ザ・デーリーオーストラリアン

ザ・デーリーオーストラリアン
2015年08月
新たな会計年度が進む中、酪農乳業界ではオーストラリア・中国自由貿易協定(FTA)の
発効を念頭に、様々な作業が行われています。
このFTA交渉は、すでに署名が完了し、残る
法的手続きと議会の承認手続きが終われば本年末には協定発効の予定です。
一方、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉
は、
これほど順調とは言えない状況です。
先ごろマウイ島で行われた閣僚会合で
も最終合意に至らず、年内の交渉妥結が
疑問視されています。つまり、TPPにおけ
る乳製品分野の市場アクセス問題も未
解決ということです。
一方、オーストラリア国内では例年と比
べて採算性が安定し、気象条件も好まし
いものであったことから、多くの酪農地
域で生産量は前年並みかそれ以上とな
りました。一方、乳業メーカー側は、今シ
ーズンの生産者乳価について前シーズ
ン並みとの見通しを発表しています。
酪農乳業を取り巻く状況は、国内市場と
国際市場でまさに対照的です。国際相場
は供給過多と需要の冷え込みにより軟調
傾向が続いています。バイヤーの多くは
十分な在庫を抱え、上積みの余力は乏し
くなっています。
また、軟調相場は当面続
くとの予想から、不足分を満たす以外は
買い控える動きも見られます。EUやニュ
ージーランドでは生産者価格が引き下
げられ、需給バランスの修復につながる
との思惑もありますが、2015年のうちに
大幅かつ持続的な上昇基調に入るとの
足元では国際相場の軟調が続く中、前シ
ーズン並み乳価を果たして維持できるの
か、非常に興味深いところです。
見方は、
日増しに弱くなっています。
乳業メーカーにも活発な動きがありまし
た。マレーゴールバン酪農協が豪証券取
引所にユニットトラストを上場し、議決権
のない株式を発行したのは、歴史に残る
出来事といえるでしょう。数社による新た
な中国向け乳製品輸出の開始や、生産
現場への立て続けの投資などの動きも
目につきました。
目次
豪中乳業界、
さらに関係深化へ
2
スカラシッププログラム、各方面から高
評価
3
中東地域の外食・製パン分野への積極的
アプローチ
4
マレーゴールバン酪農協、豪証券取引所
に上場
5
CDIA、
スカラシップ卒業生を表彰
5
オーストラリア、中国とFTA署名 6
南半球最大のスペシャルティチーズ工
場、1.5億ドルの改修工事を経てタスマニ
アに誕生
7
国際乳製品市況
8
豪中乳業界、
さ
らに関係深化へ
先ごろ中国北京では、
オーストラリア大使公
邸で特別レセプションが催され、
また中国乳
製品工業協会(CDIA)の年次総会が開かれ
た。
この2つの行事は、
オーストラリアと中国
の乳業界の絆を更に深めるものとなった。
オーストラリア乳業界にとって中国は最速ペ
ースで拡大を続ける市場であり、現在は最
大の乳製品輸出先国となっている。2007年
から2014年までの8年間に、輸出量は28,000
トンから117,000トンへと大きく伸びた。品目
別ではチーズ、牛乳(大半はUHT)
、粉乳とい
った高付加価値、高級製品が大半を占めて
いる。
今回のレセプションは、1999年から始まっ
たデーリー・オーストラリア主催の中華圏
向けスカラシッププログラムの祝賀式典で
あり、駐中国オーストラリア大使フランシ
ス・アダムソン氏の主催により大使公邸で
開かれた。
DAのジェフ・エイカーズ会長はその挨拶の
中で、
これまでに240名以上の研修生を受け
入れた同スカラシップの実績にふれ、中国
の乳業関係者や政府関係者との連携づくり
やその維持を行う上で、
スカラシッププログ
ラムは極めて重要な役割を果たしている、
と
の認識を示した。
「中国との長年の関係づくりという点に関
し、
このプログラムはずば抜けた成果を上
げている。
