成熟カボスの加工利用に関する研究(第 2 報) 廣瀬正純 食品産業担当 Research on Processing Suitability of Ripe Kabosu Fruits Masazumi HIROSE Food Industrial Div. 要 旨 成熟カボスの機能性をフラボノイドと抗酸化能について未熟果実と比較調査した.果汁,果皮ともにナリルチン,ナリン ギン,ヘスペリジン,ネオヘスペリジンの4種類のフラボノイドが存在しており,フラボノイド総量は,果汁,果皮ともに成熟果 実は未熟果実より少なかった.フラボノイドの組成比は,果汁と果皮でやや異なっており,果汁は成熟するとヘスペリジン が増加,ナリルチンが減少し果皮は成熟するとナリンギンが増加,ヘスペリジンが減少した.抗酸化能は果汁では果実熟 度による差はないが,果皮では成熟果実が未熟果実よりかなり高かった. 成熟カボスの果皮の加工適性を未熟果実と比較した.成熟果実は未熟果実に比べて果皮の分離が容易で,時間当 たり未熟果実の 2 倍以上の果皮を分離することができた.成熟果実の果皮は未熟果実に比べて苦味が弱く,未熟果実の 半分の時間で苦味を抜くことができた.また,成熟果実の果皮は未熟果実に比べて硬度が低く,未熟果実の半分の時間 で可食硬度まで軟化できた. 1. はじめに カボスの機 能 性 として期 待 されるフラボノイドについては, 従 来 カボスは,外 観 ,香 りのフレッシュさから緑 色 の未 果 汁 ,果 皮 ともメタノールで抽 出 後 高 速 液 体 クロマトグラ 熟 果 が利 用 されており,県 内 カボス加 工 関 係 企 業 におい フィーで分 析 した.抗 酸 化 能 については, 80%エタノール ても加 工 技 術 は未 熟 果 を前 提 に開 発 されてきた. で抽 出 後 DPPH ラジカル消 去 活 性 を測 定 し Trolox 相 当 しかし近 年 ,消 費 者 ニーズの多 様 化 から黄 色 に成 熟 し 量 で表 した. たカボス果 実 の需 要 が増 加 し加 工 原 料 にも成 熟 カボスが 2.2 増 加 したこと,さらに加 工 品 を製 造 している企 業 において 2.2.1 も類 似 商 品 に対 する差 別 化 を目 的 に成 熟 カボスの加 工 カボス果 皮 を加 工 利 用 するには,ほとんどの場 合 果 実 利 用 に関 心 が高 まっている. そこで , 成 熟 果 実 の加 工 適 性 を 未 熟 果 実 と の 比 較 で 明 らか に す ると とも に , 成 熟 果 実 に 対 応 し た加 工 技 術 を 開 発 する. 成熟果実の果皮加工適性 果皮分離性からみた加工適性 を搾 汁 後 ,果 皮 をじょうのう膜 ,砂 のう,種 子 から分 離 する 工 程 が必 要 で,この時 間 が短 いほど加 工 適 性 が高 いとさ れている. そこで,上 記 で採 取 した果 実 を横 に半 割 しハンドプレッ 今 年 度 は,成 熟 カボスの機 能 性 を解 明 するとともに,果 皮 の加 工 適 性 を未 熟 果 実 との比 較 により明 らかにした. サーで全 果 搾 汁 した残 さから,果 皮 をじょうのう膜 ,砂 のう, 種 子 から分 離 するのに要 した時 間 を測 定 することにより果 皮 分 離 性 を熟 度 別 に評 価 した. 2. 2.1 実 験方 法 成熟果実の機能性評価 カボス「大 分 1号 」を2樹 選 定 し,未 熟 果 実 を 9 月 5 日 に, 完 熟 果 実 を 11 月 21 日 に各 10 果 採 取 した. 2.2.2 苦味からみた加工適性 カボス果 皮 は非 常 に苦 味 が強 くそのままでは食 用 とし て使 用 できないことから, 水 煮 を繰 り返 す苦 味 除 去 工 程 が必 要 で,この工 程 が短 時 間 になるほど加 工 適 性 が高 い 果 実 は採 取 後 ただちに持 ち帰 り,重 量 を測 定 後 ,果 皮 といえる.そこで,上 記 で採 取 した果 実 の果 皮 を幅 2mm, と砂 のうを果 実 から分 離 した.砂 のうはハンドプレッサーで 長 さ 2cm 程 度 に細 断 し,沸 騰 水 中 で 10 分 間 水 煮 し,そ 搾 汁 し,得 られた搾 汁 液 を果 汁 として分 析 に供 した.