゼン 6 東北大学
15:30-15:50 プレゼン 7 北海道大学
15:50-16:10 休憩および採点
16:10-16:25 表彰(川又)
16:25-16:30 総評(萩谷)
16:30-16:35 閉会
17:00 解散
17:30
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学生懇親会(ノンアルコール)・メンター親睦会
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日本大会 成績
順位
大学 チーム名
1 位 Tohoku University
Team Sendai
2 位 Hokkaido University
BIOMOD Hokkaido Univ.
3 位 Kyushu Institute of Technology YOKABIO
4 位 Kansai University Team Kansai
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CBI 学会 2015 年大会共催
新学術領域「分子ロボティクス」シンポジウム
- 折り紙工学および群知能との接点を探る -
開催日時 : 2015 年 10 月 27 日(火)-28 日(水)
開催場所 : タワーホール船堀5F 小ホール(東京)
世話人 : 小長谷明彦(東京工業大学)
CBI 学会 2015 年大会の一環として開催した分子ロボティクスシンポジウムですが、多くの方の協力により無事
成功裏に終わらせることができました。今回は、
「折り紙工学および群知能との接点を探る」をシンポジウムテーマ
とし、27 日に 2 件の招待講演と 6 件の一般講演、28 日には 5 件の招待講演と総合討論を企画しました。また、
30 件のポスター発表がありました。
学際的なテーマは大勢の研究者の関心を呼び、27 日は 79 名、28 日は 72 名の参加者が集いました。この場を
借りて講演者ならびに関係者に御礼申し上げます。
プログラム
◆ 10 月 27 日(火)
14:00-14:30
オリガミ工学と分子ロボティクス
■村田 智(東北大学)
「DNA オリガミ~構造 DNA ナノテクノロジーの最前線」
■萩原 一郎(明治大学)
「折紙工学の現状と課題」
16:00-17:30 一般公募講演セッション
■角五 彰(北海道大学)
「DNA を用いた生体分子モーターの集団運動制御」
■菅原 研・土井 洋平(東北学院大学)
「粉体の動力学をモチーフとした搬送ロボットシステムの提案」
■ Anissa Lamani(九州大学)
「Self-oscillation in population protocols」
■安井 真人(理化学研究所)
「ゆらぎの大きい環境下で細胞が電場を認識するメカニズム」
■遠藤 政幸(京都大学)
「分子ロボットの感覚となる DNA オリガミ構造体と脂質二重膜
との相互作用」
■鈴木 泰博(名古屋大学)
「鎖置換反応をもちいた化学反応ネットワークの力学的特徴と
分子ロボットの知能への応用」
17:30-19:30 ポスター発表(CBI 学会大会ポスター会場)
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◆ 10 月 28 日(水)
14:00-15:30 分子ロボットにおける「知能」とは? パート1
■萩谷 昌己(東京大学)
「分子ロボットあるいは learnion と computon による知能モデルの提案」
■Olaf Witkowski(Univ. of Tokyo)
「Signal-Driven Swarm Intelligence and Evolutionary Robotics」
■郡司 ペギオ 幸夫(早稲田大学)
「群れにおける内部予期」
16:00-17:30 分子ロボットにおける「知能」とは? パート2
■木賀 大介(東京工業大学)
「生命の起源と初期進化における、情報と「知能」の出現」
■中島 秀之(公立はこだて未来大学)
「知能と環境」
■小長谷 明彦(東京工業大学)
(モデレーター)および講演者
総合討論「分子ロボットにおける「知能」とは?」
17:30-18:30 ポスター発表(CBI 学会大会ポスター会場)
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第二回分子ロボティクス 若手会
開催日時 : 2015 年 8 月 1 日(土)
開催場所 : 東京工業大学田町キャンパス
世話人 : 森田雅宗(東工大振 PD)
、石川大輔(東工大)
6 月に行われた第一回分子ロボティクス若手会に引き続き、第二回分子ロボティクス若手会を 2015 年 8 月 1 日に
東京工業大学田町キャンパスにて開催いたしました。今回のミーティングでは東工大、農工大、東北大の研究室を中心
に、前回同様 30 名を超える方に参加していただきました。今回の若手会では、池内真志先生(東京大学先端科学技術
研究センター講師)
、池田将先生(岐阜大学工学部化学・生命工学科准教授、新学術分子ロボ公募班)に基調講演を行っ
ていただき、さらには、若手研究者および学生による 4 件の口頭発表、11 件のポスター発表がありました。若手研究者
および学生による講演者との活発な議論など、普段の各自が行っている研究とは異なる分野の話に耳を傾け、積極的に
質問をする姿などが印象的で、懇親会など大いに盛り上がりました。
参加者の皆様およびご協力いただきました関係者の皆様に厚く御礼申しあげます。今後も随時開催していく予定です
ので、お近くで催される際には、ぜひご参加くださりますよう、今後ともよろしくお願いします。
(文責 森田雅宗)
分子ロボティクス
若手の会
開催日:2015 年 8 月 1 日 ( 土 )