これは大いに誇るべきことだ。卒
業生の多くは現在、中国の乳業会社等で役
職についているが、彼らはプログラムの体験
を通じてオーストラリアに非常に親近感を
抱いている。
ここ数年では、
スカラシッププロ
グラムをきっかけにビジネス交流が始まっ
た例もあり、
この点も非常に喜ばしく思う」
毎年恒例のこのプログラムでは、中国の乳
業会社でミドルからシニアに位置する管理
職を対象に2週間の研修を実施し、酪農場
から製造工場にいたるオーストラリア酪農
乳業全体の理解を深めてもらうことを内容
とする。
研修生にはオーストラリアの食品安全体制、
生乳処理技術、チーズ製造技術などを幅広
く紹介する。
また、酪農場や乳製品工場やの
見学ツアーもあり、
そこでは大手輸出会社の
担当者との懇談会も開かれる。
「オーストラリア側の関係者は、研修生との
積極的な交流を大切にしている。
このプログ
ラムに対するオーストラリア政府や駐中国
オーストラリア大使の多大なご支援に、深く
感謝したい」
(エイカーズ会長)
またエイカーズ会長はCDIA総会でのスピー
チの中で、
オーストラリア酪農乳業にとって
の中国市場の重要性やその成長力、長期的
関係について述べた。
「オーストラリア酪農乳業は、CDIAとの密接
な協力体制のもと、
スカラシップや同窓会プ
ログラム、セミナーなどを様々な活動を中国
市場で行っており、
それらを通じて中国の乳
業界と長年にわたり互恵関係を築いている。
中国市場やCDIAにおける我々のコミットメ
ントは、今後も長く続いていくだろう。
オース
トラリア・中国間の自由貿易協定(FTAが署
名に至ったことにより、両国乳業界の関係が
さらに強化されることを期待している」
またエイカーズ会長は、
アジアの食生活に
乳製品が浸透していくにつれ、中国でもオー
ストラリア産乳製品の需要がさらに高まると
の期待を示した。
「中国のユーザーが、乳製品や乳素材の仕
入れリスクを避けるため、調達先をできるだ
け広げたいとの希望があることは理解して
いる。食の安全や品質の良さ、品質の均一性
は非常に重要な要素だが、
オーストラリア酪
農乳業は、
そのいずれの点も十分クリアでき
る水準にある」
(エイカーズ会長)
オーストラリア酪農乳業界では、チーズや牛
乳、粉乳の供給に加え、中国の外食産業、製
パン、小売り分野に向けて、
より高級感のあ
る製品の供給にも力を入れている。
写真上:スカラシップ16周年を祝うアダムソン駐
中国オーストラリア大使とエイカーズDA会長、卒
業生ら
写真下:レセプションでオーストラリア産乳製品を紹
介するアダムソン大使とミュウCDIA名誉会長
ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月02
スカラシッププ
ログラム、各方
面から高評価
デーリー・オーストラリアが海外市場向けに
行うスカラシッププログラムは、
アジアで広
く人気を維持しており、先ごろ行われた中華
圏向けスカラシップの参加者からも高い評
価を集めた。
このプログラムには中国、香港、台湾から16
名が参加した。研修生はいずれもコフコ、三
元、マキシム、義美食品、統一企業、伊利、新
希望など大手乳業、食品メーカーの社員で
ある。
このスカラシッププログラムでは、酪農場か
ら製造工場にいたるすべての流れを学ぶ機
会を提供する。内容はオーストラリアのオー
ストラリアの食品安全体制、生乳処理技術、
乳製品試食、
チーズ製造技術、乳製品の機能
や応用など多岐にわたる。
また、乳製品工場
や酪農場の見学ツアーもあり、
そこでは大手
輸出会社の担当者との懇談会も開かれる。
先月行われた中華圏向けプログラムでは、
製造工場9カ所、酪農場3カ所(うち1つはロ
ボットシステム採用の酪農場)
を見学した。
見学ツアーを手配したDAの国際市場マネ
ージャー、セーラ・スー氏によると、研修生ら
