梗概 - 三重大学工学部建築学科 計画系研究室

小児専門病院における PICU(小児集中治療室)の建築計画
三重大学工学部建築学科 加藤・毛利研究室 加藤雅之
序論
また ICU の機能は1)
.予定術後患者の管理2)
.術中にイベン
1-1.研究背景
トがあり予定外で入室することになった患者の管理3)
.緊急
1.
本研究は,PICU(小児集中治療室)の運営実態の調査・建築計画
入院患者の管理4)
.院内急変患者の管理と大きく 4 つにわけ
上の特徴をまとめた研究である.
られる.
PICU とは,Pediatric Intensive Care Unit の略であり,日本語に訳
2-2.小児集中治療室設置のための指針
すと小児集中治療室となる.対象年齢は,小児科が扱う患者層(1
2007 年 3 月に小児集中治療室の設置ための指針が日本集中
歳から 15 歳までの患者)である.
治療学会,小児科学科より策定された.なお,これとは別に集中
清水ら(2008 年)の調査[1]によると小児重症患者は PICU で
治療室の施設基準内に小児加算の場合の基準が設けられてお
集中管理した方が診療実績が良いという事が判明している.
り,この加算がつくものが PICU である.なお,PICU の施設基準
また,1~4歳児死亡率は,他の先進諸国と比較して我が国で
よると新生児死亡・幼児死亡(出生 1000 対)によると以下の
は ICU のそれに従う.
2-3.海外の先進事例-トロント小児病院について池山(2010)の報告[5]によると, トロント小児病院 PICU は
表のようなデータがでている.[2]
通称 SickKids と呼ばれ.トロント周辺の人口 700 万人をカバー
高い.平成 19 年厚生労働科学研究・子ども家庭総合研究事業に
する,カナダのみならず,世界を代表する小児病院の一つ.
現在は心臓 ICU(CCCU)最大 18 床,それ以外のユニット(PICU)
表 1 平成 19 年厚生労働科学研究・子ども家庭総合研究事業
日
本
ルクセンブ
ルグ
カナダ
フィンランド
新生児死亡※
1.8
3.0
4.0
2.0
幼児死亡※※
1.2
0.4
0.8
0.8
最大 18 床(公称)となっている.ちなみにここで「公称」とし
ているのは,近隣の県のPICU が満床でどうにもならないときに
は 20 床をこえる事もあるからである.
常勤医は11人,フェロー約20人,看護師約200人
(常勤換算)
(日本:※世界 1 位 ※※世界 21 位)
呼吸療法士 28 人(常勤換算)年間入室数は PICU で約 1200
表1 から新生児死亡率は非常に低いものの幼児死亡率が非常
件,CCCU で約 800 件,開心術 500 件以上となっている.
に高くなっていることがわかる.この要因として新生児には
看護師の勤務体系は 12 時間交代の2シフト制で,基本は 1:1
NICU があるが 1~4歳児のための PICU が不足していること
看護(一般病棟は最大で 1:4)である.
があげられる.桜井ら(2006)の調査[3]により日本には 200 床
ほど PICU が不足しているが明らかになっている.
1-2.小児専門病院について
小児専門病院は,新生児から概ね中学校卒業程度までの小児
を対象に診療を行う病院である.施設によっては胎児や妊産婦
も診療の対象とする場合がある.
一般的に病院といえば,四角くて白い箱というイメージがあ
るかもしれないが,小児専門病院は,テーマパークのような雰囲
写真 1 トロント小児病院外観
写真 2 トロント小児病院 PICU
気があり,「怖い場所」
「嫌な場所」というイメージからかけ離
れた空間が広がっている.
3.調査手法について
アンケート調査は,全国の小児専門病院 27 施設にアンケート
2.ICU に関する既往の研究
を送付しおこなった.その結果,アンケートは全 27 施設中 20 施
2-1.ICU の役割について
設からの回答が寄せられた.そのうち独立した看護単位を持つ
ICU の主な役割について米山(2009)によると [4],1)
.最
PICU があると回答したのは 11 施設であった.また,3施設が独
新の医療機器を利用して,トレーニングされた医師・看護師・コ
立した看護単位を持つPICUはないがICUはあると回答し,7施
メディカルが緊密な連絡を取って集中治療を行い,早期回復を
設が PICU も ICU もないとの回答をよせた.
