超伝導転移及び Andreev 反射と Josephson 効果

超伝導転移及び Andreev 反射と
Josephson 効果
∼「超伝導 Night Club」会員の手引き ∼
北海道大学 大学院工学研究科
浅野 泰寛
email: [email protected]
平成 27 年 6 月 25 日
目次
第 1 章 はじめに
1
第 2 章 超伝導と第 2 種の相転移
2
2.1
2.2
自由電子気体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
2.3
2.4
超伝導の秩序変数(Cooper ペア) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 2 種の相転移の記述(平均場近似) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
位相の整列
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 3 章 超伝導の平均場理論
2
3
8
10
3.1
3.2
第 2 量子化法で表された Hamiltonian . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
BCS Hamiltonian . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
13
15
3.3
3.4
BCS 基底状態の特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
超伝導の対称性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
18
18
3.5
ギャップ方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
19
第 4 章 Bogoliubov-de Gennes 方程式の解の性質
4.1
4.2
4.3
Andreev 反射 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Andreev 反射されたホールの性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Josephson 効果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 5 章 異方的超伝導体 I - d 波
5.1
d 波超伝導体の Andreev 反射 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
5.2
5.3
ゼロエネルギー束縛状態 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Josephson 電流の低温異常 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
24
24
31
33
40
40
42
47
付録 1
49
付録 2
50
付録 3
52
参考文献
56
0
第1章
はじめに
超伝導現象は 1911 年 H。 K。 Onnes によって発見された巨視的な量子現象である。超伝導体は
Meissener-Ochenfeld 効果、永久電流及び磁束の量子化、あるいは Josephson 効果などの極めて多
彩な電磁気学的性質を持った物質群である。超伝導状態を理解する手がかりを与えたのは Bardeen-
Cooper-Schrieffer (BCS) による理論であり、ここで初めて 2 つの電子が対になった Cooper ペア
という準粒子が超伝導を担っている事が明らかになった。発見から実に 40 年余、1957 年のことで
あった。この BCS 理論を土台に超伝導現象の理論的研究は飛躍的に進み、多彩な電磁気学的性質
が微視的に理解されるようになった。これまでにも多く著者によって教科書が書かれ続けているが、
超伝導現象の多彩な性質を 1 冊の本にまとめる事が極めて困難であることは疑問の余地が無い。
本稿は BCS 理論から出発し、Bogoliubov-de Gennes 方程式を導き、Andreev 反射という現象
の解説を試みている。本稿では途中の計算を出来るだけ省かずに進め、学部 4 年生が式変形を完全
に把握し、Andreev 反射という現象をおぼろげながらでも理解できることを目的としている。従っ
て超伝導体の一般的な性質については、他の教科書を勉強することをお勧めする。途中で必要な知
識は付録という形で巻末にまとめた。また、参考文献については全く挙げていないので、これは今
後充実させる予定である。
本稿の構成は以下のとおりである。
第 2 章では超伝導を発現するもとである Fermi Gas の性質に言及する。次に超伝導転移の秩序
パラメータである Cooper ペアを説明し、超伝導秩序の本質は位相が揃うことであることをみる。
第 3 章では、電子間相互作用を含む Hamiltonian を BSC 平均場近似を行うことにより超伝導
を記述する BSC の有効 Hamiltonian を導く。BSC Hamiltonian の特徴を説明した後、Gap 方程
式を導く。
第 4 章では超伝導体と常伝導体の NS 接合で起きる Andreev 反射について説明を行う。そして
Andreev 反射という現象を使って Josephson 効果を理解する。以上第 4 章までは s 波超伝導体に
ついての解説になっており、計算は可能な限り省略せずに議論している。
第 5 章は異方的超伝導体の代表である。酸化物高温超伝導体の Andreev 反射と Josephson 効果
の解説である。
第 6 章は spin-triplet 超伝導体における Josephson 電流の定式化について説明する予定である
が現在準備中である。
第 7 章では ポテンシャルの乱れが Andreev 反射や Josephson 電流に及ぼす影響について論じ
る予定である。不純物散乱によって拡散伝導領域にあるような常伝導体 (N) が超伝導体に接触す
ると、超伝導体からペアが染み出すことが知られている。これは近接効果と呼ばれる現象であり、
実は Andreev 反射とは 1 枚のコインの裏表の関係にある。まず s 波超伝導の近接効果を概観する。
第 8 章では異方的超伝導体の近接効果について述べる。
この解説は完成には程遠いので、順次記述を平易に改める努力を続けている。式の間違いや、説
明不足の点については著者にお知らせいただくと幸いである。
1
第2章
2.1
超伝導と第 2 種の相転移
自由電子気体
量子力学的な粒子は Fermion あるいは Boson という 2 つのどちらかに属し、そしてこれらは統
計性によって区別されることを 3 年生で学ぶ。この統計性は簡単に言えば、1 つの量子力学的な状
態を 1 つの粒子しか占有できないのが Fermion で、いくつでも占有できるのが Boson であること
は、なんとなく理解しているだろう。さらに普通の金属、Al、 Cu、 Pb などには、金属中を自由
に動き回ることの出来る自由電子があり、この自由電子が金属の電磁気学的性質を左右することも
学んだに違いない。さらに金属中の自由電子はスピン ℏ/2、電荷 −e をもつ Fermion だというこ
とも知識として知っているはずだ。それだけわかっていれば、この節の内容は理解できる。量子力
学を学べば、自由電子気体 を記述する Hamiltonian は
H=−
ℏ2 ∇2
2m
(2.1)
であることは、前置きもしないがうなずいてもらえるだろう。これは自由電子の運動エネルギーを
表す Hamiltonian である。この Hamiltonian の波動関数と固有値は
√
1 ik·r
e
,
ψk (r) =
Vvol
ϵk =
ℏ2 k2
,
2m
(2.2)
(2.3)
である。ここで Vvol は金属の体積で、マクロな大きさ、例えば我々人間が認識できる 1 cm3 であ
るとする。このときこの体積中に金属原子は Avogadro 数 NA ∼ 1023 個含まれることになり、ひ
とつの原子が 1 個の自由電子を供給すると仮定するとやはり NA 個の自由電子が存在している。
この莫大な数の電子の基底状態は Fermion であるために、Fermi 面を形成する。即ち、固有値 ϵk
の小さいところから順番に、1 つのエネルギー状態をスピン ℏ/2(↑) の電子と −ℏ/2(↓) の電子が 2
個ずつ占有する。これを繰り返して NA 個の電子を詰め終わった状態がこの系の基底状態である。
一番最後の電子が詰まったエネルギーを µF = ℏ2 kF2 /(2m) Fermi エネルギー、その波数の大きさ
kF を Fermi 波数と呼ぶ。そして Fermi エネルギー近傍の電子の速度 vF = ℏkF /m がおおよそ
108 cm/s であることも知っているかもしれない。これが速いか遅いかは光速 ∼ 1010 cm/s と比べ
ると解りやすい。光は 1 秒間に地球を 7 回半わまるわけで、従って Fermi 面上の電子は 0.075 回
だから日本列島の長さぐらいは進めるわけである。実に速い。ちなみに Fermi エネルギーは温度
に直すと 104 Kelvin で我々の住む 300 Kelvin に比べて圧倒的に高い。 1 電子あたりのエネルギー
に換算しても 3/5µF である。自由電子気体は電子の Fermi 統計性という性質のために絶対零度に
おいてもこのような高いエネルギーの状態を基底状態に持つことになる。平衡系の統計力学の教え
るところは、「エネルギーの高い状態は不安定」であることである。もう 1 つ大事なことは Fermi
面近傍にはいくらでも状態がある、即ち縮退していることである。量子力学の教えることの 1 つ
に、「縮退した状態は摂動に弱い」ことがある。このことを確認するために、馬鹿馬鹿しくても次
2
の Hamiltonian の固有状態を調べることをお勧めする。
)
(
ϵ + δϵ 0
H =H0 + V, H0 =
,
0
ϵ
(
V =
0
−t
−t
0
)
.
(2.4)
ここで H0 は非摂動の 2 準位の Hamiltonian で、V はそれら 2 準位間の遷移を表す摂動である。
詳しくは付録 1 を参照。
以上をまとめると、「自由電子気体の基底状態はエネルギーが高く、縮退数も大きいため摂動に
対して不安定である。」ことである。だから、何らかの摂動が働いてエネルギーの低い状態に転移
する可能性に満ちているのである。実際に電子は固体内で様々なものと相互作用している。結晶格
子と相互作用することにより電荷密度波(CDW) という基底状態になったり、電子同士の斥力相
互作用によって強磁性やスピン密度波(SDW) になったりするわけである。そして、本稿で考える
超伝導は電子間の引力相互作用によって実現する基底状態である。単体金属は低温においてこれら
いずれかの基底状態になる場合が多い。表 2.1 には、周期律表で基底状態が超伝導であるものを赤
で囲ってある。この表からもわかるとうり、多くの金属が超伝導を示す。また最近では強磁性体で
ある Fe も高圧化で超伝導を示すことが知られている。
2.2
第 2 種の相転移の記述(平均場近似)
これまではなんとなく「超伝導へ転移する」という言葉をあいまいに使ってきたが、ここでは第
2 種の相転移の性質とその理論的記述を述べることにする。第 2 種の相転移は粒子間の相互作用を
通じて多くの粒子が協力しあった結果引き起こされる転移であり、何らかの秩序によって特徴付け
られる。このことを最も簡単に表していると思われるので、ここでは 1 次元 Ising 模型を考察する
ことにする。Hamiltonian は
H = −J
N
∑
szi szi+1 − h
i
∑
szi ,
(2.5)
i
ここで J > 0 は交換相互作用、h ≥ 0 は外部磁場であるが本当に知りたいのは外部磁場ゼロでの
スピンの配列なので、h は後にゼロにする。全格子点の数を N → ∞ とし、隣り合うスピンの数
は z = 2 である。szi は古典スピンが上向き (↑) のとき 1 を、下向き (↓) のときに-1 を期待値にも
つ演算子である。例えば図 2.2(a) の i = 1 と i = 2 の組を見ると、これらの場所でスピンは共に ↑
だから、エネルギーが J だけ下がり、i = 2 と i = 3 の組を見ると i = 2 では ↑、i = 3 では ↓ だから J だけエネルギーがあがるという模型になっている。即ちこの Hamiltonian は隣り合うス
ピンの間に働く相互作用を記述する多体問題を記述している。また h があるので第 2 項は ↑ であ
ればエネルギーを h 得し、↓ だと h 損するという事象を表している。多体問題を厳密に解くのは
一般的に不可能であるが、直感的にはこの模型の基底状態は (b) のように全てのスピンが同じ方向
(ここでは上向き) を向いている状態に違いなかろうと予測できる。厳密に解けないときは「直感
を信じ」る事にして、この模型の基底状態はどうせ (b) のような「秩序状態」であろうから、この
ことを取り込んだ別の Hamiltonian を考察しようと画策するわけである。本来演算子である szi を
その「直感的な期待値」 ⟨s⟩ で置き換えてしまえ、という乱暴な近似が平均場近似である。⟨s⟩ の
物理的な意味は各格子点における磁化であり、これが有限の値を持てば強磁性秩序がある。また、
ゼロになるならば強磁性秩序は無いことになる。したがって ⟨s⟩ は秩序の有無を特徴づけるので秩
序変数と呼ばれる。平均場近似の精神を式にすると
szi = ⟨s⟩ + (szi − ⟨s⟩)
3
(2.6)
Superconducting Elements
H
He
Li
Be
Na Mg
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Rb Sr
Y
Zr
Nb Mo Tc
Cs
Ba
La
Hf
Ta
Fr
Ra
La
Ce Pr
Ac
Th Pa
W
Mn Fe
B
C
N
O
F
Ne
Al
Si
P
S
Cl
Ar
Co
Ni
Cu
Zn Ga
Ge
As Se
Br
Kr
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
In
Sn
Sb
Te
I
Xe
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Tl
Pb
Bi
Po
At
Rn
Nd Pm
Sm
Eu Gd
Tb
Dy
Ho
Er
Tm
Yb
U
Pu
Re
Np
Al
Superconducting
Si
Superconducting under high pressure or thin film
Rb
Mettalic but not yet found to be superconducting
F
Nonmetallic elements
Ni
Elements with magnetic order
He
Superfluid
図 2.1: 単体で超伝導転移を起こすものを赤で囲んだ。青で囲んだ元素は強磁性になる。また、高
圧化で超伝導になる元素を赤で塗ってある。N.W.Ashcroft and N.D.Mermin, Solid State Physics
Sec.34
4
i=1
2
3
(a)
(b)
(c)
図 2.2: 1 次元 Ising 模型における古典スピンの配列。(a) は非秩序状態、(b)、(c) は秩序状態を
表す。
5
と書き換える。この式は恒等式のように見えるが、右辺第 1 項が「直感的な期待値」で、第 2 項
はそこからのずれだと読み替えることが出来る。そして第 2 項のずれは第 1 項に比べて小さいに
違いないとさらに「信じることにして」展開する事にする。これは式の上では
H =−J
N
∑
N
∑
[
(
)]
[⟨s⟩ + (szi − ⟨s⟩)] ⟨s⟩ + szi+1 − ⟨s⟩ − h
szi ,
i=1
∼−J
(2.7)
i=1
N
N
∑
∑
)
[ ( z
]
⟨s⟩ si+1 + szi − ⟨s⟩2 − h
szi ,
i=1
(2.8)
i=1
= − (zJ⟨s⟩ + h)
N
∑
szi + JN ⟨s⟩2 ,
(2.9)
i=1
=HMF
(2.10)
と書き換えることに相当する。最後の Hamiltonian HMF は平均場近似の Hamiltonian で一般的
には元の式 (2.5) とは全くの別物である。なぜなら、HM F では i におけるスピンの向きだけでエ
ネルギーが決まってまい、もはや相互作用を表す項の無い一体問題になっているからである。近似
以前には多体問題だったという情報は定数 ⟨s⟩ を通じてかすかに残っているに過ぎないのである。
しかし一体問題にしたことによって HM F の分配関数が計算できてしまうという利点がある。
Z =Tre−HMF /T ,
=eJN ⟨s⟩
(2.11)
N [
∏
]
e(zJ⟨s⟩+h)/T + e−(zJ⟨s⟩+h)/T ,
(2.12)
i=1
=eJN ⟨s⟩ [2 cosh {(zJ⟨s⟩ + h)/T }] .