場所:東京工業大学田町キャンパス 5 階 (JR 山手・京浜東北線田町駅徒歩 2 分 )
プログラム
12:30-12:35 開会
12:35-13:30 特別講演 1
池内 真志 先生 ( 東京大学 先端科学技術研究センター 講師,株式会社シムス取締役(兼任))
13:30-13:40 休憩
13:40-14:20 特別講演 2
池田 将 先生(岐阜大学 工学部 化学・生命工学科 准教授,新学術分子ロボ公募班)
タイトル:化学反応を活用した刺激応答性ナノ繊維~分子ロボット骨格としての可能性~
14:20-14:30 休憩
14:30-15:10 一般講演Ⅰ
14:30-14:50 臼井 健二 先生 ( 甲南大学 , 新学術分子ロボ公募班 )
14:50-15:10 与那嶺 雄介 先生 ( 物質・材料研究機構 )
15:10-16:30 ポスターセッション ( 奇数:15:10-15:50, 偶数:15:50-16:30)
1.「鋸歯型電場間で生じるマイクロビーズの集団輸送」早川雅之 ( 東工大・院総理工・瀧ノ上研 )
3.「制限酵素を用いたナノポア /DNA ロジックゲートの構築」大原正行 ( 東京農工大・工・生命工・川野研 )
2.「DNA 論理回路を用いたゲルオートマトンの設計」細谷拓人 ( 東北大・工・村田 / 野村研 )
4.「アメーバ型分子ロボットの構築に向けた,リポソーム内へのモータータンパク質群の封入」佐藤佑介
( 東北大・工・村田 / 野村研 )
5.「ナノポアと DNA を用いた自律診断型メディカルドロップレットシステムの開発」平谷萌恵
( 東京農工大・工・生命工・川野研 )
6.「Lipid-modified DNA rings on hydrophobic patterns」Keitel Cervantes ( 東北大・工・村田 / 野村研 )
7.「ナノポアの脂質二分子膜への再構成と電気計測による特性検討」渡辺寛和 ( 東京農工大・工・生命工・川野研 )
8.「人工細胞組織を目指したハニカム型マイクロゲルネットワーク」梅山智史 ( 東工大・院総理工・瀧ノ上研 )
9.「細胞密度制御の可能なマイクロ流体デバイスの構築」伊藤真奈美 ( 東工大・院総理工・瀧ノ上研 )
10.「キネシンによる生体外輸送系における構造高さの影響」藤本和也 ( 京都大・工・ナノメトリックス研究室 )
11.「ベシクル型人工細胞増殖系の DNA- 脂質協同現象に基づく新奇遺伝子発現機構」松尾宗征
( 東京大・院総合・豊田研 )
16:30-16:40 休憩
16:40-17:20 一般講演Ⅱ
16:40-17:00 川又 生吹 先生 ( 東北大学 )
17:00-17:20 鈴木 勇輝 先生 ( 京都大学 )
17:45- 懇親会 会場:木村屋本店 田町駅芝浦口
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お問い合わせ
Molecular
Robotics Research Group. News Letter No.14
森田雅宗(東工大)[email protected]
石川大輔(東工大)[email protected]
研究活動紹介
の相互作用を阻害した。これにより、十字型にフィットした
京都大学
物質 ‐ 細胞統合システム拠点 遠藤 政幸 パッキングによる構造体の規則的な集合が見られた。また、
三角形や六角形のオリガミ構造体を用いてもパッキングによ
る規則的な集合が見られた。
本研究で開発した方法は、様々な DNA 構造体の 2 次元結
晶化などに応用も可能であり、脂質膜からなる分子ロボット
の表面にも展開可能である。
脂質二重膜上での DNA オリガミ構造体の自己集合
DNA は配列特異的な分子集合と構造の周期性によって様々
なナノスケールの微細な構造体を作成できる。本グループで
は、DNA オリガミ構造体を用いることで、高速原子間力顕
微鏡 (AFM) によって生体分子の動きや反応を 1 分子可視化
することに成功している [1]。また DNA オリガミ構造体の集
合と解離を脂質二重膜上で高速 AFM によって動的に可視化
した [2]。 本研究では、DNA オリガミ構造体を用いて様々
な 2 次元集合体を構築するため、脂質二重膜上での自己集
合化の方法とその形成過程の可視化を行った [3]。 格子構造を形成させるため、一辺が 100 nm の十字型の
DNA オリガミ構造体 ( モノマー ) を設計・構築した ( 図 1)。
マイカ上に DOPC によって脂質 2 重膜を作成し、この上に
十字型の DNA オリガミ構造体を静電的に吸着した ( 図 1A)。
脂質二重膜上では十字型のオリガミ構造体は十字構造の末端
のπ - π相互作用によってモノマー同士が結合し、格子構造
を形成した。またオリガミ構造体の溶液中の濃度が高い状態
では、数マイクロメーターの格子構造を形成することを見出
した ( 図 1B) 。一方で、マイカ上では大きな格子構造が形
成できないため、脂質膜上での流動性が拡張した格子構造を
作るうえで重要であることがわかった。さらに、脂質膜上で
のオリガミ構造体の格子構造形成の様子を高速 AFM によっ
て観察した。十字型モノマーがアセンブルした格子構造体が
複数接している状態から、それらの境界が少しずつ動くこと
によって格子構造体が再配向し、配向がそろったより大きな
格子構造体になる様子が観察された。また、ビオチンを導入
したモノマーを用いて格子構造を形成後、ストレプトアビジ
ンによる表面修飾も可能で、その結合する様子も高速 AFM
によって観察された。
一方で、十字構造体が相互作用しない状態で、脂質膜上
図1.(A) マイカ上に展開した脂質二重膜上での DNA オリガミ構造体の
自己集合 .(B) 十字型 DNA オリガミの格子構造への自己集合 .
