法 螺 か

かい
二十三回忌 報恩供養 ──
伝説の立螺師
本間龍演の法螺
── 為
『本間龍演の法螺』CD発行にあたって
『本間龍演の法螺』CD発行にあたって…… 5
本 間 龍 演 師 の 事 …… 7
CD収録の音源について…… 8
◉
『本間龍演の法螺』CD誌上紹介
…… 10
【伝説の法螺】
修験道にとっての法螺 … 10 / 法螺の吹き方 … 11
法螺の音階と種類について… 12 / 日常生活の法螺 … 16
宗教儀礼の法螺 … 19 / 護摩の法螺 … 26
…… 29
【立螺秘巻・解説と実修】
…… 44
【柴燈護摩の立螺作法】
…… 48
【道中立 螺 集】
◉
『解説補遺』…… 54
*収録立螺一覧 …… 55
山形県河北町谷地の寶壽院に遺された本間龍演師の立螺の録音を、オー
プンリールやカセットテープからデジタルテープに移し終えたのは、今か
ら15年ほど前の事です。封印されていたとはいえ、録音から20 ~ 30年
を経過したテープは劣化が進み、音質が心配される以前に磁気面がボロボ
ロの状態で再生するのも不可能かと思われました。ご子息の奎龍氏のご協
力を得て丁寧に補修しながら、どうにか記録保存を終えた時は、貴重な文
化遺産を守る事が出来たことに、思わず安堵の息を漏らしたものです。
蘇った本間龍演師の法螺の音がスピーカーから流れた時は、感動を通り
越し強烈な衝撃を覚えました。地から湧き上がり天から降り注ぐような音
は、法螺という存在を超えた神仏の声そのものでした。現在、法螺の名手
を自認する方は多くおられましょうが、本間龍演師の音は、まったく次元
が違うものとしかいいようがありません。
かつて京都の修験関係の法衣店の店主が、「そういえば…」と思い出話
に語ってくれたところによると、生前、師がその法衣店に法螺貝を求めに
やって来られた折りに試みに法螺を立てた処、店内中の襖や障子や窓ガラ
スの全てが音を立てて振動し、腰を抜かさんばかりに驚かれたそうです。
…… 5
「あのようなお方は、後にも先にもおりまへんな…」、店主は当時の様子を
本間龍演師の事
つと
思い出し驚愕の表情を浮かべておりました。全国の行者が集う京都の老舗
立螺の大家として夙 に有名な本間龍演師は、明治43年2月1日、現在の山
法衣店の店主をしてそう言わしめた事は、本間龍演師が間違いなく日本一
形県東根市野田に生まれました。師は京都醍醐寺の伝法学院卒業後、奈良
の立螺師であった証に他なりません。
吉野の龍泉寺で執事を勤める間、後に大成させる事になる立螺作法をはじ
本間龍演師の法螺の音源を収録し
めとして、全国から大峯山に入峰して来る行者達から様々な口伝・秘伝を
て以来、これを何とか世に出せない
学ばれ、その後、市井において仏道を実践する事を願って故郷の地を踏ま
ものかと願っておりましたが、平成
れたのでした。そして昭和62年2月16日に遷化されるまで、ついに剃髪する
21年が本間龍演師の二十三回忌に当
事なく、総髪姿のままで激動の時代を修験者として生き通されたのです。
る事から、師の遺徳を偲びその功績
当に稀代の大先達としての生涯そのものでした。
を顕彰する為に、ご子息である奎龍
昭和15年に出版された『立螺秘巻』は、従来、師資相承の口伝とされ
氏の監修を得てCD版を制作する事
ていた立螺作法を、初めて五線譜で解き示した名著として知られ、現在で
にいたしました。
も立螺を学ぶ者の得難い指南書とされています。また柴燈護摩作法を儀式
今や伝説となった師の法螺の音を
として整え、火渡りと一体化した次第を全国に広められた功績も忘れて
多くの方に聞いて頂く事が、験門興
はなりません。さらに法螺以外においても、野外での祈祷において悪天候
隆の一助ともなれば法幸これに過ぎ
の際には雲を切ったとか、室内での祈禱中の眼前に月影を出現させたなど、
るものはありません。また、それが
師の行跡は今でも行者たちの語り草になっております。本間龍演師は素
師に対する最高の報恩行であること
晴らしい法螺の音だけでなく、その卓越した験力においても、伝説の修験
を信じて疑わないものであります。
者であったと申せましょう。 6 ……
…… 7
CD収録の音源について
『伝説の法螺』── 法螺の吹き方の基礎を、ナレーションと本間龍演師
の吹螺によって分かりやすく解説したもので、構成は昭和39年に山形県
内のラジオ局で放送された番組「音に探る文化遺産」を参考にし、本間龍
演師の遺された音源を元に、解説の原稿にも手を加えて、今回新たに録音
をしたものです。ラジオ番組では山形県鶴岡市 在 住 の 民 族 学 者 で、 羽黒
修験の研究家でもあった戸川安章氏が解説を勤めておられましたが、原稿
の立螺作法が手際よく解説され、特に大祇師や導師の一挙手一投足に対す
る詳細な法螺の立て方が懇切丁寧に示されています。柴燈護摩の立螺を務
める諸師は、この解説をよく学び、今日では如何に省略された作法で修さ
れているかを、よくよく肝に銘じて研鑚に努め、できれば本来の立螺作法を
復活させていただきたいと思います。
また、当山派だけでなく、本山派の法螺先達にとっても、螺を立てる際
のタイミング等、大いに参考になることと存じます。
の作成は本間龍演師によるものと思われます。
『道中立螺集』── 収録年度は恐らく昭和39年かと思われますが、立螺
いずれにしろ、本来は口伝として伝えられるべきものが、公共の電波で
の実践集として貴重なものです。それと申しますのも、ここでは、
「宿入り」
放送された事は大きな驚きでした。
から「宿出」を経て再び「入峯道中」に至るまでの一連の立螺作法が収め
『立螺秘巻・解説と実修』── 本間龍演師が昭和35年に残された最も古
られており、本間龍演師の他の録音では聞けないような、実践的な別伝と
い録音です。ご子息の奎児(奎龍)氏が進行役となっています。なお巻末
いってもよい音が収められていて、興味深い内容となっているからです。
かけ
にある「掛念仏」について、龍演師は古い吹き方を習得したと述べておら
れますが、「掛念仏」は現在、羽黒にのみ残る作法です。ただし、実際の
吹き方と念仏の節回しなどは、龍演師が示された当山系の作法とは著しく
異なっております。
『柴燈護摩の立螺作法』── 昭和58年に録音されたもの。柴燈護摩の際
8 ……
なお、奎龍氏によりますと、龍演師は『立螺秘巻』の続編を企画し準備
されていたという事です。もしもそれが実現されていれば、上記の『柴燈
護摩の立螺作法』や『道中立螺集』なども加えられ、奥伝・別伝の作法と
いった内容が収められていた事でしょう。当にこのCDの中に、龍演師の
遺志が宿っているといえましょう。
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