「スイーツ de バリアフリー」 ~ちょっとした工夫で笑顔のまちに~

プロジェクト発表会
区分
文化・生活
「 ス イ ー ツ de バ リ ア フ リ ー 」
~ちょっとした工夫で笑顔のまちに~
愛知県立安城農林高等学校
1
はじめに(研究の動機及び目的)
スイーツは一口食べただけで,人々を笑顔にしてくれる。その魅力にとりつかれている
人は,大勢いるのではないか。そんな魅力的なスイーツは,日本独自の食文化の流れの中
で ,味 や 形 が 変 化 し ,今 で は ク リ ス マ ス や バ レ ン タ イ ン デ ー と い っ た 行 事 の 時 だ け で な く ,
誰もがいつでも食べられる身近な食べ物の一つである。しかし,これらスイーツを,多く
の人は食べているが,作ったことのある人は意外に少ないと思われる。
そこで私たちは,スイーツを作ったことのない人たちに対して,スイーツ作りができる
よ う に 工 夫 を し ,ス イ ー ツ を 食 べ る だ け で な く ,作 る 楽 し み を 知 っ て も ら う こ と を 目 標 に ,
プロジェクト活動に取り組んでいる。
スイーツ作りの経験が少なく,作るのが難しいと考えている人たちの中には,ハンディ
キャップのある人たちもいると思い,この人たちを対象にスイーツ作りを工夫することに
してみた。
2
これまでの取組
(1) 保 育 園 児 に 対 し て の , 紙 芝 居 に 合 わ せ た 実 演 や 作 り 方 を 工 夫 し た ケ ー キ 作 り 。
(2) デ イ サ ー ビ ス に 通 う 高 齢 者 に 対 し て の , ハ ン ド ミ キ サ ー を 使 い な が ら , 配 合 や 作 り
方を工夫して行ったチーズケーキ作り。
3
私たちの取組
私たちはこれまでの取組を引き継ぎ,ハンディ
キャップのある人たちを対象にスイーツ作りの工
夫をすることにした。
ある日,耳の不自由な人たちを支援している
NPO 法 人 Co.mimi と い う 団 体 か ら ス イ ー ツ 講 習 会
の依頼があり,アイスクリームの講習会をするこ
とになった。参加者の中には,高齢者も多いと聞
き,デイサービスの講習会で問題となった,ハン
ドミキサーが重くて力がいるという点に対して工
夫をしてみることにした。手で持ってなくてもい
図1
ハンドミキサーの問題点
いミキサーはあるが,大きすぎる,高すぎて買えないなど問題点が多く,ハンドミキサー
を持たなくてもいい方法をいろいろ検討した。その中でも一番良かったのがメタルラック
の 利 用 で あ る 。ホ ー ム セ ン タ ー で 買 う と ,2380 円 と 手 頃 な 価 格 で あ っ た 。図 2 よ う に メ タ
ルラックにセットすることで,力のない人でも簡単に混ぜることができる。さらに今回の
参加者は耳の不自由な人たちであるが,手話通訳に頼らない講習会をしたいと考え検討し
た結果,すぐに指示を出せるように旗を作製した。そして,プレゼンテーションと実演の
組み合わせなどにより,聴覚ではなく視覚で伝え
る工夫をして試行を何回も繰り返した。
講 習 会 当 日 ,耳 の 不 自 由 な 人 た ち の 手 話 を 見 て ,
何を言っているのか分からなかったが,反対に私
たちの会話も耳の不自由な人たちにとっては,何
を言っているのかが分からないことであると思っ
た。私たちの説明を真剣なまなざしで見ていて,
少し緊張もしたが,説明を理解してくれたのか,
途中での質問もなく,スムーズにアイスクリーム
を楽しそうに作っていた。アンケートの結果を見ると,
図2
メタルラックの利用
指示の旗のおかげで分かりやすかったとか,また
講習会をやって欲しいなどうれしい意見をいただ
いた。
しかし,これら良い点ばかりではなく,メタル
ラックの取り外しが大変という問題点もあり,メ
タルラックの改善をしなければいけないと思った。
そこで私たちは,いくつかの方法を試し,一つの
方 法 に た ど り 着 い た 。ミ キ サ ー を 一 段 目 に 固 定 し ,
ボウルは新聞紙で作った台を出し入れする方法で
ある。この改良ができた後,誕生日ケーキ作り講