(C) パッキングによる十字型、三角形、六角形構造体の集合。
研究にあたり尽力してくれた鈴木勇輝博士に感謝します。
[1] M. Endo, H. Sugiyama, Acc. Chem. Res. 47, 1645-1653 , 2014.
[2] Y. Suzuki, M. Endo, Y. Yang, H. Sugiyama, J. Am. Chem. Soc.
136, 1714-1717 , 2014.
[3] Y. Suzuki, M. Endo, H. Sugiyama, Nature Commun. 6, 8052 ,
2015.
でパッキングによる集合化を試みた ( 図 1C)
。この方法では
十字構造末端に余分な 1 本鎖 DNA で修飾することで末端同士
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
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研究活動紹介
京都大学大学院
理学研究科
山下 高廣
(これが我々の色覚の分子基盤である)。自然が創り出したこ
の分子を基礎として、自然が採用しなかった手法もまじえて、
光受容分子はいかにノイズ発生を制御するか
刺激センサー分子として重要なことは、刺激があるとき
新たな光受容分子を創作したいと思っている。そして、リポ
ソームなど人工細胞システムを光で制御することを目指して
いる。
に反応して刺激がないときに反応しないことである。私が研
究対象としている光受容分子でも、光を受けた時のみ活性化
することが求められている。しかし、光エネルギーだけでな
く分子周りの熱エネルギーでも活性化すると光が来ていない
のに間違えてシグナルを伝える。これは暗いときに起こるノ
イズ(暗ノイズ)である。動物の視覚の光受容分子であるロ
ドプシンは、その内部に光受容の発色団としてレチナールを
もつ。このレチナールが光によってシス型からトランス型に
図1 レチナールは光でも熱でも異性化する
異性化することによってシグナルが伝えられるが、熱によっ
ても異性化することが暗ノイズにつながると考えられていた
(図1)
。また、ロドプシンが発現する我々の網膜の桿体視細
胞は数光子を受容して活性化するため、暗ノイズにつながる
ロドプシンの熱活性化を極度に減らしていると考えられる
が、そのメカニズムは明らかではなかった。
これまでは、視覚に関わる視細胞の応答を電気生理学的に
測定することによってのみ暗ノイズの評価が行われてきた
が、私たちは今回、レチナールを含む光受容分子のみを用い
て、熱活性化をより簡便に評価する生物物理学的・生化学的
図2 レチナール周りの環境が熱的ゆらぎによって異性化を
制御する
実験系を構築した。そして、異性化を起こさないレチナール
アナログを用いることにより、ロドプシンの熱活性化(暗ノ
[1]Masataka Yanagawa, Keiichi Kojima, Takahiro Yamashita,
イズ)はレチナールの熱異性化に由来することを実験的に証
Yasushi Imamoto, Take Matsuyama, Koji Nakanishi, Yumiko
明した。また、この熱異性化はレチナールの周りの環境の熱
Yamano, Akimori Wada, Yasushi Sako and Yoshinori Shichida :
的ゆらぎによって制御されていることがわかった(図2)。
Origin of the low thermal isomerization rate of rhodopsin
レチナールを用いた光受容分子は動物で広く利用されてい
chromophore. Sci. Rep. 5, 11081, 2015.
る。その分子を解析すると、多様なメカニズムで驚くほど精
巧に刺激受容・活性化が制御されている。例えば、レチナー
ルを含む光受容分子の吸収光波長は比較的容易に調節できる
8
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
適合性と生分解性を備え、さらに 2 を利用すれば細胞接着の制
研究活動紹介
山形大学大学院
御も可能になることから、細胞外基質 (ECM) 代替物として機能
するか検討中である(分子ロボティクスへの応用)
。具体的には、
これらのナノ会合体を細胞培養系に添加し、化学・形状異方性に
よって、細胞塊の 3D 形態構築を制御できるか調べている。
理工学研究科 福島 和樹
生分解性ポリマーをベースとした化学・ナノ形状
異方性を示す機能材料と生体側との相互作用の解析
筆者は主として生分解性ポリマーの機能化と医療材料への応用
に取り組んでいる。特に、ポリトリメチレンカーボネート (PTMC)
骨格に機能性官能基を導入させた 1 によって、これまで、薬剤キャ
リア、遺伝子キャリア、感温性ハイドロゲル、抗菌剤への展開を
報告している [1]。
図1.機能性官能基 (FG) を有する生分解性ポリカーボネート 1 の一般構造
(A).ポリマー 2 上に粘着したヒト血小板 (B), 接着したヒト臍帯静脈内皮細胞
最近、筆者は血管再生治療を目標とし、血小板粘着を抑制しつ
(HUVEC) (C).
カチオン性ポリカーボネート3,4のヒト赤血球に対する溶血性 (D).
つ、血管細胞の足場となり得る生体吸収性材料の開発を検討して
大腸菌の走査型電子顕微鏡像:処理前 (F), ポリマー 4 との処理後 (62 mg/L).