はスカラシッププログラムの充実度に非常
に満足しており、
オーストラリア酪農乳業を
深く学べたことに感激の様子だったという。
「顧客でもある研修生に購入製品のメーカ
ーを紹介することは、
スカラシップの重要な
意義の一つであり、研修生らは将来の取引
相手となるオーストラリア乳業関係者との関
係を深めようと、
とても熱心な姿勢だった」
(
セーラ・スー氏)
マキシムグループ(香港)のアニー・チャン氏
は、DAスカラシップによって得た機会や経
験を、非常に感謝しているという。
「加工部門や管理部門だけでなく、現在で
は貿易部門の人間もこのプログラムに参加
し、
オーストラリアの酪農乳業に関する理解
を深めることができるようになった。
これは、
オーストラリアと中国両方の業界関係者が、
良いコミュニケーションをとっているおかげ
だろう。今後中国に輸出されるオーストラリ
ア産乳製品にとっても、非常にメリットが大
きいと思う」
(チェン・ユイフェン氏)
統一企業(台湾)のツン-チェン・リー氏
は、DA企画のプログラム内容が非常に充実
していたと述べている。
今回の見学先の一つに、バラ・フーズのギプ
スランド工場がある。
この工場の営業担当ゼ
ネラルマネジャー、
デール・オニール氏はこ
のスカラシップ・プログラムについて、中華
圏乳業界のリーダーたちにオーストラリア酪
農乳業の実態を紹介する素晴らしい機会だ
と評価している。
「この滞在では、期待した以上のものを学
ぶことができた。
オーストラリア酪農乳業の
いろいろな面を見ることもできた。中でも、
工場と酪農場の見学は最高だった。訪問先
の関係者は、誰もが私たちを大歓迎してくれ
た」
(ツン-チェン・リー氏)
タスマニア州の酪農家ギャリー・カーペンタ
ー氏は、
ロボットシステムによる搾乳作業の
様子を研修生らに披露した。同氏もまた、
こ
のプログラムについて、
オーストラリア酪農
乳業全体にとって極めて重要な活動だと評
価した。
三元食品(中国・北京)のチェン・ユイフェン
氏は、
これまでに実施されたスカラシッププ
ログラムのおかげで、多くの中国の乳業関
係者が研修を受けることができた、
と述べて
いる。
「アジア市場の関係者には、
こうした生産現
場がいかに適正であり清潔であるか、
また
そのためにわれわれが最善を尽くしている
ことを、ぜひ知ってもらいたい。彼らがここに
来て、乳製品の原料がこうして作られている
のだと理解してくれるのは、
とてもうれしいこ
とだ」
(ギャリー・カーペンター氏)
「工場見学ではチーズの加工作業や生乳検
査の様子を見ることができ、
とても有意義な
経験ができた」
(アニー・チャン氏)
今回の中華圏向けスカラシップの
様子を動画でも紹介しています
dairyaustralia.com.au/china-scholarship
写真上:搾乳ロボット用の個体識別機能付き首輪に
ついてスカラシップ研修生に説明するタスマニア州
酪農家カーペンター氏
写真左:搾乳ロボット運転中の様子を見学する研修
生ら。
ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月03
中東地域の外
食・製パン分野
への積極的アプ
ローチ
中東地域の乳業ステークホルダーらによる
と、
この地域の外食・製パン分野で乳食品
人気が急速に高まってる。
こうした需要を取り込むため、デーリー・オ
ーストラリア
(DA)
では先ごろ、毎年恒例の
中東地域セミナーの一環として、
クウェート、
サウジアラビア、
アラブ首長国連邦(UAE)の
3カ国でシェフや製パン業者らに向けたオ
ーストラリア産乳製品の試食会を開いた。
オーストラリア乳製品の貿易高に占める対
中東地域向けの割合は約11%を占める。中
でもクウェート、サウジアラビア、UAEは同地
域の最重要市場と位置付けられている。
各地のセミナーに多くの参加者が集まる