果 皮 の回 数 と苦 味 残 存 程 度 を熟 度 別 に評 価 した. は凍 結 乾 燥 後 粉 砕 し,果 汁 と果 皮 とも分 析 時 まで -30℃ 2.2.3 硬度からみた加工適性 で凍 結 保 存 した. カボス果 皮 は非 常 に硬 くそのままでは食 感 が悪 く使 用 できないことから,長 時 間 水 煮 する軟 化 工 程 が必 要 で,こ 果 皮 の フ ラボ ノイ ド組 成 を未 熟 果 実 と成 熟 果 実 で 比 較 の工 程 が短 時 間 になるほど加 工 適 性 が高 いといえる.そ すると,成 熟 果 実 は未 熟 果 実 に比 べてヘスペリジンが こで,上 記 で採 取 した果 実 の果 皮 を幅 2mm,長 さ 2cm 程 やや少 なく,ナリンギンがやや多 い傾 向 であった( Fig. 度 に細 断 し,沸 騰 水 中 で 0,10,20,30 分 間 水 煮 し,硬 5). 度 をレオメーターで測 定 することにより軟 化 の難 易 を熟 度 別 に評 価 した. 100% 90% 3. 3.1 16.4 12.8 24.8 35.3 80% 実 験結 果 及び 考 察 70% 成熟果実の機能性評価 60% 果 汁 および果 皮 のフラボノイドを分 析 した結 果 ,果 汁 ,果 皮 と も に ナリル チ ン ,ナ リ ンギ ン, ヘス ペリ ジン , ネ オヘスペリジンの 4 種 類 のフラボノイドが検 出 された. 50% 23.2 40% 23.6 30% 20% 果 汁 の フ ラ ボ ノ イ ド総 量 を 成 熟 果 実 と 未 熟 果 実 で比 10% 較 すると,各 試 験 樹 とも成 熟 果 実 の果 汁 は未 熟 果 実 0% 35.6 果汁 ナリルチン の果 汁 より フ ラボ ノイド総 量 が少 なか った( Fi g.1 ).果 皮 のフラボノイド総 量 は果 汁 と比 較 してかなり多 く含 まれ 28.3 ナリンギン 果皮 ネオヘスペリジン ヘスペリジン Fig.3 果 汁 と果 皮 のフラボノイド組 成 ていた.成 熟 果 実 と未 熟 果 実 の比 較 では,果 汁 と同 様 に各 試 験 樹 とも成 熟 果 実 は未 熟 果 実 よりフラボノイド 100% 90% 総 量 が少 なかった (Fig.2). 16.4 16.4 22.9 26.6 80% 70% 12.0 フラボノイド含量 mg/fw 10.0 60% 10.5 50% 11.2 22.8 23.5 40% 8.0 8.2 7.3 6.0 30% 20% 37.9 33.4 10% 4.0 0% 未熟果実 2.0 ナリルチン 成熟果実 ナリンギン ヘスペリジン ネオヘスペリジン 0.0 未熟果実 樹① 未熟果実 樹② 完熟果実 樹① Fig.4 果 実 熟 度 と果 汁 のフラボノイド組 成 完熟果実 樹② Fig.1 果 実 熟 度 と果 汁 中 総 フラボノイド含 量 100% 軸フラボノイド含量 mg/fw 600 500 90% 572 12.8 12.8 36.8 33.7 22.5 24.8 27.9 28.7 80% 520 70% 60% 400 50% 300 303 322 40% 30% 200 20% 100 10% 0% 0 未熟果実 樹① 未熟果実 樹② 完熟果実 樹① 未熟果実 完熟果実 樹② Fig.2 果 実 熟 度 と果 皮 中 総 フラボノイド含 量 ナリルチン 成熟果実 ナリンギン ヘスペリジン ネオヘスペリジン Fig.5 果 実 熟 度 と果 皮 のフラボノイド組 成 フ ラ ボ ノ イ ド組 成 を 果 汁 と 果 皮 で 比 較 す ると , 果 汁 は 果 皮 に比 べてヘスペリジンが少 なく ,ナリルチン,ネオヘ スペリジンが多 い傾 向 がみられた( Fig.3) . 果 汁 の抗 酸 化 能 を未 熟 果 実 と成 熟 果 実 で比 較 する と,樹 によるばらつきがあるが熟 度 による差 は 見 られな 果 汁 の フ ラ ボ ノ イ ド組 成 を 未 熟 果 実 と 成 熟 果 実 で比 かった(Fig.6).果 皮 の抗 酸 化 能 を果 実 熟 度 で比 較 較 すると,成 熟 果 実 は未 熟 果 実 に比 べてヘスペリジン すると,成 熟 果 実 が未 熟 果 実 と比 較 して3倍 近 く高 か が 多 く, ナリル チン が少 な い傾 向 であ っ た( F i g.4 ) .