視覚情報処理様式からみた状況判断能力の違いについて

Nara Women's University Digital Information Repository
Title
視覚情報処理様式からみた状況判断能力の違いについて
Author(s)
品治, 恵子; 佐久間, 春夫
Citation
奈良女子大学スポーツ科学研究 (Research Journal of Sport Science
in Nara Women's University), 第12巻, pp.1-9
Issue Date
2010-03-31
Description
URL
http://hdl.handle.net/10935/1509
Textversion
publisher
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http://nwudir.lib.nara-w.ac.jp/dspace
視覚情報処理様式か らみた状況判断能力の違いについて
品治 恵子 1
)
佐 久間 春 夫 2)
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キー ワー ド:状況判断能力 ,視 覚情報処理様式,注意の移動
1)
奈 良女子大学大学院人間文化研究科博士前期課 程人間行動科 学専攻 スポー ツ科学 コー ス
〒6308506 奈 良市北魚屋 西町
Na
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2) 奈 良女子大学文学部人間科 学科 スポー ツ科学
〒630・
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C
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- 1-
デルによって示 されてきたが,一方,複雑で複合
緒言
された条件下では勝者の決定が どのように決定 さ
れ るのか考えなければならない.さらには,勝者
日常生活において次の行動を判断する場面は溢
れている.
適切に判断を下せ ることは重要であ り,
が どのように切 り替わるのか,検討する必要があ
判断の質が問われなくても,時には迅速 さや正確
複数の対象 を同時に処理する場面 としてスポー
ツ競技が挙げられ るが,これまで様々な指標 をも
性などが求められることがある.このように状況
を的確に把握 し,それに基づいて適切に処理す る
力を状況判断能力 とい う.
状況判断能力には大きく情報収集 を担 う入力過
程 と入力された情報を処理する過程 とに分けられ
る.情報収集のためには注意を向けなければなら
ない.感覚器から得 られる情報の うち約 8割は視
る.
とに研究 されてきている.眼球運動を指標に熟練
者 と未熟練者の状況判断能力についても検討 され
てお り,視覚探索の違いを比較することで視覚情
報処理様式に複数の方略があることが示されてき
た.各種 目に特化 した場面や,中川 6)が定義 した
状況判断能力の 4要素を個々に検討 されたものは
覚から情報を得てお り,情報を取捨選択するため
多い.実際のスポーツ場面では,熟練者が比較的
に視覚的注意の制御 といったフィルター的機能が
存在すると考えられている.この注意のスポ ッ ト
狭い範囲内で視線移動あるいは視点を固定するこ
)は,分散的注意 と選択的注意の 2段階に
ライ ト8
よって構成 されてお り,それにより複数の事象を
同時に認識 していると感 じる.
はより多 くの情報をより複数の場所か ら得 ようと
す るため,広範囲に視線を移動することが報告 さ
分散的注意により視野全体に渡 る視覚情報か ら
feら
l
情報がカテゴリー化 され る.このことを Wo
は活性度マ ップと名付けた.選択的注意では活
性度マ ップの情報に基づいて注意の焦点を移動 さ
10)
せることで対象を認知できると考えられている.
選択的注意について誘導探索モデ/
レや顕著性マ ッ
プモデル といった概念を用い,処理過程のメカニ
ズムについて明 らかにされてきた
2)
l
l
)
.これ らの
モデルにおいては,顕著性が高い対象の順に注意
の焦点が移動すると考え,ある闇値以上に達 し,
注意が向けられた対象のことを勝者 と呼んだ.
これ らのモデルによってポ ッフア ウ トや結合探
とで視線移動に伴 う情報の欠如を防ぎ,未熟練者
れている 3). また一方で,種 目や場面によってこ
の様式に当てはまらないことも報告されているこ
とか ら 4
)
,視覚情報処理様式は競技特性だけでな
く,個人の特性 も影響 している可能性がある.こ
れまでにも,実際のスポーツ場面ではなく,視覚
探索課題においても幾つかの方略が示 されてきて
いる.
以上のことか ら,スポーツ競技の様な複雑な場
面で状況判断を行 う時の入力過程における選択的
注意について焦点をあてる.注意のスポ ッ トライ
トの移動 (
勝者の決定)が確率的に行われるのか
みていき,注意の切 り替えの特徴について検討す
ることを目的 とした.
