400KB - 山梨総合研究所

Vol.204-1【平成 27 年 7 月 31 日発行】
テーマ1
地方創生に向けた地域金融機関の
取組みについて
【山梨中央銀行 営業統括部 公務・地方創生室
室長
酒井 信】
1.本県における地方版総合戦略の策定
地方創生の動きが山梨県内においても目に見える形となってきた。県をはじめ半数程度の市町
村でも策定・推進組織が立ち上がり、
「人口ビジョン」
・
「地方版総合戦略」の検討が始まっている。
人口減少はすでに現実のものとなり、地域活力の維持が喫緊の課題となる一方、富士山の世界文
化遺産登録や、2年後の中部横断自動車道の全線開通、5年後の東京オリンピック・パラリンピ
ックの開催、そして、12年後のリニア中央新幹線の開通と、本県の浮上のきっかけとなり得る
イベントも予定されている。
こうした状況下で県・27市町村が“ありたい姿”を描き、どのような段階を踏んでそこに至
るのか、ということを整理し、着実に実行することが今回の取組みに求められている。
2.地域金融機関に期待される役割
地方版総合戦略の策定・推進にあたっては、
「産官学金労言」といわれる地域の様々な主体の関
与を求め、KPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクルによって着実に進捗を管理
する、というこれまでの地方振興策にはなかった方法が取り入れられている。
こうした中、私ども地域金融機関に対しては、地域をよく知る金融機関としてデータ分析や戦
略の策定・推進の各段階で自治体と協力態勢を敷き、地域の成長に向けて連携して取り組むこと
や、地域における金融を環境変化に合わせた形で提供することが求められている。
‐ 1 ‐
これを踏まえ、山梨中央銀行では5月1日付で代表取締役を長とする「地方創生委員会」をは
じめとする行内態勢を整備し、地方創生に向けて取り組んでいるところである。
3.「まち」
「ひと」「しごと」と金融機関の関わり
(1)「しごと」に関連した取組みの方向性
国が「まち・ひと・しごと総合戦略」で掲げた基本目標に関連し、時代にあった地域をつく
り、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえ、地方に人の流れをつくるにあたって前提
となるのは、地域において安定した雇用、すなわち「しごと」が創出されることである。
これまで金融機関は、お客さまの事業がより強く、永続性をもったものになるために、資金
供給とともに、その資金が活きるよう分析力や提案力といった知見を用いた働きかけを行って
きた。
総合戦略で取り組む「安定した雇用の創出」という目標も、個々の企業の事業伸長がなされ
た結果として達成されるものであり、金融機関のこれまでの取組みと親和性が高いものといえ
る。
当行としても、地方創生の流れを受けて従前にも増して取組みを強化していくところであり、
「企業ライフサイクル」と「地域産業のあり方」という2つの切り口に着目していきたい。
① 企業ライフサイクル
企業ライフサイクルに着目するということは、企業を人に見立てた場合の「誕生」にあた
る創業期、そして成長期、成熟期を経て衰退に至る一連の流れの各段階に応じた取組みを行
うことである。
雇用の面からとらえると、創業~成長期に対する施策はしごとを「つくる」こと、すなわ
ち企業の成長につれて雇用の場を増やすことにつながり、成熟・衰退期に対する施策はしご
とを「まもる」こと、すなわち既存の雇用の場が廃業等で失われることなく存続していくこ
とにつながる。
各段階における取組みの方向性の一例を挙げたい。
創業期についていえば、新たに事業を起こそうという意欲のある人が実際に事業を立ち上
げるにあたって必要となる知識や情報を伝えるための仕組みづくりや、事業立ち上げ時期の
経済的な負担を少しでも軽くするような取組みが考えられる。
成長期についていえば、売上拡大のサポートをすることが考えられる。販路開拓のための
事業者間の引き合わせ(ビジネスマッチング)を、銀行のネットワークを活用して国内や海
外向けにも行うことが考えられる。
成熟期や衰退期についていえば、事業承継対策が挙げられる。仮に事業の「後継ぎ」がい
ないために事業を畳まざるを得ない、という状況の企業について、そのまま廃業に至れば、
その分地域の雇用の場が減ってしまう。反面、それまで培ってきた技術やノウハウ、取引先
との関係性を評価して経営を引き継いでくれる人が出てくれば、事業はそのまま存続できる
