2015年度上級マクロ経済学講義ノート 財政政策と中立命題

2015 年度上級マクロ経済学講義ノート
財政政策と中立命題
阿部修人
一橋大学
平成 27 年 6 月 23 日
1
導入
景気対策としての財政政策は、リーマンショック以降の世界的な景気後退
期において注目が集まり、Barro と Krugman の間で交わされた激しい論争に
象徴されるように、マクロ経済学における最大の論争点の一つである。金融
政策の拡張経路に関しては、少なくとも銀行貸し出し経路に関しては、その
メカニズムは広く理解されている一方、財政政策の拡張経路に関してはマク
ロい経済学者の間で広く受け入れられている見解はない。また、財政政策の
効果の指標である「乗数」の大きさに関する実証分析に関しても、ほぼ 0、と
するものから 3 まで、非常に幅広い。多くの研究は、推計の際のスペシフィ
ケーションにより結果が大きく変わることを報告している。近年の研究のサー
ベイとしては、Auerbach, Gale, and Harris (2010)1 によるものがあるが、そ
の後も毎年のように新しい研究が発表されており、今後も議論は続くと思わ
れる。
財政政策、Fiscal Policy とは、政府の歳入および歳出行動全般をさす。その
範囲は広いため、マクロ経済学の教科書では、Fiscal Policy という用語を避け
るケースもある。例えば、Ljungqvist and Sargent (2012) には Fiscal Policy、
Stimulus という単語は出て来ず、その代り、租税と公債に関して第 17 章全体
で詳細に議論されている。Romer (2012) の教科書では Fiscal Policy という
言葉は出てくるものの、歳出よりは歳入の分析に焦点が置かれている。歳入
分析の際は、通常は歳出、すなわち政府支出は所与とし、租税と公債による
資金調達の分析が行われる。一方、歳出分析の場合は、歳入は一括税 (Lump
Sum Tax)、あるいは等価定理を用いて歳入方法は問わないようなフレーム
ワークがなされる。公共財の最適供給のようなミクロ経済分析では、費用負
担と便益の範囲は最適配分実現のための重要な要素であるが、マクロ経済学
1 Gale, William G. and Auerbach, Alan J. and Harris, Benjamin H., Activist Fiscal
Policy (Fall 2010). Journal of Economic Perspectives, Vol. 24, No. 4, Fall 2010
1
においては、通常、両者は分離して議論される2 。
本講義ノートでは、まず、政府支出を所与とし、その資金調達パターンが
経済に与える影響について考える。具体的には、現代マクロ経済学の中で、
もっとも重要な定理の一つである、Barro-Ricard の定理、およびその応用に
ついて議論する。
政府支出を所与としない、いわゆる歳出の効果に関しては、知られている
様々な結果の紹介に留める。興味あるものは、前述の Auberbach et al. (2010)
および Christiano et al. (2011)3 、Barro and Redlick (2011)4 を参照された
い。分析手法や対象地域、期間により、乗数の値は 0 から 3 まで、様々な値
になっている。
2
等価定理
最適成長モデルを思い出そう。無限に生きる代表的家計が存在し、金利は
rt 、初期資産は K0 で与えられている。各期の労働所得を Wt とすると、全
期間の予算制約は
∞
∑
t=0
(
t (
∏
s=0
1
1 + rs
))
[Ct − Wt ] ≤ K0 .
(1)
各期の予算制約を考えると、
Wt − Ct + (1 + rt ) Kt = Kt+1 .
復習すると、
Kt =
1
Kt+1
(Ct − Wt ) +
.
(1 + rt )
(1 + rt )
右辺の資本ストックについて 1 期先に進むと、
(
)
1
1
Kt+2
1
Kt =
(Ct − Wt ) +
(Ct+1 − Wt+1 ) +
(1 + rt )
(1 + rt ) (1 + rt+1 )
(1 + rt+1 )
(m (
)
)
)
(
1
1
∑ ∏
∏
1
1
=
[Ct+m − Wt+m ] +
Kt+2 .
