床からの輻射熱による安全弁の作動に関わる一考察

JARI Research Journal 20151102*
【研究速報】
床からの輻射 熱による安全弁の作動に関わる一考察
Consideration for a Pressure Relief Device Activated by Radiant Heat from the Floor
田村
陽 介 *1
佐藤
Yohsuke TA MUR A
研 二 *2
Kenji SATO
Abs tra c t
I n t h e c a s e a f i r e b r e a ks o u t o n t h e l o w e r d e c k o f a c a r c a r r i e r s h i p o r
f e r r y, a n y f u e l c e l l v e h i c l e s ( F C V s ) p a r k e d o n t h e u p p e r d e c k m a y b e
exposed to radiant heat from the lower deck. Assuming that the thermal
pressure relief device (TPRD) of an FCV hydrogen cylinder is activated by
the radiant heat without the presence of flames, hydrogen gas will be
r e l e a s e d b y t h e T P R D t o f o r m c o m b u s t i b l e a i r - f u e l m i x t u r e s i n t h e v i c i n i t y.
To i n v e s t i g a t e t h e p o s s i b i l i t y o f t h i s a c c i d e n t s c e n a r i o , t h e p r e s e n t s t u d y
investigated the relationship between radiant heat and TPRD activation
time
and evaluated
the
possibility
of
radiant
heat
causing
hydrogen
releases by TPRD activation under the condition of deck temperature
reaching the spontaneous ignition level of the tires and other automotive
parts. It was found: a) the tires as well as polypropylene and other plasti c
parts
underwent
spontaneous
ignition
before
TPRD
was
activated
by
radiant heat and b) when TPRD was finally activated, the hydrogen
releases were rapidly burned by the flames of the tires and plastic parts on
f i r e . C o n s e q u e n t l y, i t w a s c o n c l u d e d t h a t a n e x p l o s i o n o f a i r - f u e l m i x t u r e s
assumed in the accident scenario does not occur in the real world.
1. まえがき
燃料電池自動車(HFCV)に搭載される圧縮水
Upper deck
素容器には,火災による容器の破裂を防ぐため,
HFCV
Hydrogen
cylinder
火災の熱を検知し,容器内の水素ガスを放出させ
TPRD
Deck heated by the fire
る熱作動式容器安全弁(Temperature Activated
Lower deck
Pressure Relief Device: TPRD)が装着される.
TPRD の作動により放出された水素ガスは,既に
TPRD の近傍に存在する火炎によって,ただちに
Fig. 1
着火する.そこで,鉄製の甲板で階層が仕切られ
た構造を持つ自動車専用輸送船 (Pure Car
Carrier: PCC)やフェリーにおいて,HFCV を海上
輸送している際での一つの事故シナリオを考える.
Fig. 1 に,ひとつの事故シナリオを示す.船室
内の下部階から火災が発生し,鉄板製のデッキを
通じて上部階に駐車する HFCV が加熱される事
故シナリオである.
*1 一般財団法人日本自動車研究所 FC・EV研究部 博士(工学)
*2 東邦大学 理学部
* 本速報はJSAE著作権規則に基づく2015秋季学術講演会
前刷集#145の転載である.
JARI Research Journal
An accident scenario of a explosion caused by
a HFCV on board a pure car carrier
PCC やフェリーには,HFCV が自走して積み込
まれるため,燃料の水素は充填された状態にある.
HFCV の車底部には圧縮水素容器があるため,床
からの輻射熱を受けて,圧縮水素容器に装着され
ている TPRD が作動し,水素ガスが放出されるこ
とが考えられる.この時点で水素ガスが放出され
た船室内に火炎がないと,水素による可燃性混合
気を形成し,爆発を誘引する状況に至る.しかし,
- 1 -
(2015.11)
既に車両の外装品などが加熱された床によって自
Thermocouple
己着火していれば,その後,
TPRD が作動しても,
#A
その火炎を発火源にして直ちに水素火炎が形成さ
れるので,爆発を誘引する状況には至らない.
そこで,本研究では,圧縮水素容器の TPRD が
#B
作動するための輻射熱と作動するまでの時間の関
係を実験的に導き,その関係と,床の温度がタイ
ヤなどの樹脂材料の自着火温度になる際の TPRD
#C
が受ける輻射熱から,TPRD が作動するのかを調
べ,上記に示したひとつの事故シナリオの可能性
Fuse metal type
を考察した.
