2015年10月7日 コースセミナー 過剰窒素量N2*を用いた南極海及び北

2015年10月7日 コースセミナー
過剰窒素量N2*を用いた南極海及び北太平洋亜寒帯域における窒素収支の比較について
大気海洋化学・環境変遷学コース M1 中野雄登
【背景】
近年、地球温暖化の影響により海洋表面温度の上昇が報告されており、過去50年の間では人
為起源による影響が特に顕著に出てきている(e.g., Levitus et al., 2001)。大気中のCO2濃度
が上昇することにより、生物生産も含めた海洋炭素循環にも大きな影響を与えることとなる。
この海洋炭素循環の変動には窒素循環が大きく関わっており、本研究では過剰窒素量N2*を用い
てその海洋循環と窒素循環について着目する。
海洋中の窒素は海洋表層上の生物生産に関わる主要な栄養塩であり、2つの生物活動による
供給・除去過程(窒素固定・脱窒)によって海洋内でバランスし、海水中の窒素量を変えてい
る。この生物を介した供給と除去過程は窒素循環特有である。
N2*とは、海洋中の溶存態窒素(N2)、アルゴン(Ar)ガスを用いて表した過剰な窒素量で
あり、脱窒量、窒素固定量、気泡効果、急冷却効果を定量化できる指標である。近年、海水中
のN2とArは海洋内の水柱および堆積物内で起きた脱窒の最終生成物であるN2量を見積もるた
めの指標としても注目されている。Ito et al.(2014)はオホーツク海において化学トレーサーN2*
の有用性を評価し、またベーリング海にてN2*を用いて、堆積脱窒を定量化した。しかし、この
手法はまだ北太平洋亜寒帯域緑辺海以外の海域ではその有用性が明らかにされていない。
そこで、本研究では北太平洋亜寒帯域とは対照的な南極域の海水に対して化学トレーサーN2*
を用いることにより、窒素収支の定量化を図り、北太平洋亜寒帯域緑辺海における窒素の見積
りと比較することとした。北太平洋亜寒帯域と南極海域では海水の形成過程が異なるため、こ
れらの窒素収支は大きな差があり、そのため、地球温暖化に対する感度の違いがある可能性が
ある。本研究はその定量的評価を目指すことを目的とする。
【観測・測定手法】
海水中のN2とAr濃度は熱伝導検出器(Thermal conductivity detection)とパージ&トラップガ
スクロマトグラフィーシステムを用いて測定する(Tanaka and Watanabe, 2007)。サンプルとし
て以下の海域の海水を測定する予定である。
1.北太平洋亜寒帯海域(43-54°N, 150-164°E)の38地点(既に2014年ロシア船マルタノフスキー
号にてサンプリング済)
2.南極海域(52-70°S, 56-65°E)の33地点(東京海洋大 川合博士にサンプリング依頼済)
【進 状況と今後の予定】
現在、測定の準備段階として以下のことを行っている。
・ガスクロマトグラフィー装置の操作法の習得
・上装置を用いたSTDガスの測定
・装置への試料導入の練習
・測定マニュアルの整備
10月後半より、既に採取されている北太平洋亜寒帯域のサンプルの測定を行う。また、南極海
域のサンプルは届き次第(2016年3月下旬頃)測定を行う予定である。