小児薬物療法認定薬剤師 - 医療関係者のための医薬品情報 第一三共

小児薬物療法認定薬剤師
期待される小児医療強化の推進役
日本は医療先進国ながら、小児医療では海外先進国に遅れを取っている。厚生労働
省も小児医療の強化を打ち出す中、その推進役として期待されるのが小児薬物療法認
定薬剤師である。認定制度は、日本小児臨床薬理学会と日本薬剤師研修センターが協
働して 2012 年度から始まった。小児薬物療 法研修委員会委員を務める、独立行政 法
人国立成育医療研究センター薬剤部長の石川洋一氏にその役割などを聞いた。
日本は高い医療技術を持ち、世界一の長寿大国であり
それならば、学ぶ場を作ろうというのがこの制度を作った
ながら、実は1歳から4歳児の小児死亡率は先進国の中
大きな理由です。もう一つは、情報交換の場づくりです。
で決して低くはない。全国的に小児科医が不足し、小児
病院薬剤師が病棟で活動することが多くなり、NICU(新
集中治療室(PICU)を備えた病院も少ないのが実情だ。
生児集中治療室)や PICUなどではその専門性が期待さ
日本では、繁用される医薬品でも小児に適応のないもの
れています。しかし、小児医療に詳しい薬剤師の人数が少
が多く、現場の医師はやむなく適応外使用をしているの
なく、先輩に教わるチャンスも少ない。そこで、小児医療を
が現実だ。当然ながら、それらの医薬品の添付文書には
学んだ全国の薬剤師同士で交流できるようにしたいと考
小児での用量や注意事項は記載されていない。
えました。さらに、院外処方は外来小児薬物療法の最前
薬剤師が小児医療を学ぶ場づくり
線ですから、保険薬局薬剤師にも専門知識を持ってほし
い。知識があれば、処方薬について担当医に確認し、用量
こうした中で、日本小児臨床薬理学会と日本薬剤師研
のチェックをすることができます。子供を守るには病院と
修センターは、2012 年に「小児 薬物 療法認定薬剤師制
薬局薬剤師がタッグを組む必要があるのです」
度」を設立した。2014 年9月末現在で 378人の薬剤師が
米国などでは薬剤師は小児医療についても総合的な
認定を受けている。制度作りに深く関わってきた石川氏
教育を受けているが、日本の薬剤師教育では小児医療は
は、その背景をこう語る。
欠落していた。以前からその必要性はいわれていたが、日
「小児医療の現場でもチーム医療が進む中、薬剤師の
本小児臨床薬理学会と日本薬剤師研修センターの協力に
参加が求められていますが、大学教育では小児の疾患や
よって、教育プログラムが整い、認定制度が実現した。
小児薬物療法について学ぶ機会はほとんどない。残念な
がら薬剤師の小児医療に対する知識不足は否めません。
専門知識を持ったセーフティネット
小児薬物療法認定薬剤師の役割は、第1に薬物療法
における安全管理である。小児において薬物の用量は患
者の年齢、体重、体表面積などによってそれぞれ異なる。
また、相互作用や副作用は成人以上に影響が出やすい。
それにもかかわらず、小児の用量が添付文書に明記され
ていない適応外の医薬品を使用しなければならない。こ
うした中で一刻を争う治療が行われるのだから、薬剤の
独立行政法人国立成育医療研究セン
ター薬剤部長の石川洋一氏
10 ファーマシストぷらす 2015 No.1
安 全管理は非常に難しく、専門知 識を持った薬剤師が
セーフティネットとして熱望されているわけだ。
院外処方も同様で、保険薬剤師には安全管理が求めら
表 小児薬物療法研修の行動目標
(日本薬剤師研修センター)
れ、処方された用量が患者の年齢や体格などに対して適
1
正かどうか確認できる能力が必要だ。
小児薬物療法における薬剤師の役割を理解し、実践できる。
2
小児を理解するための発達小児科学、小児疾病、母子・小
児保健の概要を理解する。
師も相談できます。そうした地域ネットワークを構築した
3
小児の薬物動態の発達変化を説明できる。
いと思っています」と石川氏は語る。
4
母乳哺育の意義と母乳への薬剤移行の考え方を知り、助
言できる。
5
小児における経腸栄養剤の特徴等について述べる、経静
脈栄養について助言ができる。
6
