リザーバー動注の基本と実際

IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会「技術教育セミナー」より:貞岡俊一
連載 2
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IVR マニュアル/ 2004 日本血管造影・ IVR 学会総会「技術教育セミナー」より・・・・・・・・・・・・・
リザーバー動注の基本と実際
東京慈恵会医科大学 放射線医学講座
貞岡俊一
はじめに
経皮的なリザーバーの留置経路には大きく, 上肢動脈
系からと下肢動脈系からに分類できる。上肢動脈系か
1 ∼ 4)
らの挿入経路では鎖骨下動脈(腋窩動脈) から橈骨
5)
動脈 までの方法が報告されている。下肢動脈系では
6)
7)
下腹壁動脈 や大腿動脈 からの報告がされている。そ
れらの動脈へのアプローチ法としては大きく外科的手
1)
技(露出法) と経皮的手技がある。経皮的手技には(1)
2, 3)
拍動を触知する直接穿刺法(セルディンガー法) (2)
8)
超音波を使用した穿刺法 (3)透視下に穿刺する方法
9)
(造影法・ガイドワイヤー逆利用法など) がある。こ
こでは, 上肢動脈系の鎖骨下動脈(腋窩動脈)を経皮的
に直接穿刺するセルディンガー法の手技について述べ
る。なお, 経皮的といっても, 皮膚をそのまま穿刺する
わけではなく, 皮膚を切開し, 大胸筋を露出して穿刺す
る方法であることをはじめに断っておく。鎖骨下経由
リザーバー挿入法は著者自身で施行した 1990 年 4 月か
ら 2004 年 4 月の慈恵医大本院と東京労災病院で 707 例経
験がある 10)が, 初期の数例を除いて手技的に失敗した
ものはない。初期には鎖骨下動脈(腋窩動脈)の位置が
不明のため, ガイドワイヤーを逆利用法したものが 17
例あり, この動脈の穿刺には明らかに learning curve が
存在する。我々, IVR を専門とする放射線科医は, はじ
めにセルディンガー法について学ぶ。その手技に慣れ
た術者であっても, この動脈の穿刺にはある程度のコツ
がいる。以下に著者が経験により手技を少しずつ変化
させ, 現在最も施行し易いと思われる方法についてその
コツを述べる。しかし, これが最終ではないので改良点
に気づいた読者には是非その方法をご教示願いたい。
鎖骨下部解剖の基礎
鎖骨下動脈は斜角筋隙から第一肋骨の鎖骨下動脈溝
を通り鎖骨および鎖骨下筋下の第一肋骨の外側縁まで
であり, その遠位で腋窩動脈に移行する。腋窩動脈は鎖
骨下縁から大胸筋下縁までをいう。最も多い型の中枢
側では, 鎖骨下動脈の前に斜前角筋を隔てて鎖骨下静
脈, 後上方には腕神経叢が存在する。腋窩動脈の前方は
大胸筋・小胸筋に覆われ前下方に鎖骨下静脈が走り, 後
方は肩甲下筋, 外側は烏口腕筋に接する。大胸筋は鎖骨
部・胸肋部・腹部の 3 部に分けられる。鎖骨部は鎖骨内
側の 1/2 ∼ 2/3 から外下方へ, 胸肋部は胸骨前面および
50(182)
上部肋軟骨から水平に外方へ, 腹部は腹直筋鞘前葉の表
面から外上方に, それぞれ起始し上腕骨上端の大結節稜
に付着する。三角筋は鎖骨の外側部・肩峰・肩甲棘か
ら起こり, 筋束は前・外・後側から肩関節を包みながら
外下方へ集中し, 上腕骨体の外側面の三角筋粗面に着く
(図 1)。
図 1 大胸筋をはずした鎖骨下部分
(矢印は腋窩動脈)
適応と禁忌
術前には説明と同意が必要である。詳細については
後述する。胸部写真により胸郭の変形, 術後変化(特に
肺尖部), 血管奇形(右大動脈弓, 重複大動脈弓, 内臓逆