中、オーストラリア産乳食品を素材とした実
演調理やチーズ試食会が行われた。会場に
は、
シェフや製パン業者の他、食品および乳
製品の加工・流通業界関係者らが数多く参
加した。
ドバイのセミナーでは調理師学校
を会場としたが、
これはDAの中東地域セミ
ナー初の試みであった。
今回のセミナーには、
ライオン、マレーゴー
ルバン、ベガ・チーズ、
レムノス、
ジンディ・チ
ーズといったオーストラリアの乳業メーカー
から多くの協力が寄せられた。セミナーの
世話係を務めたDAの国際市場マネージャ
ー、セーラ・スー氏によると、今回のセミナー
では外食・製パン関係者を対象に、高級感
のある乳製品素材や小売り向け製品の売り
込みを最も重視したという。
「中東地域では伝統的にEU産の人気が根
強いが、最近ではEU外の乳製品の需要が本
格化している。現地の業界関係者らによる
と、チーズそのものへの関心とともに、オー
ストラリア産などEU外のチーズへの関心が
高まり始めているようだ。ホワイトモッツア
レラよりナチュラルモッツアレラが好まれる
のも、その一例といえるだろう」
(セーラ・ス
ー氏)
DAの国際貿易開発マネージャー、ピータ
ー・マイヤーズ氏は、海外でのこうしたセミ
ナーには3つの目標があるという。
「DAの海外セミナーは、オーストラリア産
乳製品の海外市場展開を維持する上で、重
要な意義を持つようになっている。海外市
場でオーストラリア産をアピールし需要を
維持すること、
さらに販路拡大につなげるこ
とは、セミナーの大切な役割だ。
また、海外
のバイヤーらに対し、乳製品だけでなくオー
ストラリア酪農乳業のクオリティや食品安
全体制について好印象を持ってもらうこと
も、我々の狙いの一つだ」
(ピーター・マイヤ
ーズ氏)
今回のプログラムに先立ち、
アンドリュー・
ロブ貿易相を団長とするシニア・トレードミ
ッションの一行が中東を訪れた。
このミッシ
ョンには、DAのハリデー社長を含むオース
トラリア系企業15社のCEOらが参加した。
訪問先であるUAE、
クウェート、サウジアラビ
アは湾岸協力会議(GCC)の主力メンバーで
ある。オーストラリアとGCCとの自由貿易協
定交渉は、GCC側の申し入れにより2009年
以降中断しているが、先ごろGCC側から交
渉再開の申し入れがあった。
写真右上:オーストラリア産バターとクリームで実演
調理を行うシェフ
(ドバイセミナーにて)
写真右下:セミナー会場での集合写真。中央はセー
ラ・スーDA国際市場マネージャー、
その左がウォレ
ン・ホーク駐クウェート・オーストラリア大使。
その他
オーストレードおよびDA関係者とセミナー参加者ら。
ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月04
マレーゴールバ
ン酪農協、豪証
券取引所に上場
MGは成長・価値創造戦略の一環として、上
場による調達資金5億ドルで設備投資を行
い、生産者乳価のおよび収益の最大化を持
続的に図っていく。MGユニット・トラストで
は約4.38億ドルをユニット発行により、残る
6,200万ドルを乳業メーカー向けの株式発
行により調達していく。
マレーゴールバンの集乳量は、
オーストラリ
ア全体の生乳生産量の3分の1を占める。今
回の上場ではユニット保有者に議決権は認
められず、2500名超の組合員酪農家は引き
続きMGの支配権を握ることになる。
オーストラリアで最老舗であり最大手の
乳業メーカー、
マレーゴールバン酪農協
(MG)は、MGユニット・トラストをオースト
ラリア証券取引所に初上場した。
この歴史
的な出来事により、今後は一般の法人・個
人の投資家らにも、MGへの投資機会が開
かれるようになった。
MGのフィリップ・トレーシー会長はこの上場
について、資金調達方法の検討や実施など
準備に2年を費やし、MGは新たな歴史を開
くことになった、
