1 桜井 健司(理事長) - HIVと人権・情報センター

桜井 健司(理事長)
人が百年生きることは希である。例えば、いま二十歳の若
者が二十二世紀を見ることは殆どないだろう。人は自ら生ま
れる場所を選ぶことができないように、生きる時代を選ぶこと
はできない。
人類の歴史は多くの病を克服して来た。よって、前世紀八
十年代に流行し始めた感染症である HIV も、いつの日か克
服されるかもしれない。それがいつなのか、まだ分からないけ
れど、きっとその日が来ると信じて、私たちは歩いて行く。
「あたりまえに生きたい」と言葉を遺した先人がいた。AIDS 患者というだけの理由で、本人も家族も酷い差別に苦し
められたからである。病人が、ただ、あたりまえに生きようと願うことすら許さない人々は確かにいたし、今もいるのだろう。
状況は三十年前より少し良くなっているだろうか。
差別や偏見は過去のどの時代どの地域にもあったのだろう。そして、これからもずっとあり続けるのだろうか。差別するこ
とによって、人は容易に優越感を得られるのかもしれない。人種、民族、地域、学歴、職業、貧富、家柄、性別、セク
シュアリティ、病気、等々。自他の違いを強調し、己は他より優れていると思い込もうとする時、人は自分の心の鏡をじっ
と見つめるべきだ。そうすれば、少しは恥を感じるだろう。
自分が人からされて嫌なことを人にはしない、ただ、そう心に決めて、私たちは歩いて行く。私たちにできることはとても
限られている。ただ、小さくても、やれることはやる。行けるところまで行ってみる。
百年後、私たちはそれを見ることはできないかもしれないけれど、きっと今より少し良い世界になっていると、希望を
持って、私たちは歩いて行く。せめて、人が病を理由に偏見を持たれない世の中に、それが私たちの夢です。
目 次
■chotCAST 電話相談勉強会「ダルクに学ぶ」
・・・・・2
■厚労科研を続けて
・・・・・2
■性教育の現場や chotCAST なんばで感じること
・・・・・4
■アメ村サンサンサイトから10年
・・・・・4
■HIV 検査におけるネット予約導入後の受検者動向
・・・・・5
■私のスイッチ ~ボランティアを始めてみて~
・・・・・7
■渋谷区の同性パートナー条例について
・・・・・8
1
JHC 通信
2015 年夏号
chot CAST 電話相談勉強会 「ダルクに学ぶ」
尾澤 るみ子(副理事長)
「ダルクに学ぶ」という研修を実施したいと思っていたのが現実味をおびてきたのは、昨年の2月だった。アピスさんからの依頼
の『生きてる図書館』で、のじやんが“本”に、私が“辞書”として参加した時のことだった。いろいろな“本“の方々と控室でお会
いして、もっとじっくりとお話を聞きたいと感じていた。
以前、電話相談の中で「予防しなかったら感染しますか?」から始まった事例があった。いろ
いろと状況をうかがっていると、「実は脱法ハーブをやっていて…、予防どころではなかったハイ
な精神状態でした…。ハーブ止めた方がいいですよねぇ、わかっているのだけど…」という内容
だった。あの返し方で良かったのだろうか、今後どこかに繋がっていけるような情報提供をすれ
ばよかったと反省然り。誰が電話を受けてもきちんとお返しができるようにと研修を企画した。
大阪ダルクのスタッフをしておられる『ベムさん』からお話を伺った。
思春期に遡って、ご自分の事をしゃべってくださった。生きづらさ
の中で今振り返ってみたら、「薬物があったからこそ生き抜けてきたとも言える」と重い言葉も伝え
てくださった。
薬物による脳機能の病気はとてつもない。スイッチが入ってしまうと、何もかも失ってしまう。家
族、友だち、信頼…と薬以外は考えられなくなる。だからこそ、「回復といっても皆さんが想像して
おられるような、すっきりと一切薬物から無関係になるイメージはないのです。今日一日クリーン
でいたことの積み重ねが続いて行っているだけなのです」と。
また、電話の相談者については、「うちの所につながるのは、後2,3年はかかるでしょうね」と
も言われた。多くの方と出会っておられるからこそ先が見えておられる。私の中で完結してしまうの
でなく、ダルクといった支援の団体に繋がっていただけるような応じ方をしていけると強く感じさせて
当事者の方たちによって
作られたポスター
もらった研修となった。
~参加者の感想~
あず(関西支部)
