5 片側性と両側性の原発性アルドステロン症を鑑別するために施行された

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片側性と両側性の原発性アルドステロン症を鑑別するために施行された MDCT:副腎
静脈サンプリングと MDCT の比較
Diagnostic Performance of Multidetector Computed Tomography in Distinguishing Unilateral From
Bilateral Abnormalities in Primary Hyperaldosteronism: Comparison of Multidetector Computed
Tomography With Adrenal vein sampling Raman SP, et al. J Comput Assist Tomogr 2015; 39:
414-418
原発性アルドステロン症は続発性高血圧症の主要な原因であり、全高血圧患者の 5~13%である。原発性高血
圧症は特に重症の高血圧症患者で多く、他の原因の高血圧と比較して心血管系疾患及び標的臓器の障害が
大きい。よって、正確な診断が必要であり、適切な治療を行う必要がある。血漿アルドステロン/レニン活性比及
びアルドステロン抑制試験により本症の診断がなされた場合は、適切な治療は病変が片側性か両側性かにより
異なる。特に病変が片側性の場合は患側の副腎摘出術により治療されるが、両側性の病変の場合は外科的治
療による治癒の可能性が低いので内科的に治療される。
1960 年代以降、副腎静脈サンプリングは片側性と両側性の鑑別の金科玉条とされてきた。副腎静脈サンプリン
グと旧式 CT との比較を行った以前の研究では、CT で指摘された病変と副腎静脈サンプリングの結果に解離が
多かった。よって、多くの施設では未だに副腎静脈サンプリングがルーチンに行われている。2008 年の内分泌
学会のガイドラインでは、外科的治療を受ける前の全ての本症の患者は副腎静脈サンプリングを受けるよう推奨
された。だが、副腎静脈サンプリングは技術的に難しく、特に右副腎静脈のカテーテル挿入は困難である。さら
に、合併症が多く 5~10%とする報告がある。今回我々は最新の MDCT を用いて副腎静脈サンプリングの結果
と対比し、副腎静脈サンプリングを回避可能かどうか検証してみた。
(対象と方法)MDCT は 16 列、64 列、128 列(dual-source)の 3 台を用いた。対象は本症と診断された 56 人の
患者であり、2 人の放射線科医が副腎結節及び限局性副腎肥厚の存在について別個に再検討した。その結果
は副腎静脈サンプリングの結果と比較された。
(結果)MDCT で片側性の結節と診断された 35 人の患者のうち、副腎静脈サンプリングの結果と合致したのは
23 人(65.7%)しかなかった。結節の大きさに主眼をおいた場合、MDCT では 10mm 以下の結節では 71.4%の
合致率、11~20mm の結節では 55.0%の合致率しかなかった。12 例で MDCT は病変の局在を正確に同定する
ことが出来なかった。副腎静脈サンプリングは MDCT で指摘された反対側の副腎に 4 例の異常を指摘し、8 例
で病変の局在性がないことを示した。MDCT で両側副腎が正常と診断された患者のうち、2/7(28.6%)の患者が
副腎静脈サンプリングで片側性の病変が示され、MDCT で両側性の副腎結節を指摘された患者のうち、副腎静
脈サンプリングで局在性がないと証明されたものはわずか 3/14(21.4%)であった。
(結論)MDCT は最新の機種をもってしても十分な診断能がなく、副腎静脈サンプリングにとって替るものではな
い。
(日高のコメント)当院の CT は 80 列ですが、本論文の結論通り CT の読影結果と副腎静脈サンプリングの結果
に解離が生じることがしばしばあります。原発性アルドステロン症では形態的診断のみでは限界があると思いま
す。副腎静脈サンプリングは困難な手技で患者さんや術者にストレスがかかりますが、MRI や核医学検査などで
画期的な機能的診断手法が開発されない限り、副腎静脈サンプリングの優位は揺るがないのではないでしょう
か。
(放射線科
日高 啓)