‐ 2 ‐
こととなる。こうした事業の後継者の引き合わせを行うことや、そうなる以前から事業の引
継ぎについて準備する、といった取組みが考えられる。
② 地域産業のあり方
「地域産業のあり方」を考えるにあたり、本年5月に総務省統計局から発表された「地域
の産業・雇用創造チャート」をもとに、
「稼ぐ力」
「雇用力」の双方が高い産業分野トップ51
を抽出すると、各市町村の代表的な産業が表れてくる。
今後を展望するにあたっては、これらの産業が引き続き代表的な産業としてあり続けるた
めには対策が必要か、もし、これらの産業が時代に合わなくなってしまう場合、新たな産業
をどうやって起こす、ないしは誘致していくのか、といった視点が考えられる。
こうした中で、今後成長が見込まれる農業、観光、ヘルスケア等の分野と、今ある産業や
地域性との関連に着目し、これらの産業の成長をわが町の成長に取り込むような施策のお手
伝いを金融機関が行うことも考えられる。
(2)「まち」「ひと」に関連した取組みの方向性
その他、「地方への人の動き」「子育ての願いをかなえる」については、移住・定住を後押し
するために、自治体施策と連携する中で住宅ローン等を通じた取組みを行うことが考えられる。
また、
「まちづくり」については、かつて建設された公共施設が一斉に更新期を迎える状況に
対応するため、PFI等の新たな金融手法を用いた事業展開を提案していきたい。そして、財
政負担の平準化や民間のノウハウ導入によるコスト削減やサービス向上といった事業効果向上
を通じて、自治体の住民サービスの充実に貢献したい。
4.「産官学金労言」の連携で、地域に動きを
上に挙げたメニューは行政と金融機関が共に取り組むことができる分野でもある。利子補給や
資金供給などの資金の面はもとより、利用者にとって有用な情報提供の面や互いのネットワーク
を駆使した連携の面、更には地域における新たな仕組みづくりの面、といった視点での働きかけ
について、互いの強みを提供しあうことができる。
では、何のために協調対応をとるのか。それは、戦略を前に進めるために、そのまちの住民を
中心とした利用者により強く働きかけることで「動き」を起こすためである。
お客さまが何らかの「動き」を進めようとするとき、例えば事業を営むお客さまであれば、新
たな設備を導入したり、個人のお客さまであれば住宅を取得されたりする場合に、円滑な資金供
給はその思いを実現するための後押しとなる。
そのようなときに、
「このまちでの動き」の背中を押すものとして、踏み出すひとを支えるよう
な自治体のしくみがあることも大事な要素の一つになるだろう。そして、このまちでの「動き」
1
後記資料1-1およびその注釈に抽出の考え方と方法を記載している。
‐ 3 ‐
が重なることで地域の活性化へとつながっていくのではないかと考える。
このように、
“ありたい姿”に向けての取組みで地域の活性化をはかるものが今回の総合戦略で
あり、その策定・推進のために「産官学金労言」がそれぞれの専門性を発揮する中、地域の背中
を押し、確かな一歩を踏み出せるような環境を整え、しっかりと支えるしくみを作るために汗を
かく必要があると考えている。その中でも一番の「汗だく」を目指し、これまで培った知見と地
域への思いを持って山梨中央銀行は取り組んでいきたい。
資料1-1
地域の産業・雇用創造チャートの例(山梨県)
(出典)総務省統計局「地域の産業・雇用創造チャート」
※ ゼロを原点に右に行くほど「稼ぐ力」が強く、上に行くほど「雇用力」が強いことを示
す。なお、トップ5は赤実線で表される「稼ぐ力」と「雇用力」の積についてのものであ
る。
※ 稼ぐ力とは、特化係数(ある産業の従業者の割合について、当該市町村の値を全国の値で
割ったもの。1を超えると基盤産業の目安とされる)の対数をとったものである。また、
雇用力とは従業者割合(当該市町村の全従業者に占める各産業の従業者の割合)である。
‐ 4 ‐
資料1-2
自治体名
山梨県
「稼ぐ力」
「雇用力」が高い産業(中分類、県・市町村)
第1位
電子部品・デバイス・電子回路製造業
第2位
第3位
宿泊業
第4位
生産用機械器具製造業 その他の製造業
第5位
電気機械器具製造業
甲府市
その他の製造業
学校教育
医療業
政治・経済・文化団体
地方公務
富士吉田市
電子部品・デバイス・電子回路製造業
繊維工業
協同組織金融業
その他の製造業
飲食店
電子部品・デバイス・電子回路製造業
業務用機械器具製造業
