この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介 ②高血圧 Differences in effects of age and blood pressure on augmentation index. Tomiyama H, Odaira M, Kimura K, Matsumoto C, Shiina K, Eguchi K, Miyashita H, Shimada K, Yamashina A. Am J Hypertens 2014; 27: 1479-85. PMID: 24820940 加齢と収縮血圧が増大係数に及ぼす影響の差異 冨山博史(東京医科大学循環器内科学教授) 小平真理/木村一貴/松本知沙/椎名一紀/江口和男/宮下 洋/島田和幸/山科 章 背景 方法 中心血行動態異常は心血管疾患発症・増悪に関与する ABC-J 高血圧研究コホートと一般住民検診コホートに 独立した危険因子として注目されている。中心血行動態 登録された症例で、健常者または高血圧症例 10 ,190 例 の指標として augmentation index(AI) 、中心血圧、反射 (男性 5 ,477 例、女性 4 ,743 例)を対象として、OMRON 波が使用される。AI は前向波と反射波の重なりを反映し、 HEM-9000 AI を 用 い て 橈 骨 脈 波 解 析 を 実 施 し radial 血行動態指標として中心血圧算出などに使用される重要 augmentation index(rAI)を測定した。 な指標である。年齢は AI の大きな影響因子である。年齢 結果 の AI への影響は若年者と高齢者では異なり、60 歳以上で は年齢の影響が減少する。加齢に伴う AI の増加が高齢者 男女とも、60 歳までは年齢とともに rAI は有意に上昇 において小さいことは、AI/ 中心血圧が高齢者のリスク指 したが、 それ以降はrAIの有意な上昇は認めなかった (図1) 。 標としての意義が小さいことを支持する所見である。こ 一方、収縮期血圧に対しては 170 mmHg 以上まで rAI は の機序として impedance mismatch や波形解析の限界な 段階的に有意に増加した(図 1)。対象症例を年齢、収縮期 どが指摘されている。 血圧、rAI の値に従い 3 分位すると、いずれの高 3 分位症 一方、血圧も AI に影響する重要因子である。血圧の AI 例 群 で も 収 縮 期 血 圧 は rAI と 有 意 に 関 連 す る こ と が への影響も若年者で大きいことが報告されているが、年 Stepwise 多変量解析にて示された(表 1)。 齢と同様に、血圧レベルの上昇で血圧の AI への影響が減 考察 弱するかは不明である。仮に加齢と同じく impedance mismatch や波形解析の限界が血圧上昇に伴う AI 減弱の この断面研究は、血圧の AI への影響が年齢・血圧・AI 主要因子であれば、血圧高値症例では血圧の AI への影響 のレベルで異なるかを検討した初めての研究であり、血 が減弱する可能性がある。さらに、AI 高値例でも太い動 圧は年齢、血圧・AI のどのような状態でも AI の有意な影 脈の脈波伝播は亢進して impedance mismatch が生じる 響因子であることが確認された。 可能性があり、血圧の AI への影響が減弱する可能性があ これまでの検討でも心血管疾患発症危険因子のなか る。すなわち、高齢者、血圧高値例、AI 高値例では血圧 で、年齢と血圧が AI 上昇の重要な決定因子であることが 上昇に伴う AI 上昇が小さく中心血圧を評価する意義が少 示されている。そして、こうした研究において高齢者で ないことが懸念される。しかし、血圧の AI に及ぼす影響 は加齢に伴う AI 上昇が減弱することが報告されていた。 が年齢・血圧・AI レベルにより異なるかは十分明らかで O’Rourke の総説では、圧脈波形への血圧の影響は年齢と ない。 同様であるとしている。一方、MeEniery らは血圧と年齢 の AI への影響には相互作用があり、50 歳未満の若年者で 目的 はその影響が大きいとしている。さらに、彼らの報告では、 本研究は、ABC-J 高血圧研究コホートと一般住民検診 高齢者でも血圧は AI に有意に影響することが確認できる。 コホートを対象に血圧の AI への影響および年齢の AI への しかし、血圧上昇に伴う AI 上昇が血圧レベルの高い場合 影響を、年齢、血圧、および AI の個々のレベルごとに対 に有意であるかは検討されていなかった。さらに、加齢、 比検討した。 