確率微分方程式を用いた対流圏の予測可能性の解析

招待講演
「気象庁データを利用した気象研究の現状と将来展望」
確率微分方程式を用いた
成層圏・対流圏の予測可能性の解析
稲津 將(北海道大学)
本研究で利用する気象庁データ
再解析データ(JRA55)
• 1960/61~2014/15の12~2月(55冬分)
• 水平1.25度格子、6時間間隔
1か月アンサンブル予報データ
• 2001/02~2013/14の12~2月(9冬分)
• 水平約110km、鉛直40層、6時間間隔
統計的に季節内予測可能性を先見できないか
アンサンブル予報データ
再解析データ
低次元系に射影
比較・検証
現業予報
スプレッド
理論的予測
スプレッド
低次元系に射影した現業予報スプレッドと理論的予測ス
プレッドを比較することで、新理論の有効性を検証する。
時系列離散データ
𝑿𝑿𝟏𝟏 , 𝑿𝑿𝟐𝟐 , 𝑿𝑿𝟑𝟑 , … , 𝑿𝑿𝑵𝑵
情報の縮約
低次元離散データ
𝒀𝒀𝟏𝟏 , 𝒀𝒀𝟐𝟐 , 𝒀𝒀𝟑𝟑 , … , 𝒀𝒀𝑵𝑵
物理法則
𝒙𝒙(𝑡𝑡 + 𝑑𝑑𝑑𝑑) = 𝒇𝒇 𝒙𝒙(𝑡𝑡)
数学的手法
低次元予測式
𝒚𝒚(𝑡𝑡 + 𝜏𝜏) = 𝒈𝒈 𝒚𝒚(𝑡𝑡) + 𝝐𝝐
統計的手法
線形逆モデル(LIM)
低次元離散データ
𝒀𝒀𝟏𝟏 , 𝒀𝒀𝟐𝟐 , 𝒀𝒀𝟑𝟑 , … , 𝒀𝒀𝑵𝑵
線形予測式
�(𝑡𝑡 + 𝜏𝜏) = 𝐆𝐆𝒚𝒚(𝑡𝑡) + 𝝐𝝐
𝒚𝒚
重回帰分析
線形作用素:𝐆𝐆 𝜏𝜏 = 𝐂𝐂 𝜏𝜏 𝐂𝐂 0 −𝟏𝟏
誤差共分散: 𝝐𝝐𝝐𝝐𝑻𝑻 = 𝐂𝐂 0 − 𝐆𝐆 𝜏𝜏 𝐂𝐂(0)𝐆𝐆 𝜏𝜏 𝐓𝐓
少ないサンプルからもある程度確からしい予測
式�
𝒚𝒚(𝑡𝑡 + 𝜏𝜏) = 𝐆𝐆𝒚𝒚(𝑡𝑡)を作ることができる。
(Penland and Sardeshmukh, 1995; Newman et al. 2003)
確率微分方程式(SDE)モデル
低次元離散データ 𝒀𝒀𝟏𝟏 , 𝒀𝒀𝟐𝟐 , 𝒀𝒀𝟑𝟑 , … , 𝒀𝒀𝑵𝑵
𝑨𝑨:ドリフトベクトル
統計的推定
𝐁𝐁 = 𝐒𝐒𝐒𝐒 𝐓𝐓 ⁄2:拡散テンソル
SDE予測式
𝑑𝑑𝑾𝑾:ウィナー過程
𝑑𝑑𝒚𝒚 = 𝑨𝑨 𝒚𝒚 𝑑𝑑𝑑𝑑 + 𝐒𝐒 𝒚𝒚 𝑑𝑑𝑾𝑾
𝑝𝑝:確率密度関数
フォッカープランク方程式
𝜕𝜕𝜕𝜕
𝜕𝜕
𝜕𝜕 2
=−
𝐴𝐴𝑖𝑖 𝑝𝑝 +
𝐵𝐵𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑝𝑝
𝜕𝜕𝜕𝜕
𝜕𝜕𝑥𝑥𝑖𝑖
𝜕𝜕𝑥𝑥𝑖𝑖 𝜕𝜕𝑥𝑥𝑗𝑗
(Branstator and Berner, 2005; Sura et al., 2005; Inatsu et al., 2013)
評価時間問題
LIM:𝑑𝑑𝑥𝑥𝑖𝑖 = 𝐿𝐿𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑥𝑥𝑗𝑗 𝑑𝑑𝑑𝑑 + 𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑑𝑑𝑊𝑊𝑗𝑗