そのために二重課題 を用い,
索について勝者が決まる過程について説明されて
きたが,探索非対称については当てはま らない と
勝者の決定が確率的顕著性マ ップモデルに従 うの
であれば,視覚情報処理様式の違いである視線移
し,斎木 ら 4
)
5
b
)
により新たに,確率的顕著性マ ッ
動パ ターンを比較す ることで勝者が決定するまで
プモデルが提案 された.これは,視覚的注意の移
動順序は顕著性の順序のみに従 うのではなく,蘇
の違いがパターンの特徴 として反映され ると仮定
した.それぞれのパターンの特徴である,状況判
断能力の入力過程 とパフォーマンスとの関係性を
著性の値の情報を利用 し,妨害刺激 とターゲ ッ ト
との顕著性の差に応 じ,確率的に注意の焦点が移
動すると考えた.このモデルであれば探索非対称
明 らかに し,パターンの選択が個人の特性かそれ
についても説明可能である.単一課題においては
果から,状況判断の入力過程におけるパフォーマ
ンス向上の手がか りを探る.
注意の焦点が確率的に移動することがこれ らのモ
とも能力差であるのか検討を行ってい く.その結
- 2-
方法
1
.
被 験者
0.
0±1
.
4歳の 1
3名 (
男性 2名,女
平均年齢 2
=・
性1
1名),全ての被験者が裸眼もしくはコンタク
図2
.
S
Tの流れ
トレンズの使用によ り本実験 を行 うのに充分な視
力 を有 していた.
DT では注視点画面,課題画面に加 え,位置合
わせ画面の 3つの画面で構成 された.画面中央か
ら水平に±2
0
0,垂直に±2
00 の 4箇所に白抜き
の円が表示 された.ST と同様 に被験者は課題を
2.
実験装置
全装置の頭上か らの配置を図 1に示す.
始め,黒い円のタイ ミングを合わせ ることが指示
された. さらに黒い円の移動中に,4つの白抜き
の円の中央に 1か ら 8の数字のいずれかが表示さ
れ,被験者は 4つの数字の中で最 も大きい数字の
位置 を記憶 させ られた.タイ ミングを合わせた後,
位置合わせ画面に切 り替わると,最 も大きい数字
が表示 された位置に合わせマ ウスをクリックする
よ うに教示 された.クリックと同時にフィー ドバ
ックとして正解の位置に赤い円が表示 された.読
0試行 とした (
図 3).
行数は全 2
図1
.頭上か らみた実験システム図
3.
実験課題
ng
let
as
k,課題
課題は 4種類あ り,課題 lを Si
2を Dua
lt
as
k,課題 3を Swi
t
c
ht
as
k,課題 4を
Rando
mt
as
kとした.
3
-1Si
ng
let
as
k(
以下 ST とす る)
ST は,動 く図形にタイ ミングを合わせ る課題
とした.注視点画面 と課題画面か ら構成 され,注
視点画面では画面中央に視角約 2度の黒い円が呈
示 されたものを被験者は注視 させ られた.課題画
二
く鞄
正l
>
三
二
d二
3
3 Sw
it
c
ht
a
並 (
以下 S
WT とす る)
SWTでは,課題開始か ら 1
.
5Sまでは DTと同
様に設定 され,1
.
5S後に数字が切 り替わるように
設定 された.開始か ら 1
.
5Sまでを前半,1
.
5S後か
面に変わると.画面中央か ら水平に 3.
60,垂直
ら黒い円が終点に戻って くるまでを後半 とし,被
に 3.
6Oの位置に黒い円が表示 された.被験者は
験者は最 も大きい数字が後半の課題画面でどの位
利 き手に用意 されたマ ウスを用い,被験者の任意
置に表示 されたかを記憶 させ られた.その後 DT
のタイ ミングで課題 を始めることを指示 された.
同様 に.
位置合わせ画面においてク リックさせた.
黒い円は 3
Sで反時計周 りに正方形(
7.
2
oX7
.
2
0)
被験者は数字が切 り替わることは知 らされなかっ
の軌道を描 き,被験者は元の位置に黒い円が戻っ
た.試行数 は全 2
0試行 とした (
図4
)
.
てきたタイ ミングに合わせ,マ ウスのボタンを押
す ことが指示 された.黒い円があった場所には終
点 として赤い点が表示 された.STは 1
0試行行わ
れた (
図 2).
図 4.
S
町 の流れ
3
-2 Dua
lt
as
k(
以下 DT とす る)
- 3-
3
-1Randomt
aS
k(
以下 RTとする)
RTでは,DTの設定 と SWTの設定課題を無作
運動データ処理 ソフ トを用いて,注視位置,注視
時間を算出 した.