最近メディアを通じて、あるいは噂話の中で、違法ドラッグのことを耳にする機会が増えましたが、それでも身近な問題とは感じていません
でした。しかし、今回の研修を受けて、強要されるということは別にして、機会さえあれば誰でも関わり得る問題だと感じました。そして、その
機会ときっかけとは、例えば中学生が悪ぶってタバコをふかしたり、親のお酒をこっそり飲んでみたりというような、案外ささいなものかもしれな
いということも感じました。もし、身近な人が関わっていた時、私たちがすべきことは使用したことを責めるのではなく、やめるためにどうするの
か、何ができるのかを考えることだと思います。そういう意味で、HIV の感染経路を問わず、不安な人や感染者のサポートをする JHC の活
動と通じるものがあると思いました。
厚労科研を続けて
桜井 健司(理事長)
厚生労働科学研究費補助金エイズ対策政策研究事業である「HIV 感染症及びその合併症の課題を克服する研究班
(主任研究者・白阪琢磨氏)」の研究分担として、「当事者支援に関する研究」を担当致して参りました。前年度を終え
た時点で足掛け7年間となりました。今回は直近3年間の研究内容についてご紹介させて戴きます。(紙面の都合により
詳細については「研究報告書」をご参照ください。)
2
JHC 通信
2015 年夏号
【要旨】 保健所等で実施される HIV 検査において陽性と診断された場合は、エイズ拠点病院への紹介と共に、早期受
診への働きかけが行われるのが一般的である。HIV 感染判明後は、可及的速やかにエイズ拠点病院を受診し、身体状態
を細かくチェックしつつ、必要な治療を開始することが望ましいのは言うまでもない。早期受診によって、当事者の QOL をでき
るだけ下げずに、感染判明前と同等の生活を維持しようと努めることの意義は大きいからである。また、HIV/AIDS の当事
者となった心理的負担、そして、誰にも感染事実を伝えられない場合などの状況を考慮すると、身体のみならず心理的ケア
を早期に開始することも重要性が高いと言える。一方、何らかの要因によって、陽性判明後に医療へ繋がることができない場
合には、免疫状態の憎悪、重篤な症状の出現、また場合によっては生命の危機にさらされる等、身体に悪影響があることは
明らかでる。当然、本人の QOL の低下が進み、よって、病気と向き合う気力さえ奪われるリスクも
生じ得る。保健所等で HIV 陽性と診断された当事者が、医療機関へ繋がるまでにどのような経
緯をたどっているのか、あるいは、何故なかなか医療機関へ繋がる事ができなかったのか等を分析
し、陽性告知以降に必要な対応・支援について検討した。尚、事例の検討と分析を重ねた対象
は、平成24年4月から平成27年1月までの合計で170ケース(男性168名:20
~50代、女性2名:20~40代)とした。
【考察】 阻害因子の精査から、本人の置かれている状況によっては“HIV に感染した”事実が必要以上に重くのしかかってく
ると推察される。これらは、適切な情報提供等によって短期的に解決できうる事柄と、解決には時間を要する事柄が存在す
ると推察される。たとえ短期的解決の困難な場合でも、当面の不安を軽減させることによって、ひとまず医療機関へ繋ぐことが
できると考えられる。なお、オーバーステイやドラッグユーザーの場合、通院することで当局に通報もしくは連行されるなど、HIV
感染症以外の大きな不安が生じることにも考慮が必要である。
促進因子からは、本人が HIV 感染症に対して適切なイメージを持っている場合では、比較的スムーズに医療へ繋がる可
能性が見えてきた。告知の時点においては、本人が HIV 感染症に対してどのようなイメージを持っているのか注意深く見てい
き必要な対応を図るべきである。また、周囲に理解者/支援者が存在する場合もまた、医療へ繋がりやすい状況を生み出
す可能性が高いと言える。なお、即日検査においては要確認告知というワンクッションが入ることにより、陽性告知までの期間
でいろいろな情報を入手しながら陽性判明後のことについて予め具体的に考える受検者が多いと考えられる。
この分野の研究とはおそらく画期的な発見等を伴うものではなく、経験を丁寧に積み重ね、実践を継続していくことによって、
一定の成果乃至は支援の方向を示唆する可能性を得られるものだと考えられる。
