大阪大学薬学部卒後研修会 ふたごが拓く予防医学の未来(甲状腺疾患

大阪大学薬学部卒後研修会
ふたごが拓く予防医学の未来(甲状腺疾患の現状と展望)
大阪大学大学院医学系研究科附属ツインリサーチセンター
岩谷良則
すべての疾患のなかで診断と治療が最も進んでいる臓器は甲状腺です。そして、甲状腺
疾患は内分泌疾患の中で最も多く、特に自己免疫性甲状腺疾患(橋本病とバセドウ病)を
持つ人は潜在性の病態も含めると少なくとも 10 人に 1 人はいます。
中でも中年女性に多く、
4 人に 1 人が甲状腺自己抗体が陽性です。
しかし、甲状腺自己抗体陽性の人の約 2 割にしか将来甲状腺機能低下症が発症しないにも
かかわらず、誰が発症するかわからないため全員に定期検診を行っています。またバセド
ウ病も抗甲状腺剤で治療して完全に寛解導入できる人は約 6 分の1と少ないのですが、数
年以上治療しないとわかりません。
そこで私たちは、潜在性自己免疫性甲状腺疾患の段階で甲状腺機能低下症を発症する人や
バセドウ病を発症する人、さらに抗甲状腺剤で確実に寛解導入できるバセドウ病の人を確
実に予測する方法の開発を行っており、さらには病気の発症を予防する方法や薬の開発を
行いたいと考えています。
疾病の発症は、遺伝と環境によって規定されているため、疾病の発症予測には遺伝と環境
(特に環境がゲノムに及ぼす影響:エピゲノム変化)を解明する必要があり、疾病の予防
や治療に関しては環境の解明が必要です。遺伝と疾病の関係については whole genome
sequencing によって早晩解明されると予想されますが、環境と疾病の関係を解明するのは
極めて困難です。そこで、私たちは疾病の発症の有無が異なる一卵性双生児に着目したツ
インリサーチの研究基盤構築を 5 年前にスタートさせました。
今回は、バセドウ病と橋本病の診断と治療を詳細に説明したうえで、未来の予防医療とそ
れを可能にするツインリサーチをご紹介したいと思います。