Thermocouple
2. 輻射熱によるTPRDの作動試験
2.1
試験方法
スプリンクラーの熱感知器が作動するまでの時
#D
間を予測するための手法は,多くの研究者によっ
て調査
1,2,3) されているが,これらは熱気流環境下
での評価であり,輻射熱による評価は見当たらな
Glass bulb
い.そこで,本研究では,実験的に輻射熱を与え
た場合の TPRD が作動するまでの時間の関係を
Glass bulb type
調べる.供試した TPRD の仕様を Table 1 に,お
Fig. 2
Configuration of TPRDs
よびその外観写真を Fig. 2 に示す.
供試 TPRD は,いずれも自動車用圧縮水素容器
Table 1
TPRD
name
に使用されているものである.供試#A,B,C は,
Specification of TPRD's
#A
Normal
working
pressure
[MPa]
35MPa
#B
35MPa
#C
70MPa
#D
35MPa
Type
Fuse
metal
Fuse
metal
Fuse
metal
Glass
bulb
Nominal
activated
temperature
o
104 C
110 o C
o
110 C
110 o C
ステンレス製の TPRD 本体内に納められている
溶融金属が,公称作動温度付近で軟化・溶融する
溶栓式(Fuse metal)と呼ばれるものである.供試
#D は,ガラス管内の液体が熱膨張し,公称作動
温度付近でガラス管を破裂させるガラス球式
(Glass bulb)と呼ばれるものである.ガラス球は,
衝撃などから保護するため,一部,穴の開いたス
テンレス製の本体内に収められている.
Fig. 3 には試験方法の概要を,Fig. 4 には,
TPRD に輻射熱を与えている状況の写真を示す.
Fig. 3
JARI Research Journal
- 2 -
Outline of TPRD performance test
(2015.11)
140
TPRD Body Temperature [oC]
30kW/m2
120
50kW/m2
100
70kW/m2
80
60
40
20
0
A(Fuse metal) B(Fuse metal) C(Fuse metal) D(Glass bulb)
TPRD
Fig. 5
Fig. 4
Average TPRD body temperature when TPRD
A test situation of a TPRD performance test
is activated
通常,飛び石等から容器や容器附属品を保護す
TPRD が作動した時の TPRD 本体の表面温度は,
るため,車両の底部にはアンダーカバーが装着さ
溶栓式(#A,B,C)の場合では,公称作動温度よ
れている.そのため,床から輻射熱を与えても,
りも高い.しかし,ガラス球式(#D)の場合では,
TPRD には直接,輻射熱が加わらない.本評価で
公称作動温度よりも TPRD 本体の表面温度の方
は,少ない輻射熱で TPRD が作動するワーストケ
が低い.これは,溶栓式の場合,輻射加熱によっ
ースを想定し,通常,装着されているアンダーカ
て TPRD 本体の表面に受けた熱は,熱伝導により
バーがない状況を仮定し,TPRD には直接,輻射
TPRD 本体の内部に納められた溶栓へ伝わるのに
熱を加えた.
対し,ガラス球式の場合,TPRD 本体からの熱伝
TPRD には円錐型ヒータにより一定の輻射熱を
導よりも,TPRD 本体の穴の開いた箇所から,直
与え,TPRD が作動するまでの時間 t ac を測定し
接,ガラス球へ輻射加熱が加わる構造であるため
た.その TPRD には,2 MPa 以上のヘリウムガ
と考えられる.
スを加圧し,圧力が開放された際の圧力減少から
Fig. 6 に TPRD に与えた輻射熱 q ac と TPRD が
TPRD の作動を検知した.TPRD と設置台の間を
作動するまでの時間 t ac の関係を示す.なお,輻射
断熱するため,輻射面の反対側となる TPRD の下
熱 15 kw/m 2 の場合,供試した全ての TPRD は,1
部には,グラスウールを敷いた.TPRD に与える
時間経過しても作動することはなかった.
輻射熱は 15,30,50,75 kW/m 2 の 4 通りとした.
700
た輻射熱は,熱流束計により,毎回,校正した.