為に表示 させた.被験者にはどちらが表示 される
結果
かは知 らされなかった.
試行数は全 1
6試行 とし,
8試行を DT,残 り8試行を SWTとした.
4
.
実験手続き
1
.
各課題における視線移動パターー
ンの特徴
被験者は椅座位姿勢でアイカメラを装着後,画
面の正面に設置 した顎台に顎部を設置 し,頭部を
ト1視線移動パター・
ンの分類
総移動距離 を計測 された時間で除 した移動速度
固定させ られた.較正はプログラム処理内のセ ッ
と,合計注視時間を計測 された時間で除 した注視
ティング及び較正プログラムで設定された.被験
度によ り3つのパターンに分類 を行った.それ ら
者の利き手にマ ウスを準備 し,実験を開始 した.
を移動量が少なく定点的に移動す るパターン (
以
各課題の後に,被験者はどこに注意を向けていた
下焦点型 とす る),
注視を移動 させ局所的に動かす
か主観的な注意評価 (
以下主観的注意評価 とする)
パターン (
以下局所型 とする),分散 して移動す る
を口頭で回答 させ られた.実験後には認知課題を
パター ン (
以下分散型 とす る) とした.この分類
行い,その後情報収集に関す るアンケー トに回答
させた.
ト2 各パターンの特徴
5
.
測定項目
ト と1 散布図
5
-1 反応時間(
タイミング時間)
分類 され冬パターンの ST における典型例 と各
パ ター ンの視点間の移動変化を図 5に示す.移動
被験者は黒い円が赤い点 (
終点)の位置に戻っ
てくるタイ ミングに合わせてクリックするよう教
角度が小 さいほど,
視点が留まっていたことを示
す.
-
示され.この反応時間をパフォーマンスの指標 と
して測定 した.
を基にパターンの詳細について検討 してい く.
眼球運動の測定には瞳孔 とプルキンエ像の中
心座標の抽出による非接触型の眼球運動検出器
t.
点S?
き
18
8-qEVP32,10
321098-654八・Tv..日和9苦
1.T3
駕
i
i
i
5
-2 眼球運動
仙
」
(
T.K.
K29
40竹井機器工業)を用いた.
5
-3 主観的注意評価
仙
e
一
l
45158t‖887171581
I 6 llt
6212831S
8
86
1
8
2
1
2
8
3
1
3
6
4
日
6
5
1
5
6
6
1
6
7
1
7
6
も
評
各課題において黒い円,赤い点,白抜き,数
辛,その他の中から注意を向けていた対象を回
答させた.
5
-4 認知課題およびアンケート
ス トループ課題 を行い,逆ス トループ率,ス
凸
トループ率を算出 した.
アンケー トについては,
情報収集における質 (
速 さ,量,正確 さ)につ
」
I 6 11162126
3
13641465156616
61176t
も押
.
ほ
いて自由記述 させた.
6.
データの処理
還
2 -0
眼球運動のデー タのサ ンプ リングタイ ムは
33.
3
msで注視点は眼球運動の角速度が 1
1
de
g/
S
以下の状態が 1
67
ms以上続いたときを注視 1
)
とみな した.視線の位置は ⅩY座標軸上の眼球
運動角度で求められ,これ らのデータから眼球
し_
:
:
:
,
.
-
l 〇
分巾型¢
:
_ ∼I
6
4
4
8
5
1
5
日
.
.
日1
62126313 1
図 5.STにおける各パターンの散布図 (
左)と視古間欄
-4-
_
16
6717
88もタ,
ヒ㈲
焦点型 では視点の移動がほ とん ど見 られず,
-
1
㌢5 視線配置
箇所に留まる傾 向が見 られた.局所型については
黒い円の軌跡 に合わせて移動する特徴がみ られ,
時間変化においても集 中的に移動 させ る傾向がみ
られた.分散型についてはランダムな動 きを用い
るものや,視標間を往復するような軌跡を描 くも
Tに比べ移
のが見られた.他の課題においても,S
動範囲は広がっているが,比較的パターンの特徴
を表す結果 となった.
1
2
2X成分 (
水平方向)
,Y成分 (
垂直方向)
S
Tでは,全パターン共に水平,垂直方向に偏 り
T
,S
W
Tでは焦点型,局
がないことが示 された.D
所型は偏 りが無かったが,分散型については垂直
方向-の移動が大きく,偏 りが生 じた.全課題を
通 して,焦点型は移動範囲が小 さく,局所型,分
散型は大きいことが示 された.
