本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係

本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
小谷
恭子
緒 言
現代の日本において、「健康」は国民の大きな関心ごとの一つであることが、2013 年に行わ
れた内閣府の調査であきらかになった(国民生活に関する調査)。この中で自分の健康に関心
がある人は 52.4%、家族の健康に関心がある人は 43.2% にのぼった。今後この数字が減少す
ることはないと考えられる。しかし、国民が健康に対して重大な関心を寄せてはいるが健康獲
得のために正しい方法を採用しているとは言いがたいことも事実である。その為、今後若年時
からの健康教育がより重要になることは言を俟たない。著者が参加している研究グループは学
生の健康観や身体に関するイメージの分析、これら調査項目と体力テストとの相互関係に分析
を加え公表してきた。今回本学学生を対象として表題にある身体に関するイメージを調査する
ことができ、さらに体力テストとの関係を分析することができたので得られた知見を報告す
る。
方 法
(被験者)
2013・2014 年度に本学、健康スポーツ学を履修した学生は 129 名(女子 56 名、男子 73 名)
であった。女子年齢の平均値は 19.0 歳、標準偏差は 0.79 歳(最大値 22.1 歳、最小値 18.2 歳)
であった。男子年齢の平均値は 19.4 歳、標準偏差は 1.05 歳(最大値 21.9 歳、最小値 18.2 歳)
であった。
(身体に関するイメージ調査)
年齢、学部、申告身長、申告体重、理想身長、理想体重、最高体重との差、家族の病歴、
体型への意見者、意見者の体型、自らの体型の認識、出生時体重、早産児かどうか中学校高校
での運動習慣、食事習慣、ダイエット経験・効果であった。
(身体計測)
体力テストの前に身長を測定した。「TANITA 社製 Inner ScanV BC−612(以下 BC−612)」を
用いて体脂肪率等の身体組成に関するパラメータ(体脂肪率、BMI)を測定した。BC 612 は
バイオインピーダンス法をもちいて体脂肪率を測定しこの値をもとに二次データーとして「筋
肉量、推定骨量、基礎代謝、体内年齢、体水分量、内臓脂肪レベル」が算出される。
― 29 ―
本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
(体力テスト)
体力テストは文部科学省が 1999 年度に導入した方法を用いた。測定項目は握力、上体起こ
し、長座体前屈、反復横とび、立ち幅とび、20 m シャトルランの 5 種目であった。具体的な
実施方法の概要を以下に示す。
(1)握力:握力計の指針が外側になるように握り、この際握った人差し指の遠位・近位指節間
関節共 90 度になるように調節する。立位姿勢で握力計を全力で握る。握力測定時は握力
計を振ったり体側につけたりしないよう注意する。今回使用した測定器は、スメドレー式
握力計であった。記録は(kg)でカウントされる。
(2)上体起こし:被験者は、仰臥姿勢をとり、両腕を胸の前で組み両膝の角度を 90 度に保つ。
験者は、被験者の両膝をおさえ、固定する。「始め」の合図で、仰臥姿勢から両肘と両大
腿部がつくまで上体を起こした後、すばやく開始時の仰臥姿勢に戻す。この動作を 30 秒
間出来るだけ多く繰り返しその数をカウントし上体起こし(回)として記録した。背中が
床につかない場合は、回数としない。
(3)長座体前屈:被験者は、両足を測定器の間に入れ、長座姿勢をとる。壁に背・尻をぴった
りとつけ、背筋を伸ばすが、足首の角度は固定しない。この形をゼロポジションとする。
肩幅の広さで両手のひらを下にして、手のひらの中央付近が、板の手前端にかかるように
置き、肘を伸ばす。両手を板から離さずにゆっくりと前屈して、測定器全体を真っ直ぐ前
方にできるだけ遠くまで滑らせる。このとき、膝が曲がらないように注意する。測定器を
出来るだけ前方に移動させその移動距離を長座体前屈(cm)としてカウントした。測定
器は竹井機器社製の長座体前屈計を使用した。
