酸素非発生型光合成の概要

2.酸素非発生型光合成
2­1.酸素非発生型光合成の概要
2­2.光合成細菌 Rhodopseudomonas 属の光合成
2­3.初期過程(光励起電子移動)
2­4.キノンプールとシトクロム bc1 複合体
2­5.ATP合成酵素
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2­1.酸素非発生型光合成の概要
・光合成には「酸素発生型」と「酸素非発生型」がある。
酸素発生型:ラン藻(シアノバクテリア)、高等植物
酸素非発生型:紅色細菌、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌(糸状光
合成細菌)、ヘリオバクテリア
・酸素発生型は水を酸化し、炭酸固定を行う。
酸素非発生型は炭酸固定を行うものと行わないものがある。
・両者のメカニズム(反応中心の構造・機能など)には共
通点が多い。
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酸素非発生型光合成生物
細菌の種類
紅色非硫黄細菌
紅色細菌
紅色硫黄細菌
緑色非硫黄細菌
電子源
(独立栄養の時)
反応中心のタイプ
H2
または従属栄養
H2S
H2
(糸状光合成細菌)
または従属栄養
緑色硫黄細菌
H2S
ヘリオバクテリア
従属栄養のみ
Type II
(キノン)
Type I
(鉄­硫黄)
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反応中心の2つのタイプ
Type I (鉄­硫黄)
Type II (キノン)
E = –0.65 V
E = –0.15 V
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2­2. Rhodopseudomonas 属の光合成
・紅色非硫黄細菌の光合成は最もよく研究されている。
電子源
細菌の種類
紅色細菌
(独立栄養の時)
紅色非硫黄細菌
反応中心のタイプ
H2
Type II
または従属栄養
(キノン)
・1984年に Deisenhofer らが発表した Rhodopseudomonas
viridis 反応中心のX線構造は、光合成研究における記念すべき成果
だった(1988年ノーベル化学賞)
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光合成反応中心の構造的特徴
Fe
QA
QB
PhA
• D: the “special pair”
• B: bacteriochlorophylls
• Ph: bacteriopheophytins
• Q: quinones
• Fe: a non-heme iron
PhB
BA
BB
DA
DB
・ほぼ2回対称
・しかし、電子が流れるのは一方のみ(図の左側)
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スペシャルペアの特徴
・吸収スペクトルが長波長(低エ
ネルギー側)にシフト
other BChls
・酸化電位が低い=酸化され
やすい
the Special Pair
(P870)
O
CO2Me
CO2R
N
NO
Mg
O
N
N
N
N
Mg
N
N
NO
Mg
N
N
CO2R
N
RO2C
MeO2C
O
CO2Me
O
E = +0.45 V
E = +0.64 V
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2­3.初期過程:光励起電子移動
・非常に速い!
・極低温(液体ヘリウム温度)
でも速度は低下しない。
・逆電子移動が極めて遅い。そ
のため、電荷分離の量子収率
は 100% に近い。
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なぜ逆電子移動が遅いのか?
・色素間の距離
P870
BChl
11 Å
BPheo
QA
QB
11 Å
14 Å
18 Å
28 Å
17 Å
28 Å
・エネルギー
Em
(V)
P870*
–1.0
順電子移動のΔG:
BChl
小さい負の値 (–0.20 eV)
BPhe
–0.5
逆電子移動のΔG:
hv
0.0
0.5
大きい負の値 (–1.30 eV)
P870
ΔG と電子移動速度の関係=Marcus 理論
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もう一つの重要な補因子:キノン
O
O
MeO
O
Plastoquinone
9
H
MeO
O
H
10
Ubiquinone
(Coenzyme Q10)
・生化学のエネルギー変換で非常に重要な補因子。
・プラストキノンは葉緑体に存在し、光合成明反応の電子伝達系
を受け持つ。
・ユビキノン(補酵素 Q)はミトコンドリアに存在し、呼吸の電
子伝達系を受け持つ。
・バクテリア光合成ではユビキノンが使われる。
10
キノンの酸化還元
O–
O
O–
+e–
・キノンは可逆的に2電子を
–e–
受け取れる。
O
・電子移動と同時にプロトン
移動が起こることがある。
・還元されるとフェノラート
アニオンの形になるため、
強い塩基性を持つ。
・従って、プロトン性の溶媒(環境)では
プロトン化された中性分子の状態をとる。
+e–
–e–
O–
O•
–H+
+H+
+H+
–H+
OH
OH
+e
–
–e–
O–
O•
–H+
+H+
OH
OH
Q3: キノンを非プロトン性溶媒(アセトニトリルなど)中で電気化学的に
還元すると、一電子ずつ二段階で還元される。一方、プロトン性溶媒中
では、一段階で二電子還元が起こる。理由を説明しなさい。(次ページ
も参照のこと)
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2­4.キノンプールとシトクロム bc1 複合体
反応中心
シトクロム bc1
「キノンプール」
!2
・キノンプールは細胞膜中にある。
・反応中心でキノンはヒドロキノンに還元されたあと、キノンプー
ルに放出される。ヒドロキノンはシトクロム bc1 複合体で再酸
化される。
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キノンプールの酸化還元とプロトンの能動輸送
cyt c2
細胞質
細胞膜
ペリプラズム
Q: キノンプールのキノンが長いアルキル鎖を持つのはなぜか?
