泥炭性軟弱地盤における深層混合処理工法の低改良率施工について 独立行政法人 北海道開発土木研究所 ○澤井 同 北海道開発局 札幌開発建設部 岩見沢道路事務所 同 健吾 西本 聡 小野 裕二 山田 祐幸 1.はじめに 北海道の泥炭性軟弱地盤における沈下低減対策として利用する深層混合処理工法は改良率を 50%以上で 施工することが一般的である。低改良率での施工事例は道内の改良工事でも幾つか散見されるものの、本線 部で交通荷重を受ける低盛土については十分な検証が行われていない。近年、泥炭性軟弱地盤における低改 良率の深層混合処理工法について、遠心力模型実験から理論的には可能 1)であることが確認できたことから、 一般国道 12 号中幌向改良工事(岩見沢市中幌向)において低改良率による試験施工を実施した。本報告で は動態観測の計測結果に基づいて、泥炭性軟弱地盤における低改良率施工の不陸(不同沈下)の影響や改良 柱体頭部に併用したジオテキスタイルの効果について検討した。 2.試験施工 コーン貫入抵抗qc (MN/m2) 2.1 当概箇所の地盤物性 0 4 圧縮指数Cc 自然含水比Wn(%) 6 0 200 400 600 0 2 4 6 0 ▽0.70 表土 Bd 1.33 中幌向改良工事は、交通量の増大と防雪対策を目的とし 2 ▽ ≡ 混じり粘性土(Acp)が互層となって、深度 10.9m 以深の砂 質土層(As)まで連続している地盤構成となっている(図- -2 ▽3.10 腐植土混じり粘土 Acp1 ▽5.30 -4 深度(m) た4車線化事業である。当概地の地盤は泥炭層(Ap)と泥炭 泥炭 Ap1 -6 泥炭 Ap2 ▽7.00 1)。泥炭層の自然含水比は上層(Ap1)が約 400%、中層 -8 腐植土混じり粘土 Acp2 ▽9.55 (Ap2)と下層(Ap3)がおよそ 220%である。深度 10.9m か ら続く砂質土は軟弱地盤解析上の基盤層と判断されている。 -10 泥炭 Ap3 ▽10.90 砂質土As -12 図-1 柱状図と地盤物性 2.3 試験施工パターン 試験施工は改良率 50%、改良率 40%+ジオテキスタイル 1 枚、改良率 30%+ジオテキスタイル 2 枚の 3 ケースで実施した。試験区間は各ケース 70mスパンで、試験区間の中央 20m の範囲に計測機器を配置した (図-2)。深層混合処理工法の改良範囲はいずれもサンドマット下から改良長 9.1m で、圧密対象層として は Ap3 層を 0.8m 未改良として残した。このこと 歪みゲージ(ジオテキスタイル) 層別沈下計 (改良部・未改良部) (改良部・未改良部) 沈 下 板 (改良部・未改良部) から、改良柱体が未改良層に浮いたような改良形 挿入式傾斜計 土 圧 計 (改良部・未改良部) 変 位 杭 沈 下 板 態であり、一般的にフローティングと呼ばれる方 用 地 界 JR軌道 (歩道部) CL 載荷盛土 法である。動態観測における計測機器は沈下板、 泥炭層(Ap1) 層別沈下計、土圧計、間隙水圧計、歪みゲージ、 傾斜計、変位杭を用いた。改良柱体の設計強度は 間隙水圧計 サンドマット (t=1.0) ▽ 3.10 粘性土層(Acp1) ジオテキスタイル ▽ 5.30 深層混合処理パイル 泥炭層(Ap2) ▽ 7.00 目標設計強度 200kN/m2 に設定した。一軸圧縮試 験結果から、平均一軸圧縮強さは 284 kN/m2、変 粘性土層(Acp2) ▽ 9.55 泥炭層(Ap3) ▽ 10.90 砂質土層(As1) 動係数は 15.8%であり、目標設計強度以上で、ば らつきは低く抑えられていることを確認した。 図-2 計測機器設置断面図 8 3.試験結果 3.1 改良率と不同沈下量 盛土中央に設置した沈下板の計測結果から、各試験ケースにおける改良部の沈下量の経時変化を比較した (図-3)。いずれの試験ケースについても沈下量および沈下速度にほとんど差異はなく、同様の傾向を示し た。また、現時点で計測した改良柱体の改良部と改良柱体間の未改良部の沈下量の計測結果から不同沈下量 を算出した結果、どの試験ケースも不同沈下量に大きな差異は生じていないことがわかる(図-4)。このこ とから、改良率 30%~50%の範 改良率30% 改良率40% 改良率50% 率 30%で遜色ない結果が得ら れることが明らかとなった。 