いる。このためには、細胞の接着性を制御する界面機能が必要と
なる。そこで、界面水和水に含まれる「中間水」(詳細は総説 [2]
を参照されたい)によって細胞接着を制御する、人工心肺コーティ
ングに利用されている医療用ポリマー、ポリ (2- メトキシエチル
アクリレート ) (PMEA) の構造を利用した。その結果、血小板非
粘着・血管細胞接着性を示し ( 図 1)、酵素分解性も有するポリマー
2 の開発に成功した [3]。現在、デバイス化を目指し、力学強度
の向上を検討中である。
さらに、2 の血小板に不活性な界面特性は、赤血球にも有効で
あることを見出した。抗菌剤ポリマーは一般に ( 側鎖 ) カチオン
基が殺菌効果を示すが ( 図 1E,F)、同様に赤血球等のヒト細胞の
破壊も引き起こしやすい。筆者はカチオン性ポリマー 3 に 2 を共
重合することで、生体適合性の改善に成功した ( 図 1D) [4]。
両親媒性のブロック共重合体 (BCP) は水中で会合体を形成し、
生分解性や生体適合性を含むものはドラッグデリバリー等への応
用が期待されている。親水性基に化学機能を付与する一方で、自
己組織化によって形成されるナノ形態を制御することでも生体と
の相互作用を変化させることができると知られている。
筆者は、剛直性を示し水素結合サイトを有するメソゲン様分子
を用いて、抗菌用カチオン性物質のナノ会合形態に異方性を付与
し、ロッドやファイバー状の構造を形成指せ、さらにその形状の
効果によって抗菌活性が変化することを見出した [5]。また最近
では、別の BCP 系でも類似のメソゲン様分子 4UMBA を利用し
てナノチューブやナノシート構造の発現を確認している ( 図 2)。
現在これらがナノと ( セミ ) ミクロ次元の異方性を有し、生体
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
図 2.メソゲン様分子 4UMBA を含む両親媒性 / 生分解性ブロックコポリマーの
水中での自己会合形態.(A,B,C,G) 透過型電子顕微鏡像.(D,E,H) 原子間力顕微
鏡像.チューブ・ファイバー形態 (A,B,G), 球状凝集 (C,H), シート構造 (D,E).
[1]Fukushima, K. Biomater. Sci., in press. doi: 10.1039/c5bm00123d
[2]Tanaka, M.; Sato, K.; Kitakami, E.; Kobayashi, S.; Hoshiba, T.;
Fukushima, K. Polym. J.,47, 114-121, 2015.
[3] 特開 2014-161675「抗血栓性材料としての生体親和性ポリマー」 [4] 特願 2014-097237「抗菌性ポリマー及びその製造方法並びに用途」
[5]Fukushima, K.; Liu, S.; Engler, A. C.; Coady, D. J.; Maune, H.; Pitera, J.;
Nelson, A.; Wiradharma, N.; Venkataraman, S.; Huang, Y.; Fan, W.;
Yang, Y. Y.; Hedrick, J. L. Nat.Commun. 4, 2861, 2013.
9
ションに応用できる可能性はあるが、これだけの鋭さ・速さが
研究活動紹介
あるので、何とか三次元系、例えば高分子ゲル中などで起こす
ことに挑戦し、ロボットアームの候補にしたい。現在、そのた
めの集中的検討に着手している。
長崎大学大学院 工学研究科
相樂 隆正 また、電極を用いるのでは当然、組み込みに限界があるので、
還元剤や酸化剤を燃料として、外部回路無しで電気化学ポテン
シャル差駆動が必要である。
非ファラデー過程を用いる駆動では、± 108 V/m にも達す
る電気二重層電場が動きを生み出すが、二重層の厚みは nm
オーダーにとどまる。それにもかかわらず、我々はマクロな油
「動的組織体の電気化学」はどのように
分子ロボットの動きに結びつけられるか?
我々は、構造規制された電極表面上に、界面活性剤等の単分
子膜、デンドリマー吸着層、金ナノ粒子吸着層、油滴などを置
滴を電位で多様に可逆コントロールできることを見出してお
り、この駆動方式も有望であろう。
ただし、いずれの過程を用いるにせよ、ハイブリッド化のた
めに、DNA をベースとする分子コンピューティングとどうカッ
プルできるのか、大きな課題がその先にある。
き、速く可逆的で大振幅な動きを電極電位で誘導し制御する「動
的組織体の電気化学」の研究を進めてきている [1]。一方、プ
ロトン電気化学ポテンシャル差で駆動される生物分子モーター
まで含めた広い意味では、電気化学駆動の動的挙動は広範に見
られる。高分子電解質ゲル、イオン導電性ゲル、導電性高分子
を材料とするソフトマテリアルとしてのアクチュエータもその
範疇であり、国内外に研究の蓄積がある。
アメーバ型やスライム型のハイブリッド型分子ロボットで
は、マイクロメートルサイズで局所的に働き、大きく速く伸縮
するアクチュエータが求められている。よって、電極が常に側
面に沿って存在し、大きなスケールでの屈曲運動をする上記の
従来ゲルを超えるものが必要である。
電気化学的に分子集合組織を駆動する素過程としては、酸
化還元過程と非ファラデー過程(正味の電子移動による酸化還
元を含まない過程)があり、これらの複合も有望である。酸
化還元過程の場合、Nernst 式に従う 1 電子反応では、還元率
が 10% ~ 90% に変化するのに室温で約 115 mV 必要である
(115 mV は pH が 1 異なることによる電気化学ポテンシャル
差のほぼ 2 倍)
。その上、応答の速さを求めて電気化学的可逆
図 1.Au(111) 電極上でジフェニルビオロゲンが塩素イオン共存下で
示す 2 つの相転移過程。
[1] T. Sagara: “Dynamic Behaviors of Molecular Assemblies and
Nano-Substances at Electrified Interfaces”, in Bottom-up
Nanofabrication: Supramolecules, Self-Assemblies, and Or-
性を高めると、差動性が犠牲になる。しかし、もっと極端に鋭
ganized Films, Vol. 3, Eds. K. Ariga, H. S. Nalwa, American
い応答は、有機分子を用いて実現できる。
Scientific Publishers, Valencia, Chapter 13, 347–373 , 2009.
