Lecture 教育講演 肝臓のMRI検査 京都市立病院 放射線部 小倉 明夫 ここでは肝臓のMRI検査について,CTとの比較をしな 差運動の回転数の差を利用して,in-phase,out-of-phase がら解説したいと思います.まず,MRIとCTの違いです という位相の違いを反映するコントラストの異なる画像 が,学生実習生にMRIとCTの差は何かと質問すると,全 を得ることが可能です.また,脂肪抑制の使用や,ある ての学生がMRIは任意の裁断面が撮像できるが,撮像時 いはフローの情報を得ることもできます.また最近では 間が長いというふうに答えます.それはテキストに書い 位相情報を使用して,温度測定や,硬度測定を画像化す てあるとおりですが,残念ながら昔の話で,いまでは ることも行っています.それから,磁化率の差を利用し MDCTはisotropicなボクセルで画像が撮れるわけですか て,たとえば血液中のヘモグロビンの磁化率変化によ ら,MPRで自由に任意の裁断面を得ることができます り,血腫や出血を検出することも可能です. し,MRIは数百ミリ秒で撮像可能なシーケンスもありま また拡散を見るとか.ガトリニウムの造影剤を使った す.それでは,CTとMRIの特徴差は何でしょうか.表 1 perfusion,酸素濃度の違いによる機能画像も撮像されて に示しますが,空間分解能に関しては,CTが512マトリ います. ックスを基本にしているのに対し,MRIは256マトリッ 造影剤でもSPIOの造影剤というものがありますが,こ クスで画像を構成していますから,CTのほうが空間分解 れも磁化率の差を使って正常肝の信号を抑制し腫瘍を検 能は優位であります.時間分解能に関しては,MRIでは 出するというものです.さらには,組織特異性の造影剤 1 秒以下で撮像は可能ですが,ボリュームで考えた場 が今いくつか開発されており,そういう造影剤を使用す 合,これもCTのほうが優位であると思います. ることによって,ますますコントラストの幅が増加する それではコントラストはどうかというと,CTはMDCT と思っています. になっても,コントラスを表わすのは組織のX線吸収係 数の差なので基本的に変わりません.それに対してMRI 腹部のMRI はT1,T2,プロトン密度を基本として,その他諸々のコ 腹部MRIのルーチン検査の紹介をしたいと思います. ントラストを示す成分があるため,MRIのほうが優位で 最近のMRI検査は,ほとんど呼吸停止下の撮像を行って あると考えます. います. 安全性に関しては,CTが電離放射線を使用するという 当院では,T2強調画像のシーケンスとして,スピンエ こともありますが,MRIも静磁場による磁気トルクや コー系列のFSE,グラジエントエコー系列のTrue-FISP, RF,傾斜磁場の変動による人体への影響もあるため,一 T1強調画像のシーケンスとして,FLASHのダブルエコ 概にどちらが安全とも言いきれないであろうと考えま ーでin-phase,out-of-phaseを一度に撮像可能なSINOPを す. ルーチンで使っています.また,それぞれのFSEやTrue- したがって,MRIがCTよりも優位であるというところ FISPなどに脂肪抑制を加えるとか,コントラストに問題 は,コントラスト特性というところになると思います. がある場合には,呼吸同期でスピンエコー系列の画像を MRIのコントラストについては,T1,T2,プロトン密度 撮ることもあります.それからDynamic study,これは は基本的な知識として既知かと思いますが,それ以外に CTと同じです.また,先ほどお話したようなSPIOの造 位相情報というものがあります.例えば,プロトンの歳 影剤を使うmeta検索や,これ以外にも,MRCPもよく行 われています. ここでin-phase,out-of-phaseとは,脂肪と水のプロト 表 1 MDCT vs MRI ンの歳差運動の回転数が 3ppm違うということを利用し 任意の断面 MDCT = MRI て,TEの設定によって水と脂肪が反位相になるタイミン 空間分解能 MDCT > MRI グで画像を撮るのをout-of-phase,水と脂肪が同位相にな 時間分解能 MDCT > MRI るときのTEで撮った画像が,in-phaseと呼ばれているも コントラスト MDCT < MRI 安全性 MDCT ? MRI のであります(図 1) . これにより,腫瘍内に脂肪成分が含まれる場合には, out-of-phaseで画像を撮ると脂肪と水が信号を打ち消しあ 29 Lecture out-of-phase 脂肪 水 in-phase 腫瘍内に脂肪成分を含む場合に, out-of-phaseでは信号が下がる. 図 1 in-phase, out-of-phase 脂肪と水のプロトンが異なる周波数 (3ppmの差) で歳差運動するた め,TEによって同位相になったり,逆位相になったりする. HASTE FLASH out-of-phase FLASH in-phase 図2 うので,信号が下がり,それにより脂肪成分が含まれて はT2 ∗を短縮させ,信号が低下します.しかし,転移腫 いるかどうかがわかります. 瘍あるいは古典的なHCCには,Kupffer細胞が存在しな 図 2はHASTEのT2強調画像とFLASHのT1強調画像の いために,そこだけは信号が低下せず高信号に描出され in-phase,out-of-phaseの肝臓です.画像を見ていただい るということで,基本的にはmeta検索などによく利用さ て,脂肪と接する組織の間にケミカルアーティファクト れています.図 4がSPIOのT2∗の画像で,腫瘍がよく描 が出ているのがout-of-phaseです. 出されています. 図 3は副腎のアルドステロン症 (aldosteronism) の症例 Dynamic studyは,CT,MRI両方のモダリティで行わ です.