N
(2.13)
ここで T は温度で Boltzmann 定数 kB は 1 にしてある。分配関数さえ求まれば、熱力学的諸量
を計算するのはたやすい。分配関数の中には「どうせ有限な値だろうと勝手に決めこんだ」⟨s⟩ が
あるのでこれを「求める」ことにする。ゼロ磁場 h = 0 における ⟨s⟩ は
∑N
Tr i=1 szi e−HMF /T
⟨s⟩ =
,
NZ T ∂ ln Z =−
,
N ∂h (2.14)
(2.15)
h→0
= tanh [(zJ⟨s⟩)/T ] .
(2.16)
最後の式の右辺には ⟨s⟩ が含まれており、左辺は ⟨s⟩ そのものであるから、この方程式は ⟨s⟩ を
矛盾無く決める self-consistent な方程式という。この解は以下のようにして求めることが出来る。
式 (2.16) の両辺を ⟨s⟩ の関数として描いたのが図 2.3(a)、(b) である。比較的高温のときには右辺
の立ち上がりが鈍く、従って式 (2.16) の解は ⟨s⟩ = 0 しかない。従って秩序を持たない図 2.2(a)
のような状態が実現している。一方比較的低温では右辺の立ち上がりが鋭く、⟨s⟩ ̸= 0 となる解
が存在し秩序状態が発生する。秩序と非秩序の境目の温度は Tc は zJ で与えられる。T < Tc で
式 (2.16) を解いて、⟨s⟩ の温度依存性を示したのが図 2.3(c) である。HMF に従うスピンの列は
T = Tc を境に、高温では非秩序相、低温では秩序相をもつ。このような 2 つの相の間の転移を第
2 種の相転移と呼ぶ。何らかの秩序の発生はエントロピーの急激な減少をもたらす。このことによ
り、 T = TC で比熱に不連続性が現れるのである。
第 2 種の相転移は何らかの秩序によって特徴付けられる。今の場合は各格子点に有限な磁化 (⟨s⟩)
が発生し強磁性的な秩序を持つかどうかである。系は秩序を持つことにより何らかの対称性を「自
6
Low temperatures
High temperatures
(a)
(b)
<s>
<s>
tanh( zJ<s>/T )
tanh( zJ<s>/T )
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
0.0
< s >
0.5
1.0
1.5
2.0
< s >
< S > / < S >
0
1.0
0.5
(c)
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
T / T
0.8
1.0
C
図 2.3: (a) 低温 T < Tc における、式 (2.16) の両辺。(b) 高温 T > Tc = zJ における、式 (2.16)
の両辺。(c) 式 (2.16) から求めた ⟨s⟩ の温度依存性。
7
発的に破る」ことになる。T < Tc では、今の場合図 2.2(b) のようにスピンが上向きに揃った状態
が基底状態になる。しかし全部のスピンが下向きに揃った状態図 2.2(c) も同じエネルギーの基底
状態なのである。古典スピンの列は (b) または (c) のどちらかの状態を自発的に選んで強磁性転移
を起こすのである。このことを「自発的な対称性の破れ」と呼んでいる。どちらを選ぶかを決める
のは、例えば地磁気のように極めて弱い磁場である。
さて、これまではいかにも平均場近似が正しいような書き方で話を進めたが、実は Hamiltonian (2.5) の厳密解は解っており、T = 0 では強磁性秩序が存在するのだが、有限温度では強磁性
秩序が無いことが解っている。この事象は自由エネルギー
F = E − TS
(2.17)
を考えると解りやすい。T = 0 では F は内部エネルギー E だけで決まるので、平均場の直感が
正しいことになるが、有限温度になるとエントロピーが大きい(秩序が無い)方が自由エネルギー
を下げられるのである。即ち熱揺らぎによって強磁性秩序は壊れてしまうのである。このことから
も解るとおり、平均場近似をする際には、「本当は秩序が無いかもしれない」という不安がつきま
とう。その一方で平均場近似をしてしまえば多体問題は 1 体問題になり、様々な物理量を計算する
ことが出来るという利点がある。この意味で平均場近似は両刃の剣である。したがって平均場近似
はある模型における転移の有無を議論する方法ではない。転移が定かでは無いのに、平均場近似を
適用すれば架空の転移温度や秩序を矛盾無く導くという誤謬を犯す可能性が高いのである。(我々
は self-consistent に間違えるという言い方をする)しかし、もし転移が存在するならば転移温度以
下の物理を議論する上で、平均場近似はこの上なく有益な方法論である。では転移の有無はどう判
断するのか?答えを与えてくれるのは実験である。
2.3
超伝導の秩序変数(Cooper ペア)
前節では強磁性転移の秩序変数が自発磁化であることに触れた。では超伝導転移の秩序変数はな
んであろう?これを解明するのに天才たちが寄ってたかって 40 年もかかったわけだから、凡庸な
る我々の頭脳にも直ちに訴える事の出来る説明は不可能だ。ここの節の目的は電子と格子の相互
作用を通して、電子間に引力が働く場合があることを直感的に理解することである。図 2.4 には
1、2 と背番号をつけた 2 つの電子と結晶格子の図が書いてある。話の都合上 2 番の電子は静止さ
せておき、1 番の電子を図の右側から等速運動させて、図の真中あたりに到達したときのスナップ
ショットが (a) である。電子は電荷 −e で各結晶格子は自由電子を放出しているので電荷 e を持っ
ている。これら 1 番の電子と結晶格子には Coulomb 引力が働いて、図 (a) のように結晶格子はや
やゆがむだろうと考える。電子の速度は極めて速いので (108 cm / s)、格子がゆがんでいる間に走
り抜けてしまうだろう。そのときの図が (b) である。格子のゆがむ速度は音速 (104 cm/s) ぐらい
で遅いので、電子が去った後もゆがみが戻りきらずに局所的に正の電荷を残すことになる。2 番の
電子はその正電荷を感じて格子のゆがんだ部分に引っ張られる。このことが 1 番と 2 番の電子間
に引力が働く起源とされている。もう少し大きな物体で考えると、多少解りやすい。2 つの電子の
代わりに 2 つの鉄球を、格子の代わりにスポンジを用意する。2 番の鉄球をスポンジの上に止めて
おいて、1 番の鉄球を 2 番目の鉄球の近くを転がすことにする。鉄球は重くスポンジはやわらかい
ので、1 番の鉄球の通った後にはしばらくの間、溝状のゆがみが残ることになる。この溝にすかさ
ず第 2 の鉄球が落ち込めば、2 つの鉄球に引力が働くという説明は割と本当らしく聞こえるのでは
なかろうか。もちろん 1 番の鉄球が 2 番の近くを通らねば以上のことは起きないし、2 番の鉄球に
8
+e
+e
+e
+e
1
+e
+e
(a)
−e
2
electron
+e
1
+e
+e
(b)
+e
−e
2
図 2.4: 電子格子相互作用を通して 2 電子間に引力が働く様子を、見てきたように説明した図。
9
ぶつかってしまえば剛体斥力が働いて、互いに離れてしまうのである。電子の世界でもほとんど同
じで電子同士があまりに近づき過ぎると Coulomb 斥力が働いて反発するし、遠すぎると電子格子
の相互作用では引力が効かなくなる。このように 2 電子間に引力が働くかどうかは極めて微妙な
話で、仮に引力が働いたとしてもさほど深刻な影響は無かろうと考えられる。しかし、後に見るよ
うに電子間に如何に弱くても引力が働けば自由電子気体は超伝導に転移してしまうのである。これ
は、弱い斥力が働いても自由電子はほとんど自由電子のままでいられる(Landau の Fermi 液体論)
事とは全く対照的である。言葉を変えると自由電子気体に斥力相互作用を加えるとき摂動論が使え
る場合があることを意味しており、一方引力相互作用は摂動展開が出来ないことを示している。
さて 2 電子間に引力が働いたとき、その 2 つの電子は互いに束縛し合い Cooper ペアという準粒
子になる。Cooper ペア は 2 つの Fermion からなるため統計性が Boson になる。Boson のいい
ところは低いエネルギーの状態があれば、いくらでもその低いエネルギー準位に詰まることができ
ることである(Bose 凝縮)。したがって元々エネルギーの高い電子気体は、引力相互作用によって
Cooper ペアに化けて統計性をかえ、低いエネルギーの状態へ多くの Cooper ペアが落ち込むこと
によって全体のエネルギーを下げることが出来るのである。これが超伝導転移の概念的な理解のあ
らましである。超伝導転移の秩序変数は Cooper ペアである。ところがこれでは何がどのように秩
序立ったかさっぱり解らない。さらに秩序を持ったことによってどのような対称性を自発的に破っ
たのか全く不明である。後に詳しく述べるが、超伝導転移で破れる対称性はゲージ対称性というも
のであり、起きた秩序は Cooper ペア の「位相」が揃うことである。ほとんど呪文にしか聞こえ
ないかもしれないが、この事態の理解を困難にしている原因は、我々人間が「位相」という量子力
学的粒子特有の量から縁遠いマクロな世界に住んでいるからである。
2.4
位相の整列
位相という量を手にとるように感じることの出来ない我々は、それに類似のイメージを持つこと
によって理解の助けにするしかない。前節の転移のあらましを今度は「位相」に重心を置いておさ
らいすることにする。2 電子間に引力が働いたとき、電子は Cooper ペアという準粒子に化けて統
計性を変え、Bose 凝縮を起こしてエネルギーを下げる。ここまでは前節と同じ。凝縮した準位と
いうのは、量子力学的な状態であるから何らかの波動関数で記述されるはずである。ところで波動
関数には常に位相の自由度が残されていることに注目して欲しい。ψ が Hamiltonian H の固有状
態ならば、それに位相因子を掛けた ψeiα も H の固有状態である。一般にはこの位相 α を定める
ことは出来ないが、物理量には決して現れることは無いので、Schrödinger 方程式を解く際には普
通考慮しない量である。ところが極めて多く NA ぐらいの数の Cooper ペアがある 1 つの量子状態
に落ち込むので、その量子状態の位相は NA 個の Cooper ペアに共通の「巨視的な位相」になっ
てしまうのである。言い換えると、巨視的な数の Cooper ペアが集団である特定の「位相」を選ん
だことになる。このことから、超伝導状態がゲージ対称性を破ることを示すことが出来るがもう少
し後に述べることにする。
位相が揃うとは一体どういう状態だろう。位相なるものを見たことも感じたことも無い我々は何
を想像すればいいのだろうか?「位相の整列」と聞いた瞬間に正しい物理描象をすぐさま脳裏に描
くことの出来る選ばれし天才には何の説明も要しない。以下の説明は、著者も含めて普通の人たち
のためのものである。まず、図 2.5 の上図で想像して欲しいのは、この図が超伝導転移を起こす前
の通常金属における電子の位相の様子だということである。図では帽子をかぶっている人もいれ
ば、傘をさす人もいる。また白いシャツの人もいれば黄色の人も、ネクタイをしめた人も...。と多
10
種多様な人間がいる普段の生活の一コマである。これを金属中の電子の位相の状態に対応させるの
である。そして下図は超伝導体中の Cooper ペアの位相の様子である。将に「位相が揃っている」。
この写真を見て、「位相が揃う」のはただごとでない事そしてある種の強固さを感じて欲しい。こ
の強固さが Meissener 効果や Josephson 効果に現れ、この兵士の集団運動は超伝導電流の流れに
なる。
11