目指す.2)
.急性期からリハビリテーションに取り組み合併症
また,本研究のため 24 時間患者受け入れが可能であり,小児緊
予防,QOL 保証に努める3)
.
感染症予防のための管理を徹底し,
急専門医がいる 3 病院(S 病院,N 病院,T センター)および A
サーペンランスを継続することである.
センターICU の見学を行った.さらにベッド周りの領域面積に
-1-
ついて,TBS「夢の扉+」を参考に検討を行った.
4-1-5.HCU について
HCU を持つと回答をした病院は3病院だけであった.本調査
では,3つの病院とも 2007 年以降の創設であり比較的新しい
PICU に HCU があるという結果が得られた.HCU があることで,
緊急で患者を受け入れなければならない場合に PICU が満床で
も患者を HCU に移すことで PICU に空きベッドを確保するこ
とができたり,ターミナルの患者への対応を HCU で行ったりと
写真 3
A センター
融通の利く空間利用が可能になる.
写真 4 S 病院
4-1-6.PICU の延床面積について
今回の調査では,PICU の延床面積は平均すると 560 ㎡程度で
ある.また病床面積に対する延床面積は約 26%であり,延床面積
に対する一床あたりの病床面積は 81 ㎡であることがわかった.
この数字は,当然のことながら病棟面積に対する一床あたりの
病床面積(だいたい 20 ㎡~30 ㎡)と比較すると非常に広いこ
写真 5
写真 6
N 病院
T センター
とがわかる.
4-2.PICU 内諸室について
4.PICU の建築計画について
4-2-2.スタッフステーションについて
4-1-1. PICU 開設年について
図面を確認すると,非常にスタッフステーションの領域幅が
PICU の開設年は,全般的に意外と古く,中には 20 年近く稼働
狭く,スタッフが中で活動を行うには非常に窮屈そうな印象を
しているものもあった.いくつかの病院では建て替えの話があ
受ける事例が多く見られる.
り施設の老朽化がすすんでいることがわかった.
4-2-3.器材室について
4-1-2.PICU ベッド数について
器材室は,指針によると 1 床あたり 10 ㎡程度が望ましいとの
各病院ともだいたい 6 床~8 床のベッド数を持ち,最大のもの
ことであるが,実際は 23.0 ㎡しか確保されておらず,病床数がだ
は 10 床であるという結果が得られた.また,PICU が 6 床に満た
いたい 6~8 床であることを考えると全く足りていない.アンケ
ない病院も存在するが,そういった病院には隣接する HCU があ
ートによる医師の意見でも器材室の面積不足は深刻な問題と
り合計すると 6 床を越えることがわかった.
なっており,より広く面積を確保する必要があるだろう.
4-1-3.個室について
4-2-4.その他の付属諸室について
全ての病院が 1 床~3 床の個室を持っているとの回答があっ
a.面談室について
た.このうち殆どの病院で,個室の陰陽圧の調整が可能であるこ
面談室の平均値は 11.1 ㎡であるが,この数字は各病院が持っ
とが確認された.また,個室の位置は,図面を確認することのでき
ている面談室の延床面積を平均したものであり,一部屋の大き
た全ての病院で PICU オープンフロア病床の一番端に位置して
さとしては平均 9.2 ㎡程度の大きさである.
いた.個室の用途としては殆どの病院が「陰陽圧の調整ができる」
b.病棟内薬局および調剤スペースについて
「オープンフロアの一番端に位置している」ということから,
スタッフステーション内に調剤等を行うスペースがあるこ
1)ターミナル期の患者の隔離 2)感染症患者の隔離に使用されて
とが多く,今回の調査でも 7 病院が該当するスペースを所有し
いることが考えられる.
ていると回答を行った.
4-1-4.PICU 稼働率について
c.カンファレンスルームについて
稼働率は,全病院を平均すると約 70%ほどであった.最も稼働
医師が症例の検討を行う勉強会を開いたり,ミーティングを
率が高い PICU は 90%を越えており,逆に最も稼働率が低い
行ったりする場所であるカンファレンスルームは平均で 23.8
PICU は 60%台に留まっていた.
㎡の面積がとられているとのことであった.