1
+
r
1
+
rt+s
t+s
m=0 s=0
s=0
2 政府支出を公共財、あるいは公共資本とし、生産性や効用を増加させるものと考える内生成長
モデルでは、最適資金調達も議論されることがある。詳しくは Barro, R.J., 1990. Government
spending in a simple model of endogeneous growth, Journal of political economy, 98 (S5),
103–125 を参照せよ。
3 Christiano, Lawrence, Eichenbaum, Martin and Rebelo, Sergio, (2011), When Is the
Government Spending Multiplier Large?, Journal of Political Economy, 119, issue 1, p.
78 - 121.
4 Barro, R. J., and C. J. Redlick (2011). “Macroeconomic Effects from Government
Purchases and Taxes”, The Quarterly Journal of Economics CXXVI(1): 51-102.
2
ゼロ期を基準にすると、
( t (
( 1 (
))
))
1
∑
∏
∏
1
1
K0 =
[Ct − Wt ] +
K2 .
1 + rs
1 + rs
t=0
s=0
s=0
この操作を無限に繰り返すと、
( t (
(∞ (
))
))
∞
∏
∑
∏
1
1
K0 =
[Ct − Wt ] +
K∞ .
1 + rs
1 + rs
s=0
t=0
s=0
ところで、第二項は、無限先の金融資産の現在価値であり、NPG 条件よ
り、非負である。したがって、下記の不等式を得ることができる。
∞
∑
(
t=0
t (
∏
s=0
1
1 + rs
))
[Ct − Wt ] ≤ K0 .
さて、この経済に課税と公債を導入してみよう。政府の予算制約は
Gt − τt + (1 + rt ) Bt = Bt+1 ,
である。ただし、Gt は政府支出、τt は税収、Bt は公債残高である。Gt は外
生であるが、税と公債は政府が自由に設定できると仮定しよう。しかしなが
ら、一つ条件がある。家計の予算制約と同様に、整理していくと、
1
Bt+1
(τt − Gt ) +
(1 + rt )
(1 + rt )
(
)
1
1
Bt+2
1
=
(τt − Gt ) +
(τt+1 − Gt+1 ) +
.
(1 + rt )
(1 + rt ) (1 + rt+1 )
(1 + rt+1 )
Bt =
したがって、
B0 =
∞
∑
t=0
(
t (
∏
s=0
1
1 + rs
))
[τt − Gt ] +
(∞ (
∏
s=0
1
1 + rs
))
B∞ .
右辺第二項は、無限先での公債の現在価値であり、NPG 条件より、この値
は非負でなければならない。政府が正の大量の資産を長期的に保有するイン
センティブは通常ないので、政府の財政破たんがないと仮定すると、この値
はゼロとなる。その場合、政府の予算制約は
( t (
))
∞
∑
∏
1
B0 =
[τt − Gt ] ,
1 + rs
t=0 s=0
これは、政府の初期時点における公債保有額は、その後の税収と支出の差
(黒字) の現在割引価値の総和に等しい、すなわち、ゼロ時点期首で政府が保
有している公債残高 (借金) は、将来の黒字で償還することを意味する。
最後に、家計の予算制約に課税と公債を導入してみよう。家計にとり、資
産は公債で保有しても実物資本で保有しても等しい収益が上がるはずである。
3
したがって、公債発行の分だけ、資本ストックに回る分が低下する。すなわ
ち、民間保有の資産は資本ストックと政府公債の二つに分かれる。
At = Kt + Bt .
予算制約は、
Wt − Ct − τt + (1 + rt ) (At ) = At+1 .
なお、政府支出 Gt は予算制約に登場しない、すなわち、補助金や社会保
障給付としては使われていないことに注意されたい。
さて、これを将来にわたり計算し、整理すると、
A0 =
∞
∑
(
t=0
t (
∏
s=0
))
1
1 + rs
[Ct − Wt + τt ] +
(∞ (
∏
s=0
1
1 + rs
))
A∞ .
当然ながら、NPG 条件より、第二項は非負、効用関数が厳密に増加関数で
あればゼロであり、
A0 =
(
∞
∑
s=0
t=0
ところで、
( t (
∞
∑
∏
t=0
s=0
1
1 + rs
t (
∏
))
1
1 + rs
))
[τt ] =
∞
∑
[Ct − Wt + τt ] .
(
t=0
t (
∏
s=0
1
1 + rs
))
[Gt ] + B0 .