図6
.ST
,
D
Tのx成分, y成分の時間変化
1
2
3 時間変化
視標 と視点の動きを比較するために,
X成分 ,Y
成分の各時間変化 を図 6,7に示す.
散布図 と同様,
局所型が黒い円の動跡 に動きを合わせる傾 向が観
察された.焦点型において,数字の中身を確認す
T
,S
W
T,R
Tでの移動範囲が s
Tに比べ大
るため,D
きくなったが,視点の移動を伴わないフラッ トの
Tでは後半に,S
W
Tで
出現が課題 ごとで異な り,D
は数字が切 り替わるまでの前半でみられた.また,
R
Tでは課題終了間際までフラッ トの状態が続 く
W
T,R
Tにおいては局所型,分
傾向がみ られた.S
散型が焦点型 よりも先行 して視線移動が行われて
W
Tについては,顕著な違いが現れた.
いた.
特に S
よって,局所型,分散型は数字の切 り替わる前半
で既に視線移動が行われていたことが示 された.
ト2
4 注視回数・
平均注視時間
●60
40
20
0
-20
●
6
0
-40
40
20
0
2
0
4
0
50
1
0
1
0
-30
50
50
3
0
1
0
-1
0
3
0
5
0
注視回数では,全ての課題において分散型が,
焦点型,局所型 よりも有意に少なく,平均注視時
間が短かった.
焦点型一局所型では注視回数におい
T以外の課題で焦点型の方が局所型 よりも有
てR
意に多 く,平均注視時間については,R
Tにおいて
のみ局所型が焦点型 よりも有意に短かった.この
ことから,変化に迅速に対応 しなければならない
課題 中どの視標に視線配置を行っていたかを停
留点移動度 として求めた.停留点移動度は,停留
点間の距離の総和を各視標の停留点座標の最大値
と最′
日直の差で割ったもの とした.値が大きいほ
Tと
ど停留点が視標か ら離れていることを表す.s
R
Tの結果を図 8
,9に示す.
R
Tの様な課題では,両者で異なる方略を用いて対
応 していることが示唆 された.
RT x成分
1
L
l
散布図でみ られた特徴が視点配置にもみ られ,
S
Tでは焦点型は赤い点-の視点配置が高く,局所
- 5-
型は黒い円-の視点配置が高い特徴がみ られた.
された.パターンと反応時間の誤差 との間に有意
全体に DT,S
W
T,RTでは数字-の視点配置が高か
な差は見 られなかったが,誤差が小 さい 順に被験
った.R
Tにおいて,焦点型は特定の視標に視点配
者を見たときにパターンの占める割合に偏 りがみ
置が行われなかったことが示唆 された.
られた.特に,SWTとRTで顕著であ り,誤差の小
8 「
J
0
0
†
†
†
さい上位群は比較的分散型の占める割合が高い と
い う特徴がみ られた.
6
0
3
4 内省報告
5
0
情報収集の質についてアンケー トを行った結果,
4
0
3
0
速 さ,量,正確 さについて必要なことは,広い視
2
0
野や全体を広範囲にみることと回答 した者が多か
った.
」
0
0
黒
考察
赤
図8
.
STにおける視差
頼己
置(
★
淋:
p<.
C
K
)
1
,
I
.
p<C6.IIIp<0
01
)
1
.
視線移動パターンの特徴
9
0
各課題における視線移動パターンを比較 したと
8
0
ころ,それぞれ移動範囲の狭い焦点型 と広い局所
7
0
型,分散型の特徴に合った結果 となった.特に,
6
0
視標が少 ない STでは顕著にその違いが現れた.
全
5
0
課題 を通 して,焦点型は移動範囲が小 さく,分散
4
0
型の様に往復するような視線移動 も行われなかっ
3
0
たため,視支点 と呼ばれる点を据えることで,情
2
0
1
0
報収集 を行っていたことが考えられる.仮想的な
0
視点を置 くことで視線移動が伴わず とも広い範囲
に注意を向けることができる 3)
7
)
.局所型 と分散型
黒
赤
数字
図9
RTにおける視毛
矩己
置 (
★
仙:
p<.
01
,
日†
:
p<.
01
)
では移動量が共に多かった.一方,局所型では水
2
.
視線移動パターンとパフォーマンスとの関連
パターンによってパフォーマンス (
反応時間)
に差が生 じるか検討を行った結果,全ての課題,
パターン間において有意な差はみ られなかった.