図 2.5: 通常金属中の電子の位相の様子 (上) と超伝導体中の Cooper ペア の位相の様子 (下)
12
第3章
超伝導の平均場理論
この章では電子間の相互作用を表す、Hamiltonian から平均場近似を行い、BCS Hamiltonian
を導く。そして BSC Hamiltonian を対角化する際に Bogoliubov-de Gennes 方程式が導かれるこ
とを示す。そのためにはまず、第 2 量子化法で表された Hamiltonian を解く事がどういうことか
を復習する。
3.1
第 2 量子化法で表された Hamiltonian
量子力学を学び始めると、Schrödinger 方程式を解く場面に出くわす。ここで要求する知識は、
Schrödinger 方程式の固有値は実数で、波動関数は規格直交性及び完全性を満たすことである。最
も簡単な Hamiltonian を第 2 量子化法で表すと、
( 2 2
)
∑ ∫
ℏ ∇
†
H1 =
dr Ψσ (r) −
− µF Ψσ (r),
(3.1)
2m
σ=↑,↓
である。ここで Ψ†σ (r) は座標 r にスピン σ の電子を加える生成演算子、Ψσ (r) は座標 r から spin
σ の電子を取り去る消滅演算子と呼ばれる演算子である(波動関数ではない)。これらは Fermion
の演算子の反交換関係
}
{
=Ψσ (r)Ψ†σ′ (r ′ ) + Ψ†σ′ (r ′ )Ψσ (r) = δσ,σ′ δ(r − r ′ ),
Ψσ (r), Ψ†σ′ (r ′ )
(3.2)
+
{Ψσ (r), Ψσ′ (r ′ )}+ =0
(3.3)
を満たす。この 2 つの演算子にはさまれたのが運動エネルギーを表す微分演算子で波動関数に演算
する。この Hamiltonian をどう読むかを少し説明する。演算子であるからには何らかの状態に作
用するわけで、今仮に Fermi エネルギーまで電子が詰まった状態に作用することを暗に仮定する。
(
)
まず、Ψσ (r) で、座標 r 、スピン σ にある電子を消す、そして −ℏ2 ∇2 /(2m) − µF で消した電子
の運動エネルギーを測る。その後 Ψ†σ (r) で消した電子を付け戻す。というのがこの Hamiltonian
が状態に対して行うことである。運動エネルギーを測るだけなら、電子を消したり付けたりしなく
てもよさそうなものであるが、座標 r 、スピン σ に電子がいるかどうかは、消そうとしなければ
解らないのだ。
この「Hamiltonian を解く」ためには、
√
Ψ†σ (r) =
1 ∑ † ik·r
ck,σ e
Vvol
(3.4)
k
という Fourier 変換をおこなう。ここで c†k,σ は波数 k 、スピン σ の電子の生成演算子である。
13
式 (3.1) を Fourier 変換された演算子で表すと、
)
( 2 2
∑ ∫
∑ †
′
ℏ ∇
ik·r
H1 =
dr
ck,σ e
−
− µF ck′ ,σ e−ik ·r ,
2m
σ=↑,↓
k,k′
∑ ∫
∑ †
′
=
dr
ck,σ ck′ ,σ ξk ei(k−k )·r ,
σ=↑,↓
=
∑
(3.5)
(3.6)
k,k′
ξk c†k,σ ck,σ ,
(3.7)
k,σ
となる。ここで ξk = ℏ2 k2 /2m − µF は Fermi エネルギーから測った電子のエネルギーで、途中
( 2 2
)
ℏ ∇
−
− µF eik·r =ξk eik·r ,
(3.8)
2m
∫
′
1
dr ei(k−k )·r =δk,k′
(3.9)
Vvol
を用いた。第 1 式は平面波が運動エネルギーの Hamiltonian の固有状態であること、第 2 式は平面
波の波動関数の規格直交条件である。最後の式 (3.7) は、Hamiltonian が 状態 k、σ の生成演算子と
同じ状態の消滅演算子の順でそれらの積になっている。Hamiltonian をこの様に表すことを「対角
化する」という。語源は k, σ という基底で Hamiltonian を行列表示したとき、対角要素しか残ら
ないからである。非対角項は c†k,↑ ck′ ,↓ のような項で表される。この対角要素が Hamiltonian (3.1)
の固有値である。従ってあたりまえであるが Hamiltonian を解く事は、行列を対角化することと
同値である。ここでは演算子を Fourier 変換によって対角化をしたが、その意味をはっきりさせる
ためにもう少しだけ問題を難しくしてみる。
( 2 2
)
∑ ∫
ℏ D
†
dr Ψσ (r) −
H2 =
+ V (r) − µF Ψσ (r),
2m
(3.10)
σ=↑,↓
D =∇ − i
e
A.
ℏc
(3.11)
今度は磁場もかかっているし、ポテンシャル V (r) もある。このような問題は一般には解けないが
形式的に解く事は出来る。それは Schrödinger 方程式、
( 2 2
)
ℏ D
−
+ V (r) − µF fν,σ (r) =Eν fν,σ (r),
2m
∫
∗
dr fν,σ
(r)fν ′ ,σ′ (r) =δν,ν ′ δσ,σ′ ,
∑
∗
′
′
fν,σ (r)fν,σ
′ (r ) =δ(r − r )δσ,σ ′ ,
(3.12)
(3.13)
(3.14)
ν
を解いて固有値 Eν と波動関数 fν,σ (r) が解ったとする事である。もしそうであるなら、演算子を
unitary 変換し、
Ψσ (r) =
∑
cν,σ fν,σ (r)
(3.15)
ν
式 (3.10) へ代入すれば,
( 2 2
)
∑ ∫
∑
ℏ D
∗
H2 =
dr
c†ν,σ cν ′ ,σ fν,σ
(r) −
+ V (r) − µF fν ′ ,σ (r),
2m
ν,ν ′
σ=↑,↓
∑∑
Eν c†ν,σ cν,σ ,
=
σ
ν
14
(3.16)
(3.17)
と対角化されることになる。以上のことから、1 体問題であるならば、第 2 量子化の Hamiltonian
は対応する Schrödinger 方程式の固有値と固有関数が解れば解けたことになり、対角化されるとい
うことだ。わざわざ、1 体問題を第 2 量子化の方法を用いて議論したのには訳がある。それは多体
問題の Hamiltonian は第 2 量子化法を用いた表現が一般的だからである。
3.2
BCS Hamiltonian
相互作用を取り入れた電子系の Hamiltonian は一般に
( 2 2
)
∑∫
ℏ D
dr Ψ†σ (r) −
+ V (r) − µF Ψσ (r)
H=
2m
σ
∫
∫
∑
1
+
dr dr ′ Ψ†σ (r)Ψ†σ′ (r ′ )g(r − r ′ )Ψσ′ (r ′ )Ψσ (r),
2 ′
(3.18)
σ,σ
と書ける。第 1 項は式 (3.10) と同じだが、第 2 項に相互作用の項がある。g(r − r ′ ) が 2 点 r と r ′
にある 2 電子の間に働く相互作用である。これが正の値ならば斥力、負の値ならば引力相互作用を
表している。第 2 項の読みかたは、r と r ′ に それぞれスピン σ と σ ′ の電子がいるかどうかを消
すことによって確かめる。そして g(r − r ′ ) で相互作用のエネルギーを測って、消した電子を付け
戻すのである。第 2 項は演算子が 4 個ある項なので、もはや以前のように対角化することは出来な
い。しばらくは spin-singlet の超伝導 (Cooper ペアのスピン自由度がない) を考えるので、Cooper
ペアを形成するのは互いに反平行のスピンの電子であることを仮定する。すると Hamiltonian は
∑∫
H=
dr Ψ†σ (r)h0 (r)Ψσ (r)
σ
1∑
+
2 σ
h0 (r) = −
∫
∫
dr
dr ′ Ψ†σ (r)Ψ†σ̄ (r ′ )g(r − r ′ )Ψσ̄ (r ′ )Ψσ (r),
ℏ2 D 2
+ V (r) − µF ,
2m
(3.19)
(3.20)
となる、σ̄ は σ =↑ ならば σ̄ =↓、σ =↓ ならば σ̄ =↑ と定義する。ここで平均場近似をおこなう。
秩序変数は
∆(r, r ′ ) = − g(r − r ′ ) ⟨Ψ↑ (r ′ )Ψ↓ (r)⟩ ,
⟨
⟩
∆∗ (r, r ′ ) = − g(r − r ′ ) Ψ†↓ (r)Ψ†↑ (r ′ ) ,
(3.21)
(3.22)
であり、ペアポテンシャルと呼ばれる。
⟨· · · ⟩ は超伝導状態における量子力学的及び統計力学的平
⟨
⟩
†
† ′
均値の意味であり、 Ψ↓ (r)Ψ↑ (r ) は文字どうり Cooper ペアの期待値に他ならない。Cooper ペ
ア は spin-singlet であることを仮定しているので、ペアポテンシャルは座標の入れ替えに対して
偶置換、即ち ∆(r, r ′ ) = ∆(r ′ , r) である。従って
[
]
∆∗
∆∗
+ Ψ†↑ (r)Ψ†↓ (r ′ ) −
,
Ψ†↑ (r)Ψ†↓ (r ′ ) →
g
g
[
]
∆∗
∆∗
Ψ†↓ (r)Ψ†↑ (r ′ ) → −
+ Ψ†↓ (r)Ψ†↑ (r ′ ) +
,
g
g
[
]
∆
∆
Ψ↓ (r ′ )Ψ↑ (r) → + Ψ↓ (r ′ )Ψ↑ (r) −
,
g
g
[
]
∆
∆
Ψ↑ (r ′ )Ψ↑ (r) → − + Ψ↑ (r ′ )Ψ↓ (r) +
,
g
g
15
(3.23)
(3.24)
(3.25)
(3.26)
と書き直して Hamiltonian (3.19) を [· · · ] の 1 次で展開すればいい。これを実行すると、
HBCS =
∑∫
dr Ψ†σ (r)h0 (r)Ψσ (r) −
∫
∫
dr
dr ′
|∆(r, r ′ )|
g(r − r ′ )
2
∫σ ∫
[
]
− dr dr ′ ∆(r, r ′ )Ψ†↓ (r)Ψ†↑ (r ′ ) + ∆∗ (r, r ′ )Ψ↑ (r ′ )Ψ↓ (r) ,
(3.27)
となる。これが BCS Hamiltonian と呼ばれるもので超伝導現象を記述している。最後の項は生成
演算子が 2 個の項と消滅演算子が 2 個の項の和で、かなり変な具合ではあるが、演算子の 2 次だけ
で書けているので一体問題のように対角化することが可能になる。対角化するには、少し作業が必
要で順に行う。まず式 (3.27) 第 1 項目は
∫
[
]
K = dr Ψ†↑ (r)h0 (r)Ψ↑ (r) + Ψ†↓ (r)h0 (r)Ψ↓ (r) ,
∫
[
{
}
]
= dr Ψ†↑ (r)h0 (r)Ψ↑ (r) + h∗0 (r)Ψ†↓ (r) Ψ↓ (r) ,
∫
∫
[
{
}]
= dr dr ′ Ψ†↑ (r)δ(r − r ′ )h0 (r ′ )Ψ↑ (r ′ ) + Ψ↓ (r) −δ(r − r ′ )h∗0 (r ′ )Ψ†↓ (r ′ ) ,
と書き直す。途中で
∫
∫
dr f1 (r)D 2 f2 (r) =
{
}
2
D ∗ f1 (r) f2 (r)
dr
(3.28)
(3.29)
(3.30)
(3.31)
と演算子の反交換関係を用いた。式 (3.27) 第 2 項は定数項なのでそのままにしておく。式 (3.27)
第 3 項は
∫
∫
[
]
P = − dr dr ′ ∆(r, r ′ )Ψ†↓ (r)Ψ†↑ (r ′ ) + ∆∗ (r, r ′ )Ψ↑ (r ′ )Ψ↓ (r) ,
∫
∫
[
]
= dr dr ′ Ψ†↑ (r ′ )∆(r, r ′ )Ψ†↓ (r) + Ψ↓ (r)∆∗ (r, r ′ )Ψ↑ (r ′ ) ,
∫
∫
[
]
= dr dr ′ Ψ†↑ (r)∆(r, r ′ )Ψ†↓ (r ′ ) + Ψ↓ (r)∆∗ (r, r ′ )Ψ↑ (r ′ ) .