また,熱検知する溶栓またはガラス球近傍の輻射
面側の TPRD 本体の表面には,シース径 0.5 mm
の K 型熱電対を耐熱アルミニウムテープで取付け,
TPRD 本体の表面温度も計測した.
2.2
結果
Fig. 5 に TPRD が作動した時の TPRD 本体の表
TPRD Activation Time tac [sec]
TPRD を加熱する時間は最大1時間とした.与え
B
500
C
D
400
300
200
100
0
0
面温度を示す.
20
40
60
80
Radiant Flux qac[kW/m2]
Fig. 6
JARI Research Journal
A
600
- 3 -
Effects of radiant fluxes on TPRD activation time
(2015.11)
溶栓式(#A,B,C)では,ほぼ同一の曲線上にあ
するまでの総熱量を示す.
る.また,溶栓式(#A,B,C)とガラス球式(#D)
ここで,a は TPRD が作動するまでの総発熱量
を比較すると,輻射熱が低いと,ガラス球式(#D)
(q ac ×t ac )から TPRD の作動に寄与しない外部に逃
の TPRD の作動するまでの時間は,溶栓式(#A,
げる熱などの熱量(q c ×t a )を引いた値である.すな
B,C)より遅いが,輻射熱が高くなるほど,早く
わち,a の値は,臨界熱流束で TPRD に与える熱
なる特徴がある.
は除いていることから,TPRD の放熱などによっ
次に,Fig. 6 を,TPRD が作動するまでの時間
の逆数と熱流束の関係で整理しなおすと,Fig. 7
となる.なお,この図には,溶栓式 TPRD の A,
て実質的に TPRD を作動させるために使用され
ていない熱が算出されていない.
Table 2 に Fig. 6 における各 TPRD の一次回帰
B,C を平均化した TPRD が作動するまでの時間
直線,臨界輻射熱および TPRD が作動するまでの
も追加した.
総熱量 a [kJ/m 2 ]を示す.
0.014
Table 2.
A
0.012
B
AVERAGE(Fuse metal)
1/tac [sec-1]
TPRD
Regression formulae
Critical
radiant
flux q c
[kW/m 2 ]
#A
(Fuse
metal)
t ac−1 = 7.80 × 10 −5 × qac − 3.72 × 10 −4
4.77
12820
#B
(Fuse
metal)
tac−1 = 7.62 × 10 −5 × qac − 3.94 × 10 −4
5.17
13123
#C
(Fuse
metal)
t ac−1 = 8.55 × 10 −5 × qac − 4.17 × 10 −4
4.88
11696
#D
(Glass
bulb)
tac−1 = 2.76 × 10 −4 × qac − 6.85 × 10 −3
24.8
3623
C
0.01
0.008
D
0.006
0.004
Critical radiant flux
0.002
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Radiant Flux qac [kW/m2]
Fig. 7
Relationships between TPRD activation time
and radiant flux
Effects of radiant fluxes on TPRDs activation time
a
[kJ/m 2 ]
図に見られるように,TPRD が作動するまでの
時間の逆数と熱流束の関係は直線性が得られる.
また,溶栓式 TPRD の A,B,C は,ほぼ同じ直
線上にプロットされる.この直線と横軸の交点が
TPRD が作動できなくなる最大の輻射熱であり,
これを臨界輻射熱 q c と定義する.また,TPRD が
作動するまでの時間 t ac ,加熱輻射熱 q ac および
Fig. 6 のグラフの傾きの逆数を a とすると式(1)に
なる.
1 1
=   ⋅ (qac − qc )
tac  a 
となり,溶栓式(#A,B,C)の方が小さい.よって
本研究では,最も低い熱流束で作動する溶栓式
(#A, B,C)の臨界輻射熱の値を用いて評価する.
なお,a の値をみると,供試した溶栓式(#A,B,
C) の 作 動 は , ガ ラ ス 球 式 (#D)よ り も 実 質 的 に
いる.これは,与えた輻射が,直接,熱感知部に
(1)
晒されるガラス球式(#D)とは異なり,溶栓式(#A,
B,C) TPRD の作動には,熱容量を持った TPRD
本体を経て,溶栓へ熱を伝える必要があるためで
(2)
ある.