表 2 PICU の面積について
PICU 延床面
積(㎡)
平均
559.7
一床あたりの
ベッド面積
(㎡)
14.9
一床あたりの個室
面積(㎡)
16.4
オープンフロ
ア病床面積
(㎡)
103.1
延個室
面積
(㎡)
38.6
病床面積
(㎡)
病床面積/
床面積(%)
141.7
ベッド数
(床)
26%
個室数(床)
7.3
1.6
表 3 PICU 諸室の面積について
室名
面積(㎡)
医師控室
18.2
看護師休憩
室
15.4
カンファレン
スルーム
23.8
女子更
衣室
6.4
男子更
衣室
当直室
4.9
13.8
-2-
家族
控室
25.8
面談室
11.1
スタッフス
テーション
29.2
汚物処
理室
10.2
器材室
23.0
調乳
室
8.3
リネ
ン室
9.3
も患者の訴えが多かったものが,音(27%)であり,次に湿度・
d.スタッフの休憩スペースについて
スタッフの休憩室は,しっかり面積をとって快適に休むこと
照明が続いている.」という結果が出ている.
ができるようにするべきである.特に 24 時間患者の受け入れを
さらに,春名ら(2009)の研究[8]によると,小児患者から訴えは
行う際には,患者家族がいる場所とは明確に区分して休憩室を
ないものの,成人と同様に音環境に問題があることや現状の
設けるべきではないかと考えている.看護師休憩室の平均面積
PICU の音環境は劣悪であることがわかる.
は 15.4 ㎡であった.夜勤帯の看護師数は 3~4 人程度であるが,
音環境は,また同時にスタッフにも悪い影響を与える.
一人当たりの休憩室面積は 4~5 ㎡程度ということになる.この
ポール(2010)によると[9],「医療従事者を対象としたもの
数字は,医師の当直室と比較しても狭く,もう少し広い面積を取
を含む多くの実験から,作業記憶に高い負荷のかかる認知作業
りたいところである.なお,女子職員が圧倒的に多い職場であり,
や活動は騒音に対して敏感で,パフォーマンスが妨害されるこ
男性職員からは肩身が狭いという意見があった.可能であるの
とが明らかになっている.他にも音環境の不備は音声明瞭度を
ならば,男女で休憩室を分けると良いのかもしれない.
下げ,理解の誤りを急激に増やすことが示されている.」とあり,
4-3-1.ベッド間の距離について
下手をすれば,医療過誤につながる可能性も指摘されている.
指針によると,実際にベッドの幅を0.9mと仮定すると,ベッド
対策としては,「小児集中治療室における騒音の音響学的分析」
とベッドの間の距離は 2.8m程の間隔が望ましいそうだが,多く
に見られるような,ノイズキャンセルヘッドフォンの使用を検
の病院で 2.5m前後に終始していた.一方で飛沫感染を防ぐため
討しても良いであろうし,個室化を行うこと,天井の吸音材をよ
には,ベッドを 1.5m~2mあけて収容するとあり,最低でも 2m
り高機能なものにすること,呼出し放送を行わないなどして騒
以上のベッド間隔は必要と思われるが,それ以下の幅の病院も
音元を排除すること等様々な対策が考えられる.
見受けられなかった.
また音環境以外でも,体温管理も重要なファクターである.小
また,医師によるとベッド間距離を狭いと感じている事とい
児患者にとって体温管理は重要なファクターでありベッド周
う回答がほとんどであった.
りの温度を個別に調整できることが好ましいだろう.
また感覚的な問題であるが,やはり病室内の印象はそのまま
4-3-2.コンセントユニット・ウォールケアユニットについて
指針では,「酸素×4,空気×3,吸引×3」という数字を推奨して
患者の療養環境の善し悪しに影響している気がする.窓の大き
いたが,実際に完全にその基準を満たしている病院は少なかっ
さや室内の電球の照度,壁や床の色などを考慮することは非常
た.また,コンセントの数も指針にある「40」という数字を満た
に大切であると考えている.
している病院は少なかった.
4-4.他部門との位置関係・動線について
5.PICU の運営について
4-4-1.他部門との関わりについて
5-1.PICU の患者について
PICU は救急外来・手術部の様な部門と関わりが深く,まさに
患者の平均滞在日数はだいたい,一週間前後であり,主な患者
高次救急救命の要とも言えるべき位置にある.特に手術室とは
は,開心手術の術前・術後管理と小児外科系の疾病をもつ患者で
関連が深く殆どの病院の PICU が手術部と隣接している事がわ
ある.