位など)などをチェックする。血圧は subclavian steal
syndrome の場合があるため, 左右で測定する。
1. 絶対的禁忌
①患者の同意が得られていない場合 ②穿刺部周囲
の皮膚感染 ③著明な凝固系の異常 ④鎖骨下動脈の
閉塞 ⑤著明な胸部大動脈瘤 ⑥ shaggy aorta
2. 相対的禁忌
①右側大動脈弓 ②肺結核などの左肺尖部の胸郭変
形や術後 ③右肺の荒廃 ④著明に屈曲した胸部大動
脈 ⑤特定の職業
最低限必要な器具
1. 穿刺針(19 G エラスター針:八光エラスター 1 型 EV119 G × 63a :八光社製, その他 18 G エラスター針)
R
2. ガイドワイヤー(テルモ社製ラジフォーカス ガイド
ワイヤー M RF-GA 35153)(
, テーパーリングタイプの場
合は更にカテーテル交換用としてテルモ社製 GT ワイヤ
ー RG-GT 1818S)
R
3. カテーテル(東レ社製アンスロンブレイクスルー 4.1
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技術教育セミナー/リザーバー動注の基本と実際
Fr.マーカーつきヘッドハンタータイプ MA 41703 A 00)
4. 血管撮影セットおよび動注リザーバー滅菌セット
ディスポドレープ, 注射針 23 G 1 本, 注射器 ディス
ポロックつき 10 p 1 本, 5 p 1 本, ロックなし 10 p 1
本, ヘパリン加生食(生食 1000 p +ヘパリン 5 p), 1 %
キシロカインE 20 p または 1 %キシロカイン 20 p, 非
イオン性ヨード造影剤(ヘキサブリックス)50 p 程度,
絹糸(2 - 0, 1), 眼科用ナイロン糸(2 - 0, 1), 縫合針(角
針 4 号 1 本), ステンレスバット 1, 布鉗子 4 本, モスキ
ートケリー 3 本, 持針器 1 本, 無鉤鑷子 1 本, 有鉤鑷子 1
本, ディスポメス 1 本, 眼科用剪刀 1 本
5. 無影灯など
R
6. リザーバーカテーテル(東レ社製アンスロン P-U カテ
ーテル レギュラータイプ5.0 F 70 b PU5070HFAA ;テ
ーパーリングタイプ シャフト部 5.0 F 70 b, 先端部 2.7
F 20 b PU 5090 SDST)
7. リザーバーポート, マイクロカテーテル, マイクロガイド
ワイヤー, マイクロコイル,(ヒストアクリル, リピオドール)
以上にあげた道具については著者が使用しているも
のであり, 必要に応じて変更は可能である。なお, 6 と 7
は穿刺終了後に使用する。著者は肝動脈内に細いカテ
ーテルを挿入するのを基本としており, 挿入するカテー
テルはテーパー型を主に使用している。そのため, はじ
めに 4 Fr.のカテーテル(図 2)を挿入しその後カテーテ
ル交換をしている。しかし, テーパー型でなく 5 Fr.の
R
図 2 東レ社製アンスロンブレイクスルー 4.1 Fr.
マーカーつきヘッドハンタータイプ:先端から
5 b 毎に 20 b まで目盛りが振ってある。
R
図 3 5 Fr.アンスロン P-U カテーテルの先端(左:
先端研磨型 右:通常型):腋窩動脈穿刺法で血
管障害を低減するにはこのカテーテルが必要で
ある。
カテーテルを留置する場合もあり, その際にカテーテル
を挿入する抵抗を低減するため, リザーバーカテーテル
の先端はいわゆる面取りをしている(図 3)。
方法
1. 肢位と消毒
穿刺法では肢位がもっとも大切である。それにより
穿刺部の広さが変化し, 穿刺の難度が変わる。穿刺部を