SDE:𝑑𝑑𝑥𝑥𝑖𝑖 = 𝐴𝐴𝑖𝑖 𝑥𝑥 𝑑𝑑𝑑𝑑 + 𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑥𝑥 𝑑𝑑𝑊𝑊𝑗𝑗
ln 𝐺𝐺𝑖𝑖𝑖𝑖 𝜏𝜏
−𝐿𝐿𝑖𝑖𝑖𝑖 = −
𝜏𝜏
𝑥𝑥𝑖𝑖 𝑡𝑡 + 𝜏𝜏 = 𝑥𝑥𝑖𝑖 𝑡𝑡
𝑡𝑡+𝜏𝜏
+ ∫𝑡𝑡 𝐴𝐴𝑖𝑖
𝒙𝒙 𝑑𝑑𝑑𝑑 +
ノイズの
無相関時間
N/A
𝑡𝑡+𝜏𝜏
∫𝑡𝑡 𝑆𝑆𝑖𝑖𝑖𝑖
𝑥𝑥 𝑑𝑑𝑊𝑊𝑗𝑗
シグナルの
無相関時間
applicable
N/A
𝜏𝜏
(DelSole, 2000; Berner, 2005)
SDEパラメタの統計的推定
ドリフトベクトル
𝛿𝛿𝛿𝛿𝑖𝑖
𝐴𝐴𝑖𝑖 ~
𝜏𝜏
拡散テンソル
𝛿𝛿𝛿𝛿𝑖𝑖 𝛿𝛿𝑥𝑥𝑗𝑗 − 𝐴𝐴𝑖𝑖 𝐴𝐴𝑗𝑗 𝜏𝜏 2
𝐵𝐵𝑖𝑖𝑖𝑖 ~
2𝜏𝜏
但し、
𝛿𝛿𝑥𝑥𝑖𝑖 = 𝑥𝑥𝑖𝑖 𝑡𝑡 + 𝜏𝜏 − 𝑥𝑥𝑖𝑖 𝑡𝑡
※𝐒𝐒は一意に定まらない。
「射影アトラクタ平均」
PC2
PC1
Inatsu et al. (2015); Ichikawa and Inatsu (2015); Nakano et al. (2015)
相空間の基底(冬季Z500主変動)
EOF第1モード
寄与率12.6%
EOF第2モード
寄与率11.1%
Kimoto and Ghil (1993); Sura et al. (2005)
ドリフトベクトルと拡散テンソル(𝜏𝜏=10日)
𝛿𝛿𝛿𝛿𝑖𝑖
𝐴𝐴𝑖𝑖 ~
𝜏𝜏
𝛿𝛿𝛿𝛿𝑖𝑖 𝛿𝛿𝑥𝑥𝑗𝑗 − 𝐴𝐴𝑖𝑖 𝐴𝐴𝑗𝑗 𝜏𝜏 2
𝐵𝐵𝑖𝑖𝑖𝑖 ~
2𝜏𝜏
確率微分方程式モデル(再掲)
低次元離散データ 𝒀𝒀𝟏𝟏 , 𝒀𝒀𝟐𝟐 , 𝒀𝒀𝟑𝟑 , … , 𝒀𝒀𝑵𝑵
𝑝𝑝:確率密度関数
フォッカープランク方程式
𝜕𝜕𝜕𝜕
𝜕𝜕
𝜕𝜕 2
𝐴𝐴𝑖𝑖 𝑝𝑝 +
𝐵𝐵𝑖𝑖𝑖𝑖 𝑝𝑝
=−
𝜕𝜕𝑥𝑥𝑖𝑖 𝜕𝜕𝑥𝑥𝑗𝑗
𝜕𝜕𝜕𝜕
𝜕𝜕𝑥𝑥𝑖𝑖
FP予測スプレッド
𝑆𝑆 2 (𝑇𝑇) = � 𝑝𝑝 𝒙𝒙, 𝑇𝑇 (𝒙𝒙 − 𝒙𝒙 )2 𝑑𝑑𝒙𝒙
𝒙𝒙
(Inatsu et al., 2013; 2015)
相空間への射影
現業予報スプレッド
-
FP予測スプレッド
+
+
+
-
+
-
+
+
+
+
現業予報スプレッドとFP予測スプレッドは、位相空間
内でまずまず似ている(が、似ていないところもある)。
(Inatsu et al., 2013; 2015)
決定論的予報と確率論的予報
詳しくは、3日目ポスター(P337)
initial: (X,Y)=(0,10)
○
initial: (X,Y)=(10,15)
○
Nakano et al. (2015, Nonlinearity, to be submitted)
まとめ
• 統計的に季節内予測可能性を先見できるかを調
査するため、現業予報スプレッドと確率微分方程
式に基づくFP予測スプレッドを、北半球冬季の主
変動で張った相空間上の射影として比較した。
• 現業予報スプレッドとFP予測スプレッドは、位相空
間内で一定程度の類似性があった。