学校・地域・メディアを巻き込んだ理科教育の実践 Practice of the

科教研報 Vol.23 No.1
学校・地域・メディアを巻き込んだ理科教育の実践
Practice of the science education that involved school / area / Medea
渡辺儀輝
WATANABE,Yoshiteru
市立函館高等学校
Municipal Hakodate high school
[要約]自作教材教具開発と実験を中心とした効果的な物理授業の展開のみならず、理科部の育成
と活性化、社会教育と連動したサイエンスデモンストレーション、サイエンスショーの企画運営 、
9年に渡る新聞メディアを通じた各種実験の紹介、大学初等物理教育への提言とリメディアル教育
の実践、科学館のない地域における青少年のための科学の祭典の運営等々 、「実践」を重視した
理科教育に尽力してきた。その内容は
http://www.infosnow.ne.jp/~w_teru/konbu/ に詳細に報告され
ている。
[キーワード]授業実践
サイエンスデモンストレーション
リメディアル教育
新聞メディア
ダイオードとストライプパターンの回転を利用し
1.はじめに
高校の教員となって17年経過した。その間、
た楽器やファインマンタービン等、枚挙にいとま
勤務する高校(石狩当別高校、南茅部高校、函館
がない。古テレビを多面的にとらえ、最大限活用
東高校、市立函館高校)や周辺地域のニーズに合
した実験手法もそれらの中で利用している。
また授業の教具として活用するだけでなく、生
わせた理科教育、物理教育とは何か?をたえず念
頭に置き、様々な形態でチャレンジし続けてきた。 徒自身が器具を作成し、それをもとに物理現象を
発表する形式を課題研究の場面で導入した。この
その一部をここで紹介する。
これらの実践にあたっては、様々な方々の協力、 発表会は校内の他教科の先生方にも観覧して頂き、
特に北海道の物理教員のサポートがなければ実現
観点別の評価項目の中でコメントを頂いてきた。
不可能なものも多数あり、決して個人の奮闘だけ
物理授業という単独の枠だけでなく、効果的な授
では難しい面もあった。この時代に物理教育に携
業運営方法について、教師陣を巻き込む授業レベ
わることができた幸運と、活動する場面を提供し
ルの向上の一翼を担う内容であった。
北大水産学部と連携し、地域の自然教材(昆布
て下さった、またご指導ご示唆下さった関係する
など)を活かした授業もその中に大いに取り入れ
多数の方々に紙面を借りてお礼申しあげます。
町役場関係者からも、理科は郷土を愛する心を育
2.自作教材教具開発と実験を中心とした効果的
てる重要な科目であるという評価を頂いた。
な物理授業展開
3.高校理科部育成、活性化などの活動
放課後の活動や授業内で、生徒ともに様々な教
具を自作してきた。大型の自作教材としては、エ
担当する理科部(最初は理科実験同好会)の部
アーテーブル・ホバークラフト(乗用車で持ち運
員達とともに、地域の環境調査(蒸散作用・窒素
べる様に分解可能)等、小型のものでは、フォト
酸化物・酸性雨)、webで公開できるデジタル
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地質ガイドマップの作成、科学の祭典への高校生
しくないがやり始めた10年前はまったくの未
デモンストレーターとしての参加、学校祭で実験
知の分野であった。最近ではガス会社のイベン
を披露する理科展の運営等々、放課後の時間を使
トの一部として、「熱とクリーンエネルギー」
い様々な活動を行ってきた。
というテーマで実施、大好評を得た。理科教育
特筆すべきは日本学生科学賞へ3年越しの研究
が地域振興の社会教育の一環としての位置づけ
をまとめたチャレンジであった「うなり棒に関す
を勝ち得たのである。
る総合考察」は全国まで登りつめ、全国3位の科
学技術庁長官賞受賞まで到達できた。おしくも海
5.一般市民対象の新聞メディアを通じた実験紹
外派遣は逃したものの、この理科部の活躍は北海
介
道内の高校理科部に多大な影響を与え、理科部の
毎週土曜日に地方紙である「函館新聞」に理科
育成は理科教育、生涯学習の重要なポイントであ
の実験を連載している。現在450話程度まで到
る、ということを再認識させた。
達し、各方面からの質問も多い。この実験集は単
なるおもしろい実験の羅列ではなく連載を意識し
た読み物風に仕上がっており、前回の実験を受け
て今回の内容がわかり、次回につながるという工