したがって、
A0 =
=
∞
∑
(
t (
∏
t=0 s=0
( t (
∞
∏
∑
t=0
s=0
1
1 + rs
1
1 + rs
))
[Ct − Wt + τt ]
))
[Ct − Wt + Gt ] + B0 .
すなわち、
K0 + B0 =
∞
∑
(
s=0
t=0
K0 =
∞
∑
t=0
t (
∏
(
t (
∏
s=0
1
1 + rs
1
1 + rs
))
[Ct − Wt + Gt ] + B0
))
[Ct − Wt − Gt ] .
さて、上記の予算制約を見てみると、登場するのは政府支出の Gt のみであ
り、税や公債が登場しない。すなわち、政府支出の額が決まっていれば、そ
れが税で調達されようが、公債発行で調達されようが、家計の予算制約には
一切影響を与えない、等価であることを示している。
4
これは、1820 年に出版された、David Ricard の著作 Essays on the Funding
System において、公債と租税が資金調達手段として異なるか否かを考察し、
人々が近視眼的でなければ、等価になると論じたことから、Ricard の等価定
理と呼ばれる。Ricard 本人が記したように、等価定理が成立する条件の一つ
として、政府が破たんしないこと (NPG 条件が成立)、および人々が将来の増
税を見越すこと、が必要である。しかしながら、政府公債の償還期限は長く、
たとえば、1904 年から 1906 年にかけて、日露戦争の戦費として日本がイギ
リスで起債した外債は 1996 年にようやく償還されている。Ramsey 流の無限
視野であればそのような遠い将来のことも考えることが可能であるが、人の
寿命が 100 年以上続くことは稀であり、政府公債の償還に比べて短い。した
がって、今季減税を受け、自分の死んだ後に増税がされると予想する家計が
あれば、将来の増税を見込むことなく、減税分を消費に回すかもしれない。
等価定理が成立するためのもう一つの条件は、家計の予算制約が無限先ま
で統合されていることである。そのためには、流動性制約が存在しないこと
が必要である。今季大規模な増税がされても、将来減税される予想があれば、
家計は借金をして当初の消費を維持することになるが、流動性制約に直面し
ている場合はそのような借金ができず、やはり、等価定理が成立しなくなる。
3
世代重複モデルと等価定理
2 期間の OLG モデルでは、Samuelson タイプでも、Diamond モデルでも、
政府が償還まで 2 期間以上の時間をかける場合、等価定理は成立しない。増
減税される世代と公債の発行、償還をうける世代が異なるため、政府の予算
制約を家計に反映できなくなるためである。今季、公債を発行し若年層に購
入させ、その原資で老年層に減税する場合、老年層の効用は増加こそすれ、
低下することはない。しかし、将来、公債を償還する際に増税される世代は、
今季の減税の恩恵をうけないため、厚生は明らかに低下する。このような、世
代単位での政策の影響を、人口動態の変化と合わせて分析するのが Kotlikoff
達による世代会計であるが、Barro (1974)5 は、ある種の条件の下で、OLG モ
デルにおいても等価定理が成立することを示した。この貢献により、等価定
理は Barro-Ricard の等価定理と呼ばれることもある。
Barro (1974) のアイディアはシンプルである。Barro は、まず、人々の貯
蓄にしめる遺産の大きさに目をつけた。家計貯蓄の中の何割が遺産に関係す
るかを正確に計測することは困難であるが、相続税統計を利用した Barthold
and Ito (1991)6 によると、アメリカでは 25% 以上、日本でも 28-42% 程度
5 Brro, Robert. 1974. “Are Government Bonds
Net Wealth?” Journal of Political Economy, 81(6):
1095–1117.
6 Barthold, T., and T. Ito, (1991) ”Bequest Taxes and Accumulation of Household
Wealth: U.S.-Japan Comparison,” NBER WOrking Paper, No. 3692.