広く取るには左上肢を約 90 度に外転させる。これは,
鎖骨下部の腋窩動脈は上肢を内転させる普通の肢位で
は上腕骨頭部と烏口突起が隆起し, 穿刺部が狭くなるか
らである。更に肩関節はやや外旋させた(胸をそらす)
ほうが触知は容易となる。しかし, 過剰に外旋させると
大胸筋鎖骨部は緊張し, かえって触知困難となる。前腋
窩線を上方に伸ばした線より内側の鎖骨に一番近い部
分で拍動を最も触知できるところが穿刺目標点になる。
一方, 体格がよく触知が可能ではなくても, 左上肢を外
転させると皮下の大胸筋鎖骨部が体軸に垂直に内側か
ら外側に走行しているのがほとんどの症例で触知可能
である。その筋肉の鎖骨に出来るだけ近い部分が目標
点となる(図 4a, b, 図 5)
。
消毒部位はその目標点を中心に上方は下顎部近くまで,
下方は乳頭近くまで, 外側は上腕骨・中腋窩線近くまで,
内側は胸骨右側近くまでの広範囲を消毒する。感染を生
じた例がないためブラッシングは施行していない。
シーツはディスポシーツが推奨される。穿刺目標点
を中心に穴明きシーツを用いて上半身が覆われるよう
にかける。顔面にかかるので, うまく顔面をはずしてか
けるか, リヒカ(大腿用)などで工夫する。
2. 麻酔と皮下ポケット作成
穿刺目標点の周囲から皮下ポケットを作成する穿刺目
標点内側尾側の皮下まで 1 %塩酸リドカイン(キシロカ
R
イン :アストラゼネカ株式会社)を約 15 p 使用し十
分麻酔する。その際心臓疾患, 高血圧などの疾患がなけ
R
ればエピネフリン入りの 1 %キシロカイン E を使用す
ると, 皮下組織を剥離する時に出血はほとんど見られな
い。なお, 当科では電気メスは使用していない。
重要なのは, この後すぐに経皮的に動脈を穿刺するわ
けではないということである。いくら拍動を触知する
からといってあわてて穿刺せずに皮膚切開を加えた後,
まずは皮下ポケットを作成する。
穿刺目標点を中心に鎖骨下に約 2 ∼ 3 b の横切開を加
える。切開の長さは埋め込むポートのサイズで決める
が, 必要最小限とする。その後ポート埋め込みのための
ポケットを作成する。それには横切開を加えた皮下を
モスキートで大胸筋筋膜まで剥離する。その深さで, 剥
離を内側尾側の胸骨方向に進め, ポケットを埋め込むポ
ートのサイズに広げる。その際はモスキートや小指で
皮下組織の剥離を慎重に行う。ポケットに十分にポー
トが入るか確認する。
3. 穿刺
(183)51
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穿刺点の筋膜下の大胸筋鎖骨部にキシロカイン約 5 p
で局所麻酔を行う。この筋への麻酔がないと, 穿刺の際
に患者の疼痛が強く, 肩を動かすことがあり穿刺の失敗
の原因となる。また麻酔に使用する針はカテラン針な
どの長い針は使用しない。このような長い針は容易に
胸腔内に入り, 気胸を起こす可能性が強い。普通の長さ
の 23 G 針で充分で, 深く麻酔をする必要はない。
穿刺点から穿刺をするが, 術者の立ち位置は, 外転し
た患者の左上肢の頭側でも, 尾側でも術者の好みによっ
て決定する。穿刺後ガイドワイヤーを挿入する際に透
a
b
図4
a : 左上肢を外転しない場合は, 左第一肋骨外側
縁は鎖骨に近く, 穿刺部位は限局される。
b : 左上肢を外転した場合は, 左第一肋骨外側縁
は鎖骨から離れ, 穿刺部位が広くとれる。
図 5 左上肢を約 90 度に外転させる。前腋窩線を上
方に伸ばした線より内側で拍動を最も触知でき
るところの鎖骨に一番近い部分が皮膚切開部に
なる(矢印から矢印)。
52(184)
視が必要となるため, すぐに左鎖骨部の透視ができる状