夫をしている。すべて web で公開しているので、
市民だけでなく、遠く離れた海外からも問い合わ
せがある。このような長期に渡る新聞連載を理科
Fig.1 ホバークラフトを使った課題研究発表会の
教育が担当したことは過去に例がなく、自由研究
一場面とうなり棒の音をパソコンで解析する理
への活用も含め、その影響は函館市全域に広がり、
科部の生徒
夏休み冬休み中は児童生徒からの質問のラッシュ
が続いている。
Fig.2 昆布紙をつくる実験と北大水産学部山下教
授との連携授業
Fig.3 町内の小学生対象の夏休みおもしろ理科実
4.地域の教育活動と連動したサイエンスショー、
実験教室の運営
町の社会教育活動・文化祭、商工会のお祭り
験教室と新聞連載理科実験の挿絵の一部(函館
新聞社画像部作成)
6.大学初習物理と高校物理を連動させた独自カ
イベント、子供会・各種団体記念行事でのサイ
リキュラムの研究と高大連携(大学非常勤講師と
エンスショー・実験教室を定期的に行っている。
して)
毎年多数の小学生が参加し、動員に一役かって
いる。科学がショーとして通用する、今では珍
大学のリメディアル教育を現職の高校教諭が
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担当する事は規則上の問題があり、なかなか現
函館市には科学館がなく、科学教育を定期的
実できない例が多いが、公立はこだて未来大学
に市民に伝える場がまったくない。そこで函館
と現勤務校の函館市立函館東高校は設置者が一
市文化スポーツ振興財団(市の体育文化施設を
致することから兼職が許されており、毎週1回、
管理する財団)のお祭りと共存した形式で科学
非常勤講師として「物理学入門(古典力学から
の祭典を運営している。私は実行委員会の事務
複雑系科学へのガイダンス講義 )」「物質の科学
局長として事務全般を担当している。実行委員
(最先端ナノテクノロジー技術紹介 )」の2つ
長には北海道教育大学の徳永教授を迎え、未来
を開学当初より担当している。高校で物理を履
大・北大水産・教育大・管内理科サークル・高
修していない学生に対し、基礎をふまえ、様々
校理科部・アマチュア無線渡島支部・養護学校
なサイエンスデモンストレーションを(学内の
・小学校理科研究会・中学校理科研究会等々、
オープンスペースを活用)駆使し、微分方程式
函館を取り巻くすべての理科教育機関が一堂に
と実際の運動を連携させたり、先端科学技術の
会し、8月下旬に開催日わずか一日であるが、
紹介(ビデオ、新聞記事等)を実践している。
来場者数は5000人を超える人気行事にまで
ブラウザを通した学生の授業評価は満足度98
成長した。教育を目的とした学生や生徒のプレ
%という驚異的な数字が得られている。
ゼン技術の向上、各理科団体・小中高大の交流
等々、他の科学の祭典にはない特徴が様々な場
面で展開されている。また、北海道各地で行わ
れている科学の祭典の連携を保つべく、それら
の実績を一覧にした「北海道科学の祭典歩みの
ページ(リンク集)」の運営も担当している。
Fig.4 物理学入門でのサイエンススデモンストレ
ーションの場面と受講する学生・教官達
これらの教育手法は大学教官に大いなる衝撃
と影響と与え、未来大学のカリキュラムにもそ
Fig.5 科学の祭典函館大会の一場面
の流れが組み込まれる形となった。また理工系
大学での教育について提言を協議会等でおこな
以上述べてきた以外にも様々な実践があるが、
ったり、高校での総合的な学習の時間の中で、
それらはすべて
物理教育の観点から高大連携の機能のガイダン
http://www.infosnow.ne.jp/~w_teru/konbu/に公開さ
スを行うなど、函館市近傍を取り巻く高等教育
れ、全国の様々な理科教員に活用されている。
機関との共同作業の一翼を担っている。
質問・ご意見・謝辞など web を通して毎日のよ
うに寄せられており、高等学校教育の枠組みを
7.青少年のための科学の祭典函館大会の立ち上
超えた地域・メディアを巻き込む理科教育の実
げと、web page を通じた物理教育実践の全国的
践記録が日々更新中である。
な情報発信
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科学の祭典でのサイ
エンスショーの様子
→
執筆した理科実験ポ
スター
毎週函館新聞に連載している理科実験コーナー↑
函館ローカルテレビでオンエアされている理科実験番組↓
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↓