アルドステロン症は副腎に脂肪を含むため,in- れていますが,施設によって使用されるモダリティはさ phase と比較してout-of-phaseで副腎の信号が低下してい まざまです.両者のモダリティのHCCの検出能に対して ます. 臨床的にレトロスペクティブな評価をした論文では−こ SPIOの造影剤は,正常肝類洞にはKupffer細胞が存在 れはMDCTが出る前の論文ですが,− 2cm以上のHCCに することを利用するものです.Kupffer細胞は100nmサイ 関しては有意差がないが− 1cmあるいは 2cm以下のHCC ズの結晶を貪食する性質を持っており,そこにSPIOとい に関しては,MRIのほうが高い検出能を示す結果がでて う数nmの鉄成分を含んだ結晶を投与すると,正常肝の います.その原因は明言されていませんが,MRIのコン Kupffer細胞がそれを取り込むことによって,T2あるい トラスト分解能が高いからであろうという考察をされて 30 Lecture FLASH in-phase aldosteronism FLASH out-of-phase aldosteronism 図3 いるものが多いです. そのため,われわれは実際に物理的な実験を行ってみ ました.実験方法の詳細は省きますが,造影剤のコント ラストはCTとMRIは同等か,シーケンスによってはCT の方が高い結果となりました.しかし,SNR(信号雑音 比) はMRIの方が高く,そのためCNR(コントラスト雑音 比) はMRIが高い結果となりました (図 5). しかし上記の結果は,正常肝臓とHCCに同じような分 布で造影剤が入ったと仮定した場合で,実際にはCTは基 本的に100mL程度の造影剤を3∼5mL/secで静注していま すし,MRIでは約10∼15mLの造影剤を1∼2mL/secで静 注しています.つまり,ボーラス性が異なることで, time-enhancement curve(TEC) が異なり,造影剤の分布 も異なることが予想されます.そのためPharmacokinetic ∗ T2 WI with SPIO Model(図 6) からTECをシュミレーションして,TEC上 図4 で図 7に示すように撮像時間の積分の比率を求めること により,動脈相での正常肝臓とHCCに 入る造影剤の分布率を比較しました. 160 結果を図 8に示します.従来のヘリカル 140 120 SNR CTではMRIより分布率が低くコントラ CONTRAST ストの低下が予想されますが,MDCT CNR で全肝臓を 5 秒で撮像する場合には, MRIの15秒程度の息止めでの撮像と同 Index 100 等です. 80 また,空間分解能に関しては,MTF の比較によってCTの方がMRIより優れ 60 ていることが証明されました. 40 したがいまして,最終的にMRIとCT 20 のDynamic studyにおける比較につい て,コントラストに関しては,イーブ 0 CT 200/5 図5 FLASH FLASH FSE3 2.2/75 6/75 200/12 scanning technique T-FLASH 218.3 ンか撮像シーケンスによってはCTの方 が高い結果になりましたが,SNRに関 してはMRIがCTよりも高く,造影剤の ボーラス性に関しては,SDCTではMRI 31 Lecture Contrast medium injection I(t) Poorly perfuse Well perfuse Extra cellular Qp Central Blood VB, CB Qw Intracellular Extra cellular VW, CW Intracellular VB × dCB/dt = I(t)+QW(CW-CB)-QPCB VW × dCW/dt = QW(CB-CW) 図 6 Compartment model for contrast enhancement pharmacokinetics 0.16 0.14 MRI-aorta Scanning time 0.12 MRI-liver 0.1 0.08 0.06 0.04 0.02 0 0 50 100 150 図 7 Time-enhancement curves of the aorta and liver simulated by using compartment model MRI-scan time 20sec MRI-scan time 10sec CT-scan time 30sec CT-scan time 20sec CT-scan time 10sec CT-scan time 5sec 1 1.1 1.2 1.3 contrast 1.4 1.5 図 8 Comparision of contrast due to time resolution の方が優位だが,MDCTではほとんどイーブンであると はないかというふうに考えています. いう結果になりました.しかし空間分解能はCTが高い結 以上が今日の私のMRIの話です.今回,CTとMRIで 果となりました. Dynamic studyという観点から比較を行ってきましたが, 結論的にMDCTとMRIのDynamic studyは,コントラス 今後,マルチモダリティの時代になってきて,MRIやCT ト的には有意な差は無く,MDCTは空間分解能が優れて だけではなく,核医学や超音波その他の画像診断も含め いて,MRIはSNRが優れるということから,ほとんど有 て,いろいろなモダリティが,どういう特徴を持ってい 意差は無いと思っていますが,被験者が小さな体格であ るかということを考えていく必要があると思います.今 れば,MDCTの方が検出能が高くて,大きな被験者にな 日の私のMRIの話が,日常CT検査を行われている皆さま れば,ノイズ特性の面からMRIのほうが優れているので の,何かのお役に立つことができれば幸いです. 32
© Copyright 2024 ExpyDoc