3
.
被験者内の特徴
3
-1反応時間
個人差はあるが,個人内では比較的反応時間の
誤差が小さいことが示 された.
3
-2 ストル-プテスト
視線移動による特徴は見られず,個人差が顕著
であった.
平,垂直方向に差がなかったが分散型では偏 りが
見 られた.これは,散布図にも示 されたように,
局所型は黒い円の動きに追従する傾向があるため
方向差が現れにくいが,分散型はランダムな動き
や視標間を往復する動きであったため方向差が生
じやすかったことを示唆 している.
時間変化の結果か ら,
焦点型において STでは視
標が少ないため,同 じ位置で視点を配置 していた
が,その他の課題では数字-の注意の移動が必要
とな り,課題によって視支点の位置や継続時間が
異なったことが考えられ る.
D
Tでは最初に表示 さ
れた数字を答える為,前半に視線移動が行われ,
3
-3 パターンの割合
課題 ごとで変えている者が多 く,課題が進むに
つれ焦点型が減少 し,分散型が増加す る傾 向が示
後半に視支点を用い,SWT では数字が切 り替わる
までは視支点を用い,切 り替わるとす ぐに視線移
動を行っていたことが結果に反映 された.f
汀にお
- 6-
いて,課題終了間際までフラッ トの状態が長 く見
ら,特定の場所で全体に注意配分を行 うよりも視
られたのは,数字が変化するか見極めるために,
視支点を長 く置いていたことが考えられる.
また,
標 となる対象- ピンポイン トに点 として注意を向
ける方が変化に対応 しやすい方略であることが示
s
w
Tでは焦点型 と局所型,分散型間で特徴の違い
唆 された.
がみ られたが,これは後者において被験者は前半
2
.
視線移動パターンとパフォーマンスとの関連
も数字-の注意配分を行っていたことが考えられ
反応時間の誤差 (
パフォーマンス) と視線移動
パターン間に有意な差は見られなかった.このこ
る.局所型 と分散型では類似 した視線の動きがみ
とか ら,本実験においてパターン自体に優劣差が
られ るが,注視度の高い局所型では数字の切 り替
え後に注意が行われる傾向が示 された.この結果
なかったことが示 された.スポーツ競技において,
から,
パターン間で数字に対する顕著性の度合い,
熟練者であっても場面によって視線移動パターン
順序が異なることが示 され,本実験においても確
が異なることが知 られている 10).このことからも,
パフォーマンスが優れているとされる熟練者の視
率的に勝者の決定,あるいは切 り替えが行われて
いたことが示唆 された.
注視回数,
平均注視時間では,
分散型が焦点型,
局所型 よりも注視回数が少なく,平均注視時間が
線移動パターンとは,パターン自体が優れている
のではなく, どのパターンを選択すべきかを見極
める点に優れていることが考えられる.
短かったため,
注視度が低かったことが示 された.
焦点型 と局所型では,R
Tにおいて焦点型が 1回あ
3.
被験者内の特徴
反応時間の誤差が個人内で小 さかったことから,
た りの注視時間を長 く行い,R
T以外の課題におい
ては注視回数 を増や したため,局所型よりも焦点
型の注視度が高かったことが考えられ る.R
Tでは
各被験者にとって最適 とされる視線移動パターン
を課題ごとで選択 していたことが考えられる.内
DTか S
W
Tか どちらになるか分か らない状態で対応
省報告において広範囲に見ると回答 したものが多
しなければならないため,焦点型では注視時間を
かったが,広範囲に見るといっても,焦点型のよ
長 くすることで変化に対応 し,一方,局所型では
うに視支点により全体を周辺視によって広 く捉え
短 くす ることで移動範囲の可動域 を広げ,変化に
対応 していたことが考えられる.焦点型が時間変
1つ 1つの情報-視線移動 させ るかによって異な
化においても視支点を用い,課題終了間際までフ
ってくる.パターンとしては異なっているが,パ
ラッ トの状態が続いたことか らも注視時間を長 く
フォーマンスの結果から課題を遂行するのに必要
することで視点を固定 した状態で注意配分を行っ
ていたと考えられる.
