論文審査の結果の要旨

様式
1
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨 お よ び 担 当 者
学 位 申 請 者
論 文 担 当 者
戸澤
勝之
主
査
宮本
裕治
印
○
副
査
石原
正治
印
○
副
査
廣田
誠一
印
○
A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study of
Rebamipide for Gastric Mucosal Injury Taking Aspirin
学 位 論 文 名
With or Without Clopidogrel.
(抗血小板薬による胃粘膜傷害に対するレバミピドの有用性)
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
【目的】
高齢化が進んでいる本邦では、虚血性心疾患・脳疾患の増加に伴う抗血栓薬服用症例が
増 え て い る 。 ま た 、 近 年 は 抗 血 小 板 薬 を 2 剤 以 上 併 用 す る 、 Dual antiplatelet
therapy(DAPT) 症 例 が 増 加 し て い る 。 そ の 中 で 、 Low dose aspirin(LDA) と
clopidogrel(CLO)を併用している症例を臨床の場ではよく経験する。
LDA は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と並んで薬剤性胃・十二指腸潰瘍の原因とされて
いる。従来は、Helicobacter Pylori 菌(Hp)が胃・十二指腸潰瘍の原因とされていたが、
感染率の低下に伴い LDA を含む NSAIDs 起因性胃・十二指腸潰瘍の割合が増加している。
さて、LDA を服用していて出血性胃潰瘍を生じた場合、Hp 陽性ならば除菌をする事で、
再度 LDA を服用しても再出血のリスクはオッズ比で 0.97、酸分泌抑制剤であるプロトン
ポンプインヒビター(PPI)と LDA を服用した再出血のリスクはオッズ比で 0.74 であった
と Chan FK らは述べている。除菌さえすれば LDA 単剤ならば PPI などの高価な酸分泌抑
制剤を使用せずに胃粘膜保護薬でも十分に一次予防になるのではと考えた。
そこで胃粘膜保護薬であるレバミピドの効果を検討すべく、若年健常者を対象に、LDA
もしくは LDA+CLO を服用させ、同時にレバミピド或いはプラセボを投与して上部消化管
内視鏡検査を施行し、服薬前後の胃粘膜傷害の程度を検討する事にした。
同時に、LDA と CLO の DAPT 症例に対する胃粘膜傷害の報告は十分ではなく、LDA 単剤と
2剤併用における傷害の程度が異なるのか、併せて評価する事を目的とした。
【方法】
若年健常者 32 名を対象に
a>プラセボ+LDA 服用群 b>レバミピド+LDA 服用群 C>プラセボ+LDA+CLO 服用群
d>レバミピド+LDA+CLO 服用群の 4 群に分け、2 週間服用した。服用前後で上部消化管内
視鏡検査を行い、胃粘膜傷害の程度を比較した。傷害のスコアは Modified Lanza Score
を用いた。上部消化管検査施行時に採血で貧血の有無を調べると共に、服用前に迅速ウ
レアーゼテストで Helicobacter Pylori (Hp) の有無を調べた。服用前後における消化管
症状の自覚を Gastrointestinal Symptom Rating Scale を用いて評価した。
【結果】
若年者の Hp 感染者は 32 名中 4 名であった。レバミピド+LDA 群はプラセボ+LDA 群と比
較して有意に胃粘膜傷害の抑制を認めた。レバミピド+LDA+CLO 群は、プラセボ+LDA
+CLO 群と比較して有意に胃粘膜傷害の抑制を認めた。レバミピド+LDA 群とレバミピド
+LDA+CLO 群では胃粘膜傷害の程度に有意差を認めず、プラセボ+LDA 群とプラセボ+
LDA+CLO 群の間でも有意差を認めなかった。以上より LDA 単剤及び 2 剤併用の結果から、
CLO が加わることで胃粘膜傷害は増悪しないことが確認できた。また、抗血小板薬に対す
る レ バ ミ ピ ドの有効性を示すことができた。服薬前後における Gastrointestinal
Symptom Rating Scale では 4 群間で有意差を認めなかった。
【考察】
Hp 陰性(未感染)かつ消化管出血/消化管潰瘍の既往歴がない LDA 単剤若しくは CLO 併用し
た DAPT 症例では、レバミピドによる予防が可能であると考えた。
本研究は、LDA だけでなく、LDA+CLO の 2 剤投与においてもレバミピドが胃粘膜傷害に対
して有効であることを最初に示したものである。同時に、LDA と LDA+CLO では胃粘膜傷
害の発生に差がないことも確認できた。高価な PPI ではなく、安価な胃粘膜保護薬でも
条件を満たせば十分に胃粘膜傷害に対する予防が可能であることが可能である。