かっている.
5-2.PICU の看護体制について
PICU は,いまだに全国で施設数が少なく,PICU でしか診察す
ほとんどの病院で日中は 1:1,夜間は 2:1 の看護体制となって
ることができない患者に対応することもあるため,ヘリポート
いることがわかった.
から搬送されてくる患者もいるが,そういった患者に留意した
5-3.PICU のスタッフについて
動線計画を立てることも重要である.
5-3-1.医師・看護師について
4-4-2.人的動線・物的動線について
a.医師について
PICU には,手術部につながる動線と患者家族のための人的動
PICU 専属の医師がいない施設の数が意外に多く,専属医のい
線があり,これらの動線は,通常混線しないように計画されてい
る病院は7病院にとどまった.一方で,PICU 専属医師を十数名
る.また,患者家族のための入口近くには個室が用意されている
確保できている病院もあり,そういった病院は PALS を取得し
ことが多いが,これは感染症患者の面会にきた家族が,あまり
ている医者が大半である.
PICU 内をあるくことなく出口に戻ることができるようにとい
表 4 医師について
医師平均経験 医師平均年齢 医師PALS取 PALS取得者数/医
年数(年)
(歳)
得者数(人) 師数(%)
5.9
12.5
40.5
5.3
81.6
う配慮では無いかと考えている..続いて,物的動線についてであ
医師数(人)
るが,基本的に器材室は入口の近くやPICU の外側の廊下に面し
た場所に位置しており物品の搬出入を病床スペースの近くで
行わなくて済むようになっている.
4-5.PICU 内の環境について
成人の ICU の訴えに関しては,谷口ら(1991)[7]の研究で触
れられており,「音,照明,湿度,しつらえ,様子のうちのうちもっと
-3-
等を行う際に使用されている.また,気が動転している家族に対
b.看護師
看護師数は平均して 28.4 人となっている.また,平均経験年数
しては,カンファレンスルームで相談を行うこともあるとのこ
5.5 年,平均年齢 31.8 歳となっている.
とだった.
表 5 看護師について
d.サテライトファーマシーについて
T センターにのみサテライトファーマシーが見られ,その面
PALS取得者 PALS取得者
看護師平均経 看護師平均年
数(看護師) 数/看護師
験年数(年) 齢(歳)
(人)
(%)
27.7
5.04
32.1
3
12
看護師数(人)
積は 21.6 ㎡だった.サテライトファーマシーでは,午前中のみ薬
剤師が勤務を行っているのとことであったが,小児の投薬には
成人以上に慎重な調整が必要であるため,将来的には薬剤師が
5-3-2.その他のスタッフについて
多くの病院で,病院内にいる,スタッフが PICU での業務を担
常時勤務するようになる可能性もある.
当するという場合がほとんどである.また,放射線技師,臨床工学
6-2.病床と 1 床あたりの領域幅について
士,臨床検査技師に関しては,PICU 内に常勤という形ではない
本調査により, 一床あたりの病床面積は 14.9 ㎡であることが
ものの常に院内には常駐していることがわかった.
わかった.このことをもとに一床あたりの領域幅に対する検討
5-4.患者の不安を和らげる工夫について
を行いたい.長澤ら(2000 年)の研究[10]を参考に作業するス
ボランティアを受けている施設数は,衛生上受け入れていな
タッフ=1,通行するスタッフ=2,器材=3,とし 1=30 cm,2=40
いとする施設などもあり少ないが,ホスピタルクラウンやアニ
cm,3=50cm と仮定し必要な領域幅の算定を行った.なお今回
マルセラピー等を実施している例もある.