血圧上昇に伴い AI は上昇するが、AI 高値症例における年 齢・血圧の AI への影響を AI 低値状態と対比検討した研究 31 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介② 図 1 ● 年齢、収縮期血圧と rAI *=ひとつ前の年齢・血圧群に対して有意 男性 (%) 100 (%) 100 90 90 * 80 rAl rAl * * 70 70 60 60 ∼39 40∼ 50∼ 60∼ 70∼ * 80 80∼ (歳) 収縮期血圧 (%) 100 (%) 100 * 90 * 80 70 60 60 40∼ 50∼ 60∼ 70∼ 80∼ (歳) * * 80 70 ∼39 * 90 rAl rAl * (mmHg) ∼129 130∼ 140∼ 150∼ 160∼ 170∼ 年齢 女性 * (mmHg) ∼129 130∼ 140∼ 150∼ 160∼ 170∼ 年齢 収縮期血圧 は実施されていなかった。 亢進した状態でも AI に有意に影響しており、血圧は年齢 AI は太い動脈における圧脈波伝播および末梢血管から と異なり伝導動脈の硬さ亢進だけでなく、末梢反射効率 の反射効率が大きな決定因子である。高齢者で AI 増加の 上昇を介して AI 上昇に影響することが示唆された。 程度が小さいことには伝導血管と抵抗血管の impedance 臨床的意義 mismatch が関与する。今回、血圧高値、AI 高値でも年 齢の AI への影響は小さかった。AI 上昇には伝導動脈の硬 高齢者における年齢の AI への影響が小さくなることは、 さが関与し、血圧上昇は伝導動脈を硬くする。ゆえに、 高齢者での心血管疾患発症リスク評価における AI の意義 今回の結果は加齢以外の要因でも伝導血管が硬くなると が有意でないとする臨床研究の結果を支持する。しかし、 加齢の AI への影響が減弱することを示唆した。一方、血 今回の結果は、血圧は高齢者、血圧上昇、AI 高値でも AI 圧上昇は高齢、血圧高値、AI 上昇など伝導動脈の硬化が 上昇に有意に影響する因子である。ゆえに、高齢者や AI 32 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles. 英文原著論文紹介② 表 1 ● 年齢、収縮期血圧、rAIの 3 分位群における年齢および収縮期血圧とrAIの関連の Stepwise 多変量解析による検討 Total R2:total R-square、ChR2:changes of R-square in stepwise analysis、beta:standardized coefficient 男性(n = 5 ,447) 年齢中 3 分位群(46 ≦年齢< 57 歳) 年齢低 3 分位群(年齢< 46 歳) (n = 1 ,837)Total R2 = 0 .370 (n = 1 ,686)Total R2 = 0 .416 ChR2 B(SE) beta p値 ChR2 B(SE) beta p値 指標 0 .204 0 .705 年齢 − − 0 .002 0 .934 0 .006 0 .267 < 0 .001 0 .069 0 .229 < 0 .001 (0 .015) (0 .058) 0 .154 0 .329 0 .252 収縮期血圧 0 .039 0 .215 < 0 .001 0 .040 0 .086 < 0 .001 0 .041 0 .262 < 0 .001 (0 .013) (0 .073) (0 .021) 収縮期血圧中 3 分位群 収縮期血圧低 3 分位群 収縮期血圧高 3 分位群 (118 mmHg ≦収縮期血圧< 131 mmHg) (収縮期血圧< 118 mmHg) (収縮期血圧≧ 131 mmHg) 2 2 (n = 1 ,711)Total R = 0 .424 (n = 1 ,807)Total R2 = 0 .407 (n = 1 ,929)Total R = 0 .510 0 .103 0 .302 0 .532 年齢 0 .004 0 .083 < 0 .001 0 .039 0 .244 < 0 .001 0 .143 0 .393 < 0 .001 (0 .025) (0 .027) (0 .027) 0 .200 0 .293 0 .099 収縮期血圧 0 .026 0 .180 < 0 .001 0 .006 0 .083 < 0 .001 0 .002 0 .045 < 0 .001 (0 .019) (0 .067) (0 .042) rAI 中 3 分位群(72 % ≦ rAI < 83 %) rAI 中 3 分位群(rAI < 72 %) rAI 高 3 分位群(rAI ≧ 83 %) (n = 1 ,706)Total R2 = 0 .065 (n = 1 ,866)Total R2 = 0 .211 (n = 1 ,875)Total R2 = 0 .163 0 .025 0 .241 年齢 − − 0 .038 0 .129 0 .005 0 .081 < 0 .001 0 .092 0 .327 < 0 .001 (0 .009) (0 .018) 0 .085 0 .028 0 .058 収縮期血圧 0 .041 0 .229 < 0 .001 0 .011 0 .136 < 0 .001 0 .010 0 .111 < 0 .001 (0 .009) (0 .005) (0 .013) 補正:身長、BMI、喫煙、心拍数、総コレステロール、HDL コレステロール、中性脂肪、クレアチニン、血糖、薬物治療 年齢高 3 分位群(年齢≧ 57 歳) (n = 1 ,924)Total R2 = 0 .426 B(SE) beta p値 ChR2 女性(n = 4 ,743) 年齢中 3 分位群(43 ≦年齢< 57 歳) 年齢低 3 分位群(年齢< 43 歳) (n = 1 ,574)Total R2 = 0 .347 (n = 1 ,588)Total R2 = 0 .353 ChR2 B(SE) beta p値 ChR2 B(SE) beta p値 指標 0 .212 0 .636 年齢 − − 0 .016 0 .342 0 .005 0 .074 < 0 .001 0 .118 0 .310 < 0 .001 (0 .060) (0 .044) 0 .132 0 .197 0 .306 収縮期血圧 0 .042 0 .205 < 0 .001 0 .082 0 .287 < 0 .001 0 .058 0 .291 < 0 .001 (0 .014) (0 .015) (0 .025) 収縮期血圧中 3 分位群 収縮期血圧低 3 分位群 収縮期血圧高 3 分位群 (106 mmHg ≦収縮期血圧< 123 mmHg) (収縮期血圧< 106 mmHg) (収縮期血圧≧ 123 mmHg) (n = 1 ,542)Total R2 = 0 .370 (n = 1 ,564)Total R2 = 0 .375 (n = 1 ,637)Total R2 = 0 .444 0 .302 0 .534 年齢 − − − 0 .001 0 .972 0 .087 0 .294 < 0 .001 0 .218 0 .448 < 0 .001 (0 .026) (0 .027) 0 .153 0 .311 0 .171 収縮期血圧 0 .031 0 .166 < 0 .001 0 .012 0 .123 < 0 .001 0 .004 0 .072 0 .001 (0 .018) (0 .054) (0 .050) rAI 中 3 分位群(80 % ≦ rAI < 91 %) rAI 低 3 分位群(rAI < 80 %) rAI 高 3 分位群(rAI ≧ 91 %) (n = 1 ,560)Total R2 = 0 .072 (n = 1 ,605)Total R2 = 0 .199 (n = 1 ,578)Total R2 = 0 .094 0 .064 0 .020 0 .239 年齢 0 .009 0 .113 < 0 .001 0 .004 0 .080 0 .016 0 .105 0 .406 < 0 .001 (0 .016) (0 .008) (0 .018) 0 .049 0 .033 0 .061 収縮期血圧 0 .031 0 .145 < 0 .001 0 .028 0 .185 < 0 .001 0 .008 0 .121 < 0 .001 (0 .009) (0 .005) (0 .015) 補正:身長、BMI、喫煙、心拍数、総コレステロール、HDL コレステロール、中性脂肪、クレアチニン、血糖、薬物治療 年齢高 3 分位群(年齢≧ 57 歳) (n = 1 ,581)Total R2 = 0 .380 B(SE) beta p値 ChR2 高値の症例においても中心血行動態改善には血圧コント により異なる。年齢の AI への影響は高齢者だけでなく、 ロールが重要であることが示唆された。 血圧高値および AI 高値の症例において小さくなるが、高 齢者、血圧高値・AI 高値症例でも血圧は AI に影響する重 結論 要な因子であることが確認された。 年齢と血圧が AI へ及ぼす影響は年齢・血圧・AI レベル 33
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