高配向グラファイト(HOPG)や Au 単結晶面を電極として
条件を整えると、ビオロゲンは図 1 に例示するように 1 段階
または多段階の極めて鋭い二次元一次相転移を示す。図 1 の
例では、0.3 V 付近は非ファラデー過程、‒0.1 V 付近は酸化
還元過程であり、二つの order 層の分子配列が STM 像でわか
る [2]。電位差つまり差動幅は、分子間相互作用で変えられる。
[2] T. Higashi, T. Kawamoto, S. Yoshimoto, T. Sagara: Two Sharp
Phase Change Processes of Diphenyl Viologen at a Au(111)
Electrode Surface: Non-Faradaic Transition with Interplay of
Ionic Adsorption of Chloride and Bromide and Faradaic One, J.
Phys. Chem. C, 119, 1320–1329 , 2015.
[3] Y. Tanaka, T. Sagara: Voltammetric Study of Two- Dimensional
Phase-Transition Processes of Carboxylated Viologens at an
実際、HOPG 電極では、ピーク幅が数 mV、ピーク間隔が 120
HOPG Electrode as a Typical Organization Process of Mole-
mV にすることもできている [3]。相転移は、核から開始し、
cules Possessing Multiple Interaction Sites, Bull. Chem. Soc.
全体を掃き尽すように起こるため、二次元のままでもロコモー
10
Jpn., 80, 1511–1517 , 2007.
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
BIOMOD2015 国内大会奮戦記
北海道大学
東北大学
■タイトル:東京大会を通して
■タイトル:国内大会奮戦記
■チーム名:BIOMOD Hokkaido Univ.
■チーム名:Team Sendai
■メンバー:○西井建人、山本隆博、山田真司、白川 稜、
■メンバー: ○遠藤佑真、安部桂太、内田健央、秋田 賢 、
福 嶋 智 輝、 前田裕斗、 岡碧 幸、 乙井春樹
市 堰 翔 成 、 劉 詩韻、 荒舘 笙、 福 地成 彦 、
■教官メンター:角 五 彰
吉川太陽、斎藤正崇
■教官メンター:村 田 智 、 野 村 慎 一 郎 、 川又生吹
今回チームとして 3 年目の参加でした。毎年 Team Hokudai の強みである分子モーター(微小管とキネシン)を用い
国内大会を振り返ってみると、遠い昔のことのように思え
て実験をしてきましたが、今年も例にもれず微小管とキネシ
る。思えば、大会当日までは苦難の連続であった。4月に
ンを用いて創発、また集団行動のシミュレーションを行いま
チームが発足してから授業と BIOMOD が同時進行し、両立
した。アイデアを決める段階で抽象的なテーマでもいいのか
に苦労した。ようやく夏休みに入り、BIOMOD に専念でき
など苦労することが多かったです。実験も観察結果が得られ
ると意気込んだ。しかしそこからが本番だった。まず、ア
るまでに時間がかかり、wiki の提出期限が終わってから出
イデアが決まらない。毎日朝から晩までアイデアを考えては
た結果をプレゼンに盛り込むなど非常にハードでした。実験
ボツになった。時には先輩やメンターの先生方を交えてミー
を wiki, プレゼンに落とし込むのが大変でしたが、実際に実
ティングを実施し、そこでアドバイスを受けた。この状態が
験計画からプレゼンまでをすべて自分たちの手で行うことの
2週間ほど続き、ようやくアイデアが決まった。しかし次に
楽しさを知りました。
我々を待ち構えていたのは、DNA オリガミの設計地獄であっ
チームとしては 3 年目ですが、今まではメンバーの交代
た。caDNAno でひたすら設計し、完成したと思ったら不備
が激しく引継ぎも十分にできていない状況だったので今年が
が見つかり、それを直すというループに陥った。そして容赦
初めて昨年度の反省を生かして活動できたのではないかとお
なく迫り来る wiki 締め切りの影。プレゼンについても考え
もいます。その点で今年度は十分にといえばうそになります
なくてはならない。やるべきタスクが多く、本当に目が回っ
が、昨年に比べてメンバーの意思疎通や資金集め、wiki の
た。これが BIOMOD かと、改めてそのハードさを思い知っ
作成などの点において進歩できたと思います。昨年に比べて
た。それでもやる以外に選択肢はない。とにかく仕事をメン
改善できた点はこれからも持続したいです。
バーに振り分け、仕事が終わったら間髪入れずに次の仕事を
他のチームに比べて実際に実験結果が得られていたことも
振り、着実に歩を進めていった。締め切り直前は、作業部屋
あってか東京大会では 2 位という結果をいただくことがで
の明かりが絶えることはなかった。そうして迎えた国内大会
きましたが、私たちとしては反省点ばかりが思い浮かぶの
本番。プレゼンスライドが出来上がったのは本番開始の2時