は,S 病院を紹介した TBS「夢の扉+」内の映像をもとにモデル
の検討を行った..結果として PICU での救急以外の処置程度で
6.総合分析
あれば,「3+2+1+ベッド+1+3」となり 3.05m 程度で収まっ
6-1.国内の先進事例について
てしまう計算になる.(図 1)この場合,1 床当たりの領域面積は
2007 年開設の S 病院 PICU と 2010 年開設の T センターPICU
約 15 ㎡となり,ベッド間距離はおよそ,2~2.2m といったところ
に着目したいと考える.アンケートから,この二つの病院の
である.今回の調査で,PICU ベッド間距離が2m程度であると回
PICU は我が国で最新の PICU であり,病床数も多く,面積も広く
答した病院は,このベッド間隔での作業を強いられていると言
取られていることがわかった.また 24 時間患者受け入れが可能
うことができるだろう.さて,続いて救命救急を行っている際の
であり,小児緊急専門医もいるなどソフト面も充実している事
面積に関して, 「3+1+2+3+ベッド+3+2」となり,3.65m 程
例である.
度のスペースが必要であるという結論に至った.(図 2)なお,
a.スタッフステーションについて
右側に器材が導入されれば約 4m のスペースが必要ということ
T センターの PICU のスタッフステーションの床面積は 65.3
になる.この場合ベッド間距離は 3.2m ということになるが,3m
㎡である.常勤は 10 名程度であるため,一人当たり 6.5 ㎡の面積
のベッド間隔では狭いという意見が医師よりあげられた.そこ
を確保できる.対して,A センターのスタッフステーションは
で,両側に医師が配置され,器材やそれを準備する看護師,さらに
20.5 ㎡であり.常勤は 6 名程度なので一人当たり 3.4 ㎡の面積し
は人が通ることができるスペースを配置することを検討して
か確保できていないことになる.スタッフステーションの平均
みると「3+1+2+3+ベッド+3+2+1+3」となり 4.4m 程度
値は 29.2 ㎡であるが,実際は A センターより狭いスタッフステ
の空間が必要ということになった.(図 3)
ーションの病院は 4 病院ほどあった。なおオフィスの執務室の
図 1 救命救急以外の処置
面積について,JFMA ベンチマーク調査によると,平均値は 8.2 ㎡
/人となっている.PICU 内で働くスタッフの職場環境を改善す
るためには,現状よりも大きな面積のスタッフステーションが
求められているのではないだろうか.
b.HCU について
国内で HCU も持つのは,3 病院のみであり,そのうち二つが S
病院と T センターだった.両院とも PICU と HCU の看護単位が
わけられており,別々の看護記録が作成されている.T センター
では,PICU からの退室基準は明確に定められているわけではな
図 3 救命救急の処置 2
いが,重傷度やその患者にどれくらい手がかかるかを相対的に
判断し,HCU に移動させるという.
c.面談室について
各病院とも面談室は設けられているが,複数個の面談室を持
つ病院はこの二院だけであった.S 病院は,PICU 内外に一室ずつ
面談室がある.PICU 外の相談室は,プライベートな事情で説明
-4-
図 2 救命救急の処置 1
6-3.感染症の対策について
7.まとめと将来への提言
手術前後の患者は,清潔を要するのに対して救急で運び込ま
本調査で,小児専門病院の殆どが建設されてからだいぶ時間
れた患者は,感染症を持っている可能性がある.このことに関
がたっており,建築設備の寿命から考えて,そろそろ建て替え,も
する対策として,石井(2010)の報告[11]で N 病院の緊急で運び
しくは改築を考えなくてはならない段階にあることがわかっ
こまれた患者に対する処置を説明しているが, 1)緊急で運び
た.新築,もしくは改築の際は,多くの医師が,面積に関する問題
込まれた患者は個室へ収容する.2)対応するスタッフは PPE
を抱えており非常に狭い面積でのやりくりを強いられている
の清潔手袋,サージカルマスク,ビニールエプロンを着用する.
ことを留意しなければならないだろう.なお,新築をするのであ
さらに患者の状態に応じてゴーグルを着用する.これらはあら
れば,建設当初からどのように,維持管理をするのかしっかりと
かじめ緊急ベッドに十分な数を用意しておく.3)可能な限り
検討していく必要がある.「機械的な印象を与えない工夫」
「患
早期に情報を集め,スタッフに通達する.4)患者の感染症の有
者家族への配慮」
「作業をするスタッフへの配慮」を忘れない
無,および感染隔離の必要レベルが判明するまで続ける.とい
建築計画を心がけるようにしたい.特に音環境に関しては,早急
う対応を行っているとのことである.ちなみにN 病院では,患者
になんらかの対応が求められるであろう.