と述べている。
みユニットの5%を取得し、最大保有者の一
社に名を連ねている。
MGのギャリー・ヘロウ社長は、
この上場成功
はMG65年の歴史に残る出来事だ、
と語る。
「これだけ多くの投資家が、当社の熱意、す
なわち高付加価値製品への戦略シフトの推
進と、国際価格のボラティリティリスクの軽
減を通じて価値を創造するという意欲に共
感してくれたことは、
まさに素晴らしいの一
言だ。内外の顧客に向けて最先端の製造・
供給網を提供するには重要プロジェクトへ
の投資が必要であり、当社がその資金をこう
して調達できたことは、非常に大きな意味を
持つ」
(ヘロウ社長)
「この新規株式公開に対しては、優れた機
関投資家や小口投資家から多くの関心が寄
せられた。MGの今後の成功を分かち合う
6,000名余りの投資家を新たに得られたこと
を、大変喜ばしく思う」
(トレーシー会長)
現在のところ、中国系の食品加工販売企業、
華潤創業グループ「五豊行」がMGの発行済
CDIA、
スカラシッ
プ卒業生を表彰
今年度の中国乳製品工業協会(CDIA)総会
において、デーリー・オーストラリアのスカラ
シップ卒業生が表彰を授与された。
CDIAの創立20周年記念式典の一環として、
最も功績が顕著な個人および法人、
最も優れ
た加工技術および商品開発が表彰された。
個人表彰を受けた26名のうち、
スカラシッ
プ卒業生(2000~2013年)が6名を占めた:
•
マー・ジュンシ氏(ワンダーサン・デーリ
ー副社長、2000年卒業)
•
オウ・カイ氏(ワハハ食品R&Dディレク
ター、2002年卒業)
•
ルー・シュウイン氏(三元食品副社
長、2006年卒業)
•
シャオ・ホンリャン氏(ワンダーサン・デ
ーリー社長補佐、2002年卒業)
•
ザン・ヤンジ氏(上海晨光乳業副社
長、2013年卒業)
•
バイ・イン氏(蒙牛乳業副社長、2002年
卒業)
法人表彰を受けた24社のうち、
スカラシッ
プに社員を派遣した企業は15社であり、そ
のうち数社は定期的に派遣を続けている。
2004年に中華圏向けスカラシップを卒業し
たリュー・ツェンミン氏(光明乳業研究所デ
ィレクター)は、耐熱性を有するプロセスチ
ーズの製造技術について、最優秀技術賞を
受賞した。
写真(左から)マー・ジュンシ氏(ワンダーサン・デーリ
ー副社長、2000年卒業)
オウ・カイ氏(ワハハ食品R&Dディレクター、2002年
卒業)
ルー・シュウイン氏(三元食品副社長、2006年卒業)
シャオ・ホンリャン氏(ワンダーサン・デーリー社長補
佐、2002年卒業)
ザン・ヤンジ氏(上海晨光乳業副社長、2013年卒業)
*写真に不在の受賞者:バイ・イン氏(蒙牛乳業副社
長、2002年卒業)
ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月05
オーストラリア、
中国とFTA署名
豪中FTA(ChAFTA)は、先ごろオーストラリ
アのアンドリュー・ロブ貿易相と中国の高虎
城商務相が正式署名を行ったことにより、発
効にまた一歩近づいた。
中国はオーストラリアの最大貿易国であ
り、2013/14年度の貿易取引高は約1,600億
ドルに達した。同期間の対中乳製品輸出額
は5億ドル、輸出量は115,000トンを記録し
た。チーズ、牛乳(主にUHT)、調製品、粉乳
など高級・高付加価値製品が大半を占めて
いる。
豪州酪農協議会(ADIC)はこの正式署名を
受け、
オーストラリア最大の乳製品輸出市場
との貿易自由化を前進させる大きな一歩
だ、
と歓迎の意向を表明した。
「中国はオーストラリア産乳製品の巨大市
場であり、2013/14年度の貿易額が5.01億ド
ルに達するなど最大の貿易相手国だ。
この
協定は、オーストラリア酪農乳業が中国との
間で長期的な互恵関係を築く、大きな力と
なるだろう。
主要乳製品(乳児用粉乳、チーズ、粉乳、市
