リハビリテーションにおける脳画像の活用に向けての研究

○プロジェクト研究1349-1
研究課題
リハビリテーションにおける脳画像の活用に向けての研究
○研究代表者 理学療法学科教授 沼田憲治
○研究分担者
(8名)
放射線技術科学科准教授 對間博之,門間正彦,鹿野直人,同助教 津田啓介
理学療法学科助教 岩本浩二
看護学科准教授 川野道宏
医科学センター教授 永田博司,
付属病院准教授 河野 豊
○研究協力者 理学療法学科嘱託助手 武下直樹
(3名)
付属病院研修士 山本 哲,岡本善敬
○研究年度
平成25年度
(研究期間) 平成25年度~平成27年度(3年間)
【研究目的】
多様な症候を有する脳卒中患者の障害を把握するうえで脳画像の有用性は高い。CT、MRIは解剖
学的な病巣部位に関連した機能障害の把握に有用である。一方、脳の血流や代謝の状態を計測する
SPECT画像はCT、MRIでは得られない脳の機能的問題点を把握することが可能である。さらに近年、
拡散テンソル解析により皮質下線維の損傷を画像化および数値化することが可能となった。これ
らの画像は運動障害のみならず脳高次機能障害などの多様な症候の把握に高い有用性があり、リ
ハビリテーション分野での応用性が期待されている。しかし、リハビリ分野において脳画像は用
いられことが少ないのが現状である。本研究プロジェクトの目的は臨床における脳画像の普及と
ともに、リハビリテーションの高度化に寄与することである。
本プロジェクトは、症例研究によりSPECTおよび拡散テンソル画像(DTI)の有用性を確かめるこ
とを目的とした臨床研究グループ、およびリハビリ支援用画像表示ツールの開発等を目的とした画
像研究グループの2つの研究グループを構成し実施した。
【臨床研究グループ研究】
(目的)
CT、MRIで解釈困難な症候を呈する患者のSPECT画像ないし拡散テンソル画像から症候の背景を解
明する。その研究結果を蓄積し多様な障害についてそのメカニズムを解明する。
(研究協力者)
本学付属病院にリハビリを目的として入院および外来通院している脳卒中患者の中から本研究の
趣旨と内容を理解し承諾書による同意を得た者とした。
(方 法)
1. SPECT画像研究:電子カルテ情報の中から、神経学的・神経心理学的検査所見、および運動・
動作・ADL所見(新たに実施した検査も含む)を抽出した。その中からCT、MRIでは解釈困難な
症候や機能障害を呈する患者について、SPECT画像をもとに症候の要因を検討した。
2. 拡散テンソル解析研究:解析にはMR 拡散テンソル可視化ソフトウェア(dTV;青木ら)を用
いた。錘体路障害を呈する患者を対象に、錘体路線維のTract graphyおよびFractional anis
otorophy(FA値)解析により麻痺重症度との関連性を調べた。
(結果と考察)
SPECT画像研究:①プッシャー現象を伴う放線冠梗塞患者のSPECTでは、病巣半球側の皮質・皮質下
全般と非病巣側小脳に著明な血流低下が認められた。このことから、プッシャー現象は半球間抑制
障害の顕著化に伴う非病巣半球の過活動、および小脳の非活性化の要因が考えられた。②視床性失
立症が遷延した両側視床梗塞例では、両側の一次視覚野を除く皮質全体に血流低下が認められた。
失立症は前庭からの投射を受容する頭頂葉、側頭葉、前頭葉領域が含まれていたためと考えられ
た。③皮質盲例では、両側視覚野の血流低下を認めるも頭頂葉、側頭葉の血流低下はなかった。こ
れは盲が中心視野に限定されるも、動きを感知するとともに上肢の運動反応に関与する周辺視野に
は問題が生じなかった現象と一致していた。
以上に述べたの症候は、CT、MRIでは見出すことが不可能であり、SPECT画像と症候の因果関係を
直接示す有意義な結果が得られた。
拡散テンソル解析:10例の脳卒中患者について解析を行った。大脳脚錘体路線維の走行領域にROI
を設定し、白質路の画像化(Tractgraphy)とFractional anisotorophy(FA値)による定量解析を
行った。Tractgraphyでは病巣部位から遠位方向に向けて皮質脊髄路の消失(Waller変性)が認め
られた。FA値は健常者に比べて低く、また患者間では麻痺の重症度との相関が認められた。今後さ
らに症例を重ねる予定である。その他、一次運動野の弓状線維の密度や橋小脳路などにも左右半球
差が認められたことから、脳損傷に伴うこれら白質路についても検討を行う予定である。
【画像研究グループ研究】
(目 的)
従来の脳血流SPECT検査に加え、新たに機能回復の予後予測や効果判定に向けたSPECT検査体制の
構築、およびセラピスト向けのリハビリテーション支援用画像表示ツールの開発。
(研究と取り組み成果)
1. 新たな脳血流SPECT検査体制と研究体制の構築と定量解析法に関する検討
従来の定量解析法とは異なるBrain Uptake Ratio(BUR法)を採用し,安静時脳血流の撮
像に加えて,ダイアモックスによる負荷時脳血流も同時に取得する撮像プロトコールの構
築と画像処理環境を整えた.BUR法による撮像は平成25年12月より臨床データの撮像を開
始した。
2. リハビリテーション支援用画像表示ツールに関する研究
SPECT画像の改良点として、①各スライス画面ごとのデータ表記、②脳領域名称表記の修正、
③SPECT画像とMRI標準脳との重ね合わせ表示、④SPECTデータのグラフ表記の工夫などに取り
組んできた。その結果、①については解決済みである。
(今後の計画)
病院PACSとの接続を行い解析画像が外来でも参照できるようシステムを構築し,新規および
経過観察を目的とした症例を蓄積し臨床研究グループとの研究を促進する.また, SPECTデ
ータの定量解析法や各種補正法の精度について検討を行い,その精度向上を図る予定である.
【成果の発表(学会・論文等,予定を含む)】
Kenji Numata, Takashi Murayama, Jun Takasugi, Masahiko Monma, Masaru Oga. Mirror
observation of finger action enhances activity in anterior intraparietal sulcus: a
functional magnetic resonance imaging study. J Jpn Phys Ther Assoc 16: 1-6, 2013
山本哲,岡本善敬,武下直樹, 對間博之,津田啓介,沼田憲治. 両側の視床梗塞によりThalamic
Astasiaが遷延した症例. 脳科学とリハビリテーションVol.13: 23-28, 2013
岡本善敬,山本哲,武下直樹,沼田憲治. 左の延髄背外側および小脳虫部梗塞により
lateropulsionが遷延した症例. 脳科学とリハビリテーションVol.13: 17-22, 2013
本研究は茨城県立医療大学プロジェクト研究(1349-1)の助成を受けて行われた。
This work was supported by Grant-in-Aid for Project Research(1349-1)from Ibaraki Prefectural
University of Health Sciences.