で、メンバー各々が切磋琢磨し、一丸となって本大会までに
間前で、不安しかなかった。腹を括ってステージに上がり、
改善し更なるテーマの追求、表現力の向上を行っていきたい
やれることをやった。結果発表で優勝に Team Sendai が選
と思っています。
ばれた瞬間、驚きと安堵の感情がわき上がった。かくして
我々の国内大会は幕を閉じた訳であるが、手放しで喜びの余
韻に浸っている場合ではない。確かに優勝は喜ばしく尊いが、
まだ第一段階が終了したに過ぎないのだ。ジャンボリーでは
wiki とプレゼン、さらには youtube 動画も加わり、国内大
会よりもタスクは多い。国内大会までに得られたもの全てを
使い、あと1ヶ月弱の期間を突き進んでいこうと思う。
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
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筑波大学
東京大学(駒場)
■タイトル:一夏を BIOMOD に捧げて
■タイトル:反省と国際大会への抱負
■チーム名:Team Tsukuba
■チーム名:Team UTokyo-Komaba
■メンバー:○日原奨希、宮田真衣、神 谷 健 、進藤由香、
■メンバー:足立悠理子、岡本宇弘、木口利公、西田裕信、
瀬 尾 昂紀
二宮孝太、○船木健人、松迫翔悟、吉岡康太
■教官メンター:イン・ベイウェン
■教官メンター:萩谷昌己、陶山 明、庄田耕一郎
私たちは今回、筑波大学から初めて BIOMOD に参加させ
悔しい。とりあえず悔しい。国内大会ではボロボロの結果
て頂きました。他大学の友人から BIOMOD の話を聞いて興
だった。原因は明らかに時間不足。テーマを決めるまでが一
味を持ち、学生を誘ったり教員の方に相談に乗って頂いたり
番の困難だった。
したことが BIOMOD を始めたきっかけでした。手探りの部
やはり今大会で挙げられる反省点としては wiki 制作期間
分も大きかったですが、色んな方にサポートして頂きながら
の短さ、プレゼンの準備不足であろう。これら反省点を含め
試行錯誤を繰り返してきました。最初は半分思いつきのよう
大会によりとても得るものが多かった。メンターの方からの
な形ではありましたが、作業をしていく内にのめり込んでい
鋭い質問やアドバイスによりこれから考えるべきことが明確
きました。BIOMOD を始める前はひたすら実験をするイメー
になったことは大きな収穫であった。
ジがあったのですが、実際にやってみると、資金集めや実験
一つ嬉しかったのはアイデア自体を数人の方に褒めていた
計画なども非常に重要であることを痛感しました。また、英
だいたことだ。その際のアドバイスを活かし今後の実験に活
語で発表し英語で質疑応答するという機会も今までなかった
かして改善につなげられたら良い。
ので、大変だと思う一方で楽しくもありました。
そして他大学の wiki とプレゼンに大きな刺激を受け、我々
国内大会のプレゼンでは「如何に分かりやすく伝えるか」と
ももっと頑張らねばと更に奮いたった。国際大会へ気が引き
いうことに重点を置きました。質疑応答に関しては、どんな
締まるという意味でも参加してよかった。
質問が来るかということを皆で集まって予想しておき対策を
国内大会が終わった今、国際大会まで2ヶ月を切った。
「悔
練っていました。英語の発音やアクセントなども練習し、夜
しい」と感情に訴えていても始まらない。これからメンバー
遅くまで先生に付き合って頂いたりもしました。
の力を合わせて全力で戦い抜きたいと思う。
この国内大会を通して私たちは多くの課題を発見すること
が出来ました。大きなものとしては3つあります。1つ目は
実験計画が不十分であったこと、2つ目は質疑応答の対策も
まだ不十分であったこと、3つ目は「面白く伝える」という
部分がいくらか欠けていたことです。
国際大会までの2か月の内にこれらの課題を改善し、より
クオリティの高いものを作ってボストンに向かいたいと思っ
ています。
東京大学小柴ホール
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Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
関西大学
お茶の水女子大学
■タイトル:国内大会までの道のり
■タイトル:私たちの BIOMOD
■チーム名:Ochadai
■チーム名:Team Kansai
■メンバー:飯田晶子、板垣 舞、大庭ジーナ、恩田理奈、
■メンバー:赤松直秀、 西田奈央、 ○ 遊上晋 佑
金子はるひ、中嶋有彩、○奈良香織、藤本香菜、
■教官メンター:葛谷明紀
橋本さゆり
■教官メンター: Nathanael Aubert-Kato
国内大会前日、私たちはスライド作成や発表練習などに追
われていました。
Team-Ochanomizu は、学年も専攻もばらばらの有志で
今 回、 私 た ち は 3 人 で BIOMOD に 参 加 し ま し た。 実 験、
今年4月に結成されたチームです。生物学専攻の学生が多く
wiki 作成、スライド作成などやることが多く、夜遅くまで
集まりましたが、プロジェクトを始めるとすぐ、今まで学ん
作業をすることが当たり前になっていました。もともと 3
だ知識はほぼ役に立たないことに気づかされました。DNA