式(2)から,a は,臨界輻射熱よりも大きい輻射熱
によって TPRD を加熱した場合の TPRD が作動
JARI Research Journal
約 5 kW/m 2 ,ガラス球式(#D)では約 25 kW/m 2
TPRD の作動に必要となる総発熱量は高くなって
すなわち,a は式(2)で表される.
a = (qac − qc )t ac
TPRD の臨界輻射熱は,溶栓式(#A,B,C)では
3. 考察
以下に,床の温度が自己着火温度となる条件に
- 4 -
(2015.11)
おいて,TPRD が輻射熱によって作動するかどう
かを考察する.まず,床に接するタイヤが発火温
F12 =
1  X
Y
Y
X 
+
tan −1
tan −1

2
2
2π  1 + X 2
1+ X
1+Y
1+Y 2 
度に到達する時の TPRD が床から受ける熱流束
を計算する.Fig. 8 に計算モデルを示す.
ここで,
X =
a
b
Y=
c,
c
である.
よって,床の長さ 2a = 105 m と床の幅 2b = 68 m,
105m
c = 0.09 m を(1)式に代入すると,
TPRD
0.09m
F12 = 4 ×
1  583
378
378
583 
+
tan −1
tan −1


2
2
2π  1 + 5832
1 + 583
1 + 378
1 + 3782 
= 1.0
Fig. 8
Radiant Heat Model
る.床の寸法は船体のフロアを考慮し,ある自動
4) を参考に,105
m×
68 m とする.また,床下から TPRD までの高さ
は,日本の道路運送車両法では最低地上高が 0.09
m 以上で規定
5) されているので,
ここでは,TPRD
が最も床に接近する 0.09 m とする.また,TPRD
は床の中央部に位置するものとする.通常,TPRD
に装着されている水素容器には,はね石などから
保護するために,地上と床との間にはアンダーカ
バーが装着されているが,ここでは,最悪の条件
として,輻射を遮るアンダーカバーはないものと
する.タイヤの自発火温度は 400℃ 6) であるため,
加熱された床の温度が 400℃の時の TPRD が受け
る熱流束を,以下の方法で計算する.
デッキ床(A2)からの放射体に対し,TPRD (A1)
は微少である.よって,形態関係は Fig. 9 に示す
ように仮定する.この時の床から TPRD への形態
係数 F 12 は式(3)となる.
こでは 0.35 とする.すると,床温度がタイヤのゴ
ムの自己着火温度の 400℃の際,TPRD に受熱さ
れる熱流束は
q = εσ (T24 ) F12 = 0.35 × 5.67 × 10 −11 × ( 400 + 273) 4 × 1.00
= 4.07 [kW/m 2 ]
(5)
となる.ここで,σ はステファンボルツマン定数
であり,
σ = 5.67×10-11 [kW/m 2 K -4 ]
である.
TPRD が作動するために必要な臨界輻射熱は,
第 2 章の実験結果から約 5 kW/m 2 である.従って,
床の温度がタイヤの自己着火温度となる条件では,
TPRD は永遠に作動しないことになる.
一方,先述したように,ほとんどの HFCV は,
床下に燃料システムを搭載した場合,空力や飛び
石などから水素容器を保護するために,地面と容
れている
dA1
A2
り,その放射率εは 0.16~0.35 7,8) であるので,こ
器の間には樹脂製のアンダーカバーが取り付けら
b
a
(4)
となる.TPRD 本体はほとんどがステンレスであ
TPRD に受ける入熱は,床からの輻射のみとす
車専用運搬船の床の大きさ
(3)
c
9) .よって,床から放射された輻射は
TPRD よりもその手前にあるアンダーカバーが加
熱されることになる.アンダーカバーの樹脂は,
主に熱可塑性のポリプロピレンが使用され,その
軟化温度は 128℃,自己着火温度は 498℃ 9) である.
故に,床から輻射熱を受けると,TPRD の作動よ
Fig. 9
Radiation view factor
りも先にポリプロピレン製のアンダーカバーが軟
化してそれが床へ落下する.落下後,床温度がポ
リプロピレンの自己着火温度 500℃の際,TRD に
JARI Research Journal
- 5 -
(2015.11)
受ける熱流束 q ac は(4)式より,約 7 W/m 2 となる.
