<第 14 回 担当:佐藤桜 Case 29-2015> <症例提示> 2015年11月2日 担当:佐藤 桜 Case 29-2015:A 38-Year-Old Pregnant Woman with Headache and Visual Symptoms 38歳の妊婦(2G0P)が頭痛、視覚の症状のため妊娠33週3日目に入院した。 入院2週間前までは通常の健康状態であったが、その後首の痛みが出現し始めた。11日 前には首と背中の痛み、後頭部痛、嘔吐、38.9℃の発熱のため、分娩室のある救急病院に 行った。診察では、背中には圧痛があったが、バイタルと他の身体所見は正常であった。 採血結果はTable1. 尿検査は黄色で混濁した尿であり、微量のケトン、アルブミン(1+)、 ウロビリノーゲン(2+)、尿沈渣ではわずかな扁平上皮とムチンがみられた。ヒドロモルフ ォンとシクロベンザプリン(中枢性筋弛緩剤)が投与され、いくらか改善したため帰宅し た。尿培養からは多くの混在した細菌が検出され、病原体となりうる2種が少量検出され た。3日後には頭痛は自然軽快した。 入院当日には、トンネル状視野が生じパニック発作が出現した。過換気になり、求心性 に視野が暗くなった。その症状はおよそ2分間続き、視野に暗点が生じ、頭痛、腕に放散す る頚部痛、嘔気、めまい(浮動性・回転性両方)が生じた。血糖値は、患者自身によると 122mg/dl1であった。介護者に連絡し、分娩室へ行くことを勧められた。 胎動は正常で、発熱・下痢・腹痛・性器出血・破水・子宮収縮は認めていないとのこと であった。彼女は出生前の梅毒・HIV・淋病・クラミジアのスクリーニング(全て陰性)と 超音波の定期検査を受けていた。妊娠後期のブドウ糖負荷試験は陽性であった。間欠性の 不定期な胸痛が数年間続いており、入院の2ヶ月半前に胸痛の精査を行ったが、心電図で ST-T変化は非特異的であり、経胸壁心エコーも正常であった。 既往歴: 17歳のころ、妊娠20週で敗血症により死産となったため、子宮内容除去が行われた。 鉄欠乏性貧血、双極性障害、失神と左半身の刺痛に関連したパニック発作、骨盤内癒着に よる疼痛、良性卵巣嚢胞、喘息、季節性のアレルギー性鼻炎がある。 ツベルクリンテスト陽性であったが胸部レントゲンは正常、イソニアジドとビタミンB6で 9ヶ月間治療が行われた。 手術歴: 胆摘(胆石症)、癒着溶解、卵巣嚢胞摘除(全て腹腔鏡) 内服薬: 妊婦のための総合ビタミン剤、硫酸第一鉄を内服中。抗うつ薬は妊娠に伴い中止。 1 <第 14 回 担当:佐藤桜 Case 29-2015> アレルギー: ロペラミド、モルヒネ(胸部不快感)、メペリジン(蕁麻疹)、造影剤(発 疹) 嗜好歴: 喫煙・飲酒なし、違法ドラッグの使用なし 生活歴: グァテマラで生まれ、15年前にアメリカに移住した。最後にグァテマラを訪れた のは3年前。ボーイフレンドと一緒に住んでいる。オフィスで働いていたが、現在は双極 性障害のために障害給付を受けている。 家族歴: 母親が乳がんにより50代で死亡 身体所見: 体温39.5℃、血圧117/68mmHg、脈拍数104回/分、呼吸数18回/分 腹部は妊娠中、軟、圧痛なし、胎動あり 四肢浮腫なし、反射は正常、他の全身および神経所見も正常 胎児心拍数図は正常 血液検査: 血糖値111mg/dl、尿酸、Mg、Ca、P、TP、グロブリン、T-Bil、D-Bilは正常(他 はTable1) アセトアミノフェン、ブタルビタール・アセトアミノフェン・カフェイン合剤が静脈内 投与され、さらにプロクラルペラジン、オキシコドン・アセトアミノフェン、ジフェンヒ ドラミンが投与されたところ、患者の状態は一部改善した。 24時間の観察後も患者の症状は解消しなかったため入院とした。頭痛の程度はNRS 9/10 であった。 ・Problem listをあげてください ・入院後、どのような検査をしますか? 2 <第 14 回 担当:佐藤桜 Case 29-2015> 3 <第 14 回 担当:佐藤桜 Case 29-2015> ー入院当日ー 頭部MRI (造影なし):Fig.1A,1B 拡散強調像では複数(少なくとも8つ)の小さな高信号域が、両大脳半球の白質・灰白質 に散在していた。そのうち最大のものは最大径7mmで左の半卵円中心にあり、頭蓋内腫瘍や 出血と関連した所見はなく、少なくとも6時間前に起こった虚血を反映していると考えら れた。MRAとMRVは正常所見。 下肢エコー: 深部静脈血栓なし 心電図: 洞性頻脈(108回/分)、有意なST-T変化なし ホルター心電図: 不整脈なし 腰椎穿刺はうまくいかず中止 アスピリン(81mg/日)、メトクロプラミド、妊婦のためのビタミンが投与された。 ー入院3日目ー 血液検査: PT、PT-INR、APTTは正常 第Ⅷ因子、APTTループスアンチコアグラント、カルジオリピン抗体(IgG、IgM)、ATⅢ活 性、プロテインC活性、活性化プロテインC抵抗性、プロトロンビン遺伝子変異もすべて異 常なし 他の結果はTable1. 胎児の肺成熟を促すためにベタメタゾンが筋注投与された。超音波検査では活発な発育 のいい胎児が確認された。患者の頭痛は改善した。 ー入院4日目ー 眼科コンサルト: 視力の変化や眼痛、充血はなし 飛蚊症あり(彼女は「虫」と言っていた) 両眼性の水平複視あり(矯正レンズの使用で軽減) 左側に翼状片あり 眼底検査で乳頭浮腫、塞栓症、血管炎の所見はなし 血液検査: HAV抗体(+) B肝・C肝のスクリーニングは陰性 4 <第 14 回 担当:佐藤桜 Case 29-2015> 頭部MRI :Fig.1C 両側側頭葉および右後頭葉に、新たに出現したものも含めて、拡散制限のある病巣を複数 認めた。急性の微小脳梗塞の多発として矛盾しない所見と思われた。 ー入院5日目ー 経胸壁心エコー: (Fig2.) 左室の運動亢進(壁運動異常はないが、収縮期の左室腔閉塞あり) 右室の心尖部は無動で瘤状であった。 両心室内には、心筋とは明らかにエコー輝度が異なる、辺縁整で無柄の物質が心内膜に貯 留し突出していた。 (この所見は前回の心エコーでは認めなかった) 卵円孔開存や臨床的に明らかな弁膜症はなく(弁肥厚、疣贅、牽引、接合不全など)、わ ずかに僧帽弁・三尖弁逆流を認めるのみであった。 組織カラードップラー法(左室流入速度と肺静脈流速の評価)とカラーMモードでの血流伝 播速度の評価では、左室の拡張機能は正常であった。 感染症、血液科、リウマチ科へのコンサルトが必要と思われた。リポタンパク(a)は正常、 β2グリコプロテイン1、SSA、SSB、Sm、RNP抗体は陰性、抗CCP抗体(IgG)も陰性であった。 持続ヘパリン投与が開始され、さらに検査がすすめられた。 5 <第 14 回 担当:佐藤桜 Case 29-2015> 6
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