【結論】 自発的な受検によって自己の HIV 感染を知り得ても、当研究で明らかとなった通り、受診に繋がるまでの阻害因
子が存在することを認識しておく必要がある。通院に繋がる事ができずに放置すれば、病気の憎悪を含め本人のメンタルヘル
スにも悪影響のあることを考慮しなければならない。一方、促進因子から見えてきたことは、適切な情報が本人にもたらされ、
周りからの支援が受けられる“安心感”によって病気と対峙していく気力を生み出すことがわかる。
これらのことから導き出される結論として、HIV 検査で陽性と診断した際には、単に検査結果
を伝えてエイズ拠点病院への紹介状を手渡すだけではなく、医療へ繋ぐために必要な情報を
提供し、場合によっては支援プログラム等を直ちに導入する必要がある。また、言うまでもなく、
感染告知後に医療機関へ繋がったとしても、その後、医療機関において本人が不当な扱いを
受けるなどに遭遇した場合は、医療から遠ざかってしまうことを忘れてはならない。当事者のため
の支援体制の構築、特に人材育成とその維持を更に進めるべきである。
多くの方々に助けられ、限られた資源を最大限に活用しつつ、私たちはこれからも歩いて行こうと思います。
3
JHC 通信
2015 年夏号
性教育の現場や chotCAST なんばで感じること
けいこ(関西支部)
るんさんとティーンズルームを担当していますが、個人でも 3 歳~大学生まで、色ん
な年齢の子どもたちに、からだや性のお話しをしています。そして、子どもたちの周りのオ
トナたちにも、性の健康教育の必要性について理解してもらい、子どもたちの学びの支
援者になって欲しいなと講演会・懇談会・オシャベリ会・相談タイム・授業打ち合わせ
などなど、あらゆるチャンスを見つけてお話しをしています。
知識を得るって嬉しいことですが、その知識が自分の
chotCAST なんばにあるティーンズルーム
からだや性を肯定的に受け止められる様になる知識なら
尚更です。子どもだけでなくオトナも「自分の身体の事な
のに初めて知った。うまくできてるなー、もっと大事にしよう」などと軽い興奮状態になります。もっ
と知りたくもなって展示してある書籍に殺到して読んだり、1 冊の本を車座に囲んでワイワイ喋っ
たり、オトナだと、その後本を買ったり・・・・、これって学習意欲が引き出されたってことだし、「から
だの自尊感情」が育ってるってことだと思います。
ところが社会に溢れているほとんどの性情報は、興味本位で、暴力を快楽と結びつけ、一面的・画
一的で、豊かな人間関係を育むものとは程遠い内容です。知りたいからアクセスしている子どもたちに、
見てはいけませんではなく、身近なオトナたちが生の声で情報提供できること、それがネット社会の弊
害から子どもたちを守る方法の 1 つなのではないでしょうか。子どもたちは
「いけません」と言われただけで放置されたら、トラブルに巻き込まれた時に
相談できません。とは言っても、今現在は、身近なオトナとからだや性の話をする習慣のない子
どもたち。
だから、難波と言う街中にある、ちょっと距離のあるオトナのいるティーンズルームの存在が重
要なんだと感じています。早く気軽にからだや性も含めて相談にのれるオトナが増えるように働き
かけを頑張っているけれど、しばらくはティーンズルームの役目は終わらないなと思っています。
「アメ村サンサンサイト」から10年
前田智児(理事)
「アメ村サンサンサイト」懐かしい名称です。JHCで本格的にVCT(Voluntary Counseling and Testing)
が始まったのは 2004 年 7 月でした。前年の 2003 年に神戸で ICAAP(アジア太平洋地域エイズ国際会議)が開催
される予定でしたが、SARS の影響で 2005 年に延期になり、ICAAP の準備も続けながらの慌ただしい始動でした。
検査事業のノウハウは NLGR や妊婦健診などで培ったものはありましたが、日本初の民間による VCT はどうなるものや
ら手さぐり状態でした。大阪で一番若者が集まる街、心斎橋アメリカ村。そこの三角公園の隣にある三角ビル・・・。検査会
場には不向き(?)な極小空間で、検査は始まったのです。
4
JHC 通信
2015 年夏号
年末年始を除く毎週日曜日の午後2時から定員 40 名にも関わらず、初回は受検者数4
名!! その後も二桁に届くのがやっとというような、意気込みとはウラハラののんびりムード。そんな