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シトクロム bc1 複合体
heme bH
(high potential heme)
+50 mV
heme bL
(low potential heme)
–90 mV
cyt b
cyt c 1
cyt bc1
+290 mV
Fe2S2 center
(The Rieske FeS center)
Qi
quinone reduction site
Qo
quinol oxidation site
+280–290 mV
・触媒する反応:ヒドロキノンを酸化し
て、電子をシトクロムc2に渡し、同
時にプロトンをくみ出す。
・実際には、1サイクル中にヒドロキノ
ンを2分子還元し、同時にキノンを
Ⅰ分子還元する。(Q-サイクル)
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R. sphaeroides シトクロム bc1 複合体のX線構造
cytochrome b
cytochrome c1
Iron-sulfur
protein
subunit
Esser et al. J. Biol. Chem. 2008, 283, 2846–2857.
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3つのヘム(鉄ポルフィリン)の役割
・シトクロム bc1 は bH, bL,
Qi
c1 の3つのヘムを持つ。
・電子の流れ
bH
Qo → Fe-S (Rieske) → c1
S Qo
Fe Fe
c₂
c₁
S
Qo → bL → bH
bL
・電子が二手に分かれる
(bifurcation)
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Bifurcation はなぜ起きるのか
O
E1'
–
O
OH
E2'
–
+
OH
+
+e , H
+e , H
–e–, H+
–e–, H+
O•
OH
E2’ ~ +0.3 V
E1’ ~ –0.1 V
・中性のセミキノンラジカルは、ヒドロキノンよりも強い還元
剤である。
・Rieske FeS はヘム bL よりも強い酸化剤である。
・まずヒドロキノンが Rieske FeS で酸化され、生成した中性セ
ミキノンラジカルがヘム bL で酸化される。
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シトクロム bc1 の電子の流れ(まとめ)
–0.2
low-potential chain
bL
0.0
bH
QH2
Re-reduction of Q
"bifurcation"
+0.2
Rieske
Fe–S
+0.4
cyt c1
cyt c2
high-potential chain
+•
P870
18
Q­サイクル
Q
bH
QH 2
Qi
QH2
bL
S
Fe
Fe
S
c1
Qo
S
S
Fe
Fe
Fe
Fe
cyt c2
S
QH 2
S
2H+
Q
Q 2–
QH2
cyt c2
S
Fe
Fe
Q
S
S
Fe
cyt c2
Fe
S
Q-•
Q-•
S
cyt c2
Fe
Fe
S
Q
Fe
S
cyt c2
Fe
2H+
QH 2
S
2H+
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2­5.ATP合成酵素
ATPの構造
NH2
N
O
O
O
–O P O P O P O
O– O– O–
O N
HO
N
N
OH
ATP合成の反応機構(回転機構)
Fillingame et al., Biochim. Biophys. Acta 2002, 1555, 29.
Walker, Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 2308.
20
「回転機構」を目で見る!
Noji et al., Nature 1997, 386, 299.
21
ATP酵素を逆向きに動かす:力学エネルギーで化学反応
Itoh et al., Nature 2004, 427, 465.
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