(3.32)
(3.33)
(3.34)
1 行目から 2 行目へは演算子の反交換関係を、2 行目から 3 行目へは第 1 項で、r ↔ r ′ の入れ替
えを行った。式 (3.27) は以下のように書き直される。
][
]
[
∫
∫
[
] δ(r − r ′ )h (r ′ )
Ψ↑ (r ′ )
∆(r, r ′ )
0
†
′
HBCS = dr dr
Ψ↑ (r), Ψ↓ (r)
Ψ†↓ (r ′ )
∆∗ (r, r ′ )
−δ(r − r ′ )h∗0 (r ′ )
∫
∫
2
|∆(r, r ′ )|
(3.35)
− dr dr ′
g(r − r ′ )
ここで,
[
∫
dr
′
δ(r − r ′ )h0 (r ′ )
∆∗ (r, r ′ )
∆(r, r ′ )
−δ(r − r ′ )h∗0 (r ′ )
][
uλ (r ′ )
vλ (r ′ )
]
[
= Eλ
uλ (r)
vλ (r)
]
,
(3.36)
という方程式の固有値 Eλ と波動関数 (uλ , vλ )T が解ったとする。式 (3.36) の両辺の複素共役をと
り、式の上下を入れ替えると
[
∫
δ(r − r ′ )h0 (r ′ )
′
dr
∆∗ (r, r ′ )
][
∆(r, r ′ )
−δ(r − r ′ )h∗0 (r ′ )
16
−vλ∗ (r ′ )
u∗λ (r ′ )
]
[
= −Eλ
−vλ∗ (r)
u∗λ (r)
]
,
(3.37)
となることから、(−vλ∗ , u∗λ )T は固有値 −Eλ に属する波動関数であることがわかる。そしてこれ
らは以下の規格直交条件及び完全性を満たす。
[
] ∫
[
]
∫
uλ′ (r)
−vλ∗′ (r)
∗
∗
dr [uλ (r), vλ (r)]
= dr [−vλ (r), uλ (r)]
= δλ,λ′ ,
vλ′ (r)
u∗λ′ (r)
[
]
∫
uλ′ (r)
dr [−vλ (r), uλ (r)]
= 0,
vλ′ (r)
[
]
[
]
∑ uλ (r)
−vλ∗ (r)
∗
′
∗ ′
[uλ (r ), vλ (r )] +
[−vλ (r ′ ), uλ (r ′ )] = δ(r − r ′ )σ̂0 ,
∗
v
(r)
u
(r)
λ
λ
λ
(
)
1 0
σ̂0 =
.
0 1
以上から、式 (3.27) を対角化する変換は、
(
)
[(
)
(
)
]
∑
Ψ↑ (r)
uλ (r)
−vλ∗ (r)
†
=
αλ,↑ +
αλ,↓
Ψ†↓ (r)
vλ (r)
u∗λ (r)
λ
(3.38)
(3.39)
(3.40)
(3.41)
(3.42)
という行列形式に書かれ Bogoliubov 変換という。固有値が正と負の場合を含めて完全系を張れる
ので、このような線型結合になる。αλ,σ は Bogoliubov 準粒子と呼ばれ、超伝導の基底状態である
Cooper ペアの凝縮状態からの素励起を記述している。この変換の特徴は生成演算子を生成演算子
と消滅演算子の線型結合で表している点である。実際この変換を用いて BCS Hamiltonian は、
∫
∫
]
∑′ [ †
αλ,↑ (u∗λ (r), vλ∗ (r)) + αλ,↓ (−vλ (r), uλ (r))
HBCS = dr dr ′
λ,λ′
] [(
)
]
(
)
uλ′ (r ′ )
δ(r − r )h0 (r ′ )
∆(r, r ′ )
−vλ∗′ (r ′ )
†
αλ′ ,↑ +
αλ′ ,↓
×
vλ′ (r ′ )
∆∗ (r, r ′ )
−δ(r − r ′ )h∗0 (r ′ )
u∗λ′ (r ′ )
∫
∫
2
|∆(r, r ′ )|
− dr dr ′
,
(3.43)
g(r − r ′ )
∫
]
∑′ [ †
= dr
αλ,↑ (u∗λ (r), vλ∗ (r)) + αλ,↓ (−vλ (r), uλ (r))
[
′
[
λ,λ′
(
× Eλ′
∫
∫
uλ′ (r)
vλ′ (r)
)
(
αλ′ ,↑ − Eλ′
−vλ∗′ (r)
u∗λ′ (r)
)
]
αλ† ′ ,↓
|∆(r, r ′ )|
,
g(r − r ′ )
∫
∫
2
∑′
∑′ ∑
|∆(r, r ′ )|
†
Eλ αλ,σ
αλ,σ −
Eλ − dr dr ′
=
,
g(r − r ′ )
σ
−
dr
λ
dr ′
2
(3.44)
(3.45)
λ
と対角化される。
Hamiltonian 式 (3.10) を対角化するためには、Schrödinger 方程式の解を調べなければならない
のと同様、BCS Hamiltonian 式 (3.27) を対角化するためには方程式 (3.36) の解を調べなければな
らない。方程式 (3.36) は Bogoliubov-de Gennes (BdG) の方程式と呼ばれ、超伝導現象を記述す
る最も基礎的な方程式である。この方程式の Green 関数に対する方程式
[
]
∫
δ(r − r ′ )h0 (r ′ )
∆(r, r ′ )
′
dr
Ĝ(r ′ , r) = δ(r − r ′ )σ̂0 ,
∆∗ (r, r ′ )
−δ(r − r ′ )h∗0 (r ′ )
17
(3.46)
は Gor’kov 方程式と呼ばれ、ここから、Gintzburg-Landau、 Eilenberger、 Usadel などの様々な
方程式が導かれる。
3.3
BCS 基底状態の特徴
BCS Hamiltonian の最大の特徴は、Hamiltonian 自体が電子数を保存していないというところに
なる。BCS 平均場近似をする前の Hamiltonian 式 (3.18) の第 1 項では、1 個電子を消して 1 個電
子を付け加えており、第 2 項では 2 個消して 2 個加えている。従って Hamiltonian 式 (3.18) を N
個の電子の状態に作用させるとやはり N 個の電子の状態を生成する。ところが BCS Hamiltonian
式 (3.27) の第 3 項は、2 個電子を加える項と 2 個電子を消す項の和になっている。BCS Hamiltonian
式 (3.27) を N 電子の状態に作用させると、少なくとも N 電子、N + 2 電子、N − 2 電子の状態
を生成させることがわかるだろう。従って BCS Hamiltonian 式 (3.27) の固有状態は粒子数が不
確定な状態である。場の理論の言葉を借りると、多体状態の粒子数を固有値にもつの演算子 N̂ と
その状態の位相を固有値にもつ演算子 φ̂ の間には、交換関係 [N̂ , φ̂] = i が存在する。即ちこれら
2 つの物理量は不確定関係にある。従って、粒子数を保存しない状態は位相が定まった状態だとい
える。粒子数を保存しない状態の例は他にも古典 coherent 光がある。共通する性質は、位相が定
まっているということである。前章で、超伝導状態は位相の定まった状態であることを強調したが、
BCS Hamiltonian が将にその状態を記述できることがここからうかがえる。BCS Hamiltonian 式
(3.27) は粒子数を保存しない Hamiltonian だが、Bogoliubov 変換後の式 (3.45) は Bogoliubov 準
粒子の粒子数を保存した Hamiltonian になっている。
BdG 方程式 (3.36) の解の 1 行目の成分 u(r は電子的準粒子(以下では電子と略す)の波動関数
の振幅と呼ばれ、2 行目の成分 v(r は正孔的準粒子(以下ではホールと略す)の波動関数の振幅と
呼ばれる。電子とホールの電荷の符号が逆であることは、D = ∇ − ieA/cℏ が電子の波動関数に
作用するのに対して、D ∗ がホールの波動関数に作用することから、複素数の符号を電荷に押し付
ければわかるだろう。電子とホールの関係は極めて密接なものがあるが、これについては次章で述
べる。
3.4
超伝導の対称性
BdG 方程式 (3.36) の中のペアポテンシャルは Cooper ペアの座標に対応する 2 つの空間座標を
含んでいる。これらは一般に、重心座標 R = (r − r ′ )/2 と相対座標 r r = r − r ′ を用いて書き直
し、相対座標に関して Fourier 変換できる。即ち
∆(r, r ′ ) =∆(R, r r ) =
1 ∑
∆k (R)eik·rr .
Vvol
(3.47)
k
である。超伝導体中の全てのポテンシャルが一様であれば、Fourier 変換後のペアポテンシャルは
R に依存せず。超伝導体の何処でも一定の値 ∆k になり、これが超伝導の対称性を決定する。今
考えているのは Cooper ペアのスピンが spin-singlet の場合であるから、∆k = ∆−k が成り立っ
ている。球面調和関数を用いて部分波に展開すると、この対称性を満たせるのは角運動量の量子数
が偶数のときであり、原子軌道の言葉を用いると s 波や d 波のときである。s 波の波動関数は波
動関数は方向に依存しない。このことをペアポテンシャルで表すと、
∆k = ∆eiφ
18
(3.48)
となる。これを式 (3.47) へ代入すると、
∆(r − r ′ ) =
1 ∑
∆ eiφ eik·rr = ∆ eiφ δ(r − r ′ ),
Vvol
(3.49)
k
となる。実空間的には 2 つの電子が、非常に接近したときに引力が働くことになる。s 波対称性の
超伝導は、単体金属をはじめ数多くの物質で発現している。 d 波対称性のときは、5 個の波動関
数の線型結合で表されるが、高温超伝導体で発現しているとされている dx2 −y2 対称性のペアポテ
ンシャルと dxy 対称性のペアポテンシャルに議論を限る。
∆k =∆ eiφ (k̄x2 − k̄y2 ),
∆k =∆ eiφ (2k̄x k̄y ),
k̄x =kx /kF ,
dx2 −y2
dxy
symmetry,
symmetry,
(3.50)
(3.51)
k̄y = ky /kF ,
(3.52)
これらのペアポテンシャルの様子を、2 次元 Fermi 面上で表したのが図 3.1 である。s 波の場合に
はペアポテンシャルは波数ベクトルの方向に依らず一定の値 ∆ をとる。d 波対称性の下の二つは
Fermi 面上を 1 週するときに 4 度符号を変えるのがその特徴である。最も振幅の大きい方向、(b)
ならば kx 軸または ky 軸の方向、(c) ならば kx 軸や ky 軸から 45 度傾いた方向が、酸化物超伝
導体の CuO2 面の a 軸に相当する。図のとおり、ペアポテンシャルが波数ベクトルの方向に依存
するので異方的超伝導と呼ばれる。超伝導の対称性は様々な観測量に影響を及ぼすが、それは後に
触れることにする。
3.5
ギャップ方程式
しばらくは s 波対称性の超伝導体を考える。BdG 方程式 (3.36) は式 (3.49) を考慮すると、
][
]
[
[
]
u(r)
h0 (r)
∆eiφ
u(r)
=E
,
(3.53)
v(r)
∆e−iφ −h∗0 (r)
v(r)
の固有値と固有関数を求める問題になる。ここで φ はペアポテンシャルの位相である。今 V (r) = 0、
A = 0 即ち、超伝導体が一様で磁場の無い場合を考えると、
[
] [
]
u(r)
uk
1
√
=
eik·r
V
v(r)
vk
vol
という平面波が解になる。実際に代入してみると、
][
]
[
uk
ξk
∆eiφ
∆e−iφ
−ξk
vk
[
=E
uk
vk
(3.54)
]
,
という行列の固有値問題に帰着する。これを解き、波動関数を規格化すると、
√
E = ± Ek , Ek = ξk2 + ∆2 ,
√ √
√ √
ξk
ξk −iφ
1
1
1+
1−
uk =
, vk =
e ,
2
Ek
2
Ek
であることが解る。Bogoliubov 変換も
)
]
(
)
[(
)
(
∗
Ψ↑ (r)
uk
−v−k
1 ∑
−ik·r †
ik·r
e
α−k,↓ ,
=√
e
αk,↑ +
Vvol k
Ψ†↓ (r)
vk
u∗−k
19