5
の資産が遺産により形成されている。消費のライフサイクルモデルでは、家
計貯蓄は引退時における消費を賄うために行われており、自分の死亡する時
期が正確にわかっていれば、遺産は全く残らず、死亡時期が不確定な場合は、
使い残して死ぬことにより、意図せざる遺産 (Accidental Bequest) が発生す
る。この意図せざる遺産だけで、全資産の 40% から 25% も説明することは
可能であろうか?遺産が残される理由の中には、相続する自分の子供や孫に対
する愛情、利他主義が含まれていないだろうか?むろん、自分が高齢となり、
介護が必要となった時、介護サービスの提供を遺産で購入しているという仮
説も考えることは可能である。このような遺産は戦略的動機と呼ばれる。遺
産動機の解明は現代まで続く大テーマであるが、ここでは当面、親が子を想
う、利他主義により遺産が発生している経済を考えよう。
OLG の講義ノートでは G0、G1 と世代に名を付けたが、ここでは、2 期間
モデルを考え t 期に young である世代を t 世代と呼び、その効用を Vt と定義
する。すなわち、
(
)
Vt = u (cyt ) + βu cot+1 .
ここで、この t 世代は次の t+1 世代の効用も考えると仮定しよう。すな
わち、
(
)
Vt = u (cyt ) + βu cot+1 + αVt+1 .
α が、親が子を想う強度のパラメターとなる。全世代が同一の効用を持っ
ていると仮定すると、
(
)
(
)
( (
))
Vt = u (cyt ) + βu cot+1 + α u cyt+1 + βu cot+2 + α2 Vt+2 .
繰り返すと、
Vt =
∞
∑
[
(
)]
αs u (cyt ) + βu cot+1 .
s=0
各世代は、自分以外には、自分の子供の効用のみを考え、孫の効用は直接
は効用関数には含まれない。しかし、自分の子供は孫のことを考えるため、
子供が孫を考える、ということを考慮すると、自分はやはり孫のことも考え
ざるを得なくなるのである。
次に、予算制約を考えよう。簡単化のため等号制約のみを考えると、今回
は、遺産 (bequest, b) が含まれるようになり、
cyt + st = wt + bt ,
cot+1 + (1 + n) bt+1 = (1 + rt+1 ) st .
ただし、bt は t 世代が受け取る遺産であり t 世代にとっては所与である。一
方、bt+1 は t 世代が次世代に残す遺産であり、t 世代が操作可能である。この
予算制約式に基づき、効用最大化行動を考えてみよう。
6
L=
∞
∑
[
(
)]
αs u (cyt ) + βu cot+1 +
s=0
(
)
α λt (wt + bt − cyt − st ) + αs ωt (1 + rt+1 ) st − cot+1 − (1 + n) bt+1
(
)
+ αs+1 λt+1 wt+1 + bt+1 − cyt+1 − st+1 + ...
s
貯蓄に関して微分すると、
λt = ωt (1 + rt+1 ) .
自分の残す遺産に関して微分すると、
(1 + n) ωt = αλt+1 .
したがって、
αλt+1 (1 + rt+1 ) = (1 + n) λt .
消費に関して微分すると、
)
(
αu′ cyt+1 (1 + rt+1 ) = (1 + n) u′ (cyt ) ,
(
)
β (1 + rt+1 ) u′ cot+1 = u′ (cyt ) .
一方、標準的な新古典派成長モデル (完全減価償却) をベースに、中央政府
による最適化問題を考えると、資源制約 (財市場の均衡条件) は各期で
f (kt ) = (1 + n) kt + cyt +
1 o
c ,
1+n t
となっている。中央政府の目的関数を、上記と同様に
∞
∑
[
(
)]
αs u (cyt ) + βu cot+1 ,
s=0
として、最適化問題を解くと、
(
)
αu′ cyt+1 (f ′ (kt+1 )) = (1 + n) u′ (cyt ) ,
(
)
β (f ′ (kt+1 )) u′ cot+1 = u′ (cyt ) .