始まりでしたが、いつしか受検者は増え続け、定員オーバーが続きました。予約なしの先着順だ
ったこともあり、お断り要員のスタッフが行列の後ろに回ってお断りし、謝罪するという光景が当た
り前になっていきました。
HIV/AIDS や即日検査についても関心が高まっていたのか?口コミ
やインターネット情報で集まるのか?また受検しやすい場所、時間、曜
日、即日で結果が出るなどの利便性なのか?などなどアンケート集計
アメ村の待合室
などを通していろんなことが見えてきました。2004 年当時では死の病で
はなくなってきていましたが、一般の人々にとってはまだまだ怖い病気の
イメージだったし、今も変わらぬ偏見の怖さもあったんだと思います。
匿名で無料、しかも保健所でも病院でもない常設検査所というのも良かったのかもしれません。
とにかく日曜日ごとに忙しい時を過ごしましたが、大勢の人に受検して欲しい私たちとしては良かっ
会場の三角ビル
たし、HIV とわかった人を医療や福祉に繋げていくこともでき、VCT 事業は成功だったのかなと思っ
ています。
HIV 検査におけるネット予約導入後の受検者動向
大郷宏基(関西・中部支部スタッフ)
2004 年より開始した検査・相談事業。各自治体からの受託による常設検査
はもとより、特設検査も丁寧な対応である等の評価をいただき、いくつかの会場で
毎年恒例により開催している。今年度は大阪府・大阪市から受託した
chotCAST なんばの常設検査(毎週日曜日)が始まり、更なる新規ボランティ
アの獲得と人材育成が急務となっている。
chotCAST なんば常設検査の待合室
これら JHC が運営する「サンサンサイト検査・相談室」は受検者への事後アン
ケートからニーズを読み取り、HIV 陽性者の視点を生かしながら、カウンセリング
内容や工程に年々改良を加えてきた。今年度も待ち時間短縮への要望に応えるため、一部会場で
受検者にたいする事前アンケートを導入した。この事業を始めた当初、日本では馴染みが薄かった
受検者への事前質問(問診)を導入するか随分検討され“性や HIV の偏見が根強い中、感染
不安となった経路やセクシュアリティなどを質問することは受検行動のハードルを高くするのではない
か?”など見送った経緯があるが、質問内容を工夫しつつ、HIV にたいする不安や受検経験の有無
などの質問を検査前に確認することで、受検者ごとに臨機応変なカウンセリングができ、時間短縮を
図ることが可能となった。
他にも待ち時間短縮への改善方法としては事前予約をおこなうことである。通常検査に比べ受検
携帯サイト予約画面
希望者が多い休日の即日検査は定員を設けなければスタッフの労務環境はもちろん、受検者への
5
JHC 通信
2015 年夏号
結果通知時間に大きな影響を及ぼすことがある。そのため予約不要の先着順にした場合、結果的に受検可能な定員枠の
中に入るためには早くから行列に並ばざるをえないうえ、定員を超過した場合はせっかく来場した希望者をお断りすることにも
つながりかねない。すでに杉並区と名古屋市の検査事業委託については電話による事前予約制をおこなっているが、利便性
向上を目的に名古屋市が 2014 年度より携帯端末によるネット予約を導入した。即日検査の施設が増える一方、それに
反し検査数が国内で伸び悩んでいる昨今、限られた受付業務時間内に電話で予約をすることが受検者にとって不便なので
はないかと考え、利便性を高めるうえで導入した経緯がある。
今回携帯予約システムによって受検者数や受検者動向に変化がないか、名古屋「栄サンサンサイト」の受検者アンケート
および予約管理票の分析をおこなった。
2014 年度(2014 年 4 月~2015 年 3 月)における各サンサンサイト受検者数
会場名/委託元
受検者(人)
備考
すぎなみ(杉並区)
396
毎月第 3 土曜日(12 回)
さかい (堺市)
172
毎月第 1 土曜日(12 回)
栄 (名古屋市)
878
毎月第 2・4 日曜日(24 回)
総 数
1,446
陽性率:0.69%
ネット予約導入後はキャンセル率が高い傾向に
携帯端末によるインターネット予約(以降ネット予約)を 2013 年 3
1200
月検査分より導入したが、予約が過去最低だった 2012 年度に比べると
1000
2014 年度は 2 割程度増加した。その一方で当日キャンセルは 175 件