態にしておく。触知ができても, 大胸筋鎖骨部の筋肉を
モスキートで深部に分け入り, 筋肉内に人差し指が挿入
できるようにしておく。拍動を触知でき, 穿刺可能と術
者が考えた場合はそこが穿刺点となる。切開しても動
脈の拍動が全く触知できない場合や拍動が弱い場合は
頭側あるいは尾側にわずかに異なる部位での筋肉を深
部に分けていくと触知できる。しかし, どうしても触知
不能な場合は透視法など他の方法を考える。
セルディンガー法に慣れた術者でもこの部分の穿刺
が最も難しい。
穿刺に関して我々は 19 G エラスター針を用いている。
これはこの針が硬く“しなり”がほとんどないため, 目
的の血管にまっすぐに到達できるからである。穿刺は
皮膚面に対して 30 度から 45 度ぐらいで行っている。こ
の理由は穿刺角度が大きくなるほど, 末梢側にガイドワ
イヤーが向かうことが多く, 角度が浅いと肺尖に到達す
る場合がある。穿刺方向は患者の体軸に直角ではなく,
やや頭尾方向である。穿刺点の部位に左指をあて, 指で
拍動を触れながらセルディンガー法と同様に動脈を穿
刺する(図 6, 7)。穿刺に成功すると血液が出てくるが,
ここで穿刺を中断すると, 穿刺針の内筒しか挿入されて
いない場合もあるため更にわずかに奥へ押し込んでお
く。後壁も穿刺する可能性はあるが, 止血に難渋したこ
とはない。この時拍動を触れている左指は決して力を
緩めない。穿刺の際に針先が第一肋骨に先端があたる
場合があるが, 外筒をできるだけ圧迫するように押しな
がら内筒を抜いてくると成功していることも多い。失
敗したときはやや針先を戻し尾側に向けて穿刺する。
血液が出てこなくても穿刺が成功している場合もある
図 6 腋窩動脈穿刺時の左鎖骨下部の DF 像(穿刺時
は透視は一般には使用しない)。穿刺針先端(矢
印)はほぼ第一肋骨外側縁である。
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図 7 穿刺は皮膚面に対して 30 度から 45 度ぐらいで
穿刺点の部位に左示指をあて, 指で拍動を触れな
がらセルディンガー法と同様に動脈を穿刺する。
のでゆっくり針を引いてくるが, このときも左指は決し
て力を緩めない。穿刺に失敗した場合は血管を穿刺して
いなければ, 当然何度でも穿刺可能である。しかし, 血
管を穿刺後に失敗した場合は, 穿刺点と考えられる部位
をしばらく
(5 分程度)押さえて様子を見た後, 出血がな
い場合には再度の穿刺が可能である。数回に及んでも穿
刺が不可能なら透視法など他の手段を考える。
4. ガイドワイヤー挿入
穿刺針から内筒をゆっくり抜く。この時も左指の力
R
は緩めない。血液の噴出が見られたら, ラジフォーカス
ガイドワイヤー M(以下ワイヤー)を挿入する。内筒を
抜いた時点で血液の噴出がない場合は, 左指の力を徐々
に緩める。このとき急に緩めると, 針先が筋肉の力で抜
けることがある。それでも血液の噴出がない時は, 左指
の圧迫を強めて, 血液の噴出が見られるまでゆっくり外
筒を抜いてくる。噴出がわずかなときは, 同様に左指の
力を徐々に緩める。血液の噴出が見られたら, ガイドワ
イヤーを挿入する。ガイドワイヤーの挿入には必ず透
視にて先端を確認し, 鎖骨下動脈から大動脈に逆行性に
ガイドワイヤーが進んでいくのを確認する。ガイドワ
イヤーを椎骨動脈に入れないように注意する。内膜剥
離や攣縮が起きる場合がある。ガイドワイヤーを上行ま
たは下行大動脈に入れるが, まだ余り深く挿入はしない。
5. カテーテル挿入
エラスター針の外筒を抜きガイドワイヤーに 4.1 Fr.