な情報を得ていたことが考えられ る.よって,前
項同様,パターン自体には差がないことが示され
さらに,停留点移動度を比較することで,散布
た. しか し,パフォーマンスの成績の良かった上
位群 と悪かった下位群 を比較すると,明らかにパ
図でみ られた特徴が視線配置にも現れた.焦点型
がこれまでの視点移動の特徴からも視支点を利用
Tでは赤い点に,
していたことが考えられ るが,s
S
W
T,R
Tでは特定の視標ではない位置に視支点を
置いていたことが考えられる,この結果か ら,焦
点型は視支点により移動範囲を抑え,全体を面 と
して捉えようとす る傾 向が高いことが示 された.
るのか,
局所型や分散型のように移動量を増や し,
ター ンの占める割合が異なっていた.このことか
ら,パフォーマンス向上の点か ら考えると,課題
にあったパ ターンを選択することがパフォーマン
スの質を高めることにつながると考えられる.
4.
注意の移動
焦点型の場合,周辺視によって注意を向けること
本研究の結果を基に作成 した各課題の確率的顕
が変化に対応 しやすい方略であることが示唆 され
著性マ ップモデルにおける勝者の決定 と移動及び
た.局所型,分散型は課題により視点配置が異な
0に示す.
パターンによっ
注意配分の概略図を図 1
るが,多 くは数字-の視点配置が高かったことか
て視線移動の配置 (
勝者)が異なっていたことか
- 7-
ST
DT.S
WT
RT
Ww
・
・u ∴
甲
_
二 ∴※
:
:
W
=
w
n
e
r
(
勝
・
点から点へ の
動き
二
者)
図1
0.
視線移動パター ン別,各課題の確率的顕著性マ ップモデルにおける勝者の決定 と移動及び注意配分の概略図
ら,各視標の顕著性に差があることが示 された.
優劣差はみ られなかったが,個人の特徴を比較す
よって,注意を向ける対象が複数ある課題におい
るとパフォーマンスの成績によってパターンの占
ても勝者の決定が確率的に行われ ることが示 され
た.各パターンの特徴については前項に記述 した
める割合が異なった.このことか ら,パターン自
体に優劣差はないが,課題に合ったパターンを見
通 りであるが,焦点型では勝者の決定までの間隔
が長 く,一方,局所型や分散型では短 く,また複
数回ある傾向が示 された.
極め,選択することが課短遂行の効率を高めるこ
とにな り,パ フォーマンス向上につながることが
パターンによって勝者が異な り,それが視線移
動の特徴 としてみ られた.視線移動のパターンを
の様に見つけるか, とりわけ,探索ス トラテジー
勝者が決定するまでの 1つの指標 として考えてい
くことを提案 したい. しか し, どのパターンを選
示唆 された.課題に合った視線移動パターンをど
については検討が必要ではあるが,状況判断能力
の入力過程におけるパフォーマ ンス向上-の重要
な手がか りの 1つであると考えられ る.
択するかについては,本実験では反応時間の誤差
や琵知課題に違いが生 じなかったこと,また個人
引用文献
内でも複数のパターンを用いた者 もいたので,な
ぜそのパターンを選択 したかについてはさらなる
1
)福 田亮子,佐久間美能留,中村悦夫,
福 田忠彦 :
注視点の
定 義 に 関 す る 実 験 的 検 討 .人 間 工 学 学 会
検討が必要である.
誌,
32:
1
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複雑な場面での状況判断では,抑制性の信号が
3
)加藤貴昭,
福 田忠彦 (
2000
):
野球の打撃準備時間相にお け
伴わない確率的顕著性マ ップモデルが用い られて
る打者 の視 覚探 索 ス トラテ ジー .日本 人 間 工学学 会
いることが示された.視線移動のパターンの違い
誌,
38:
333・
34
0.
から,3つのパターンに分類す ることができた.
それ らの特徴を勝者の決定までの違い として比較
を行った.各パターンにおいてパフォーマンスの
4
)小池耕彦,賓木潤 (
2003
)
:
確率的顕著性マ ップモデルによ
る注意の移動 メカニズム.
認知科学,10:
4
01
・
41
7.
2004
)
:
顕著性 に基づ く視覚探 索:
顕著性
5
)小池耕彦層 木潤 (
- 8-
マ ップの構成 と利用 メカニズム 電子情報通信学会技術
ニュー ロンコンピューテ ィング,
1
04
:
7・
1
2.
研究報告 NC,
6
)中川昭 (
1
983
):
ボールゲー ムにお ける状況判断研究のた
めの基本概念の検討.体育学研究,
28:
287・
297.
7
) 日本 スポー ツ心理学会 (
2004
)
:
スポー ツ心理学.
大修館書
店:
pp1
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74.
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2003
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