ま た, った(Fig. 7). 100 13.0 12.0 10.0 12.7 12.4 11.1 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 未熟果実 樹① 未熟果実 樹② 成熟果実 樹① 成熟果実 樹② 果皮分離可能果実数(果実/時間) 抗酸化能(Troloxnm) 14.0 Fig.6 果 実 熟 度 と果 汁 の抗 酸 化 能 ( TroloxnM) 98.8 90 80 70 60 59.3 50 40 30 20 10 0 未熟果実 Fig.9 果 実 熟 度 と果 皮 分 離 可 能 な果 実 数 30.0 28.6 28.4 20.0 7.0 15.0 6.0 10.6 10.6 5.0 0.0 未熟果実 樹① 未熟果実 樹② 成熟果実 樹① 成熟果実 樹② Fig.7 果 実 熟 度 と果 皮 の抗 酸 化 能 (TroloxnM) 分離可能果皮量(kg/時間) 抗酸化能(Troloxnm) 25.0 10.0 成熟果実 5.75 5.0 4.0 3.0 2.55 2.0 1.0 3.2 3.2.1 成熟果実の果皮加工適性 0.0 果皮分離性からみた加工適性 未熟果実 搾 汁 後 の果 実 の果 皮 からじょうのう膜 ,砂 のう,種 子 成熟果実 Fig.10 果 実 熟 度 と分 離 可 能 な果 皮 量 を 分 離 す る時 間 は,未 熟 果 実 の場 合 ,果 実 そ のもの が 硬 いうえに果 皮 とじょうのう膜 の結 合 が強 いことから,1 3.2.2 果 実 当 たり 61 秒 程 度 を要 した.これに対 して,成 熟 果 未 熟 果 実 は非 常 に苦 味 が強 く,10 分 間 の水 煮 を 3 回 苦味からみた加工適性 実 では果 実 が柔 らかく,果 皮 とじょうのう膜 の結 合 も弱 繰 り返 しても苦 味 が抜 けず,4 回 繰 り返 すことでようやく実 いことから,1果 実 当 たり 36 秒 程 度 とほぼ半 分 の時 間 用 的 な苦 味 となった.それに対 して成 熟 果 実 は2回 の操 であった(Fig.8) . 作 で実 用 的 に苦 味 除 去 が可 能 であった(Table 1). こ れ を 1 時 間 当 た り の 処 理 可 能 果 実 数 で み ると 未 熟 果 実 は 59.3 果 であるのに対 し成 熟 果 実 は 98.8 果 とな り ( F i g. 9 ) , さ ら に 1 時 間 当 た り 処 理 可 能 な 果 皮 量 で み Table 1 果 実 熟 度 と 脱 苦 味 の 難 易 脱苦味処理回数 未熟果実 成熟果実 ると未 熟 果 の 2.55kg に対 し成 熟 果 で 5.75kg と2倍 以 1 +++ + 上 の効 率 であった(Fig.10) . 2 ++ ± 3 + ± 4 ± - 70 果皮分離所要時間(秒/果実) 60 +++ 非常に苦い ++ 苦い + 少し苦い ± わずかに苦味が残る - 苦味なし ※1回の脱苦味処理時間は10分間 63.8 57.5 50 40 41.2 30 3.2.3 硬度からみた加工適性 果 皮 の硬 度 は成 熟 果 実 は未 熟 果 実 の半 分 程 度 であっ 31.7 20 た.硬 度 低 下 のために沸 騰 水 中 に浸 漬 を行 っ たところ, 10 未 熟 果 実 は食 用 可 能 な硬 度 である 200g になるのに 20 分 0 作業者A 作業者B 未熟果実 作業者A 作業者B 成熟果実 Fig.8 果 実 熟 度 と果 皮 分 離 に要 する時 間 間 の水 煮 時 間 を要 したが,成 熟 果 実 は 10 分 間 以 下 の処 理 で食 用 可 能 な硬 度 にまで柔 らかくなった(Fig.11). 500 未熟果実 果皮硬度(g) 450 成熟果実 400 350 300 250 200 150 100 50 0 0 10 20 30 軟化処理時間(分) Fig.11 果 実 熟 度 と果 皮 軟 化 に要 する時 間
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