(書評9) 「歴史物語 新島八重の生涯」 (吉村 康 著:歴史春秋社刊) NHK大河ドラマ「八重の桜」はすでに舞台は会津から京都に移って、終盤にさしかか りつつある・・・というこの時期に、いまさら書評かと呆れられそうだが、福島県人とし ては最低限触れておくべきことと思い、敢えて取りあげた。 ただ、TVドラマ化されたこともあって、 「八重本」はかなりの数にのぼる。当図書室に あるものを最後に列記したので、興味のある本から手にしていただきたい。 書評にとりあげた本は、八重の会津時代から京都時代までバランスよく記述され、し かも著者が執筆時点で入手できた数少ない史料にもとづきながら、できるだけ史実として 書こうとしているので紹介するものである。今回は、この本の評論というより、八重とい う人物像に関する短評として記すのでご承知願いたい。 新島(山本)八重については、当センターのHP「活躍した福島県の女性たち」にも以 前より掲載しているが、TV放映前、実は福島県民の間でもそう詳しく知られていた人物 ではなかった。地元会津においてさえ、歴史に興味がある人でもなければ、女ながらに鉄 砲担いで籠城戦を戦った人、新島襄の妻・・・といった認知度だったのではないか。 この時期における会津女性といえば、まず、山川捨松、八重より15歳年下で津田梅子 らとともに女性初の国費アメリカ留学生。薩摩出身の後の陸軍大臣大山巌の後妻となり、 「鹿鳴館の華」といわれた。また、文武両道、とりわけ薙刀の名手で、後年、娘子(じょ うし)隊と称された武家女性たちを率いて奮戦し、被弾して戦死した中野竹子が「地元」 では知られている。 今回の大河ドラマでは八重がヒロインとなり、大河始まって以来初めて「敗者」会津側 からの戊辰戦争が丁寧に描かれ、愚直なまでに徳川幕府に殉じた会津藩の無念さ、悲惨さ が浮き彫りにされた。会津戦争から鶴ケ城明け渡しのシーンなど、涙なしには観ることが できなかった。 09年のNHK番組「歴史秘話ヒストリア」で八重が取りあげられ好評だったことや、 福島復興への願いが今回の大河ドラマにつながったようだが、おかげで八重は我がふるさ とが誇るべき人物として脚光を浴び、全国に知られることとなった。そして、そのことが 震災・原発災害に苦しむ福島県民に力強い励ましとなり、会津への観光客入り込みの回復 で風評被害の軽減に寄与していることもこのドラマの大きな功績である。福島県民の一人 として、ドラマ制作の実現に尽力された関係の方々には、心から感謝したい。 これを機に、八重への関心が高まり、同志社などでも八重研究の機運が高まったと聞く。 今後新たな史料等の発見があり、八重の人物像がさらに深まることを期待したい。 表題の本やドラマをとおして改めて八重なる人物を見直してみれば、幕末から明治にか けた激動の日本を、かくも先駆的に、自立的に生き抜いた女性がいたことに驚きと感銘を 禁じ得ない。 「ならぬことはならぬ」とは会津に生きる人の心得だが、決して頑迷ではなく、 生きることに真摯で、全身全霊を持って当たる気構え、覚悟であって、志や目的の実現に 向かっては、ときには柔軟、したたかな処し方も併せて、決して諦めないという強靱な意 志でもあろう。キリスト教の洗礼、新島襄との再婚、仏教界反発の中での同志社の運営、 日清・日露戦争中の篤志看護婦としての活動など、八重の後半の生涯にも一貫している精 神のありようだと思われる。 白虎隊の自刃とも相まって「会津の悲劇」といわれる。むろん、政治・社会体制が激変 し、大きな混乱の渦に巻き込まれ、ようやく生き延びた人々は会津人だけではない。ただ、 こうした無数の人々の艱難辛苦、時代の悲しみを会津が象徴しているとは言えまいか。 会津は「賊軍」となったが故に、多くの優秀な人材は薩長藩閥政治が跋扈する政界に進 めなかったものの、東大総長山川健次郎をはじめ、教育や文化、福祉、軍隊、警察などの 分野で名を成し、近代日本の確立と発展に貢献した多数の人材を輩出した。 これからの大河ドラマは、京都守護職を務めた会津藩と関係の深い京都を舞台に、時代 の先覚者たる兄の覚馬や新島襄らとともに活躍する八重の人生後半が描かれる。新たな時 代を颯爽と胸を張って駆け抜けた一人の女性、ハンサムウーマンの生き様をご覧頂きなが ら、そうした彼女を培った会津、福島の地にも思いを馳せていただき、その復興の進捗に 関心を寄せていただけたら幸いである。 (副館長 中野伸介) <当センター図書室の「八重」関連図書(出版時順)> ① 「新島八重の維新」 (安藤優一郞著 青春新書) ②「同志社の母 女子大学) ③「新島八重と戊辰戦争」 (星 魂と新島八重」(櫻井よしこ著 イチ著 歴史春秋社) 亮一 新島八重」 (同志社 KKベストセラーズ) ④「日本人の 小学館101新書) ※児童向け ⑤「新島八重」(鶴賀
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