長期知覚学習による視覚誘発電位の変化 −ケース・スタディ− ○藤本 清 (東京大学インテリジェント・モデリング・ラボラトリー) 八木昭宏 (関西学院大学文学部) 【結果】 学習前後で運動刺激(FW,BW,RW)に対する視覚 誘発電位波形が変化した.最も顕著な変化は,頭頂部(P3, P4)におけるP120とN185の学習後の増強であった. 【目的】 【考察】 知覚成績の向上に伴って,視覚誘発電位が変化する 本研究において,注意的追従を必要とする仮現運動 ことが報告されている.それらに関係する先行研究の学 の知覚学習に伴い,中潜時成分が増強することが示され 習期間は1日以内の短期的なものであり,課題は初期視 た.この潜時帯は,仮現運動に対する知覚印象の変化が 覚に関係したものである.本研究では,高次視覚に関係 反映され,誘発電位一般において注意の影響を最も受け した課題による,7ヶ月に及ぶ長期の知覚学習と視覚誘 ることが報告されている.また,注意的追従は頭頂葉の活 発電位の関係について報告する. 性を高めることが報告されている.従って,高次視覚の学 【方法】 習が視覚誘発電位に反映されたと考えることができる. 刺激は光点歩行者を3 Hzの頻度で断続的に提示した しかし,同じ刺激と課題による先行実験(藤本・八木 1999) もので,四肢関節を示す光点の仮現運動が知覚された. のP120とN185においては,運動知覚の効果が波形上に 被験者の課題は,こうした離散的な関節運動から,前方 認められたものの,統計的には有意ではなかった.この 歩行(FW),後方歩行(BW),ランダム歩行(RW),そして 不一致の原因は,先行実験が8名の集団データで,本実 コントロール刺激としての静止系列(SS)を加えた4種類の 験が1名の個人データという被験者数の違いが影響した 刺激を識別することであった.課題の遂行には,注意的 可能性が考えられる.視覚誘発電位および知覚能力に な追従過程が重要であることが示されている(詳細は,藤 おいて個人差が存在することが報告されている.今後の 本・八木,1999). 研究において,個人差を詳細に検討する必要があろう. 被験者は20代半ばの女性1名で,神経学的障害の経 【引用文献】 験はなく,知的能力,体力,そして,視力に問題はなかっ 藤本清・八木昭宏 1999 仮現運動知覚の能動的過程と た.ただし,空間認知課題に困難を生じることがあるという 受動動的過程が視覚誘発電位に及ぼす効果,生理 ことであった.しかし,日常的な運動知覚に問題はなく, 心理学と精神生理学, 17,173-181. 光点歩行者の知覚においても連続運動の刺激であれば 全く困難は示さなかった. T5 T6 学習前,この被験者の課題遂行成績はチャンスレベル で,内省報告からも全く識別不可能であることが確認され た.そこで,より容易な刺激から練習を開始した.提示頻 度が5 Hzのより滑らかな動きが知覚される刺激を用いて6 ヶ月間,約1週間隔で約2時間の練習を行わせた.学習 N185 P3 P4 期間においては,正誤および連続運動刺激による直後フ ィードッバクを行った.その結果,成績は徐々に上昇し, − 2μV + P120 100 ms 最終的には完全な識別が可能となった.その後1ヶ月間は, 提示頻度を徐々に下げていき3 Hzの刺激に対しても平均 O1 O2 的な成績を収めることが可能となった.この学習期間にお いて,被験者は関節運動の特性を学習したと言える. 視覚誘発電位の測定は,学習前後それぞれ1週間隔 で3回行った.脳電位の導出は後頭部の6部位(O1, O2, P3, P4, T5, T6)より両耳朶結合を基準として行った.時定 FW: before learning SS: before learning FW: after learning SS: after learning 数は5 sで,高域遮断は50 Hzであった.眼球運動を確認 Figure 1. 知覚学習前後の運動刺激(前方歩行:FW)と するため,垂直方向と水平方向のEOGを同時に記録した. 静止刺激(静止系列:SS)に対する視覚誘発電位波形
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