研 究 報 告 書 の 概 要

研 究 報 告 書 の 概 要
氏名
浜野 隆
所属
お茶の水女子大学
研究題目
発展途上国における「万人のための教育」政策と生涯学習
目的・概要
近年、発展途上国の教育開発において、EFAという教育機会保障の取り組みが活発になっ
ている。そのなかで、生涯学習の重要性は特に強調されるようになってきている。本研究で
は、発展途上国の中でもベトナムを事例として、生涯学習の最初の段階である幼児期の教育
とそれに続く初等教育を中心に、問題状況を分析・検討することを目的とした。
教育が発展途上国の開発の基盤であるという考え方は、1950年代からある。近代化論や人
的資本論という考えに基づき、途上国の教育普及は進められてきた。しかし一方で、教育が
経済成長に結びつくかどうかに関してさまざまな見解が示されるようにもなった。「教育が
経済成長を促進する」という考え方に対し、批判的な理論(従属理論や高学歴失業論等)も
出るようになった。しかし、1990年のEFA会議(万人のための教育世界会議)によって、人
権としての教育、すなわち、教育それ自体の重要性が国際的にも強く意識されるようになっ
た。
ベトナムにおいて幼児教育は確実に普及が進んでおり、非常に重視されている領域のひと
つである。しかし、一方では、格差が大きい。ベトナムにおいては「教育の社会化」という
社会全体で教育を支える運動が展開されているが、「教育の社会化」には光と影があること
も見逃してはならない。「社会全体で子育て」というと聞こえはいいが、地域住民の教育参
加が推進されるということは、地域住民の「質」が教育格差に直結することを意味する。
「教育の社会化」を進めていったときに、「教育意識が高く、経済的な負担能力も高い地
域」と「そうでない地域」との間で教育格差が拡大していく可能性は否定できない。ベトナ
ムの幼児教育においては、「教育の社会化」と「格差是正」をいかに両立させるかが重要な
課題である。
次に、ベトナムの初等教育について、「学校環境と教育達成の関係はどのようになってい
るのか」、学校の多様な側面について検討した。その結果、学校の学力と有意な相関が見ら
れたのは、学級規模、有資格教員比率、女性教員比率、経験5年未満の教員比率、経験10年
以上の教員比率、校長の教職経験年数、校長性別、電力供給、水道、トイレ、図書室、保護
者会費、課外授業費、特別行事費、保育時間数、であった。そして、「教室の混雑度」(学
級規模)、「教師の質」(有資格教員比率)、「教師の熟練度」(経験5年未満の教員比
率)、「学校施設設備」(図書室の有無)、「学校の管理運営能力」(校長の教職経験年
数)、「親の学校参加」(保護者会費)、「親の教育戦略投資」(課外授業費)を独立変数
とした重回帰分析を行なった結果、学級規模、経験5年未満の教員比率、有資格教員比率、
図書室の有無が有意な関係を示しており、保護者会費に関しては有意傾向が見られた。ま
た、学校周辺の幼稚園における保育時間は、学校での学力と有意な関係が見られた。ここで
有意な関係が見られた項目の充実が初等教育の向上の鍵を握るといえよう。
発展途上国の教育開発においては、幼児教育・初等教育に加え、青年や成人の学習が重要
視されるようになってきている。EFAの議論においても、若者のスキル教育・職業教育が課
題となってきている。ベトナムにおいては、数多くのコミュニティ学習センターが設立さ
れ、仕事や生活の改善に成果を上げているケースもある。コミュニティ学習センターでは社
会的・公共的な課題に関する講座が「提供」されるという形で進められている。地域産業振
興(工芸品の製作や販売促進)、農産物の生産性向上、養殖や畜産、養蜂技術の向上、エイ
ズの防止や家族計画に関する知識の普及、法律知識の向上、などといったさまざまな学習プ
ログラムがある。しかし、財政難などから有効に機能していない学習センターもある。今後
は、良好な実践事例(グッド・プラクティス)を抽出し、それを可能にする条件を明らかに
すること、そして、それらの取り組みを教育開発・国際開発の枠組みに位置付け、国際的な
支援をしていくことが課題となろう。
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助成金使途の項目と金額(領収書の添付は不要です)
①資料収集(書籍の購入、資料・データ複写等。予算額:100,000円)
(和書) 生涯学習関連書籍
10,091 円
初等中等教育関連書籍
10,546 円
就学前教育関連書籍
3,213 円
発展途上国関連書籍
3,591 円
教育制度関連書籍
4,441 円
職業教育関連書籍
4,994 円
データ解析関連書籍
9,072 円
人間形成論関連書籍
1,730 円
教育施設作成資料購入
3,000 円
資料・データ複写
1,511 円
(洋書) 比較教育関連書籍
4,191 円
②旅費(データ収集調査、ワークショップ、学会参加等。予算額:500,000
円)
データ収集調査
240,820 円
ワークショップ参加
131,460 円
学会参加
135,200 円
シンポジウム参加
88,580 円
③謝金(データ入力、資料整理、翻訳・通訳など。予算額:200,000円)
データ入力
45,500 円
資料翻訳
102,060 円
【総計】
800,000 円
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