テレビCM言説の実証的研究 人文学部総合人文学科

テレビ CM 言説の実証的研究 公募研究プロジェクト
研究期間:2012-2014 年度
人文学部総合人文学科 教員 前 田
茂
研究課題名(英文)
Empirical Study on Discourses in TV Commercial
1-1.研究成果の概要
本研究において、TCJ 社制作のテレビ CM 第Ⅱ期および第Ⅲ期、シバプロダクション制作のテ
レビ CM、JAC 定例試写会上映テレビ CM のナレーション、テロップ、コマソン等の言語化なら
びにコード化を行った。これにより既存の TCJ 社制作のテレビ CM 第Ⅰ期、さがスタジオ作品、
ハイスピリット社作品と併せて、SEIKA コレクションのすべてのテレビ CM の言語化/コード化を
果たした。 テレビ CM 中の言語のテキストデータ化および分析コードの付加によって、より効率的で柔軟な
研究利用が可能なデータベースを実現し、斯界研究者にとどまらず、多分野における研究・教育活
用の途を拓いた。 1-2 研究成果の概要
In this study, we have proceeded literal description and encoding of the contents -- including
narration, subtitle, song and so on -- in TV comercials made by TCJ from the second to the
third period, those made by Shiba Production, and those presented in the JAC's regular
preview. Adding these results to our previous work on TV commercials made by TCJ in its first
period, those made by Saga Studio, and those made by High Spirit Co., we finish whole of this
operation on SEIKA collection of TV commercials.
By encoding these materials into a text-oriented databese with their proper analytic codes, our
achievment will enable more efficient and adaptable reseach on TV commercials and open a
new path to both academic and educational utilization of the databese in wider range.
2.研究計画
2-1.本研究の目的
本研究は、本学が所管するテレビ CM データベースを基礎資料とし、テレビ最初期から普及期
(1953-70)を中心に、「豊かで」「新しい」「憧れ」の欧米風ライフスタイルや「最新技術」「近代
的」
「衛生的」な産業…などのように表象される当時のテレビ CM 言説を、テレビ CM のテキスト
化(言語化)・コード化を通して、消費社会におけるテレビの位置づけを実証的に読み解く方途を
拓くものである。 2-2.研究の学術的背景
テレビメディア環境は 20 世紀後半から現在まで、社会生活に圧倒的な影響を及ぼしてきた。テ
レビ番組やテレビ CM は社会の集合的記憶を形成し想起させる文化的・社会的資源であり、デジタ
ル社会におけるメディアコンプレックスを解く鍵として、テレビ研究が再評価されている。テレビ
CM 研究の先行例としては、国際日本文化研究センター(2003-5 年度)、京都精華大学(2007-10
年度)等があり、本研究はその一環として位置づけられる。 一方、テレビ CM に関する研究は、広告研究の一環としてとらえられながら、新聞やポスターと
異なり、個別の CM を精査・分析して、その特性を析出する研究は類例がない。先行研究において
も、とくに 1950-60 年代の CM は残存数がひじょうに限られており、研究資料に事欠いている。
本研究では、本学テレビ CM データベース約 20,000 レコードのうち 18,000 レコード余について
CM 中のナレーション、テロップ、コマソン等の言語をテキスト化し、分析コードを付して、テレ
ビ CM にまつわる言説をひもとく途を拓くものである。 2-3.研究方法
・テレビ CM データベース搭載の CM のうち、言語化/コード化に未着手の作品についてテキスト 化し、分析コードを付す。 ・テレビ文化アーカイブズ研究プロジェクトと連携し、テキストデータ、分析コードを基軸に CM
分析を行い、CM 言説を実証的に読み解くとともに、研究会を開催して研究報告ならびにディス カッションを行う。 ・読み解いた CM 言説を公開シンポジウム、フォーラム等で公表し、テレビ CM 研究の社会的認 知を獲得する。 ・テレビ文化アーカイブズ研究会と連携し、研究成果報告書として上梓(予定) 3.研究成果
◎5,624 レコードの CM の言語(テキスト)化/コード化
・TCJ 社制作 CM
第Ⅱ期作品:1,654 レコード
第Ⅲ期作品:2,392 レコード
・JAC 定例試写会上映 CM
第Ⅰ期:1,578 レコード