図3
アイスクリーム作りの様子
図4
誕生日ケーキ作りの様子
習会の依頼があった。このケーキ作りで一番難し
いのは,スポンジ生地の泡立てと,デコレーショ
ンのときに塗る生クリームの泡立てである。誰で
も同じものが作れるように,泡立てのポイントで
ある比重を測定し,その比重になる最適な混ぜ時
間を決定することにした。スポンジ生地の泡立て
時 間 は 1 1 分 と す る な ど ,市 販 の レ シ ピ に は な い 混
ぜ時間と細かいポイントを載せたレシピを作るこ
と が で き た 。こ の レ シ ピ を 基 に ,試 行 を 繰 り 返 し ,
誕生日ケーキの講習会を開催することになった。
スポンジケーキ作りから試食まで,楽しい時間を
過ごすことができた。参加者の人から,前回よりも難しい内容であったが,「とても分か
りやすかった」とか,「この講習会を開くまでの準備や練習,大変だったと思うがありが
とうございます」と言っていただき,本当にうれしかった。また,簡単な手話も教えてい
ただき,旗を使わなくても手話で通じた時の笑顔は今でもはっきり覚えている。この講習
会を通して,反対に,コミュニケーションの大切さを教えてもらった。
次に私たちは,福祉団体と関わりのある「自然に学び・ローゼルを育てる会」の職員に
来てもらい話を伺った。「福祉団体と一緒にローゼルを育てているが,ローゼルの加工は
健常者にお任せなので,ローゼルを育てるだけでなく,加工もできるとよい」と聞き,私
た ち と 一 緒 に ロ ー ゼ ル を 使 っ た ス イ ー ツ 作 り を 企 画 し た 。職 員 の 方 々 と 試 食 会 を し な が ら ,
私たちがレシピ化したローゼルの加工品は5種類である。そして職員の方からスイーツ講
習会の講師を依頼された。
安城市で行われた「第一回交流センターまつり」では,ババロアゼリーを作ってもらう
ことにした。小規模作業所の利用者の方が中心となるので,実演しながら一緒に作ってい
くことになった。
図5
交流センターまつりの様子
図6
ローゼルジュレ
ス イ ー ツ 講 習 会 に は ,福 祉 団 体 4 団 体 の 参 加 が あ り ,全 員 で 1 6 0 個 も 作 る こ と が で き た 。
こ の う ち 100 個 は , 交 流 セ ン タ ー ま つ り に 来 た 人 た ち に , 私 た ち が 作 っ た ジ ュ ー ス と セ ッ
トで無料配布し,試食してもらった。皆さんから「なめらかでおいしい」とか,「これを
利用者さんたちが作ったなんて,びっくりしました」と言った意見をいただいた。
こ れ ら の 活 動 が 評 価 さ れ ,安 城 市 の 市 制 6 0 周 年 記 念 事 業 の 一 つ で ,福 祉 施 設 7 団 体 に 加
え,ローゼルを育てる会などの3団体と私たちで,ローゼルジュレの開発と製品化をする
ことが決定した。
市販されているジュレとの粘性を比較するために測定具を作り,測定を行った結果、ロ
ーゼルの特徴である色と市販に近いとろみのあるジュレができたことが確認できた。年明
け に は ,福 祉 団 体 の 特 産 品 と な る 。こ れ が 福 祉 団 体 の 活 性 化 に つ な が る と 信 じ 研 修 班 一 同 ,
全力でサポートしていきたい。
4
まとめと今後の課題
少しでも多くの人たちにスイーツの作る楽しみを知ってもらうことを目標にプロジェク
ト活動に取り組んできた。その結果,高齢者を初め,ハンディキャップのある人たちが,
スイーツを作ることができたことや福祉団体の特産品の開発に携わることができた。
今後は,ローゼルジュレの品質向上やいろいろなニーズに合ったスイーツ作りの工夫と
普及を目指し,プロジェクト活動に取り組んでいきたい。
安城市を,スイーツ作りで元気なまちにしていきたい。
注
ローゼル:西アフリカ原産のアオイ科フヨウ属の植物である。薄いピンクの花を付け
て実を包み込む、がくが食用になる。実は酸味があり、美容と健康に良いと
されるアントシアニンと鉄分などが豊富に含まれている。
ローゼルジュレ:ローゼルの食用であるがくを利用した水分の多い、とろっとした食
感のゼリー