(4)反復横とび:床上に線を引きその線(中央線)を中心にして 100 cm 間隔で左右に線を引
く。被験者は、まず中央線を跨ぎ立ち「始め」の合図の後、左右任意の線に触れるか越す
までサイドステップをし(ジャンプは不可)、次に中央線に戻り、再び反対側にサイドス
テップをする。この動作をくり返し 20 秒間の間に何回中央線と左右の線を踏めたかをカ
ウントする(例:右、中央、左、中央で 4 回となる)
。
(5)20 m シャトルランテスト(往復持久走)
:プレーヤーにより CD 再生を開始する。一方の
線上に立ち、テストの開始を告げる 5 秒間をカウントダウンの後の電子音によりスタート
する。一定の間隔で 1 音ずつ電子音が鳴るが、電子音が次に鳴るまでに 20 メートル先の
線に達し、足が線を越えるか、触れたら、その場で向きを変える。この動作を繰り返す。
電子音の前に線に達してしまった場合は、向きを変え、電子音を待ち、電子音が鳴った後
に走り始める。20 メートルを何回走ることが出来たかをカウントして回数とした。
(6)立ち幅とび:マット(6 メートル程度)を準備して、マットの手前(30 cm∼1 メートル)
の床にラインテープを張り踏み切り線とする。両足を軽く開いて、つま先が踏み切り線の
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本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
前端にそろうように立ち、両足で同時に踏み切って前方へとぶ。着地した足の踏み切り線
に近い方の側の踵から踏み切り線までの垂線を長さとして測定し、立ち幅とびの距離
(cm)として記録した。
以上の手順で測定を行った。測定時は学生にバディーシステムをとらせ 2 名 1 チームとし被
験者と測定者を交互におこなわせた。いくつかの種目は複数のバディーを組み合わせて行っ
た。文部科学省が提唱する体力テストに付随する体力・健康に関する質問紙法による調査も同
時におこなった。
(統計解析)SPSS 統計パックをもちいて統計解析をおこなった。有意水準は 5% 以上とした。
結 果
男子学生の場合はクラブ活動に参加している学生や 1 日 2 時間以上運動する学生の体力テス
トは高得点が得られた。表 1 には男子学生から得られた体力テストの結果と全国平均値との比
較をあらわしている。表 2 には同様に女子学生の結果を示している。表 3 は男子学生の各体格
指数と各体力テスト測定項目間の相関関係を示している。表 4 には表 3 と同内容の女子から得
られた結果をあらわしている。表 5 には男子学生から得られた実測身長と理想身長、実測体重
と理想体重の結果と有意差検討を行った結果を示している。表 6 には表 5 と同内容の女子を対
象とした同内容の結果を示している。図 1 は実測身長と理想身長と実測身長との差の関係を示
している。図 2 に体重の場合が示されている。図 3、4 には女子の場合が示されている。
表1
男子学生の体力テストの結果と全国平均値
との比較
表2
女子学生の体力テストの結果と全国平均値
との比較
学生平均
全国平均
学生平均
全国平均
平均握力
43.2
43.7
n.s
平均握力
27.1
25.52
上体起こし
27.2
30.9
***
上体起こし
21.2
22.9
*
長座体前屈
43.2
49.8
***
長座体前屈
44.3
46.3
n.s
*
反復横跳び
54.5
58.4
***
反復横跳び
45.4
48.1
**
20 m シャトルラン
73.7
82.8
**
20 m シャトルラン
43.1
46.3
n.s
220.3
230.6
*
立ち幅跳び
162.8
169.8
*
立ち幅跳び
***p<.001
**p<.01
*p<.05
**p<.01
*p<0.5
― 31 ―
本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
表3
身長
身長
体重
.331**
体重
体格指標と体力テスト得点との相関係数(男子)
握力
上体
起こし
.026
.215
−.120
.099
.064
.804**
.314** −.125
.001
−.147