◎ 上 記 、5,624 レ コ ー ド お よ び 既 存 の 12,528 レ コ ー ド( 下 記 )の メ タ デ ー タ 、テ キ ス ト デ
ー タ 、 サ ム ネ ー ル 等 の 集 約 と PDF 版 の 作 成 ・TCJ 第Ⅰ期:9,096 レコード
・さがスタジオ:147 レコード
・ハイスピリット社第Ⅰ期:1,127 レコード
・ハイスピリット社第Ⅱ期:1,648 レコード
・シバプロダクション:510 レコード
本成果は、将来的に電子出版物として上梓し、研究・教育ツールとしての活用を目的としたパイ
ロット版として制作。京都精華大学機関リポジトリへの搭載をも視野に入れる。 ◎CM 上映、キャプチャー画面掲載等に関するノウハウの集積
テレビ CM の上映やキャプチャー画面の掲載については、著作権や肖像権等複雑な権利関係があ
り、現在、ACC((社)全日本シーエム放送連盟)の基準に従い、広告主・広告代理店・制作会社の
許諾を得て使用している。この間の研究活動において、テレビ文化アーカイブズ研究プロジェクト
と連携する中で、そのノウハウを蓄積するとともにネットワークも広がり、今後の研究活動を伸
展・深耕するうえで、効率的で円滑な許諾が可能となった。 4.主な発表論文等
◎学会発表等
・石田佐恵子「テレビ文化史・広告史アーカイブ構築についての総合的研究:旧萬年社所蔵資料に よる大阪の広告史研究を中心に」2012、学術戦略会議 ・石田佐恵子「手作り・アナログ時代の広告からの「完成価値」創造:旧萬年社所蔵資料からの再 発見」大阪市立大学・大阪府立大学ニューテクノフェア ・Saeko Ishita‘ポピュラー文化の収集・共有・消費:「ポピュラー文化ミュージアム」を考える The Popular Culture Museum: Collecting, Sharing, and Consuming Cultures’An
International Symposium : “The New Current of Cultural Consumption in East Asia”,2013
・Saeko Ishita‘Construction of the ‘public’ memory of the celebrity: Popular culture museum
in Japan’the Association for Cultural Studies, the10th Crossroads in Cultural Studies
Conference
・難波功士「関西 CM 史を振り返る:広告史研究の現状と課題」日本広告史学会、2013
・難波功士「1960 年代のメディア環境」Clothing Japan141 シンポジウム 1960s:メンズ・ファ ッションの黎明期、2013
◎学術誌
・Ulrich Heinze‘Pictorial Body-Metaphors in Japanese Advertising:How the body-economy
replaces the body-nation in the affluent images of oishisa,bihada and tanjo’“Language and
Dialogue 4(2)”,Benjamin Publishing Amsterdom,2014
◎研究会報告書
・「テレビ文化研究」Vol.1、2013
・「テレビ文化研究」Vol.2、2015
5.研究組織
(1)研究代表者 前 田 茂(京都精華大学人文学部准教授)
(2)研究分担者 石田佐恵子(大阪市立大学大学院文学研究科教授)
辻 大 介(大阪大学大学院人間科学研究科准教授)
高野光平(茨城大学人文学部准教授)
(3)連携研究者 テレビ文化アーカイブズ研究プロジェクト研究員
(4)研究協力者 TCJ 社/JAC(社団法人 日本アド・コンテンツ制作者連盟)
(5)その他
東京大学・大阪大学・茨城大学・岩手大学・大阪市立大学・関西学院大学・関西大学 立命館大学・佛教大学・四国学院大学・国立日本文化研究センター セーンズベリ日本芸術研究所・ウエストミンスター大学・ソウル大学・NHK
アドミュージアム東京・国立情報学研究所 6.今後の研究活動予定・見通し
本研究は、学内共同研究および科学研究費助成事業を原資として推進している。2015 年度からも
科研費「研究成果公開促進費(データベース)」に採択され、継続して行っていく予定である。 また、本学に設置したテレビ CM データベースサーバの老朽化に伴って、2014 年度に共同利用・
共同研究拠点に認定された立命館大学アート・リサーチセンターに移設する。本センターでは、セ
ンターが有する膨大な日本文化資源のデータベースを国内外の研究者に公開して研究プロジェク
ト活動の基盤を提供し、情報アーカイブ・知識循環型共同研究を推進しており、テレビ CM データ
ベースもその一環として位置づけることにより、従来にも増して広範な利活用をはかることができ
ることが期待される。 さらに、テレビ CM データベースを巡っては、アドミュージアム東京がインターフェイスのリニ
ューアルするのを契機として、東京大学情報学環、国立情報学研究所が中心となって、国立国会図
書館等を巻き込んで新たな動きが出ている。テレビ CM 研究においても大きな障碍となっている著
作権・肖像権をはじめとする諸権利に関して、フェアユースの考え方が導入されることが期待され
るとともに、それが実現すれば、本学が構築してきた膨大で貴重なテレビ黎明期の CM があらため
て脚光を浴びる日も近いと考える。