未承認薬、適応外薬使用への適切な助言ができる。
7
小児期の臨床検査値の違いを説明できる。
8
小児におけるTDM の役割を説明し、有効に活用できる。
9
小児剤形の必要性を理解し、問題点について説明できる。
10
小児(及び病気を持った小児)の心理・行動を理解し、そ
の支援方法やその役割について述べることができる。
11
代表的な小児疾患について理解し、その標準的な薬物療
法について実践できる。
12
小児の病態に配慮した薬用量と剤形・投与経路の提案が
できる。
13
地域における小児を取り巻く環境を理解し、必要に応じた
行動ができる。
14
保護者に対して小児医薬品の適正使用に関する助言がで
きる。
15
小児に対するくすり教育や服薬指導を実践できる。
「地域の薬局に認定薬剤師がいれば、他の薬局の薬剤
こうした現状に対して、厚生労働省も小児医療の強化
に動き始めた。小児治験ネットワークの強化や、未 承認
薬、適応外薬の小児の適応の取得促進を打ち出し、少し
ずつ小児に使える薬剤が増えてきた。
小児薬物療法認定薬剤師は、まさに絶好のタイミング
で制度化されたといえよう。
病院実務研修で小児医療を実体験
認定を受けるには、まず 1コマ1時間の研修プログラム
を36 コマ、eラーニングで受講する。試験に合格したうえ
で、病院での実務研修が必須となっている。研修プログラ
ムは、薬剤の基礎知識から、小児疾患の特性、管理指導、
小児の疾患など広範囲に及ぶ。特に発育、成長、発達とい
う視点や、今日の小児をとりまく環境を背景とした小児薬
物療法における諸課題について学べる。
「プログラム作り
には苦労しましたが、すばらしい内容になり、医師も受講
したいというほど充実しています。病院での実務研修で
は、小児医療の現場を体験でき、特にこれから必要とな
ネットワーク作りの一歩として、認定薬剤師チームと共に
る小児の在宅ケアや子供の心理を踏まえたコミュニケー
小児薬物療法研究会を立ち上げた。認定薬剤師だけでな
ションなども学べるので、とても貴重な経験になると思い
く、小児医療に関心を持つ薬剤師や医師、学生などにも
ます。小児薬物療法を行う場合、服薬指導は親御さんに
門戸が開かれ、現在、350人の会員が参加している。
向けてすることが多いのですが、実は本人の理解を得る
「すでに情報交換が始まっており、誰でも質問したり、
ことが重要で、患者の年齢に合わせて薬や副作用の説明
相談できます。薬剤師が何人もいる大きな病院でも、小児
を工夫しなければなりません。それによって副作用の早
担当の薬剤師はごくわずかです。このネットワークを活用
期発見にもつながるのです」と石川氏。
して、知識の補助や手助けができればと思っています。最
毎年3月に研修受講者を募集しているが、人気が高く、
初から小児医療を目指す薬剤師は少ない。ある日突然、
定員 250人の枠が受け付け開始日の午前中には埋まって
小児患者に出くわして慌てる人が大半でしょう。そのとき、
しまうという。実務研修を受け入れられる病院が限定され
何も知らないことに愕然として途方に暮れてしまう。しか
るので、残念ながら、当面、定員は増やせないそうだ。
し『小児の薬物療法は知りません』ではすまされません。
認定薬剤師のネットワーク作りへ
石川氏は今後の課題についてこう語る。
子供を救うことは日本の未来を救うことなんです」
石川氏の熱い思いは、小児薬物療法認定薬剤師に共
通の使命感になっていると言えよう。
「小児の治験・臨床試験を行う際に、全国の認定薬剤
師が協力し合えるようにしたいと思っています。諸先進国
では、新薬開発のために製薬会社を含めて専門家がネッ
トワークを作って対応しています。日本でも臨床試験に関
与できる小児薬物療法認定薬剤師を育てたいですね」
石川氏は、2013 年11月に小児薬物療法認定薬剤師の
関連情報サイト
■ 小児薬物療法認定薬剤師について
(公益財団法人日本薬剤師研修センター>各種認定制度>
小児薬物療法認定薬剤師制度)
http://www.jpec.or.jp/nintei/shouni/index.html
ファーマシストぷらす 2015 No.1 11