FJニュース 2015.5月号

<2015.5 月号> 株式会社フォーラムジャパン
東京都千代田区神田小川町 3-20 第 2 龍名館ビル 6F
労働安全衛生法改正に伴う企業のメンタルヘルス対策
~12 月から導入される「ストレスチェック制度」に備えましょう!~
今回の改正では、大きく分けて 6 つの内容が盛り込まれました。中でも
<労働安全衛生法改正のポイント>
ストレスチェック制度の創設により、50 人以上の事業場はストレスチェッ
■ 化学物質管理のあり方の見直し
クを行うことが義務付けられました。概要としては、化学物質による健康
■ ストレスチェック制度の創設
被害が問題となった胆管がん事案など最近の労働災害の状況をふまえ、労
■ 受動喫煙防止対策の推進
働災害を未然に防止するための仕組みを充実するためとなっており、右の
■ 重大な労働災害を繰り返す企業への対応
6 つの柱があります。今回は、そのうち 2 つ目の柱となっている「ストレ
■ 外国に立地する検査機関等への対応
スチェック制度」について、詳しく解説します。
■ 規制・届け出の見直し等
(1)ストレスチェック制度の創設の背景
この制度の創設の背景には、次の 2 つの要因があります。
①職業生活で強いストレスを感じている労働者の割合が高い状況で推移していること
厚生労働省平成 24 年「労働者健康状況調査」より
「現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者」の
割合が 60.9%(19 年調査:58.0%)となり、平成 9 年以降は 6 割近い労働者が職業生活において、強いストレス
を感じています。
②精神障害の労災認定件数が 3 年連続で過去最多を更新
<精神障害の労災認定件数>
平成 21 年度:234 件、平成 22 年度:308 件、平成 23 年度:325 件、平成 24 年度:475 件
(2)ストレスチェック制度の創設の目的
(1)の背景を受けて、メンタルヘルス不調への未然の防止のため以下の 2 つの取り組みが重要となります。
①職場環境の改善等により心理的負担を軽減すること
過重労働や職場のパワハラ・セクハラ等がストレスの原因となるため、これらの把握と改善を行うことで、労働者の
心理的負担を軽減すると考えられることから職場環境の改善が重要とされました。
②労働者のストレスマネジメントの向上を促すこと
教育研修や心の病に対する正しい情報の提供や、
「自らのストレスに気づき、ケアをして誰かに相談する」というセル
フケアが重要とされました。
上記 2 点については、
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」にある一次予防でも進められてきましたが、今回の改正
を受けて、ストレスチェック制度を新たに設け、労働者の心理的な負担の程度を把握し、セルフケアや、職場環境の改善に
つなげ、メンタルヘルス不調の未然防止のための取り組みを強化することになりました。
つまり、ストレスチェック制度の目的とは、「一次予防」であるということです。
(3)ストレスチェックの実施方法
①検査実施義務を負う事業者、対象となる労働者とは?
産業医の選任義務がある労働者 50 人以上の事業場は義務化され、50 人未満については努力義務になります。また、検
査対象者は「検査を希望する者」となります。つまり、義務化されている事業場は、検査の実施に関しては義務とされま
したが、そこに勤める労働者が希望しなければ受けさせる必要がないということになります。実務上は「検査を希望する
者=何らかの精神疾患の疑いのある者」と誤解を生じるようなことがあれば、希望する労働者が少なくなることが懸念さ
れます。そのため、あくまでも一次予防であることを事前に周知しておくことが大切です。
②受診から結果報告、面接指導、事後措置までの流れ
1)医師、保健師等(以後「実施者」)が「心理的な負担の程度を把握するための検査」を行う。その際、一般健康診断
と同時に行うことが可能
2)検査の結果は、実施者から直接本人に通知をされ、本人の同意なく事業者に適用されることは禁止されています。
検査結果は、一定の要件※に該当する労働者から申し出があった場合は(①)
、事業者は医師による面接指導を実施する
ように義務付けられました(②)
。
※一定の要件:高ストレスと判定された者等を今後省令で定められる。
尚、この申し出を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています。
面接指導実施後(③)医師からの意見を聴き(④)、必要に応じて
心理的負担を軽減するための就業上の措置を講じる(⑤)ことと
なっています。
(4)従業員から面接指導の希望があったときの対処
事業者は申し出た者に医師による面接指導を受けさせて結果を記録しなければなりません。また、それを理由に不利益な
取り扱いはできません。
①医師による面接指導について
事業者は、その労働者が(ⅰ)ストレスチェックの結果の通知を受けていること、
(ⅱ)心理的な負担の程度が労働者の健
康の保持を考慮して厚生労働省令で定める用件に該当すること、
(ⅲ)医師による面接指導を希望する旨を申し出たこと、の
いずれも満たす場合には、当該申し出をした労働者に対して、医師による面接指導をしなければなりません。
面接指導を行う医師としては、特に法律上は明文化されていませんが、当該事業場の業務を把握している点で産業医とす
ることが望ましいとされています。
②医師による面接指導後の事業者の対応
事業者は面接指導の結果を記録しておかなければなりません。また、面接指導の結果に基づいて、当該労働者の健康を保
持するために必要な措置について医師の意見を聴かなければなりません。この医師の意見を聴いた結果、異常所見が発見さ
れた場合は、当該労働者の実情(労働時間・業務状況等)を踏まえ、必要に応じ就業上の措置を講じる必要があります。具
体的には、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等を講じなければならないと考えられます。
(5)業務命令でストレスチェックを受診させることができるのか?