ブレイクスルーカテーテルをかぶせて大動脈弓まで入
れる(図 8)。その際, 動脈の壁でわずかな抵抗が感じら
れるがカテーテルを回しながら入れるとうまく挿入で
きる。カテーテル先端の方向を下行大動脈とする。ガ
イドワイヤーが挿入時点で下行大動脈方向にあれば, そ
のまま挿入するが, 上行大動脈となっている場合は大動
脈弓まで戻し, ガイドワイヤーなどでカテーテル先端を
背側に向け, 下行大動脈に挿入する。その際の挿入法の
一例を挙げる。カテーテル先端を大動脈弓とし, 鉗子な
どで J 型に曲げた(r=2 b 程度で半周ぐらい)ワイヤーの
硬い方をカテーテルに挿入する。その際曲率半径が小
さすぎるとカテーテルの通過が困難で, 更に穿刺部から
動脈挿入部の通過も困難である。硬いワイヤー先端は
カテーテル先端から絶対に出ないように注意する。そ
してカテーテルの先端を背側に向けワイヤーを把持し
て, カテーテルのみを挿入していくと下行大動脈に挿入
可能である。その後, ワイヤーを一度抜き, 柔軟部に入
れ換えて腹部大動脈にまで挿入する。ただしこの方法
はある程度の熟練を要し, ワイヤー断裂の危険性がある
ため注意が必要である。他には 70 b 程度の 5 Fr.ピッグ
テールカテーテルなど先端屈曲の強いものに入れ替え,
ワイヤーを用いてカテーテル交換をする方法もある。
シースを利用する方法はカテーテルとシース外径差の
ために止血困難となる場合がある。なお, カテーテル先
端が腹側を向いているかどうかは, ヘッドハンター型カ
図 8 ガイドワイヤー挿入後, セルディンガー法にて
カテーテルを腋窩動脈に挿入。
図 9 ヘッドハンター先端の透視での向き。シャフトと
先端の角度で判別できる。
左:角度は開いて見え, 先端は背側を向いている。
右:左図より角度が小さく見え, 先端は腹側を向い
ている。
(185)53
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テーテルではカテーテルのシャフト部と先端部との屈
曲角で判断できる(図 9)。
6. 目的動脈へのカテーテル挿入
筆者はこの後, このカテーテルからマイクロカテーテ
ルを挿入し, 血流改変をしている。留置カテーテルは 5
Fr.のカテーテルを挿入するが, 先端が 3 Fr.程度にテー
パーしているものかテーパーしていないものを使用す
る。最近は, テーパー型を使用しているが, シースを用
いないためカテーテル交換が必要である。マイクロカ
テーテルに 0.018 インチの GT ガイドワイヤーを通し,
カテーテルのみを全体的に抜去し, PU アンスロンテー
パー型カテーテルを挿入している。
抜去の際, I.I. はガイドワイヤー先端位置を確認する
ため腹部の位置にあり, カテーテルが急に抜去されない
ように鎖骨下部や鼠径部を透視するには I.I を動かす必
要がある。使用しているブレイクスルーカテーテルに
は先端から目盛りが振ってあるため, カテーテル交換の
際にカテーテルが抜けるタイミングがつかみやすい。
7. ポートの埋め込み
アンスロンカテーテルは大胸筋膜上で一針かけて固
定し, 2 b 程度出たところで, 切断する。ポートを接続
しポートをポケットに挿入する(図 10)
。
合併症とインフォームドコンセント
以下に挙げる合併症を生じる可能性があり, 説明書に
含んでおくのが望ましいと考える。
1. 手技中に生じるもの
1)気胸
穿刺法に特有の合併症であり, 多くは処置を必要とし
ないがまれに脱気などの処置が必要となる場合もある。
図 10 リザーバー留置後の左鎖骨下部。皮下ポケッ
トを内側尾側に作成し, 筋肉上のカテーテルは必
要最小としポートと接続している。
54(186)
大胸筋への麻酔で穿刺時に疼痛を訴えることはほとん
どないので, 出来るだけ深部には麻酔はしないように麻
酔の針を短いものにする。
2)動脈解離
手技に慣れた術者が行えばほとんど生じない。しかし
生じた場合も重篤になることは少なく, 経過観察で十分な
場合が多い。ただ, 生じた場合は他の経路に切り替える。
3)出血・血腫
シースなどの外径が大きいものを使用したり, 乱雑な
手技など技術的な原因で生じることが多いが, 患者の血
液凝固能などが原因となる場合もある。圧迫止血しか
方法はない。皮膚をそのまま穿刺した場合では穿刺部
が鎖骨より内側で鎖骨や筋肉のため圧迫の効果が薄い
が, 皮膚を切開して大胸筋を露出し穿刺する我々の方法
では穿刺点近くまで指の挿入が可能で, 露出法についで
止血は確実となる。
4)神経障害
麻酔の際や, 上肢を外転させておくことで生じる一過
性のものがほとんどで, 穿刺による合併症は認めていな
い。ただ, 可能性としてはあると考えられる。
5)脳梗塞
術中に生じることは少ないが, 長い手技時間や強い動
脈硬化などで生じる可能性はある。
2. 術後生じるもの(手技的なもので, 薬剤注入などを原