−.412** −.406** −.177
−.244*
−.100
−.256*
−.560** −.629** −.436**
.260*
.165
.029
体脂肪率
体脂肪率
.049
握力
長座体
前屈
上体起こし
.260*
長座体前屈
反復
立ち幅
シャトルラン
総合得点
横跳び
跳び
.114
.081
.088
.233*
.133
.475**
.540**
.467**
.377**
.731**
.126
.062
.296*
.560**
反復横跳び
.448**
20 mシャトルラン
.429**
.636**
.429**
.601**
立ち幅跳び
.728**
総合得点
表4
体格指標と体力テスト得点との相関係数(女子)
上体
起こし
長座体
前屈
.334*
.345**
.404**
.286*
.113
0.246
.069
−0.066
.044
実測身長 実測体重 体脂肪率 平均握力
実測身長
.306*
実測体重
−.015
.874**
体脂肪率
.285*
平均握力
.317*
上体起こし
反復
20 m
立ち幅
総合得点
横跳び シャトルラン 跳び
.302*
.310*
.236
−.291*
.054
0.000
−.474** −0.177
0.251
−0.095
−0.008
.352**
.317*
.372**
.597**
−0.127
.521**
.455**
.456**
.688**
長座体前屈
.279*
反復横跳び
−0.116
.412**
20 mシャトルラン
0.163
.372**
.442**
.784**
.401**
.587**
立ち幅跳び
.711**
総合得点
表5
身長および体重の実測値と理想値の有意差(男子)
最小値
最大値
平均値
標準偏差
単位
実測身長(n=27)
146.5
166.9
158.0
4.59
cm
理想身長(n=27)
153.0
170.0
160.4
4.34
cm
実測体重(n=27)
42.2
79.5
55.5
10.58
kg
理想体重(n=27)
38.0
56.0
47.1
4.81
kg
表6
***
***
身長および体重の実測値と理想値の有意差(女子)
最小値
― 32 ―
.567**
最大値
平均値
標準偏差
単位
申告身長(n=44)
160.4
184.0
171.9
5.43
cm
理想身長(n=44)
165.0
190.0
176.6
5.40
cm
申告体重(n=44)
48.0
98.0
64.5
9.76
kg
理想体重(n=44)
48.0
78.0
64.5
7.07
kg
***
n.s
本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
図1
実測身長と理想身長との関係(男子)
図2
実測体重と理想体重との関係(男子)
図3
実測身長と理想身長との関係(女子)
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本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
図4
実測体重と理想体重との関係(女子)
考 察
表 1 にあるように本学男子学生から得られた体力テストの各得点は 20 歳時の全国平均値と
比較したところ平均握力以外は有意に低い値であった。特に上体起こし、長座体前屈、反復横
跳びは 0.1% 水準で有意差がありその差が顕著であった。シャトルランも全国平均が 82.8 点に
対して、本学男子学生は 73.7 点しかなかった。表 2 にある女子の場合は反復横跳びが 1% 水
準で有意差があった。平均握力、上体起こし、立ち幅跳びは 5% 水準で有意差があった。体力
テストに関して全国平均値と比較してみたときに本学学生全体の体力水準が低いことがあきら
かになった。特に男子学生の場合の低値が顕著であった。本学の健康スポーツ学は必修ではな
く希望して履修している学生たちである。身体運動を指向しない学生の体力テストの更なる低
値が予測できる。来年度からは健康管理科目が選択必修となり受講生の拡大が予想できる。今
後とも定期的なデーターの収集を図り本学健康・体育教育の基礎資料としなければならない。
