7 指数の拡張

§8.7
指数の拡張
前節では冪の指数を整数の範囲にまで広げましたが,本節では更に冪の指数を有理
5
5
数の範囲にまで広げます. つまり,指数が有理数である冪,例えば実数 a の 乗 a 2
2
4
4
とか − 乗 a− 3 などを考えます.
3
m
( m は整数で n は正の整数)の形で表せます. 例えば,
任意の有理数は,分数
n
−
−5
5
,
=
3
3
−4
.
1
−4 =
m
m
( m は整数で n は正の整数)である冪 a n を定義します.
n
冪の指数を有理数の範囲に広げても指数法則は同じ形で成り立ってほしいと思いま
2
す. 実数 a について a > 0 とします. 例えば仮に p =
, q = 3 のときに指数法
3
則 (ap )q = apq が成り立つとすると,
2 3
2
= a 3 3 = a2 ;
a3
指数が分数
従って
r
3
r
3
右辺は定理 8.5 より
2 3
2 3
√
3
=
a3
a2 ;
√
3
2
2
= a 3 ですから, a 3 =
a3
a2 .
m
一般に,正の実数 a と整数 m と正の整数 n とに対して a n =
√
n
am と定義した
いのですが,そのためには次の補助定理が必要になります.
k
m
ならば
=
補助定理 任意の整数 k , m 及び任意の正の整数 l , n について,
l
n
√
√
l k
a = n am .
証明は省略しますが,この補助定理が成り立つので次の定義ができます.
定義 実数 a について a ≥ 0 とする. 整数 m と正の整数 n とに対して, a の
m
m
乗 a n を次のように定義する:
n
√
m
a n = n am ;
但し, m < 0 のときは a > 0 とする.
例えば,
3
√
4
√
4
2
√
5
r
1
.
9
m
√
√
次のことに注意して下さい:整数 m 及び正の実数 a に対して a 2 = 2 am = am .
24 =
23 =
8 ,
3− 5 = 3
−2
5
=
3−2 =
5
前節で述べた指数法則は,冪の指数を有理数の範囲にまで拡張しても大体同じ形で
成り立ちます. その証明はやや面倒なので後に回します.
定理(有理数指数の指数法則)
任意の正の実数 a , b 及び任意の有理数 p , q に
ついて,
ap
= ap−q ,
(ap )q = apq ;
aq
p
ap
a
(ab)p = ap bp ,
= p .
b
b
ap aq = ap+q ,
指数法則より次の定理が導かれます.
定理 8.7
任意の正の実数 a 及び任意の整数 m , 任意の正の整数 n について,
√
m
√
a n = n am = n a m .
√
1
n
a = a1 = a n ; 従って,指数法則を用いると,
1 m
m
√
√
n
a m = an
= a n = n am .
√
n
a = a1 なので,
証明
(証明終り)
√
3
√
5 + 23 と 3 5 + 2 3 との違いに注意して下さい:
p
√
√
√
√
3
3
3
3
5 + 23 = 3 5 + 8 = 13 ≒ 2.351 ,
5+2 3 = 7 3 = 7 .
例えば
√
3
例題
正の実数 a に対して,次の式を a の冪の形に直す: √
指数法則を用いる.
√
3
a4 p 3 √
a 3 a2 .
,
a5
4
7
4 5
a3
a4
√ 5 = 5 = a 3 − 2 = a− 6 .
a
a2
q
問題 8.7.1
1
1
1
11 2 2
11
2 2
11 1
√
2
a3 3 a 2 = a3 a 3
= a3+ 3
= a3
= a 3 ·2 = a 6 .
終
正の実数 a に対して,以下の式を a の冪の形に直しなさい.
√
q
√
3
a3
(1) √
a2 a3 .
.
(2)
3 a7
2 2
a3 8 5 3
a 3
4
例題 正の実数 a , b に対して次の式を計算して簡単にする: 2 (a b ) 4 , ab
.
b
b9
結果は指数が正の数の a や b の冪の式かまたは a や b そのものだけから成る積や
分数の形の式で書き表す.
指数法則を用いて計算する.
15
7
a3 8 5 3
a3 8 3 5 3
a3 6 15
b4
9 4
4 =
4
4 =
4 = a3 a6
.
2 (a b )
2 (a ) (b )
2a b
2 = a b
b
b
b
b
ab
問題 8.7.2
4
a2
b9
2
3
= ab
4 (a
2
2 3
)
2
= ab
4a
4
3
7
=
b6
(b9 ) 3
4
aa 3
7
b4
a3
3 −2 =
.