(3.55)
(3.56)
(3.57)
(3.58)
ky
(a)
kx
s
ky
−
(b)
d x2−y2
+
+
kx // I
−
ky
−
(c)
+
dxy
kx // I
+
−
図 3.1: 2 次元 Fermi 面(真中の白丸)上におけるペアポテンシャルの様子。(a) s 波対称性、(b)
dx2 −y2 波対称性、(c) dxy 波対称性。
20
となる。
強磁性 Ising 模型の平均場理論では、自発磁化の大きさを self-consistent に決める方程式 (2.16)
を導いたが、これに対応する方程式は式 (3.21) で、s 波であることを考慮すると、
∆ eiφ = g0 ⟨Ψ↑ (r)Ψ↓ (r)⟩ ,
(3.59)
元の式 (3.21) において −g(r − r ′ ) = g0 δ(r − r ′ ) として符号を反転させて引力であることを考慮
した。式 (3.59) に式 (3.58) を代入すると、
⟩
′
1 ∑⟨
†
∗
(uk αk,↑ − v−k
α−k,↓
)(vk∗ ′ αk† ′ ,↑ + u−k′ α−k′ ,↓ )ei(k−k )·r ,
Vvol
k,k′
1 ∑ i(k−k′ )·r ⟨
=g0
e
uk vk∗ ′ αk,↑ αk† ′ ,↑ + uk u−k′ αk,↑ α−k′ ,↓
Vvol
k,k′
⟩
†
†
∗
∗
−v−k
vk∗ ′ α−k,↓
αk† ′ ,↑ − v−k
u−k′ α−k,↓
α−k′ ,↓ ,
∆ eiφ =g0
ここで付録 2 にあるように
⟨
⟩
†
αk,σ
αk′ ,σ′ =δk,k′ δσ,σ′ f (Ek ),
(
(
))
Ek
1
1 − tanh
,
f (Ek ) =
2
2T
⟨
⟩
αk,σ αk′ ,σ′ =0,
(3.60)
(3.61)
(3.62)
Fermi distribution function
(3.63)
(3.64)
を用いると、
1 ∑
uk vk∗ (1 − 2f (Ek )) ,
Vvol
k
(
)
1 ∑ 1
Ek
1 =g0
tanh
,
Vvol
2Ek
2T
∆ eiφ =g0
(3.65)
(3.66)
k
が導かれる。途中で
uk vk∗ =
∆eiφ
2Ek
(3.67)
を用いた。式 (3.66) は ∆ の大きさを self-consistent に決定するギャップ方程式と呼ばれている。
左辺は正の値だから、g0 > 0 即ち引力相互作用で無いとこの方程式の解は無い。ギャップ方程式を
まず絶対零度で解くことにする。T = 0 で右辺の tanh(Ek /2T ) = 1 だから、
1 ∑ 1
,
Vvol
2Ek
k
∫ ℏωD
N (ξ)
=g0
dξ √
,
ξ 2 + ∆2
0
∫ ℏωD
dξ
√
≃g0 N (0)
,
2
ξ + ∆2
0


√(
)2
ℏω
ℏω
D
D
=g0 N (0) ln 
+
+ 1 ,
∆
∆
1 =g0
≃g0 N (0) ln(2ℏωD /∆),
21
(3.68)
(3.69)
(3.70)
(3.71)
(3.72)
途中で電子の状態密度、
N (ξ) =
1 ∑
δ(ξ − ξk )
Vvol
(3.73)
k
を定義して波数の和をエネルギー積分に変え、さらに状態密度を Fermi 面の値 N (0) で置き換え
た。積分は本来無限大までとるべきであるが物理的でない発散を起こすので、積分の上限は引力を
媒介する phonon の Debye 振動数 ℏωD ≫ ∆ で cut-off した。また公式
∫
√
1
dx √
= ln x + x2 + c2 2
2
x +c
(3.74)
を用いた。最後の結果を逆に解いて T = 0 でのペアポテンシャルを求めると、
∆(T = 0) ≡ ∆0 = 2ℏωD e−1/g0 N (0)
(3.75)
となる。元々電子間に弱い引力が働く g0 N (0) ≪ 1 として理論を構築してきたわけであるが、こ
の結果で教訓的なことは右辺において g0 N (0) に関して展開が出来ないということである。この事
実は引力がいくら弱くとも引力に関して摂動展開が出来ず、電子気体は超伝導を起こしてしまうこ
とを示している。
次に転移温度 Tc を求める。転移温度において ∆ = 0 であるから、式 (3.66) は
(
)
dξ
ξ
tanh
,
ξ
2Tc
0
(
)
(
)
∫ ∞
ℏωD
ℏωD
=g0 N (0) ln
tanh
− g0 N (0)
dξ ln(ξ) cosh−2 (ξ),
2Tc
2Tc
0
[ (
)
]
ℏΩD
≃g0 N (0) ln
+ ln(4γ0 /π) ,
2Tc
(
)
2ℏωD γ0
=g0 N (0) ln
.
Tc π
∫
ℏωD
1 =g0 N (0)
(3.76)
(3.77)
(3.78)
(3.79)
2 行目第 1 項の双曲線関数は ℏωD ≫ Tc を使って 1 に置き換え、第 2 項の積分の上限を無限大に
飛ばした。さらに公式
∫ ∞
dx ln(x) cosh−2 (x) = ln(4γ0 /π),
(3.80)
0
ln γ0 ≃0.577
Eular constant,
(3.81)
を用いた。最後の結果から
γ0
2ℏωD γ0 −1/g0 N (0)
e
= ∆0
(3.82)
π
π
即ち、2∆0 = 3.5Tc が導かれる。この関係は多くの BCS 超伝導体で確認されている。ペアポテン
シャルの温度依存性を Gap 方程式を解いて描いたのが図 3.2 である。
Tc =
22
1.2
0.8
0
(0)
1.0
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
T / T
C
図 3.2: ペアポテンシャルの大きさを温度の関数として示した。
23
第4章
4.1
Bogoliubov-de Gennes 方程式の解
の性質
Andreev 反射
常伝導体即ち普通の金属や半導体と超伝導体に接合させた NS 接合において、Andreev 反射と
いう現象が起きる。この Andreev 反射の物理を理解するのが、本稿の最重要課題である。話を簡
単にするために、2 次元 s 波超伝導体の NS 接合を考えることにする (図 4.1(a))。BdG 方程式は
[
][
]
[
]
h0 (r)
∆Θ(x)eiφ
u(r)
u(r)
=E
,
(4.1)
∆Θ(x)e−iφ
−h0 (r)
v(r)
v(r)
ℏ∇2
− µF + V0 δ(x),
(4.2)
2m
である。式 (3.47) ではペアポテンシャルには Cooper ペア組む 2 つの電子の重心座標、R の自由
度が残されていたが、この自由度を使って、常伝導体側では ペアポテンシャル はゼロ、超伝導体
h0 (r) = −
側では ∆eiφ であるとした。Θ(x) はこの事情を反映する階段関数である。y 方向には接合幅は W
で、周期境界条件を課す。この節では付録もあわせて参照している。このように Bogoliubov-de
Gennes の描象では、普通の金属はペアポテンシャルがゼロ、超伝導体は有限の振幅を持つペアポ
テンシャルで特徴づけられる。また NS 界面を x = 0 にし、ここでは δ-関数型のポテンシャル障
壁があるとした。常伝導体中では ∆ = 0 なので、BdG 方程式は 2 本の Schrödinger 方程式に切
断される。
h0 (r)u(r) =Eu(r),
(4.3)
−h0 (r)v(r) =Ev(r),
(4.4)
potential は無いので、波動関数は平面波
eipy
eikx √
W
で書くことが出来て、これを代入すると固有値と固有関数が得られる。
( )
1
eipy
E = ξk 、
eikx √ ,
electron
0
W
( )
0
eipy
hole,
E = −ξk ,
eikx √ ,
1
W
ℏ2 k 2
+ ϵp − µF ,
2m
ℏ2 p2
ϵp =
,
2m
2πn
p=
,
n = 0, ±1, ±2, . . . ,
W
ξk =
24
(4.5)
(4.6)
(4.7)
(4.8)
(4.9)
(4.10)
V0 δ(x)
Superconductor
Normal conductor
∆ 0 e iϕ
x
x=0
(a)
Ek
Ek
∆0
kp
k
k
− µF +ε y
(b)
図 4.1: 2 次元 s 波超伝導体の NS 接合 (a)。BdG 方程式を解いて得られる分散関係 (b)
25
電子とホールの分散関係を示したのが図 4.1(b) の左側である。ここでは、y 方向の波数をある 1 つ
の値 p に止めて、1 本のサブバンドが書いてある。実際には図 5.6 にあるように、多くのサブバン
ドが重なっている。電子の分散(実線)は k = 0 のところで −µF + ϵp をとり、k の増加に従って
増加する。そして Fermi 面上 k = kp (kp2 + p2 = kF2 = 2mµF /ℏ2 ) においてエネルギーの原点を切
る。ホールの分散関係 (破線) は電子の分散関係に負符号をつけたものであるから、エネルギーの
原点に関して電子の分散関係とは上下対称になっている。次に超伝導体側で BdG 方程式を解く。
やはり解は平面波
(
u(r)
v(r)
)
(
=
で記述できて、方程式に代入すると、
(
)(
ξk
∆eiφ
∆e−iφ
−ξk
)
uk
vk e
−iφ
eipy
eikx √
W
)
uk
vk e−iφ
(
uk
vk e−iφ
=E
(4.11)
)
(4.12)
という行列の固有値問題に帰着する。これを解くと
E = ± Ek , Ek =
√ √
1
ξk
uk =
1+
,
2
Ek
√ √
ξk
1
1−
vk =
,
2
Ek
√
ξk2 + ∆2 ,
(4.13)
(4.14)
(4.15)
となる。この分散関係を示したのが図 4.1(b) の右側である。ペアポテンシャルの働きは電子とホー
ルの分散の分岐を混ぜることにあり、この影響を最も顕著に受けるのは、2 つの分散が縮退してい
る Fermi エネルギー k = ±kp のところである。ここで 2 つの分岐が跳ねあい、励起には ∆ だけ
ギャップが現れる。
次に、この NS 接合に常伝導体側から波数 k の電子を入射させる(図 4.2(a))。電子は電子と
して接合界面でノーマル反射される (図 4.2(a) の ree ) 以外にホールとして反射される。(図 4.2(a)
の rhe ) この電子がホールとして反射される現象を Andreev 反射と呼ぶ。図中 Andreev 反射され
たホールの波が −x の方向に進んでいるにもかかわらず、波数が正の値になっていることは、少し
説明を要する。波の進む方向は群速度である分散関係の傾き
1
ℏk
∇k ξk =
x̂ +
ℏ
m
ℏk
1
vkh = ∇k (−ξk ) = − x̂ −
ℏ
m
vke =
ℏp
ŷ,
m
ℏp
ŷ,
m
electron,
(4.16)
hole,
(4.17)
によって決まり、Andreev 反射されたホールは x 方向の波数が正の値のとき、−x 方向に進むこ
とになる。常伝導体中の波動関数は、入射電子、ノーマル反射された電子、Andreev 反射された
ホールの波動関数の線型結合で、
[( )
( )
( )
]
+
+
−
1
1
0
eipy
ΨN (r) =
eik x +
e−ik x ree +
eik x rhe √ ,
0
0
1
W
√
E
,
k ± =kp 1 ±
µp
µp =µF − ϵp
(4.18)
(4.19)
(4.20)
26
と表される。伝播に寄与するチャネルでは x 方向の運動エネルギーに対応する µp はやはり µF の
程度の大きさになる。
以下では Andreev 反射の性質を説明する。図 4.2(a) では、入射電子のエネルギーがギャップよ
りも大きい図が描かれているが、実際 Andreev 反射の振幅が大きいのはギャップよりも入射エネ
ルギ−が小さいときであり、その様子を描いたのが図 4.2(b) である。超伝導体側の波動関数は電
子、及びホールとして透過した波動関数の線型結合で