都留市
生産用機械器具製造業 非鉄金属製造業
繊維工業
山梨市
医療業
社会保険・社会福祉・介護事業
持ち帰り・配達飲食サービス業 洗濯・理容・美容・浴場業
大月市
電子部品・デバイス・電子回路製造業
電気業
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
韮崎市
生産用機械器具製造業
協同組合(他に分類されないもの)
電子部品・デバイス・電子回路製造業 プラスチック製品製造業(別掲を除く)
南アルプス市
輸送用機械器具製造業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
生産用機械器具製造業 情報通信機械器具製造業 食料品製造業
北杜市
宿泊業
窯業・土石製品製造業
飲料・たばこ・飼料製造業 はん用機械器具製造業 生産用機械器具製造業
甲斐市
電子部品・デバイス・電子回路製造業
その他の小売業
飲食店
その他の製造業
飲食料品小売業
笛吹市
宿泊業
非鉄金属製造業
医療業
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
娯楽業
上野原市
電子部品・デバイス・電子回路製造業
娯楽業
生産用機械器具製造業
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
その他の小売業
甲州市
飲料・たばこ・飼料製造業
社会保険・社会福祉・介護事業
その他の小売業
電気機械器具製造業
総合工事業
中央市
食料品製造業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
道路貨物運送業
はん用機械器具製造業
持ち帰り・配達飲食サービス業
輸送用機械器具製造業 総合工事業
総合工事業
総合工事業
生産用機械器具製造業
輸送用機械器具製造業
市川三郷町
パルプ・紙・紙加工品製造業 その他の製造業
地方公務
早川町
電気業
宿泊業
鉱業,採石業,砂利採取業 総合工事業
林業
身延町
宗教
非鉄金属製造業
総合工事業
学校教育
南部町
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
化学工業
総合工事業
地方公務
娯楽業
富士川町
業務用機械器具製造業
社会保険・社会福祉・介護事業
繊維工業
食料品製造業
その他の小売業
昭和町
業務用機械器具製造業 生産用機械器具製造業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
各種商品小売業
はん用機械器具製造業
道志村
宿泊業
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
総合工事業
非鉄金属製造業
地方公務
西桂町
繊維工業
電気機械器具製造業
飲料・たばこ・飼料製造業 繊維・衣服等卸売業
忍野村
電気機械器具製造業
国家公務
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
山中湖村
宿泊業
その他の事業サービス業 総合工事業
鳴沢村
生産用機械器具製造業 鉄道業
宿泊業
宿泊業
運輸に附帯するサービス業
水産養殖業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
運輸に附帯するサービス業
不動産賃貸業・管理業
娯楽業
プラスチック製品製造業(別掲を除く)
富士河口湖町
宿泊業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
生産用機械器具製造業 娯楽業
小菅村
宿泊業
総合工事業
職別工事業(設備工事業を除く)
生産用機械器具製造業 その他の事業サービス業
その他の小売業
丹波山村
宿泊業
水産養殖業
地方公務
農業
洗濯・理容・美容・浴場業
(出典)総務省統計局「地域の産業・雇用創造チャート」
「平成 24 年経済センサス‐活動調査」をもとに当行にて作成
発行:平成 27 年 7 月 31 日
編集:公益財団法人山梨総合研究所
TEL:055-221-1020(代表)FAX:055-221-1050
URL:http://www.yafo.or.jp
発行人:村田俊也/編集責任者:末木 淳
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甲府市丸の内 1-8-11