人という少人数に加え、実験をスタートした時期が遅かった
工学は、メンバー全員にとって触れたことのない未知の分野
こともあり、漠然と危機感を抱いていました。ただ、少人数
であり、このようなスタートから国内大会までの道のりは、
であったことが必ずしも不利に働いたとは思いません。むし
まさに手探りの状態でした。
アイディアを出し合うにしても、
ろ少人数だったからこそ個々に責任感が生まれ、自然と仕事
そもそも何が実現可能か、不可能かの判断ができず、またア
の分担もできていたように感じます。
イディアが出たとしても、それを実現するための手段が全く
国内大会でのプレゼンテーションは良い出来とは言えませ
わかりませんでした。そのため、
何週間も議論を重ねた案が、
んでした。問題点として、質疑応答の会話が成り立っていな
計画の途中で白紙の状態に戻ったことが何度もありました。
かったことが挙げられます。答えよう答えようとするあまり、
このような中で私たちがようやく辿り着いたテーマが、UV
聞かれていることとは関係のないことを話してしまいまし
をカットする DNA-sheet です。これは、金ナノ粒子を規則
た。今後は聞かれたことに端的に答えることを心がけようと
的に付着させた DNA-origami を何枚も平面上につなげるこ
思います。結果的に Team Kansai は 4 位に入賞することが
とによって作成されるシート構造で、UV を一定の割合で吸
できました。前述の通り、プレゼンテーションはイマイチで
収、または干渉することがシミュレーション結果より明らか
したが、wiki で点数を稼ぎ、ギリギリ入賞できました。正直、
になっています。
入賞できるとは思っていませんでした。Team Kansai の発
国内大会に参加して感じたことは、やはり他校との圧倒的
表は最初で、他大学の発表を聞くうちに圧倒されていました。
なレベルの差でした。経験も、
プロジェクトにかける時間も、
発表を劇調にして笑いを誘うとともに、わかりやすい説明が
BIOMOD にかける熱い思いも、私たちのチームには不足し
なされており、英語での質疑応答もきちんと行われていまし
ていたことを痛感しました。しかし、同時に、刺激的で意欲
た。私たちも他大学に倣い、プレゼンテーションの腕を磨い
を掻き立てられる本当に良い機会にもなりました。他校のメ
ていきたいと思います。
ンターの先生からフィードバックを頂き、また他チームの学
国内大会は自分たちが本大会に向けて、改善しなければな
生とお話させていただく中で、本大会に向けた改善点が明確
らないことを明確にしてくれるとても良い機会でした。国内
となりました。
大会での経験を本大会に活かしていきたいと思います。
Jamboree まで約1ヶ月しかありませんが、一つのプロ
ジェクトをチームでつくりあげるプロセスを楽しみながら、
最後まで全力を尽くしたいと思っています。
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
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九州工業大学
■タイトル:DNA New-World Translator
■チーム名:YOKABIO
■メンバー:○瀬口竜大、佐藤大樹、藤本圭吾、栗原健太郎 浅 田 一 平 、鈴 川 亮 典 、梅 田 陽 平 、水 田 安 昭 、
西島勝浩、大曲智隆、宮原裕紀、緒 方 研 仁
■教官メンター:中 茎 隆
私たちは、昨年の BIOMOD2014 の経験を元に、新チー
ムを結成して今回の国内大会に向けてプロジェクトを進めて
国内大会会場
きました。チームの活動を振り返ってみると、一番苦労し
た点はアイデア決めです。3 月から生体分子に関する基礎勉
強と同時にアイデア出しを定期的に行っていたためアイデア
の数は豊富でしたが、斬新かつ実現性の高いアイデアを創造
することは困難でした。数ヶ月に及ぶアイデア決めの結果、
DNA とコンピュータの A/D 変換を結びつける独自のアイデ
アにたどり着きました。
国内大会では、他のチームのプレゼン能力と Q&A の的確
な対応に実力の差を痛感しました。当初の目標である上位 3
位を達成することができましたが、チームの誰一人として満
足した人はいませんでした。学生プロジェクトを進める中で
Schedule
優勝したいと思う気持ちが高まっていたからです。この悔し
さを世界大会に向けて、残りの 2 ヶ月でやれることは全て
やるつもりです。世界大会では金賞を当然のごとく受賞でき
るようなチームになるよう、日々努力します。
総合的な観点から言うと、今年は昨年に比べて計画通りに
プロジェクトを進めることができました。ミーティングに時
間を費やして一人一人の役割を決め、世界大会を見据えて動
画班も用意できたからです。世界大会に向けて、
今後は実験、
Youtube 作成だけでなく、自分たちのコンセプトを分かり
やすく伝えられるプレゼン作りをメインにチームの皆と頑張
りたいと思います。また、アメリカで全世界トップレベルの
学生と渡り合い、堂々と発表できるように英語の向上も図り
たいと思っています。
●July 1: Teams outside the United States should
apply for visas by July 1, 2015.