)
[(
(
)
]
u
veiφ
eipy
S
iq + x ee
−iq − x he
√
Ψ (r) =
e
,
t
+
e
t
ve−iφ
u
W
√ (
)
1
Ω
u(v) =
1 + (−)
, Ω=
2
E
(4.21)
√
E 2 − ∆2 ,
(4.22)
と書くことが出来る。波動関数と波数については少し説明が必要である。今考えているのは散乱問
題であるから、E を一定としたときの波動関数を求める必要がある。E = Eq から、
ξq = ± Ω,
√
q ± =kp
1±
(4.23)
Ω
,
µp
(4.24)
上の 2 式は複合同順で、上の符号が電子、下の符号がホールに対応する。E > ∆ の場合には電子
の波数は正、ホールの波数は負であることに着目すると、式 (4.21) の波数のとり方は理解できる
√
だろう。これに注意しながら、E < ∆ の場合を考察する。このとき Ω = i ∆2 − E 2 と純虚数に
なる。そして E < ∆ ≪ µp < µF の関係を使って式 (4.24) を展開すると、
√
kp ∆2 − E 2
±
q ≃ kp ± i
,
2µp
(4.25)
これを式 (4.21) の波数へ代入すると、無限遠方 x → ∞ において指数関数的に減衰する波動関数に
なっていることが確かめられる。実は式 (4.23) (4.24) における電子とホールの符号はここから決ま
る。E = Eq 及び 式 (4.23) を式 (4.14) 式 (4.15) へ代入すれば、式 (4.21) における波動関数の振幅
が何故電子とホールで逆になるか、解るはずである。以下では特に E = 0 を意識して Andreev 反
射の説明をする。電子が入射したとき超伝導体側へ通りねけようとするが、超伝導体側ではギャッ
プが開いていて、
(即ち 1 準粒子の安定な状態がないために)、超伝導体に侵入できない。ギャップ
よりも下のエネルギーで安定なのは Cooper ペアという 2 つの電子と超伝導の巨視的な位相からな
る複合粒子である。入射電子が Cooper ペアとして凝縮するためには接合近傍からもう 1 つ電子
を捕まえ、さらに位相を調達しなければならない。そのとき捕まった電子の抜け殻としてのホール
に、調達した位相とは逆の位相が転写されて常伝導体側へと反射される。E がギャップよりも小さ
いときには、入射電子は超伝導体に侵入できないと書いたが、もう少し正確に言えば、量子力学的
に Pippard 長 ξ0 = ℏvF /π∆ 程度しみ出す事はできるのである。これは式 (4.25) の虚部に着目す
ればわかる、E = 0 のとき
Imq ± =
∆
kp ∆
= 2
2µp
ℏ kp /m
(4.26)
であり、kp をその最大値である Fermi 波数 kF で置き換えると、定数 π はでないが、この逆数が
波動関数の減衰を与えることはわかる。即ち準粒子の波数は複素数になり NS 界面から離れるに
従って励起が減衰するわけである。準粒子としての励起が抑えられるということは、基底状態であ
る Cooper ペアへ凝縮することの別の表現である。BdG 方程式の描象の中には Coopre ペアの存
27
在は陽には現れないが、その存在を補完して以上のように Andreev 反射を説明することが出来る。
Josephson 電流を考える際に重要になる反射過程がもう一つ存在してその概念図が図 4.2(c) であ
る。ここでは正孔が常伝導体側から入射して、超伝導体中の Cooper ペアを壊し、余った電子と位
相が常伝導体へ反射されることになる。式 (4.18) (4.21) で両側の波動関数が記述できたので、接合
Normal conductor
Superconductor
Ek
Ek
r he
r ee
t ee
∆0
t he
kp
k
k
(a)
ei ϕ
0
(b)
e
−i ϕ
ei ϕ
ei ϕ
0
2∆ 0
2∆ 0
(c)
図 4.2: BdG 方程式から得られる、常伝導体と超伝導体における分散関係 (a)。Andreev 反射の概
念図 (b-c)。(b) では電子からホールに、(c) ではホールから電子に反射される。その際に超伝導の
位相が伝えられる。
界面にポテンシャル障壁 V0 δ(x) を導入して、これら 2 つの波動関数を接続してやれば、ノーマル反
射係数 ree と Andreev 反射係数 rhe は計算できる。既に考察したように、一般的に E ∼ ∆ ≪ µF
が成立するので超伝導体及び常伝導体において波数は k ± ∼ q ± ∼ kp とする。
接続条件の第 1 は、波動関数の値が x = 0 において等しいことである。即ち
ΨS (0, y) = ΨN (0, y),
28
(4.27)
である。ここから
(
1
0
)
(
+
ree
rhe
)
(
=
u
v e−iφ
v eiφ
u
)(
tee
the
)
,
(4.28)
が導かれる。第 2 の接続条件は δ-関数型のポテンシャル障壁を考慮する際には少し注意が要るが、
BdG 方程式 (4.1) を −γ < xγ の範囲で積分した後、極限 γ → 0 をとることによって得られる。
行ごとに書くと、
]
[ 2 2
∫ γ
∫ γ
ℏ ∇
iφ
u(r) − µF u(r) + V0 δ(x)u(r) + ∆e v(r) = lim
dx Eu(r),
lim
dx −
γ→0 −γ
γ→0 −γ
2m
]
[ 2 2
∫ γ
∫ γ
ℏ ∇
v(r) + µF v(r) − V0 δ(x)v(r) + ∆e−iφ u(r) = lim
dxEv(r).
lim
dx
γ→0 −γ
γ→0 −γ
2m
両式共に右辺は 0 になる。左辺では微分の項と δ-関数の項が残る。
)
(
d
ℏ2
d
−
+ V0 u(0, y) =0,
−
u(r)
u(r)
2m dx
dx
x=0+
x=0−
(
)
ℏ2
d
d
−
v(r)
v(r)
−
+ V0 v(0, y) =0,
2m dx
dx
x=0+
x=0−
(4.29)
(4.30)
(4.31)
(4.32)
これをまとめると、
ℏ2
−
2m
(
)
d S d N Ψ (r)
Ψ (r)
−
+ V0 ΨS (0, y) = 0,
dx
dx
x=0
x=0
(4.33)
ここから、
(
k̄
0
)
(
− k̄σ̂3
ree
rhe
)
(
=
u
ve−iφ
veiφ
u
)
(
k̄σ̂3 + 2iz0
)
(
tee
the
)
,
(4.34)
ここで k̄ = kp /kF 、 z0 = mV0 /ℏ2 kF は規格化された、ポテンシャル障壁の大きさ、σ̂3 は Pauli
行列の第 3 成分である。式 (4.28)、 (4.34) から Andreev 反射係数とノーマル反射係数を計算する
ことが出来る。
2rn Ω
,
(2 − |tn |2 )Ω + |tn |2 E
|tn |2 ∆e−iφ
rhe =
,
(2 − |tn |2 )Ω + |tn |2 E
|tn |2 ∆eiφ
,
reh =
(2 − |tn |2 )Ω + |tn |2 E
k̄
−iz0
tn =
, rn =
.
k̄ + iz0
k̄ + iz0
ree =
(4.35)
(4.36)
(4.37)
(4.38)
tn 、rn は接合の両側が常伝導体のときの透過係数と反射係数である。ここでは比較のために、ホー
ルが入射して電子として反射される Andreev 反射係数 reh もあわせて計算しておいた。図 4.2(b)、
(c) のように電子からホールに反射されるときは 位相 e−iφ が、ホールから電子に反射されるとき
には位相 e−iφ が Andreev 反射係数に転写される。Andreev 反射の振幅が大きい E < ∆ の場合
には超伝導体側に伝播しないため、保存則
|ree |2 + |rhe |2 = 1,
29
(4.39)
が成立している。ポテンシャル障壁が大きいとき z0 ≫ 1 のときには、ノーマル反射が大きくなり
|ree |2 → 1、Andreev 反射が抑制される |rhe | → 0。これは障壁が高いので、Cooper ペアが通り抜
け出来なくなっていると解釈される。一方障壁が無いとき (z0 = 0) ノーマル反射は起きず ree = 0、
Andreev 反射係数は
rhe =e−i arctan(
reh =e
√
∆2 −E 2 /E ) −iφ
e
,
(4.40)
√
−i arctan( ∆2 −E 2 /E ) iφ
e ,
(4.41)
となり、大きさ 1 で位相情報だけを含むことになる。
これらの反射係数からは、NS 接合の微分コンダクタンスという観測量を計算することが出来る。
その公式は
GN S
)
dI 2e2 ∑ (
ee 2
he 2 =
=
1 − |r | + |r | dV eV
h p
,
(4.42)
eV =E
で表され、Blonder-Tinkham-Klapwijk の公式あるいは Takane-Ebisawa の公式として知られてい
る。ここで p の和は伝播チャネルについてとる。図 4.3 には微分コンダクタンスを印加電圧の関数
として示した。縦軸は両側が常伝導体のときのコンダクタンス GN で規格化してある。
G
NS
/ G
N
4
Z=0
2
Z=1
Z=5
0
0.0
0.5
1.0
eV /
1.5
2.0
0
図 4.3: NS 接合の微分コンダクタンスを印加電圧の関数で示した。z はポテンシャル障壁の大きさ
である。
z0 = 0 で障壁が無い場合は、E < ∆ において 2 という値になる。このエネルギー領域では
式 (4.39) と式 (4.40) から、コンダクタンスは
GN S =
2e2 ∑ he 2
2e2
2|r | =
2Nc
h p
h
30
(4.43)
となる。通常のコンダクタンスが GN = (2e2 /h)Nc であるから、これらの比は常に 2 になる。こ
の結果は Andreev 反射が完全に起きるとき 1 つの電子が入射したならば確実に 1 つの Cooper ペ
アを形成することが出来るので、通常の 2 倍の電流が流れることを意味している。E > ∆ の領域
では Andreev 反射が次第に起きなくなるので、GN S /GN は 1 に漸近していく。
一方障壁が大きいとき (z0 = 5) の場合には sub gap 領域 E < ∆ でも Andreev 反射は抑制さ
れ、z0 → ∞ に従ってこのコンダクタンスの形は超伝導体内部の状態密度に漸近していく。最近は
STM (走査型トンネル顕微鏡)を用いたトンネル電流の測定が可能で STM の針が常伝導体なら
ばその実験結果は図の z0 → ∞ に対応する。従って STS の実験では超伝導体の内部の状態密度を
測定していることになる。ただし異方的な超伝導体の場合には、全く別な状態を観測することにな
るが、これは後に述べる。
4.2
Andreev 反射されたホールの性質
今度は電子が NS 接合に入射したときの透過波と反射波の波数に注目する。それらは
incident electron(kp , p),
(4.44)
ree
: (−kp , p),
(4.45)
he
: (kp , p),
(4.46)
tee
: (kp , p),
(4.47)
: (−kp , p),
(4.48)
r
he
t
とまとめられる。今これらの散乱波の y 方向の波数は保存している。常伝導体側での速度の定
義 (4.16)、 (4.17) に当てはめると、運動方向が図 4.4 のようになることが確かめられる。即ちノー
マル反射では接合面に垂直な方向の速度成分が符号反転するのに対して、Andreev 反射では全て
の速度成分が符号を反転させるのである(波数は不変)。すると反射されたホールは入射電子の軌
跡をたどり返す事になる。この性質は遡及性と呼ばれており、遡及性が厳密に成り立つのは Fermi
面上の電子とホールについてである。この性質は系の時間反転対称性と深く関わる性質である。こ
のように電子とホールは互いに強く相関を持っており、これは Cooper ペアを生成したことの反映