表 3 には男子学生の各体格指標と各体力テスト得点の相関関係が表されている。総合得点と各
体力テスト得点はあきらかな相関関係が見いだせる。また、体脂肪率と上体起こし、反復横跳
び、シャトルラン、立ち幅跳び、特にシャトルランと立ち幅跳びには強い負の相関関係がみら
れる。両測定項目とも自身の体重が負荷となった場合のパフォーマンステストである。本学学
生の体脂肪の増加によるパフォーマンスの低下があきらかな場合は、大学生時代より科学的知
見を基にした運動と栄養管理から導かれた健康教育がよりいっそう重要になることが考えられ
る。表 4 には女子学生の各体格指標と各体力テスト得点の相関関係が表されている。やはり総
合得点と各測定項目の関係が強いことが男子学生同様にあきらかになった。体脂肪率と負の相
関があったのはシャトルランだけであった。本学女子学生の各体力テスト得点はシャトルラン
以外体脂肪率の影響を受けないことが示唆された。表 5 には男子学生を対象とした実測身長・
理想身長と実測体重・理想体重の組の有意差検定を行ったところ理想身長が実測身長を大きく
上回ったことがあきらかになった。体重に関しては実測・理想の間に有意差はなかった。男子
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本学学生の体力と身体に関するイメージ調査との関係
学生はより身長を高くしたいと考えている傾向があきらかになった。表 6 には表 5 に対応する
女子学生の結果分析があらわされている。女子学生の場合は理想身長は実測身長より有意に高
く、逆に理想体重は実測体重よりも有意に低い値となった。本学女子学生は「身長はより高く
体重はより低く」と望んでいることがあきらかになった。図 1 は男子を対象とし横軸に実測身
長縦軸には理想身長から実測身長を引いた値が示されている。本学男子学生はほぼ全ての学生
が現在の身長よりも高い身長を理想としていることがあきらかになった。しかし、回帰直線は
右下がりとなり身長が高くなってくると理想との差が少なくなることがあきらかとなった。図
2 は図 1 に対応した体重があらわされている。体重の場合は約 65 kg を境に理想体重より実測
体重の方が大きくなっている。逆に言えば 65 kg 以下の体重を有する本学男子学生は現在よ
り、より多くの体重獲得を希望していると言い換えることができる。
図 3 には図 1 に対応した女子学生の分析結果が示されている。女子学生の場合は統計的に有
意な関係を見いだすことはできなかったが、男子学生と同じような傾向がみることができる。
図 4 には図 2 に対応した女子学生の分析結果が示されている。女子学生はほぼ全ての学生の理
想体重が実測体重より低くなっている。この事は本学女子学生の場合「低体重のものでも瘦身
願望があり、その傾向は実測体重が増加するごとに顕著になること」があきらかとなった。
文献
⑴
小谷恭子(2002)
:多変量解析をもちいた新体力テストの分析、帝塚山学院大学研究論集[文学部]、第
37 集、39−46.
⑵
小谷恭子(2003):本学学生の体格測定・体力テスト・骨強度測定、帝塚山学院大学研究論集[文学
部]
、第 38 集、99−107.
⑶
小谷恭子(2005)
:本学学生の体力診断テストと生活習慣の相互関係、帝塚山学院大学研究論集[文学
部]
、第 40 集、53−61.
⑷
小谷恭子(2007):体育関連科目受講男子学生の体力診断、帝塚山学院大学研究論集[文学部]、第 42
集、85−92.
⑸
小谷恭子(2008)
:本学女子学生を対象とした体格指数ならびに体力の分析−2003 年度から 2006 年度を
対象として−帝塚山学院大学研究論集[文学部]
、第 43 集、29−37.
⑹
小谷恭子(2010)
:本学体育関連科目受講生の体力−2007 年度から 2010 年度を対象として−帝塚山学院
大学研究論集〔リベラルアーツ学部〕
、第 45 集、27−34.
⑺
小谷恭子(2012)
:本学学生の体力と身体組成測定の相互関係−2011、2012 年度学生を対象として−帝
塚山学院大学研究論集〔リベラルアーツ学部〕
、第 47 集、53−60.
― 35 ―