6 =a b
b
b2
終
正の実数 a , b に対して以下の式を計算して簡単にしなさい. 結果は指
数が正の数の a や b の冪の式かまたは a や b そのものだけから成る積や分数の形
の式で書き表しなさい.
3 2
(1) a b
a2
b10
3
5
(2)
.
b2 5 3 4
(a b ) 3 .
a5
指数法則から次のことが成り立ちます: 正の実数 a と b と及び有理数 p につ
いて,
1
a0
p = p .
a
a
a−p = a0−p =
例題
y2 3 2 − 4
(x y ) 3 ,
x3
正 の 実 数 x , y に 対 し て 次 の 式 を 計 算 し て 簡 単 に す る:
− 3
y3 2
xy
. 結果は指数が正の数の x や y の冪の式かまたは x や y そのものだ
x4
けから成る積や分数の形の式で書き表す.
4
指数法則を用いて計算する.
8
2
y2 3 2 − 4
y2 3 − 4 2 − 4
y 2 −4 − 8
x−4
3 =
3 (y ) 3 =
y 3 = 3 y 2 y − 3 = x−7 y − 3
3 (x y )
3 (x )
3x
x
x
x
x
1
=
2 .
x7 y 3
xy
問題 8.7.3
4
y3
x4
− 3
2
= xy
4 (y
3
3 −2
)
3
(x4 )− 2
= xy
4y
9
−2
x
−6
=
1
x7
x 4 −9
2 = x7 y − 2 =
1 .
−6 y y
x
y2
終
正の実数 x , y に対して以下の式を計算して簡単にしなさい. 結果は指
数が正の数の x や y の冪の式かまたは x や y そのものだけから成る積や分数の形
の式で書き表しなさい.
3
y3
(1) 2 (x8 y 6 )− 4 .
x
(2) xy
3
x5
y6
− 2
3
.
指数法則の証明
a と b とは任意の正の実数で, p と q とは任意の有理数であるとします. 8.6
節 で 述 べ た 整 数 指 数 の 指 数 法 則 を用 い て,有 理 数 指 数 の 指 数 法 則 ap bp = (ab)p ,
ap aq = ap+q を証明します. p と q とは有理数なので,
p=
m
( m は整数で n は正の整数),
n
q =
k
( k は整数で l は正の整数)
l
とおくことができます.
まず ap bp = (ab)p を証明します.
m
m
√
√
m
n
なので, ap = a n = n am , bp = b n = bm ; 従って,定理 8.5 より,
証明 p =
n
√
√
n
(ap )n = n am n = am ,
(bp )n = bm n = bm ;
よって
(ap )n (bp )n = am bm .
n と m と は 整 数 な の で , 整 数 指 数 の 指 数 法 則 よ り, 上 の 等 式 の 左 辺 は
(ap )n (bp )n = (ap bp )n ,右辺は am bm = (ab)m ,従って
(ap bp )n = (ab)m ;
よって
この等式の左辺は定理 8.5 より
故に ap bp = (ab)p .
p
n
p
n
(ap bp )n =
p
n
(ab)m .
(ap bp )n = ap bp ,右辺は
p
n
m
(ab)m = (ab) n = (ab)p ;
(証明終り)
次に ap aq = ap+q を証明します.
証明
p=
√
m
k
√
k
m
l
, q=
なので, ap = a n = n am , aq = a l = ak ; 従って,定理
n
l
8.5 より,
√
n
(ap )n =
am
n
= am ,
(aq )l =
√
l
ak
l
= ak .
k , l , m , n は整数なので,整数指数の指数法則より,
{(ap )n }l = (am )l = aml ,
{(aq )l }n = (ak )n = akn .
また,整数指数の指数法則より,上の等式の左辺は,各々,
{(ap )n }l = (ap )nl = (ap )ln ,
{(aq )l }n = (aq )ln ,
従って,
(ap )ln = aml ,
(aq )ln = akn ;
よって
(ap )ln (aq )ln = aml akn .
整 数 指 数 の 指 数 法 則 よ り, 上 の 等 式 の 左 辺 は (ap )ln (aq )ln = (ap aq )ln , 右 辺 は
aml akn = aml+kn ,従って
(ap aq )ln = aml+kn ;
よって
√
ln
(ap aq )ln =
aml+kn .
p
この等式の左辺は定理 8.5 より ln (ap aq )ln = ap aq ,右辺は
√
m k
ml+kn
ln
aml+kn = a ln = a n + l = ap+q ;
q
ln
故に ap aq = ap+q .
(証明終り)