である。遡及性は常伝導体側に不純物に代表されるような乱れたポテンシャルが存在しても壊れ
ない性質である。図 4.4 の下には、X で不純物を表してあるが、この図のように電子が入射して
NS 界面にたどりつくまでの旅程をホールは忠実に遡るのである。この事実は Josephson 電流を考
える際に極めて重要な意味を持つ。またこのために巨大 Andreev 後方散乱や、無反射トンネルと
いった現象が起きる。
超伝導体の側では速度は
1
= ∇k Ek =
ℏ
[
ℏk
h
vk = −
x̂ +
m
vke
[
]
ℏk
ℏp
x̂ +
ŷ /Ek ,
m
m
]
ℏp
ŷ /Ek ,
m
(4.49)
(4.50)
符号の違いは式 (4.23) から出てくる。この定義に従うと超伝導体側での準粒子の運動方向が図 4.4
のようになることが確かめられる。
常伝導体側に磁場が紙面に垂直にかかっている場合、図 4.4 の一番下の図のように、電子はサイ
クロトロン運動をしながら NS 界面に入射する。ノーマル反射された電子の軌跡は、NS 界面に垂
31
Normal metal
Superconductor
h
e
e
h
2
h
e
1
e
図 4.4: NS 接合近傍の準粒子の運動方向。
32
直な方向の速度成分だけが符号反転するのに、対して Andreev 反射されたホールは全ての速度成
分の符号が反転するために、それぞれ赤、青で書かれた軌跡に沿って運動する。磁場中を荷電粒子
が運動すると古典的にも Lorentz 力が働く。
F = ma = ev × B,
(4.51)
電子とホールは電荷の符号が逆なので、Lorentz 力は反対向きに働きそうな気がする。しかしこれ
まで述べてきたように「有効質量の符号も逆である」という具合に電子とホールの分散関係の違い
をを解釈すると、式 (4.51) において m と e が同時に符号反転するため、Lorentz 力は電子もホー
ルも同じ方向(図 4.4 では進行方向に対して右向き)に働くことになる。磁場が加わると時間反転
対称性が壊れてしまいホールの遡及性は失われ、もはやホールは電子の入射の軌跡をたどり返すこ
とは無い。しかし図 4.4 の下の図では、奇妙なことに NS 界面の最初の反射位置 1 で分裂した電子
とホールが、それぞれ異なるサイクロトロン軌道に沿って NS 界面を運動した後、2 番目の反射位
置 2 で再びめぐり合うことになる。このことから単連結系である NS 接合のコンダクタンスが磁場
の強さに関して振動を起こすという、Aharonov-Bohm 効果が現れることが結論されるのである。
こうしてホールの性質を説明すると、いかにも奇妙なである感じを拭い去れない。それは、電子
が全く別の粒子であるホールに化けたという先入観が在るからかも知れない。しかし電子とホール
の状態(運動)の間には強い相関関係があって、その相関の源は超伝導を担う Cooper ペアであ
る。超伝導体で Cooper ペア、常伝導体で相関を持った電子とホールという状態は、BdG 方程式
のある 1 つの固有状態の性質なのである。BdG 方程式には Cooper ペアは陽に現れないことを何
度も強調したが、逆の言い方をすると、BdG 方程式の固有状態 E < ∆ は、超伝導体では準粒子励
起が減衰することをもって Cooper 対の存在を表し、常伝導体側では電子ホールペアの強い相関を
もって Cooper ぺアの存在を表しているのである。この BdG 方程式の固有状態は、近接効果とい
う全く別の描象でも理解されてきた。近接効果では超伝導体における Cooper ペアを主に考えるこ
とにして、常伝導体側に Cooper ペアが染み出すという理解の仕方をする。(誤解を避けるために
注意するが、常伝導体に Cooper ペアが染み出しても、常伝導体中の励起にギャップは現れない。
元々ペアポテンシャル式 (3.21) は Cooper ペアの振幅と引力相互作用の積であった。常伝導体では
Cooper ペアの振幅は染み出しによって有限の値をとるが、引力相互作用が働かないのでペアポテ
ンシャルはゼロのままである。励起ギャップを与えるのはペアポテンシャルの大きさであるから、
常伝導体側ではギャップはゼロのままである。)強い相関の電子・ホールペアという描象と Cooper
ペアの染み出しという描象は、同じ BdG 方程式の固有状態を異なる観点から眺めているに過ぎな
い。強い相関の電子・ホールペアという描象は主に常伝導体中の準粒子から見た理解の仕方であっ
て、Cooper ペアの染み出しという描象は超伝導体中の Cooper ペアから見た理解の仕方である。
いずれの描象も BdG 方程式を愚直に解く努力を継続することによって確立してきた財産である。
4.3
Josephson 効果
Josephson 電流は Cooper ペアのトンネル効果(近接効果)によって現れる現象で純粋に量子力
学的効果であり超伝導現象のハイライトである。以下ではゼロ電圧で流れる直流 Josephson 電流に
ついて考察する。Josephson 電流の定式化と現象の理解の歴史的な発展は極めて多岐に渡ってい
る。本稿では Andreev 反射という現象を用いて Josephson 効果の理解を試みる。Josephson 効果
を示す簡単な例は、図 4.5 にあるように、2 つの超伝導体で常伝導体をはさんだ SNS 接合である。
図には各領域における Bogoliubov 準粒子の分散関係が示してあり、図 4.1 の左側にもう 1 つ超伝
33
導体を追加したことになる。超伝導体が s 波対称性の超伝導体である場合にはこの系の Josephson
電流は Furusaki-Tsukada の公式と呼ばれる以下の公式で記述される。
J =−
]
e ∑ ∑ ∆ [ he
T
r − reh ,
ℏ p
Ω
ω
(4.52)
n
以下では ℏ = kB = 1 の単位系を用いる(kB は Boltzmann 定数)。この公式の特徴は Josephson
Superconductor
Superconductor
Normal
Ek
Ek
Ek
kx
k
k
k
ϕL
ϕ
R
r he
r eh
図 4.5: Josephson 接合の各領域における分散関係と Josephson 電流に寄与する 2 つの Andreev 反
射過程。
電流が 2 つの Andreev 反射係数 rhe 及び reh によって記述されている点にある。rhe は電子が入
射し接合を周遊した後、ホールに反射される過程の Andreev 反射係数で、その際に Cooper ペア
が左から右の超伝導体に移動する(図 4.5)。reh はその逆でホールが入射し接合を周遊した後、電
子に反射される Andreev 反射係数で、その際に Cooper ペアが右から左の超伝導体に移動する。
公式はそれらの差で Josephson 電流が記述されるという内容を表現している。ここで議論する直
流 Josephson 電流は熱平衡状態における電流であることから反射係数は準粒子のエネルギ− E を
松原周波数 iωn = i(2n + 1)πT に接続したものになっている。(n は整数、T は温度である。) ま
た、コンダクタンスが反射係数の 2 乗で表現されていたのに対して Josephson 電流には反射係数
そのものが現れていることが重要である。反射係数の位相自由度を使って超伝導体間で位相情報が
伝えられ、Josephson 電流が流れると理解出来る。図 4.5 では真中に常伝導体をおいてあるがここ
は絶縁体でもよく、そのような情報は全て 2 つの Andreev 反射係数に含まれている。反射係数や
透過係数はメゾスコピック系の伝導現象で議論される Landauer のコンダクタンス公式に現れる物
理量で、公式 (4.52) は公式 (4.42) と同様、超伝導の物理とメゾスコピック系の物理をつなぐ公式
の 1 つとして位置付けられる。
では実際に δ-関数型のポテンシャル障壁によって隔てられた 2 つの超伝導体間を流れる Josephson
電流を、BdG 方程式を解き Andreev 反射係数を計算し、公式 (4.52) に代入して計算することに
する。前章と同様 2 次元 s 波超伝導体の接合を考えることにする (図 4.6)。
34
Superconductor
Superconductor
α
β
A
B
C
D
ϕR
ϕL
図 4.6: SIS 接合における 入射波、反射波及び透過波。
35
BdG 方程式は
[
][
h0 (r)
∆(x)
∆(x)∗
−h0 (r)
u(r)
]
[
=E
v(r)
u(r)
]
v(r)
,
(4.53)
ℏ∇2
h0 (r) = −
− µF + V0 δ(x),
 2m
∆eiφL x < 0,
∆(x) =
∆eiφR x > 0,
(4.54)
(4.55)
左の超伝導体からは電子だけでなくホールも入射し、それぞれの振幅を α、 β とする。左の超伝
導体中の波動関数は、入射電子、入射ホール、反射された電子、及び反射されたホールの波動関数
の線型結合で、
[(
L
Ψ (r) =Φ̂L
(
Φ̂L =
u
v
)
(
e
eiφL /2
0
ikp x
α+
)
(
e
−ikp x
β+
u
v
)
(
e
−ikp x
A+
v
u
)
]
e
ikp x
−iφL /2
eipy
B √ ,
W
(4.56)
)
0
e
v
u
,
(4.57)
と表される。右側の超伝導体では、電子の透過波とホールの透過波があるのでそれぞれの振幅を
C 、 D として波動関数は
[(
R
Ψ (r) =Φ̂R
(
Φ̂R =
u
v
)
(
e
ikp x
C+
)
eiφR /2
0
0
e−iφR /2
v
u
)
]
e
−ikp x
eipy
D √ ,
W
,
(4.58)
(4.59)
と表される。前章と同様に δ-関数のポテンシャル障壁を考慮した接続条件
ΨL (0, y) = ΨR (0, y), ,
(
)
ℏ2
d R d L −
Ψ (r)
−
Ψ (r)
+ V0 ΨR (0, y) = 0,
2m dx
dx
x=0
x=0
を課して、接続すればいい。式 (4.60) から、
[(
) (
)]
(
)
α
A
C
Φ̂Û
+
=Û0
,
β
B
D
[
(
)
(
)]
(
)
[
] C
α
A
Φ̂Û k̄σ̂3
− k̄σ̂3
= Û k̄σ̂3 + 2iz0 Û
,
β
B
D
(
)
ei(φL −φR )/2
0
Φ̂ =
,
0
e−i(φL −φR )/2
(
)
u v
Û =
,
v u
36
(4.60)
(4.61)
(4.62)
(4.63)
(4.64)
(4.65)
この方程式から C 、D を消去すると、
(
(
)
(
)
iz0 (k̄ − iz0 )(u2 − v 2 )2
A
k̄ 2 uv 1 − cos φ + i sin φ(u2 − v 2 )
1
(
)
=
Ξ0
k̄ 2 uv 1 − cos φ − i sin φ(u2 − v 2 )
−iz0 (k̄ + iz0 )(u2 − v 2 )2
B
(
)
α
×
,
β
(
)(
)
ree reh
α
=
,
rhe rhh
β
(
)
Ξ0 =z02 (u2 − v 2 )2 + k̄ 2 1 − 4u2 v 2 cos2 (φ/2) ,
φ =φL − φR ,
)
(4.66)
(4.67)
(4.68)
(4.69)
と計算できる。
−i∆
,
2ω
√n
ωn2 + ∆2
,
u2 − v 2 =
ωn
uv =
(4.70)
(4.71)
を用いて、Josephson 電流を表すと、
J=
∑ ∑
e
|t |2 ∆2
( n
).
sin φ
T
ℏ
ωn2 + ∆2 1 − |tn |2 sin2 (φ/2)
p
ωn
(4.72)
( y )
1
1
=
tanh
ωn2 + y 2
2y
2T
(4.73)
となり、公式
T
∑
ωn
を用いて ωn の和をとると、
J=
e
sin φ
ℏ
∑
p
 √

2 sin2 (φ/2)
∆
1
−
|t
|
n
|tn | ∆
.