800
(16.6%)となり、電話予約のみであった 2012 年度に比べキャンセル率
600
が倍増した。携帯端末からのキャンセルも簡単に操作できるが、予約への
400
ハードルが低くなった反面、キャンセルの実行を忘れる者?が多くなってい
200
る結果となった。現在は予約数の上限を引き上げたり、当日キャンセルを
減らすための注意喚起を「予約お知らせメール」や予約ページ上で何度も
14.93
79
16.62
109
16
175 14
12
8
878 6
777 836
4
2
0
0
2006 7
8
9
10
11
キャンセル数
12
13
14
キャンセル率
予約操作は昼食時と就寝前の時間帯が多い
栄サンサンサイトにおけるネ
ット予約状況(2014 年 4 月
60
~9 月)を見ると半年間で
542 件の予約があり、予約
枠がほぼ 100%埋まった。さ
らに予約システムへのログイン
が 130%を超え、「予約をし
50
土
日
15.1% 14.6%
木
11.4%
40
月
12.9%
金
14.4%
水
16.8%
30
火
14.8%
20
10
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23
ようとしたができなかった」状
6
JHC 通信
2015 年夏号
時間別予約状況(n=542) 単位:人
曜日別予約状況(n=542)
18
10
受検者数
発信したりするように改善を図っている。
9.23
況があったことも付け加えておく。前頁のグラフから、曜日別ではそれほど大差ないが、時間帯では深夜から早朝にかけては少
ないものの、昼休みと就寝前が多く、予約の半数以上は通常の業務対応では叶わない時間に入っていることが見て取れる。
予約システムを導入するメリットは、受検希望者にとっては 24 時間いつでもストレスなく予約できる点だが、それ以上に私たち
にとっても電話対応の必要がほとんど無く、陽性者支援などの活動に時間を十分割り当てることができたことだ。
事後アンケートからみえる受検者動向
今回は電話からネットに予約方法が切り替わっただけであるため、ほとんどの調査項目(属性や受検経験等)において
変動は見られなかったが、気になった点を挙げてみる。
中高年の予約が減少した
受検者の年代(直近3年間の比較)
高齢化が進む中、本来であれば若年層の受検数が減少する
傾向にあるが、30 代までの受検者数が 2014 年度 86.5%を占め、
2013 年度の 81.2%より上昇した。逆に 40 代以降は 2013 年
0%
20%
40%
60%
80%
100%
2012
2013
2014
度と比較し 5 ポイント程度減少となり、携帯端末の操作に不慣れ
10代
20代
30代
40代
50代
60代以上
な層にたいして影響をもたらしている可能性が少なからず否めない。
同伴者なしの“ひとり受検”が多い傾向に
同伴者がいない人の割合は過去の調査でも 70%程度であ
同伴受検の状況(直近3年間の比較)
0%
り、2012 年度と比較した場合においても 2014 年度は 77%と
7 ポイント程度上昇している。電話予約では代理予約が可能だ
ったが、ネット予約では検査当日に本人の携帯端末の予約画面
を提示する必要がある。パートナーや配偶者、また友人と同時受
20%
40%
60%
80%
100%
2012
2013
2014
同伴なし
恋人
友人
配偶者
検するためにはそれぞれの携帯端末での操作が必要となるため、
多少の影響が考えられる。
私のスイッチ
~ボランティアを始めてみて~
シャー(関西支部)
私が、ボランティアを始めて、丸二年が経ちました。繋がった当初は、HIV 当事者として何か出来ることがあるはず!!と、漠
然とし過ぎていた気持ちも、今では具体的になりつつあります。
今回は、電話相談で出会った一人の男性の話をしたいと思います。彼は望まない性行為で、自責の念にかられていました。
罪悪感や後悔から、HIV 等の性感染症に、とても敏感になっていたのだろうと思います。何度か話をしているうちに、彼の生き
づらさを感じました。僕もそんな経験したな。君だけじゃないよ。特に何かアドバイスをしたわけではありません。ですが、彼はこ
の一言で救われたと感じてくれたようです。この経験で生きづらさに寄り添うことの大切さを、強く感じました。