乳など)に関する段階的な関税撤廃により、
本当の意味での自由貿易が実現することに
なる」
(キャンベル会長)
このFTAは、豪中各国での法的手続きと議
会の承認手続きを経て正式に発効する。そ
の速やかな発効を目指し、現在両国の政府
関係者の間でさまざまな作業が進められて
いる。
ADICのノエル・キャンベル会長は豪中FTA
において、乳製品は最重要輸出項目の一つ
と位置づけていると語る。
南半球最大のス
ペシャルティチ
ーズ工場、1.5億
ドルの改修工事
を経てタスマニ
アに誕生
ライオンの「ザ・ヘリテージ」工場は、総工費
1.5億ドルの改修工事を経て南半球最大の
スペシャルティチーズ工場へと生まれ変わ
った。
ライオンのCEOスチュアート・アーバイン氏
はスペシャルティチーズについて、同社にお
ける成長分野であり、事業の中心となる品
目だとの認識を示している。
これにより、
タスマニア州バーニーにある
ザ・ヘリテージは、世界有数の最先端技術を
採用したスペシャルティチーズ工場となっ
た。
「スペシャルティチーズの消費量はまだま
だ伸びる余地が十分にあり、それにより当
社の製品ポートフォリオが市場に与える影
響も最大化できる。当社の戦略のポイント
は、
こうした機会を切り開いていくことだ。そ
の意味でザ・ヘリテージへの投資は不可欠
であり、同時にサプライチェーンのパフォー
マンスを最大化し、効率性と規模の両面で
競争力を高めたい。ザ・ヘリテージの施設を
拡張したことにより、
スペシャルティチーズ
の製造能力やイノベーション能力の向上も
図れるようになる」
(アーバインCEO)
新工場は、チーズ製造能力が年間26,000ト
ンに増強されたほか、製造品目についても
14種以上のチーズの製造が可能となった。
現在は年間8,000万リットルの原料乳から
11,000トン超のスペシャルティチーズを製
造する。
ザ・ヘリテージは1955年、
ミラン・ヴィナレク
がエダム、
ゴーダ、
スイスチーズの製造工場
として設立した。1981年にフランスのスペシ
ャルティチーズグループ、ボングランが買収
し、1985年からソフト熟成チーズの製造を
開始。2006年にライオンが買収した。同社
の主要ブランドチーズ「サウスケープ」
「タス
マニアン・ヘリテージ」
「マージー・バレー」
の3種は、
ここで製造されている。
ザ・ヘリテージには現在250名以上の従業
員が勤務している。先ごろ行われた中華圏
向けスカラシップ・プログラムの研修生一
行が訪れた際は、製造現場の様子が詳しく
紹介された。
写真:ザ・ヘリテージの新型設備を視察するライオン
のニクソンCFOとエディントン会長
ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月06
豪州の生産概況
2014/15年シーズンは、累計生産量97億リッ
トル超、前年度比3.8%増加で幕を閉じた。
酪農地域すべてで生産が伸びたわけではな
く、季節条件により生産量は各地で大きく変
動した。州別で見ると、タスマニア州と西オー
ストラリア州では、良好な生産条件や乳業メ
ーカー間の原料乳調達の動きの激しさなど
が重なり、それぞれ10.1%、6.9%増を達成。
ニューサウスウェールズ州は、昨年の干ばつ
の影響にもかかわらず5.0%増。ビクトリア州
では、北部と南東部の生産地域は雨不足が
響いたが、東部は生産条件が改善された結
果、州全体で3.6%増となった。クイーンズラ
ンド州は、シーズンを通じ広い範囲で干ばつ
が発生し、6.1%減。南オーストラリア州も、雨
不足により0.1%の微増に留まった。
単位:百万リットル
1,200
生産量の増大は乳製品製造量に反映してお
り、期首から現在まで(6~4月末)の累計は
各品目全体(バター、バターオイル、粉乳、ホ
エイパウダー、チーズ)で4.3%増。このデー
タからは、メーカーが製造品目を大幅に変更