る.故に,ここで想定した事故シナリオにおいて
この場合,Table 2 に示した一次回帰式から計算
は,床からの輻射熱によって TPRD が作動しても,
すると,TPRD が作動するためには,最低でも 90
ただちに火炎によって水素ガスが着火するため,
分以上の時間が必要となる.その間に,TPRD が
可燃性混合気の形成によって爆発を誘引するよう
作動しても,床に落下したポリプロピレンが自己
な事態にはならないと考えられる.
着火し,さらには床温度が水素の自己着火温度の
なお,本報は,国立研究開発法人 新エネルギ
TPRD から水素が放
ー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託により
出されたとしても,水素火炎が形成されるので,
実施した「水素製造・輸送・貯蔵システム等技術
爆発を誘引する状況には至らないと考えられる.
開発事業」の一部の成果をまとめたものである.
500℃ 10) であるので,たとえ
以上のことから,床の温度がタイヤもしくはポ
リプロプレンの自己着火温度となる条件において,
TPRD は輻射熱によって作動する可能性は低く,
かつ,仮に長時間,輻射熱により TPRD が加熱し
て作動したとしても,既に床に設置されたタイヤ
や落下したポリプロプレンなどの車両部品が着火
していることが考えられるので,ここで想定した
ひとつの事故シナリオが生じる可能性は極めて低
いと考えられる.
参考文献
1) Heskestad, G., Bill,R.G.Jr., Modeling of thermal
responsiveness
of
automatic
sprinklers,
Proceedings
of
the
Second
International
Symposium
for
Fire
Safety
Science,
pp.603-612,1989.
2) Yukio Yamauchi, Atsushi Mammoto, Masahiro
Morita, A calculation method for predicting heat
detector's response, Jornal of Enviro. Eng.
AIJNo.603,2006
3) 山内幸雄, 感知を中心とした火災現象に関する研究
の流れ,日本火災学会論文集 , Vol.55,No.2,2005
4. まとめ
PCC などで HFCV を海上輸送する際,下部階
からの出火により,床からの輻射熱を受けて
TPRD が作動することが想定される.仮に,火炎
が存在せずに,輻射熱によって水素容器に装着さ
れている TPRD が作動すると,水素ガスが放出さ
れて,可燃性混合気が形成されることになる.そ
の際に,火炎が存在しないフロアでは空気と混合
して可燃性混合気を形成する状況に至るが,既に,
床下からの輻射熱により車両の外装品などが自己
着火していれば,その火炎により水素が燃焼する
ので,上記に示した状況には至らない.本研究で
は,HFCV を海上輸送するためのこのひとつの事
故シナリオの可能性を検討するため,TPRD が作
4) http://www.kline.co.jp/plaza/kline/dairy/1189388_
1474.html
5) 道 路 運 送 車 両 の 保 安 基 準 の 細 目 を 定 め る 告 示 , 第
163条,
http://www.mlit.go.jp/jidosha/kijyun/saimokukokuji
/saikoku_163_00.pdf
6) 斉 藤 芳 樹 ,リ サ イ ク リ ン グ 廃 タ イ ヤ リ サ イ ク ル の
現状と新技術,資源と素材, Vol.113, No.12,1997
7) Arthur E.Cote, P.E., Jim L.Linville, Fire
Protection Handbook, National Fire Protection
Association, Eighteenth Edition, 1997
8) http://www.raytekjapan.co.jp/Raytek/ja-r0/IREduc
ation/EmissivityTableMetals.htm
9) http://newsroom.toyota.co.jp/en/detail/4198334
10) John D.DeHaan, Kirk's Fire Investigation, Third
Edition, Brady, 1990
動するために必要な輻射熱と作動するまでの時間
の関係を実験的に導き,床の温度がタイヤなどの
自動車用部品の自己着火温度となる状況下におい
て,輻射熱による TPRD からの水素ガス放出の可
能性を考察した.その結果,床の温度がタイヤや
ポリプロプレンの自己着火温度となる条件では,
TPRD は最低でも 90 分以上作動しない.その間,
床上に接するタイヤおよび輻射熱によって軟化・
溶融したポリプロプレンが床上で自己着火してい
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