3.2 ジオテキスタイルの効果 図-3 改良部の沈下量(沈下板) 0 -13 -29 -50 沈下量(mm) 泥炭性軟弱地盤においても改良 盛土量(m) よび沈下速度に差異は生じず、 沈下量(mm) 囲では沈下量(不同沈下量)お 改良率50% 0 10 改良率40% -20 改良率30% -40 8 盛土(改良率50%) -60 盛土(改良率30%) -80 6 盛土(改良率40%) -100 -120 4 -140 -160 2 -180 -200 0 H15.11. H16.3.4 H16.6.1 H16.9.2 H16.12. 25 2 0 29 -27 -100 -150 -128.0 -141.0 -138.0 -167.0 -200 -250 図-4 -148.0 改良部 未改良部 不同沈下量 -175.0 各試験ケースの不同沈下 今回実施した試験ケースでは、不同沈下対策としてジオテキスタイルを改良柱体頭部に敷設している。ジ オテキスタイルを施工することによって、期待できる効果については未改良部に対する直接的な沈下低減効 果(ハンモック効果)と未改良部の応力の軽減効果の2点が考えられる。未改良部の直接的な沈下低減効果 については多段式層別沈下計から、ジオテキスタイルの上部位置 0 (GL-0.6m)・下部位置(GL-1.0m)における未改良部の沈下量の差異 キスタイル上部位置と下部位置から計測した沈下量はほぼ同等であり、 未改良部に対する直接的な沈下低減効果はほとんど現れていないことが わかる。 -40 -60 -80 -100 フローティング施工を実施した今回の試験施工ではいずれも応力分担比 測結果から、低改良率施工による過剰間隙水圧の差異は出ていない(図 -7)。このことから、ジオテキスタイルによる不同沈下抑止効果は未改 良部の応力軽減効果によって得られているものと考えられる。 参考文献 ジオテキスタイル上下部 応力分担比 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 図-6 改良率30% 改良率40% 改良率50% H16.3.4 H16.6.12 H16.9.20 H16.12.29 応力分担比の経時変化 30 25 間隙水圧(kPa) 柱体間の未改良部の泥炭層 Ap1(GL-2.0m)に設置した間隙水圧計の計 沈下差 H15.11.25 2.5~4.0 付近である。各試験ケースで比較して低改良率施工による応力 分担比の低下が見られず、ほぼ同等の結果が得られている。また、改良 ジオテキスタイル下-1.0m の沈下量 試験ケースにおける応力分担比の経時変化を比較した(図-6)。支持層 まで改良した通常の施工では応力分担比が 10~20 に設定2)されるが、 -85.9 -89.1 -160 から、ジオテキスタイルを併用した改良率 30%・40%の試験ケースが改 いると言える。改良部・未改良部に設置した土圧計の計測結果から、各 -75.8 -76.4 ジオテキスタイル上-0.6m -140 応力が増加して、応力分担比の低下を招くことが考えられる。このこと が生じなければジオテキスタイルによる未改良部の応力軽減効果が出て -72.0 -77.8 -120 低改良率施工を行った場合、一般的に改良柱体間の未改良部にかかる 図-5 良率 50%の試験ケースより未改良部の応力の増加や応力分担比の低下 -3.2 -5.8 -20 沈下量(mm) を比較する方法でその効果を確認した(図-5)。これによると、ジオテ 改良率30% 改良率40% 改良率50% -0.6 静水圧, 14.71 20 15 10 改良率30% 改良率40% 改良率50% 5 0 H15.11.25 図-7 H16.3.4 H16.6.12 H16.9.20 H16.12.29 過剰間隙水圧の経時変化 1)林 宏親、西川 純一、澤井 健吾:泥炭地盤における低改良率の深層混合処理工法について,北海道開発 土木研究所月報 No.595 平成 14 年 12 月 2)(財)土木研究センター:深層混合処理工法設計・施工マニュアル 平成 16 年 3 月
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