●August 24: Jamboree Registration Opens
●September 5: Japan Meeting at Koshiba Hall, The
University of Tokyo
●September 25: Registration deadline to attend the
Jamboree
●September 25: Each team must submit a project
title and abstract (150 words max)
●October 24: Team wiki freeze and video upload
deadline. 11:59PM GMT-7
●October 30: Check in to hotel (after 15:00)
●October 31: Jamboree Begins (8:00)
●November 1: Check out of hotel (before 11:00)
●November 1: Jamboree Ends (around 17:00)
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Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
出版物のご紹介
マルチエージェントシステムの制御
東俊一、永原正章 編著、
石井秀明、林直樹、桜間一徳、畑中健志 著 コロナ社、2015 年 8 月発行、232 ページ、
ISBN:978-4-339-03322-9 マルチエージェントシステムとは、複数のエージェントの局所的な
相互作用をもとに大域的な機能を発現するシステムのことである。
システム制御分野では、近年のスマートグリッド、ロボットカー、
システムバイオロジなどへの関心を背景に、2000 年以降、最も重要な研究対象に成長してきている。
このような背景のもと、本書は、マルチエージェントシステムをシステム制御の視点から体系的にまとめ
た初の邦書として出版されたものであり、以下の特徴を有している。
(1)マルチエージェントシステムの制御を、勉強してみたい、使ってみたい、研究してみたい、
と思う読者のために「最初にこれだけは押さえておきたい事項」を厳選して解説。
(2) システム制御分野において、マルチエージェントシステム研究の最前線にいる 6 人の若手
研究者によって執筆。
(3)本書を読み進めるにあたって必要となる
数学や制御工学の知識を他の文献にゆずる
ことなく、本書中に整理して記述。
本研究プロジェクトにも、マルチエージェント
システムの研究者が多数参加されているが、分子
ロボティクスの実現のためには、マルチエージェ
ントシステムの制御理論が不可欠であろう。
本書は、すべての分子ロボティクスの研究者の一助になることを期待している。
詳 細 は、 本 書 の ホ ー ム ペ ー ジ(http://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339033229/)
をご覧頂きたい。
京都大学 東 俊一
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
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TOPICS
● BIOMOD2015 本大会速報 ~ 東北大学チームが総合優勝!! ~
11 月 1 日 -2 日にハーバード大学 Wyss 研究所(ボストン)で行われた第 5 回 BIOMOD(国際生体分子デザイン
コンペティション)で、東北大チームが、ねじれを利用した新しい分子結合技術を提案してグランドプライズ
(総合優勝)および、ベスト YouTube ビデオ賞 1 位、ベストプレゼンテーション賞 2 位、ベスト Wiki( ホームページ
制作 ) 賞 3 位を獲得しました。東北大学は 2012 年に続き、2 度目の総合優勝です。世界 11 ヵ国から 30 チーム
が参加していました。11 月 10 日(火)には田町 CIC にて日本チームの帰朝報告会が行われました。
●受賞報告
♪ Uppsala 大学青木康憲、国立情報学研究所速水謙、東京工業大学小長谷明彦が、共著「「劣決定逆問題に 対する Cluster Newton 法とその薬物動態モデルへの応用」により、本年度の日本応用数理学会ベストオーサー賞 を受賞しました。
http://www.jsiam.org/modules/xfsection/article.php?articleid=79
♪ボストンで開かれた DNA21 の国際会議で、
東北大学 M2 吉澤慧くんが学生優秀ポスター賞を
受賞しました。 ●京都大学遠藤政幸が DNA オリガミの 2 次元自己集合化に成功し、その論文が 2015 年 8 月 27 日に英国科学誌
「Nature Communications」オンライン速報版に掲載されました。
●京都大学東俊一の論文が以下の雑誌に掲載されました。
♪「Structural Monostability of Activation-Inhibition Boolean Networks」
IEEE Transactions on Control of Network Systems(2016)
オンライン速報版:http://ieeexplore.ieee.org/xpl /articleDetails.jsp?reload=true&arnumber=7286798
♪「Performance Analysis of Chemotaxis Controllers: Which has better chemotaxis controller, Escherichia
coli or Paramecium caudatum?」
IEEE/ACM Transactions on Computational Biology and Bioinformatics (2016)
オンライン速報版:http://ieeexplore.ieee.org/xpl /articleDetails.jsp?arnumber=7229260&filter%
3DAND%28p_IS_Number%3A4359833%29%26rowsPerPage%3D75
● Journal of New Generation Computing (Ohmsha, Ltd. and Springer) において分子ロボティクス関連の論文が
5本掲載されました。
今後の予定
12 月 5 日
12 月定例研究会(東北大学)
1 月 23 日 1 月定例研究会(京都大学)
1 月 27-29 日 nano tech2016(東京ビッグサイト)
3 月 14-16 日 第六回領域会議(名古屋)
4 月 18 日 IEEE NEMS 2016 国際会議 分子ロボティクスセッション(仙台)
Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14
発行:新学術領域 分子ロボティクス 感覚と知能を備えた分子ロボットの創成
事務担当 :村田智(東北大学 [email protected])
広報担当 :小長谷明彦(東京工業大学 [email protected]) http://www.molecular-robotics.org/
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Molecular Robotics Research Group. News Letter No.14