①ストレスチェック制度における労働者の受診義務の有無について
労働安全衛生法は、定期健康診断など一定の健康診断について、事業者に実施義務を課している(労働安全衛生法第 66
条第 1 項)他、労働者にも受診義務を課しています(同条第 5 項)。しかし、ストレスチェック制度について、改正労働安
全衛生法はそれとは別の取り扱いとしており、事業者には実施義務を課すものの、労働者には受診義務を課していません。
これは、ストレスチェック制度は労働者のメンタルヘルスという機微性の高い情報を取り扱うことから、希望しない労働
者に受診を義務付けることは適当でないとの趣旨によるものです。
この趣旨をより徹底させるため、改正における衆議院での付帯決議では、
「ストレスチェック制度は、精神疾患の発見で
はなく、メンタルヘルス不調の未然防止を主たる目的とする位置づけであることを明確にし、事業者及び労働者に誤解を
招くことの内容にするとともに、ストレスチェック制度の実施に当たっては、労働者の意向が十分に尊重されるよう、事
業者が行う検査を受けないことを選んだ労働者が、それを理由に不利益な取り扱いを受けることのないようにすること」
とされています。
②就業規則などによる労働者への受診命令について
労働安全衛生法上は、労働者にストレスチェックの受診義務がないとしても、事業者は就業規則や個別の労働契約で、
労働者に受診義務を課すことができるでしょうか?
この点については、ストレスチェック制度で取り扱う情報は機微性が高く、そのため改正労働安全衛生法で労働者の受
診義務についての規定が設けられなかったことなどからすると、就業規則で労働者の受診義務を明記しても、法令に反す
る、または合理性を欠くものとして、労働契約の内容にはならず、事業者は労働者に受診義務を課すことはできないもの
と考えられます。
また、個別の労働契約で受診義務について定めても、公序良俗に反するものとして無効と判断され、受診義務を課すこ
とはできないと考えられます。
(6)従業員に会社へのストレスチェック結果の通知を命じることはできるのか?
①検査結果の通知について
事業者としては、検査結果に関心があるところ
ですが、この結果は、本人のメンタルヘルスと
いう機微性の高い情報であることから、検査を
実施した医師などから直接本人に通知され、
本人の同意なく事業者に提供することは禁止
されています。
このように事業者は、医師等から、労働者個別の
結果は入手することはできませんが、個別の労働者
が特定されない形、例えば職場ごとに集団的に集計
し、分析したデータなどといった形であれば、
検査結果を事業者が活用することで、職場環境の
改善につなげることができることから、労働者の
個別の同意を得なくても入手することができると
考えられます。
②検査結果の通知や同意を義務付ける
ことの可否
関心のある検査結果ですが、検査結果を事業者に
提供することへの同意や、検査結果を労働者から
事業者に通知することについて、労働者の義務
として就業規則で明記したとしても、法令に反する
または合理性を欠くものとして、労働契約の内容には
ならず、個別の契約で明記しても、公序良俗に反する
ものとして無効と判断される可能性が高く、事業者は
労働者に対して、検査結果を事業者に提供することへ
の同意や検査結果を労働者から事業者に通知すること
を命じることはできないと考えられています。
③事業者が検査結果を得るための方法
1)当該労働者が、検査を行った医師等に対し、
検査結果を事業者に提供することに同意する。
(同意の方法については、書面によりなされるべき
ものと考えられます。)
2)当該労働者から事業者に任意で検査結果を通知すること。
の 2 つが考えられます。