JHC には、様々な問題や生きづらさを抱えた方からの相談があります。その気持ちに寄り添える相談員を目指して、これか
らも頑張っていきたい、そう強く思います。
7
JHC 通信
2015 年夏号
渋谷区の「同性パートナー条例」について
たっきー(関西支部)
4/25、4/26 の2日間、東京の代々木公園で東京レインボープラ
イド 2015「パレード&フェスタ」が開催されました。“生”と”性”の多様
性を祝福することを目的として、渋谷・原宿界隈を更新するパレードと
LGBT 関係団体、協賛企業、行政機関、各国大使館などのブースが
出展されるフェスタで構成されるこのイベントは 2 日間で約 5 万 5 千人
の人出があり、これまでにない盛り上がりを見せていました。その理由の
1つに、今年起こったある画期的な出来事があります。
今年 3/31 に渋谷区で「同性パートナー条例」、正式名称は「渋谷
LGBT のシンボル レインボーフラッグ
区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」が賛成多数で可決され、4/1 から施行されました。この条例の
一番のポイントは、渋谷区に住んでおり、公正証書を作成している 20 歳以上の同性カップルを異性愛夫婦と同等の関係と
認める「パートナーシップ証明書」を発行するという所です。区内にある施設や事業所で証明書を提示するカップルには、男
女の夫婦と同じように対応することを求めています。
言うまでもなく、日本では同性間での結婚は法律で認められていません。今回の条例は法的な拘束力はないので、結婚
と同じ法的権利が得られるわけではありません。それでも、公に同性パートナーの権利を認めた今回の出来事は日本初の歴
史的快挙です。
LGBT の存在自体、公の場で語られることも、議論されることも今まではありませんでした。しかし、今回のニュースは TV を
含む様々なメディアで取り上げられ、LGBT 当事者はもちろん、世間の大半の人が目にし、そして知ったことでしょう。差別され
ることが当たり前で隠れて生きていくべき・・・ではもはやなく、誰しもが同じように尊重されるべきで幸せになる権利がある、と。
それがどれほど嬉しいことだったかはテレビなどのインタビューや SNS で多くの人がコメントしています。
なお、現在世間では同性婚も含め、この条例について賛否様々な議論が多くなされています。また、世田谷区、横浜市、
宝塚市など、渋谷区と同様にパートナーシップ制度の導入を検討している動きもあります。ここに至るまでには、もっと差別の
厳しかった時代に活動を続けてきた人がいたことを忘れてはなりません。だからこそ、長年地道に頑張ってきた活動が実を結ん
だ今回の出来事をとても嬉しく思うのです。
~編集後記~
〇先日、ボランティアの方が営んでいる無農薬栽培の葡萄園で、少しばかりですが
JHC通信 2015 年夏号
水はけを良くするための溝掘りをしてきました。しかし、目標を立てて鍬を使って掘り
進んで行くものの大きな石がゴロゴロだわ、砂利は多いわで、行く手を阻んできます。
発行日:2015 年 6 月 1 日
私たちの HIV 啓発や支援も同じく、厳しい試練が与えられたり、場合によっては揚
発行者:特定非営利活動法人 HIV と人権・情報センター
足を取られたりすることだってあります。けれど、困難に立ち向かい、懇切丁寧に手を
〒101-0047 東京都千代田区内神田 1-2-2 吉田ビル 2F
かければ、何れは葡萄のように実を結んでいくと思うのです。(おごてん)
電話 03-5259-0622 FAX 03-5259-0643
〇 1 年の育児休暇を終えて、4 月から復帰しました。慣れないことが多いですが、
アドレス
毎日が新しい発見で、本当にこちらがわくわくしてきます。こども中心の生活というの
ホームページ
が、こんなに時間に追われるものなのかと実感。世のお母さんたちってほんとすごいな
間の協力が得られるのは、本当にありがたいです。(まりこ)
8
2015 年夏号
http://www.npo-jhc.com/
ツィッター https://twitter.com/japanhivcenter
ぁ~と改めて感心してしまいます。一人ではできないことも多いので、家族や仕事仲
JHC 通信
[email protected]