家族側入り口と,手術室側入り口のそれぞれに個室が設けられ
運営に関して言うならばやはり,医師数が絶対的に不足して
ている.PICU の端と端で個室を分散配置させている事例は N 病
いることが問題にあげられるだろう.小児科医の不足は当分解
院のみである.(HCU と PICU のそれぞれに個室がある事例はあ
消される問題ではないため,PICU はある程度の集約化を図った
る)
ほうが良いのではないだろうかと考える.
先日、国内の小児専門病院では,難病の合併症の手術に成功し
6-4.小児患者集約化について
現在,PICU というハードも老朽化しソフト面でも医師数の絶
た例もあり日本の小児医療の現実は必ずしも暗いことばかり
対数が不足しているなど,何かと整備不足の目立つPICU である
ではない.今後の小児集中治療の改善に期待したい.
が,地域の小児三次救急にとってどのようなPICU が良いのか, S
病院を例に検討したい.
参考文献
まず,S 病院が設立された 2007 年以降,静岡県における小児患
[1] 武井健吉,清水直樹,松本尚,八木貴典,小原祟一郎,阪井裕
者のこども病院以外での死亡者数は減少し続けている.(図 4)
一,益子邦洋「小児重症患者の救命には小児集中治療施設への
この要因について小泉(2011)の報告[6]によると 1)高い医療
患者集約が必要である」日本救急医師会誌(2008;19:201-9)
水準を維持していること 2)県をあげて小児救急システムを構
[2] 桜井淑男,阪井裕一,植田聡,渡辺博,藤村正哲「全国 1~4 歳
築し患者・医療資源の集約化を行ったことなどが考えられる.
児死亡小票から見た我が国の小児重症患者医療体制の問題点」
高い医療水準の維持については,集中治療室はミスが多発し
日本小児科学会雑誌 113 巻 12 号 1795~1799(2009 年)
やすい職場であることを認め,1)少数精鋭よりチーム医療 2)・専
[3] 桜井淑男,田村正徳「我が国における小児集中治療室を備え
従医と専従看護スタッフを中心とした医療 3)無理のない勤務
た小児三次救急医療施設の適正配置の検討」日本小児科学会雑
体制などを意識したリスクマネジメントを行っていることが
誌 110 巻 5 号 656~662(2006 年)
あげられる.また,県をあげて小児救急システムを構築し患者・
[4] 米山多美子「手術室を支える部門としての ICU」164;2009/7
医療資源の集約化を行ったこととして,24 時間体制で重症患者
[5] 池山貴也「トロント小児病院集中治療室」小児看護 2010 年
を受け入れ,地元の消防や地域の小児科と連携した患者搬送シ
7月号
ステムが構築されたことが言える.集約化することで医師にと
[6] 東北大学医学部小児科イブニングカンファレンス報告集
ってもさまざまな疾病に触れる機会が増え診療の質も向上す
「宮城の PICU;小児救急・麻酔・集中治療の立場から」
ると考えられる.また,医療スタッフの疲弊も軽減することがで
[7] 谷口元,山田泰史,加藤彰一,柳沢忠「患者の意識を考慮した
きて効率的な勤務体制を組むことも可能である.
ICU の計画に関する研究」
日本建築学会大会学術梗概集1991
(建
築計画・農村計画)511-512,1991-08-01
[8] 春名純一,山中寛男,宮下和久,香河清和,橘一也,秋田剛,木
図 4 静岡県における小児患者の死亡数
内恵子「小児集中治療室における騒音の音響学的分析」日集中
静岡県における小児患者の死亡数
こども病院(PICU外)
31
118
PICU
医誌.2009;16:175~180
こども病院以外
[9] ポール・バーチ「特別寄稿/未来の安全な ICU をデザインす
る」169;2010/10
19
12
33
20
21
13
95
91
86
H20
H21
[10] 趙翔,長澤泰「模擬実験と業務体験による医療・看護作業
領 域 の 定 量 分 析 」 日 本 建 築 学 会 計 画 系 論 文 集 第 530
号,179-184,2000 年4月
[11] 石井絹子「小児集中治療における感染管理と看護ケアのポ
イント」小児看護 2010 年7月号
H18
H19
-5-