因とするものを含まない)
1)カテーテルの逸脱・移動
カテーテルは動脈と直接結紮していないため, カテー
テルが筋肉の動きにより抜ける場合があり, 完全に自然
抜去された例もある。その際は再挿入となるが, 抜去に
関しては問題がある。後述する。
2)ポートの問題
まれにポートが反転する場合があるが, ポケットに余
裕がありすぎた場合が多く, またカテーテルの捩れも原
因となる。また, 皮下脂肪の少ない症例でポートまたは
カテーテルの圧迫により皮膚から潰瘍を伴って突出す
る場合がある。いずれもポートの再留置となる。更に,
感染を生じる可能性もある。しかし, 潰瘍を生じた場合
以外で感染を経験したことはなく, その場合も抗生剤の
投与で治癒した。
3)放射線被曝
被曝についても説明する必要がある。2 Gy を超える
と皮膚障害を生じる可能性があるが, 鎖骨下部を長時間
透視する可能性は低く, 腹部におけるカテーテル操作で
の時間が問題となる場合が多い。
4)鎖骨下・腋窩動静脈シャント
直接露出法や超音波による穿刺では鎖骨下・腋窩静
脈の穿刺を避けうる。触診法では避けられない可能性
があるが, 3DCT や穿刺後の静脈撮影では静脈の穿刺は
されていないことを多くの施設が発表した。しかし, 鎖
骨下・腋窩静脈には変異が多く動脈上に静脈が走行し
ている例もある可能性がある。実際は現在まで動静脈
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シャント症例の経験はないし他施設からの報告もない
ため, 危険性は少ないと考えられる。
5)脳梗塞
鎖骨下経由の宿命であり, 主な報告例は 15 施設で, そ
11, 12)
。
の頻度は 1.03 %(2/195)∼ 10.9 %(5/46)である
13)
最も症例数の多い愛知がんセンターで 1.91 %
(12/626) 。
発症時期は留置直後(1 ∼ 8 日)から最長 9.5 年である。
14)
一方, 鎖骨下経由以外の症例にも発生例の報告がある 。
担癌症例は凝固亢進状態にあることや CDDP は全身投
与でも脳梗塞の報告があり添付文書にも記載されてい
るため, LFP 療法では注意が必要と思われる。しかし,
実際に鎖骨下経由での脳梗塞の発生は担癌症例や大腿
動脈留置群との比較が必要で今後の検討が待たれる。
ここで, カテーテル抜去の問題について述べる。以前
は筆者の施設でも筆者を含めた放射線科医や外科医が,
10 年以上にわたりおよそ数十から 100 例を超える症例
で鎖骨下部の挿入した部分からカテーテルを抜去して
おり, 合併症は生じていなかった。しかし, 昨年抜去し
た症例で脳梗塞を生じた。その症例についての詳細は
避けるが, それ以降抜去を極力控えている。抜去の適応
は各施設・各患者・各疾患で異なるが現在は原則抜去
しない方針である。実際に抜去が必要となった場合は,
椎骨動脈にバルンやバスケットを入れる案もあるが, そ
こまでのルートに血栓がある可能性があり却下される。
14)
一方, 大腿動脈経由で抜去する報告 もあり, 推奨する
医師もいるが, 筆者はその意見には懐疑的である。留置
だけで脳梗塞を生じる症例があるということは, 鎖骨下
動脈に血栓が存在していることに他ならない。その症
例でカテーテルを鎖骨下部で切断し, カテーテルを大腿
動脈から引き抜く場合, 血栓が鎖骨下動脈に迷入する可
能性は否定できない。しかし筆者は現在では仕方なく
その方法を行っている。その理由は現在までその方法
で合併症を生じた報告がないためである。ただ, その方
法での施行症例が少ないために合併症報告がないとも考
えられ, 更に抜去の手間や抜去の際の合併症も考慮する
と安全とは言いがたい。よって, 抜去には十分な適応の
検討と, 十分なインフォームドコンセントが必要である。
まとめ
鎖骨下穿刺による手技の実際について詳述した。こ
の手技は熟練がある程度必要であるが, セルディンガー
法に精通した術者であれば, 比較的短時間で会得できる
と考える。ただし, 鎖骨下(腋窩)動脈経由は大腿動脈
経由にない特性があり, この経路で施行する際にはこの
経路の利点と合併症を患者と家族に十分説明した上で
施行する必要がある。
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13)佐古田勝, 荒井保明, 松枝 清, 他:左鎖骨下動脈経
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14)玉置雅弘, 山崎俊成, 影山 進, 他:浸潤性膀胱癌に
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研究会抄録集 : 75, 1998.
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