となり、市場均衡条件として、Diamond (1965) の OLG モデルと同様の
1 + rt+1 = f ′ (kt+1 ) ,
7
が成立することを考えると、市場均衡は無限視野を有する中央政府の最適化
問題の解と一致する7 。すなわち、市場均衡はパレート効率的となる。
この、OLG に将来世代を想う利他主義を導入することにより、市場均衡が
パレート効率的となる、という結果は、無限視野を有する代表的個人モデル、
すなわち Ramsey の最適成長モデルが現実経済の近似になりうることを示し
ている。もっとも、このような利他主義が本当に存在するのか、遺産ではな
く負債を残すようなことも可能なのか?など、この等価定理が実際に成立して
いるか否かに関しては多くの論争がある。家計単位の消費の年齢ごとの動き
をみると、無限視野の代表的家計の消費パターンよりも、単純なライフサイ
クルモデルに近い動きがみられる。また、等価定理が成立するなら、政府の
負債が増加すると、それに応じて家計貯蓄が増加することになるが、そのよ
うな政府負債と民間貯蓄の正の相関は強くは観察されない。もっとも、厳密
な検証には将来にわたる政府の予算制約の推移に関する情報が必要であり、
非常に困難である。実際には、等価定理がどの程度現実経済の近似として整
理するか否かがポイントとなる。
ここでの議論では、税は一括税と仮定していたが、実際には一括税は不可
能であり、所得税や資産税などが課されている。そのような税は死荷重を発
生させる。死荷重を発生させる場合、各期の死荷重の現在割引価値の和を最
小にするような公債と税の組み合わせが望ましいことになるだろう。このよ
うに、政府支出を所与とし、一括税が不可能な場合の最適な公債と税の組み
合わせを考える研究は Optimal Fiscal Policy と呼ばれる。代表的な研究は
Lucas and Stokey (1983)8 であり、最適課税論の文脈の中で、その後も多くの
研究が行われている。特に、近年では不完備資本市場および動的契約の文脈
の中で議論されることが多くなっており、特に進展の早い研究分野でもある。
4
政府支出の分析について
資金調達に関する研究がここ数十年の間ずっと進められてきたのに対し、政
府支出の分析は、リーマンショック以降に急速に関心が広がってきた。無論、
最大の理由は各国で行われた巨額の財政支出がどのような経済的帰結をもた
らすのか、論争が交わされたためである。論争の多くは、はたして、Output
Gap がどの程度存在するのか、そして財政支出乗数がいくつなのか、に集中
した。
単純な RBC モデルで、限界効用や限界生産性に対し政府支出が影響を与
えないと仮定する場合、政府支出の増大は GDP を増加させる。それは、政府
支出の増大は増税と同じであり、将来の税負担をみこした家計が労働供給を
7 示してみよ!
8 R.E. Lucas, N.L. Stokey, ”Optimal fiscal and monetary policy in an economy without
capita,” Journal of Monetary Economics, 12 (1983), pp. 55–93
8
増加させるためである。したがって、GDP は増加するが、通常の効用関数の
仮定だと (消費の限界効用が余暇と独立なら)、消費は低下する。また、GDP
の増加分も、政府支出増加ほどには増加しない。したがって、乗数は正では
あるが、1 よりも小さくなる。
では、様々な friction を経済に導入するとどうなるだろうか?価格硬直性を
導入すると、経済は非効率となり、経済厚生を改善させる可能性が生じる。
Christiano et al. (2011) は様々なケースを想定し乗数を計算しているが、乗
数が 1 を超えるには、価格硬直性に加え、消費と余暇が独立ではない、とい
う仮定が必要となることを指摘している。しかしながら、ほかにも、たとえ
ば家計の一部が、非常に単純な消費関数 (貯蓄率一定) に従う、あるいは、政
府支出が民間生産性を向上させる、などの仮定をいれると、乗数は 1 をはる
かに超え、消費もまた増加する可能性がある。また、ゼロ金利の下での乗数
は 3 になるケースも Christiano et al. (2011) は報告している。理論的には、
様々な friction を入れることで、乗数をかなり大きくすることが可能である。
しかしながら、実際に計測された乗数はどの程度であろうか?これは、時系列
データ、各国のパネルデータ、期間により 0 から 2 まで様々であり、一貫し
た結果は得られていない。政府支出は経済状態から独立して決定されている
わけではなく、内生変数であり、この内生性をどうコントロールするか、が
最大のポイントとなる。詳細は Auberbach et al. (2010) によるサーベイ研究
を参照してもらいたいが、軍事支出などの外生的支出を用いるか、非常に短
期の支出変動 (Blanchard and Perroti (2002)9 , および Hall (2009)10 などを参
照されたい。
9 O. Blanchard, R. Perotti (2002) ”An empirical characterization of the dynamic effects
of changes in government spending and taxes on output,” Quart. J. Econ., 117 (4) (2002),
pp. 1329–1368
10 R. Hall (2009), ”By how much does GDP rise if the government buys more output?”Brook. Pap. Econ. Activity, 40 (2) (2009), pp. 183–231
9