し、国際市場環境の変化に対応しながら収
益の最大化を図ろうとしていることも読み取
れる。大きく伸びたのはバターオイル(期首
からの累計で19.5%増)、脱脂粉乳(SMP)
(
同15.3%増)、チーズ(同11.7%増)。全脂肪
粉乳(WMP)は同24.8%減と大幅に落ち込
んだ。バターミルクパウダー(BMP)は同
4.5%増、ホエイパウダー同6.3%減、バターは
同0.1%の微減。オーストラリア国内の市乳売
上げは、期首から現在まで(6月~5月末)全
体で0.7%の微増。内訳では全脂肪牛乳3.9%
増、低脂肪乳4.5%減、無脂肪牛乳6.4%減と
なっている。
豪州生乳生産量の推移
2013/14
2014/15
1,000
800
600
400
200
0
Jul AugSepOct Nov DecJan Feb MarApr MayJun
ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月07
国際乳製品
市況
原料乳製品バイヤーらは手持ちの在庫量に
比較的余裕があることから、最近のグロー
バル・デーリートレード
(GDT)の入札結果を
もとに今後相場がさらに軟化するとの見通
しをたて、
それを価格交渉の材料としてい
る。一方、供給側であるオーストラリアの輸
出業者のうち、バイヤーの値引き要求に応
じないところは売れ行きが鈍い。生乳生産
は抑制方向にあるが、世界的に短期間で生
産が縮小する兆しは見られておらず、市況バ
ランスの見通しを困難なものとしている。
こうした弱気の地合いは、粉乳価格に顕著
に表れている。欧州委員会が民間在庫支援
策として実施した脱脂粉乳に関する最初の
介入により、EU市場での取引は進んだもの
の、本格的な需要の回復にはいまだ至って
いない。
そのため、ニュージーランド産や米
国産の存在は、EU域外の市場において今後
も原料乳製品相場の下押し圧力になると予
想される。
オーストラリア産の値動きは依然
としてばらつきがあり、大量に売りさばくか
あるいは売り控えるか、
メーカー間の思惑が
交錯しているようだ。
全脂粉乳(WMP)の需要は相変わらず今ひ
とつのようだ。
オーストラリア産WMPの輸出
量は5月に前年比で急増したが、
それでも限
定的であることに変わりはない。
また、NZ産
の在庫が豊富であるとの推測や次回GDTで
WMPの出荷量が増える見込みであることか
ら、WMPへのシフトチェンジは短期的には
期待薄だろう。
バターと無水乳脂肪(AMF)についても、EU
産の余剰分増加が相場を押し下げてる。一
方、米国内では国際指標をかなり上回る水
準で国産品価格が推移しており、
これが
2016年初めには輸入に波及することも予想
される。
そうなれば、国際相場の下落に一定
の歯止めがかかるとの見方もできる。チー
ズ価格はやや緩んだものの、他の品目と比
べれば現在も底堅さを残しており、特にチェ
ダーは主要製品として人気を保っている。
こ
の傾向をみれば、今後も製造量が増えるこ
とはほぼ確実といえるだろう。
相場が下向きであるとの認識はようやく広
まりつつあるが、南半球の生産シーズンが
ピークを迎えるまでは、
メーカー側の供給調
整が本格化する可能性は低いと見られる。
すなわち、価格の下押し圧力を弱める材料
は、短期的には乏しいといえるだろう。
原料乳製品価格の推移
バター
SMP
WMP
チェダー
6,000
US$/tonne FOB
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
ISSN 1839-8812
Published by Dairy Australia Limited.
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ザ・デーリーオーストラリアン – 2015年08月08