スロットルバルブ制御のための開度の変曲点に基づくブラシレスモータの位相変化点の検出 Phase Change Point Detection of Brushless Motor based on Inflection Point of Aperture for Throttle Valve Control リアルタイムシステム学講座 0312011115 中村 風太 指導教員:新井 義和 今井 信太郎 猪股 俊光 1. はじめに アクセルセンサ ECU 自動車のパワー制御の方法はキャブレター式から 排気ガス浄化特性の向上のためインジェクタ方式 BLDCモータ アクセル 開度センサ に移行した.また,機械式スロットルから始まった 空気 吸気量の制御は省エネ化,低コスト化を目的とし た電子制御スロットルが主流となりつつある.電子 スロットルバルブ 制御スロットルではアクセルペダルの踏み込み量を ECU で検知し,ECU がスロットルバルブに設置さ れたモータを制御することによって精密な制御が可 能となった.スロットルバルブの制御にはブラシ付 き DC モータが用いられてきたが,長寿命化のため ブラシレスモータ(以下,BLDC モータ)に置き換 えたい要求がある.しかし,BLDC モータの制御に は位置センサとその制御回路が必要となり,結果的 にコストアップにつながる.コスト低減のための一 方策としてセンサレス駆動を行うことによってセン サを排除する方法がある.本研究では,センサレス 駆動に不可欠な位相変化点の推定方法としてスロッ トルバルブの開度センサに基づく手法を提案する. 2. 2.1. スロットルバルブ制御 スロットル機構 図 1 スロットルの構造 2.2. ブラシレスモータ 図 2 は 3 相 BLDC モータの構造を示しており, ステータに u,v,w 相の 3 系統の巻き線が内蔵さ れている.巻き線に通電すると電流が流れ,巻き線 の中のコアが磁化する.そのコアとの吸引力と反発 力を利用して永久磁石からなるロータが回転する. 例えば,図中の u 相を負に通電すると S 極に,w 相 を正に通電すると N 極にそれぞれ励磁され,ロー タは時計回りに回転する.したがって,回転するの に適切な吸引力と反発力を維持するためには,ロー タの回転によって変化する永久磁石の磁極の位置を 位置センサで検出し,それに応じて通電する相とそ の正負を適切に切り替える必要がある.それらの組 図 1 にスロットルの構造を示す.アクセルセン 合せを全開位置から順に第 1 位相∼第 n 位相と呼 サがアクセルの踏み込み量を ECU へと送信する. ぶこととする.ただし,n は全開位置までに存在す ECU は踏み込み量に応じて BLDC モータに回転速 度信号を送ることによって BLDC モータが回転し, スロットルバルブが開く.このとき,スロットルバ る位相の数である. ルブには閉方向に押し戻そうとする力を発生するス u 永久磁石(ロータ) S 位置センサ プリングが設置されており,この力とモータの回転 速度に応じた力がバランスした位置でバルブが停止 N する.これらの一連の流れで,スロットルバルブが N 開けばそれに応じた量の空気が流入し,それに応じ てガソリンの噴射量が調節され,エンジンの回転数 S w v 電気子(ステータ) を制御することができる.一般に,スロットルが目 標開度となるようフィードバック制御を行うため, スロットルバルブにはスロットルの現在の開度を検 知する開度センサが設置されている. 図 2 ブラシレスモータの構造 位置センサはモータに内蔵されるため,モータの 構造の複雑化ならびに配線の複雑化をまねき,コス トが増大する.これに対して,位置センサ以外の手 段で通電すべき相が切り替わる点(以下,位相変化 用できるか検証する実験を行った.まず第 1 に,固 点)を検出することによってセンサレス駆動する試 定 Duty 比で駆動した場合の第 1 位相における,時 みが行われている. 間とともに変化する TPS 値を図 3 に示す.ただし, 2.3. 関連研究 恩田は,ロータの永久磁石の回転にともなってス テータの巻き線にかかる磁界の変化によって,各相 に通電した極性に相反する方向に発生する誘起電圧 に基づいて位相変化点を検出している 1) .しかし, その検出のためにハードウェアを追加する必要があ り,コスト削減の観点からは限界がある.一方,三 菱電機は既設の開度センサの値(以下,TPS 値)に 基づいて位相変化点を検出する手法を提案してい 2) る .この手法では,電源投入時には位相変化点 が不明であるため,初期化処理の中で,通電相の位 相を変化させながら,位相が偶然一致して駆動でき た場合にはその位相における最大開度(以下,飽和 点)を位相変化点として学習することとしている. しかし,各位相における飽和点は,位置センサで検 出される本来の位相変化点よりも大きな開度となる ことが実験から確認されており,学習結果をその値 により近づけることが望ましい. 3. TPS 値が大きい方が閉方向,小さい方が開方向であ る.黒丸が検出された変曲点を示し,水平の直線が 位置センサによって得た本来の位相変化点である. 図からわかるように変曲点は位置センサによって得 た本来の位相変化点に近い点となった.この後, 第 2,第 3 位相においてはバネの押し戻そうとする 力がより強くなるので,検出された変曲点は本来 の位相変化点より閉方向に離れた点に存在するこ とがわかった.これに対して,各位相毎に固定する Duty 比の値を適切に変化させることによって,図 3 と同程度の位置関係に変曲点を検出できることを 確認した.次に,より早く変曲点の検出を行うため に,Duty 比の値を増加しつつ変曲点を検出する実 験を行った.この場合,飽和点に到達するまでに必 要以上に Duty 比の値が増加し,検出できる変曲点 は大きく開方向にずれることがわかった.以上の結 果から,TPS 値の変曲点に基づく位相変化点の推 定には,位相ごとに異なる固定 Duty 比で駆動する のが適していることがわかった. 変曲点に基づく位相変化点の検出 820 第1位相変化点 800 モータの回転速度制御は一般に PWM によって 780 760 行われる.PWM では,ON/OFF の反復的なパル 740 TPS値 スをモータに印加し,ON の間だけモータは回転力 720 700 を得る.すなわち,パルスの周期に対する ON パル 680 スの時間の比率(以下,Duty 比)を変化させるこ 660 とによって回転速度を制御することができる.全閉 620 640 0 50 で回転するのに足りる Duty 比で速度指令を与えた 本研究では,飽和点には本来の位相変化点を行き 150 200 250 図 3 第 1 位相の変曲点と位相変化点の関係 とき,モータは加速しながら回転を始めると,飽和 点の手前で減速に転じ,やがて飽和点で停止する. 100 時間 [ms] の位置にあるモータに最初の位相における飽和点ま 5. おわりに 過ぎる傾向があることから,その手前に存在する速 本研究では,BLDC モータのスロットルバルブ 度が加速から減速に転じる点(以下,変曲点)に注 制御への利用を目標として,センサレス駆動のため 目する.電源投入時には位相変化点が不明であるた の,スロットルの開度センサの値の変曲点に基づい め,初期化処理として,第 1 位相に適した通電相を て位相変化点を推定する手法を提案した. 探索する.駆動できたなら飽和点までモータを回転 させる.その後,通電相を変化させながら,全開に なるまでに存在するすべての位相について駆動し, 各位相の変曲点の検出を行う. 4. 実験 検出された変曲点と本来の位相変化点との関係 を明らかにし,実際に位相変化点として変曲点が利 参考文献 1)恩田 一: “ 小型ブラシレスモータの高速・セン サレス駆動システム ”,静岡理工科大学紀要, Vol. 18,pp. 41–45,(2010). “ エンジンの吸入空気量制御 2)三菱電機株式会社: 装置 ”,特許第 3543896 号,(2004).
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