√
tanh 
2T
2 1 − |t |2 sin2 (φ/2)
2
(4.74)
n
となる。まずポテンシャル障壁が大きくて (z0 ≫ 1)、真中が絶縁体になっている場合には、両側
が常伝導体のときの抵抗 (RN ) が
−1
RN
= GN =
と書けることに注意すると、
J=
π∆0
2eRN
(
∆
∆0
2e2 ∑
|tn |2 ,
2πℏ p
)
(
tanh
∆
2T
(4.75)
)
sin φ,
(4.76)
となることが解る。∆0 は絶対零度におけるペアポテンシャルの大きさである。式 (4.76) は Ambegaokar-
Baratoff によって導かれた公式であり、絶縁体を介した Josephson 電流の温度依存性、位相差依存
性、振幅などの振る舞いは実験結果を極めてよく説明する。ペアポテンシャルの温度依存性を図 3.2
で表わし、Josephson 電流の温度依存性を書いたのが図 4.7 である。Josephson 電流は T = Tc か
ら発生し、温度の降下に伴って上昇した後、T = 0 に向かって飽和する。
次にポテンシャル障壁が無くて (z0 = 0) 真中が、極めて幅長さ共に小さい常伝導体(constriction)
である場合は抵抗 (RN ) が
−1
RN
= GN =
37
2e2 Nc
2πℏ
(4.77)
1.0
0.6
J
C
[
0
/ 2eR
N
]
0.8
0.4
0.2
0.0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
T / T
C
図 4.7: SIS 接合における Josephson 電流の温度依存性。
と書けることに注意すると、
J=
π∆0
eRN
(
∆
∆0
)
(
sin(φ/2) tanh
∆ cos(φ/2)
2T
)
,
(4.78)
となる。この関係式は Kulik-O’melyanchuck によって導かれた関係式で、T = 0 において、Joseph-
son 電流は位相差の sin(φ/2) となり、φ = ±π において不連続な振る舞いをすることが知られて
いる。高温では sin(φ) に比例する。図 4.8 に Josephson 電流を位相差の関数として示した。低温
T /Tc = 0.0001 ではほぼ sin(φ/2) という関係が成立し φ = ±π のところではゼロになる。温度の
上昇に伴って次第に sin φ に近づいていく。このように Josephson 電流は真中の領域の電気伝導
特性に依存して多様な温度依存性、位相差依存性を示す事が知られている。
38
0.6
T / T =0.0001
c
0.4
J [
0
/ 2eR
N
]
0.5
0.2
0.1
0.8
0.0
-0.2
-0.4
-0.6
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
図 4.8: S-Constriction-S 接合における Josephson 電流を位相差の関数として表した。
39
第5章
異方的超伝導体 I - d 波
銅酸化物高温超伝導体は、いわゆる異方的超伝導体のうち d 対称性をもつ超伝導体であること
が、多くの実験や理論によって明らかにされている。ここでいう異方性は、Cooper ペアを形成す
る 2 つの電子間に働く引力がそれら 2 電子の相対座標に関して方向依存性があるということを指
している。異方的超伝導体の著しい特徴は、従来の BCS 超伝導体とは異なって準粒子の励起が
Fermi 面上いたるところで有限のエネルギーギャップを持つのではなく、Fermi 面上で線状あるい
は点状の零点を持つことである。さらに重要なのは、準粒子の感じるペアポテンシャルの位相(符
号)が準粒子の運動する方向に依存して変化をするということである。こうした異方的超伝導体の
持つ最も重要な性質は、超伝導体表面 (界面)に現れるゼロエネルギー状態(ZES)と呼ばれる束
縛 (共鳴)状態に起因する輸送現象の異常である。ZES はバルクの状態を終端させる事によって現
れる準粒子の干渉効果の結果発生する状態であり、ペアポテンシャルの符号はこの干渉効果を強め
るうえで重要な働きをする。ZES は Fermi 面直上に出来るため、トンネル効果やジョセフソン効
果などの輸送現象に劇的な影響を及ぼす。
5.1
d 波超伝導体の Andreev 反射
高温超伝導体のペアポテンシャルの様子は既に図 3.1 に載せてあるが、もう一度繰り返し説明
する。



∆k =


∆
− k̄y2 )
∆(k̄x2
2∆k̄x k̄y
s波
dx2 −y2 波
(5.1)
dxy 波
kx = k̄x kF 、ky = k̄y kF は Fermi 面における x、 y 方向の波数、kF は Fermi 波数である。s 波の
場合にはペアポテンシャルは波数ベクトルの方向に依らず一定の値 ∆ をとる。d 波対称性の下の
二つは Fermi 面上を 1 週するときに 4 度符号を変えるのがその特徴である。最も振幅の大きい方
向、(b) ならば kx 軸または ky 軸の方向、(c) ならば kx 軸や ky 軸から 45 度傾いた方向が、酸
化物超伝導体の CuO2 面の a 軸に相当する。図のとおり、ペアポテンシャルが波数ベクトルの方
向に依存するので異方的超伝導と呼ばれる。以下は超伝導体と常伝導体の接合を念頭に話を進める
が、x 方向を電流の流れる方向として、接合面の法線ベクトルを a 軸と平行にすれば (b) のよう
なペアポテンシャルが見えるはずで、接合面の法線ベクトルを a 軸とは 45 度傾いた方向にとれば
(c) のようなペアポテンシャルになるから、異方的超伝導体のトンネル接合の輸送特性は実空間的
にも異方的であることが期待される。
このような d 波超伝導体と常伝導体の NS 接合を考える(図 5.1)。一番上の図は NS 接合の分
散関係である。角度 α は高温超伝導体の a 軸と NS 界面の法線のなす角であり、(a) では α = 0、
(b) では α = π/4 である。第 3 章で議論したように、Andreev 反射は s 波超伝導体でも起きる現
象であるが、異方的超伝導体のときにはまた違った側面をもつ。図 5.1 の上図に戻って、超伝導
体側へ染み出す電子 (tee ) とホール (the ) の波数に注目する。一般にペアポテンシャルの大きさは
40
Normal conductor
Superconductor
Ek
Ek
r ee
r he
t ee
∆k
t he
kp
k
k
−
+
+
−
(a) α = 0
(b) α = π / 4
図 5.1: NS 接合の分散関係(上図)。α = 0 の d 波接合 (a) と、α = π/4 の d 波接合 (b) における
ペアポテンシャルの様子。
41
Fermi エネルギーに比べて十分に小さいので染み出した電子は入射電子とほぼ同じ波数 (kp 、p) を
もつ、しかしホールは (−kp , p) という波数になる。(ここでは超伝導体中に染み出した準粒子の x
方向の波数の実部に注目している。)この事実は、第 4 章でも指摘した。波数が違えばペアポテン
シャルが異なる値を持つのが異方的超伝導体の特徴である。
∆± ≡ ∆(±kp ,p)
(5.2)
と 2 箇所でのペアポテンシャルを定義すると、エネルギー E における超伝導体中の波動関数は
[(
)
(
)
]
u+
χ − v−
eipy
S
ikp x ee
−ikp x he
√ ,
Ψ (r) =
e
t +
e
t
(5.3)
∗
χ+ v+
u−
W
√ (
)
Ω±
1
1 + (−)
,
(5.4)
u± (v± ) =
2
E
e
χ± =ei(φ+ϕ± ) ,
(5.5)
≡sgn(∆± ),
√
Ω± = E 2 − |∆± |2 ,
(5.6)
iϕ±
(5.7)
と記述できる。式 (5.5) では、巨視的な位相 φ に加えてペアポテンシャルの符号が位相として波動
関数に含まれる点が重要である。常伝導体の側でも同様に、
[( )
( )
( )
]
1
1
0
eipy
N
ikp x
−ikp x ee
ikp x he
√
Ψ (r) =
e
+
e
r +
e
r
0
0
1
W
(5.8)
と波動関数が記述され第 3 章と同様に、接合界面にポテンシャル障壁 v0 δ(x) を導入して、これら
2 つの波動関数を接続してやれば、ノーマル反射係数 ree と Andreev 反射係数 rhe は計算できる。
計算の流れは第 4 章に示したので、結果を示す。まず α = 0 のときには
∆± =∆0 (k̄ 2 − p̄2 ),
2rn Ω+
,
(2 − |tn |2 )Ω+ + |tn |2 E
|tn |2 ∆+ e−iφ
=
,
(2 − |tn |2 )Ω+ + |tn |2 E
(5.9)
ree =
(5.10)
rhe
(5.11)
となる。ペアポテンシャルに波数依存性があるほかは s 波の結果である式 (4.35) (4.36) と本質的
な違いが無い。しかし α = π/4 のときには
∆± = ± 2∆ k̄ p̄,
ree
rhe
2rn E
,
=
2
(2 − |tn | )E + |tn |2 Ω+
|tn |2 ∆+ e−iφ
=
,
(2 − |tn |2 )E + |tn |2 Ω+
(5.12)
(5.13)
(5.14)
となることが解る。エネルギー依存性に異常がある。特に E = 0 のときには障壁の大きさ z0 に全
く依存せず、 ree がゼロになり、rhe は大きさ 1 の複素数になることに注意したい。
5.2
ゼロエネルギー束縛状態
得られた反射係数を用いて BTK 公式から、この NS 接合の微分コンダクタンスが計算しその様
子を描いたのが図 5.2 である。α = 0 のときコンダクタンスは超伝導体内部の状態密度に漸近する
42
5
(dI / dV) / G
N
4
3
2
= 0
1
/4
0
0
1
eV /
2
0
図 5.2: 常伝導体-d 波超伝導体の微分コンダクタンス。α は酸化物高温超伝導体の a 軸と、接合面
の法線のなす角。
43
が、α = π/4 のときにはゼロバイアス近傍に大きなピークが現れる。この現象はゼロバイアス異
常として多くの実験によって確かめられている。実験の 1 つを図 5.3(A) に示す。実験では YBCO
の薄膜を左図のように切り取り、様々な方向から銀の導線を接合している。a 軸はこの図で右方向
にあたり、ペアポテンシャルは下の図のようになる。それらの接合の微分コンダクタンスが右図で
ある。0 度と 90 度の接合は α = 0 の相当する。45 度の接合が α = π/4 に相当し、ゼロバイアス
近傍で大きなピークが観測されている。同様のピークは走査トンネル顕微鏡を用いた STS の実験
でも見られる。(図 5.3(B))
(A)
(B)
図 5.3: (A) Y 系酸化物超伝導体と銀の接合における微分コンダクタンス。超伝導体の薄膜に様々
な方向から銀の導線を接合し、微分コンダクタンスを測定している。(B) YBCO におけるの STS
の結果。(110) 方向の電流を測定している。
この大きな異方性を説明するのがゼロエネルギー状態(ZES) と呼ばれる共鳴状態であり α = 0
以外の接合角で常に現れる。(透過率ゼロの極限 すなわち超伝導体表面では ZES は束縛状態とな
る。)ZES は空間的には接合界面に Pippard 長 ξ0 程度の広がりをもっており、接合界面近傍にお
44
けるその局所状態密度はおおよそ
D(E, x) ∝
z02 ∆2 e−x/ξ0
z04 E 2 + ∆2
(5.15)
と Lorentz 型で書け、エネルギー的には Fermi エネルギー直上にできる。このように連続スペク
トル領域に出来る束縛常態であるがために輸送現象に劇的な効果を及ぼす。
どうして ZES ができるかの物理的な描象は BdG 方程式を解かなくても以下のように説明出来
る。常伝導体側から (kp , p) という波数を持った電子が Fermi 面直上 (E = 0) から接合に入射する
とする。δ-関数型のポテンシャル障壁を電子が透過及び反射する場合の透過係数と反射係数は
S
N
−iχ+*
1st order
tN
S
N
−iχ+*
3rd order
tN
−iχ*+
rN*
rN
rN*
rN
tN*
−iχ*+
−iχ−
S
N
tN*
−iχ*+
2nd order
tN
rN*
rN
−iχ−
−iχ+*
tN*
−iχ−
図 5.4: 電子が Andreev 反射される過程を |rN |2 の各次数に分解した。1 次では NS 界面でノーマ
ル反射されない。2 次では 2 度、3 次では 4 度 NS 界面で超伝導体から超伝導体へのノーマル反射
が起きる。
tN =
k̄
,
k̄ + iz0
rN = − iz0 /(k̄x + iz0 ),
(5.16)
(5.17)
∗
であった。ホールの透過係数と反射係数はそれぞれ、 t∗N 、 rN
である。障壁の影響はこれらの透
過、反射係数に代表させて、この電子がいかに Andreev 反射されるかを、図 5.4 のように反射過
程を分解して見ることにする。1 次の過程は tN で障壁を透過した後 Pippard 長程度進む間にペア
ポテンシャル ∆+ で電子からホールへ Andreev 反射された後、常伝導体へ t∗N で透過する過程で
ある。この反射過程で準粒子が拾ってくる位相に注目する。この Andreev 反射においては電子か
らホールへ反射されるので χ∗+ = e−i(φ+ϕ+ ) だけの位相をペアポテンシャルから拾う。この他にも
45
√
式 (4.40) で指摘した、e−i arctan(
∆2 −E 2 /E )
というエネルギーに依存した位相を拾ってくる。これ
は E = 0 においては −i である。重要なのは超伝導の位相 φ の他にペアポテンシャルの符号から
出る位相 ϕ+ を拾ってくるところにある。この過程の反射係数は
he
r(1)
= t∗N (−iχ∗+ ) tN ,
(5.18)
となる。反射過程は式の右から左へ読むことにする。2 次の過程は電子からホールへ反射された後、
∗
rN
で障壁にノーマル反射され今度はペアポテンシャル ∆− でホールから電子へ反射される過程を
含む。この際に −iχ− = −iei(φ+ϕ− ) だけの位相を拾う。しかしこのまま障壁を透過すると電子と
して常伝導体へ帰ることになるので、もう一度 rN で超伝導側へノーマル反射されて 1 次と同様の
反射過程を経た後、ホールとして常伝導体へ透過する。この過程の反射係数は
he
∗
r(2)
= t∗N (−iχ∗+ ) rN (−iχ− ) rN
(−iχ∗+ ) tN ,
(5.19)
である。全 Andreev 反射係数はこれらの過程を無限次まで足し合わせればいいことになる。この
等比級数の公比は
−|rN |2 ei(ϕ− −ϕ+ )
(5.20)
であるから、 Andreev 反射確率は
∞
∑
[
]m 2
|rhe |2 =|tN |4 (1 − |tN |2 )m −ei(ϕ− −ϕ+ ) ,
(5.21)
m=0
=
|tN |4
|1 + (1 − |tN |2 )ei(ϕ− −ϕ+ ) |2
(5.22)
となる。E = 0 のとき、超伝導体中に準粒子の伝播チャネルはないので |ree | + |rhe |2 = 1 が満た
され、これと式 (4.42) を用いると、NS 接合のコンダクタンスは式 (5.21) に 4e2 /h を乗じ、ky に
関する和をとったものに等しい。d 波 α = π/4 の場合のように ∆+ と ∆− の符号が異なる場合は
ei(ϕ− −ϕ+ ) = −1 であるから、 Andreev 反射率は障壁の透過率にまったく依らず 1 になりコンダク
タンスは
dI 2e2
2Nc ,
(5.23)
=
dV E=eV =0
h
である。一方 s 波の場合のようにペアポテンシャルが常に一定の値をとる場合は ei(ϕ− −ϕ+ ) = 1 で
あるから、式 (5.21) の右辺は交代級数で書き表され、コンダクタンスは
2|tN |4
dI 2e2 ∑
=
,
dV E=eV =0
h
(2 − |tN |2 )2
(5.24)
ky
≃
2e2 4Nc 1
h 15 z04
for z0 ≫ 1,
(5.25)
となる。従って障壁の透過率が低い場合には z0−4 に比例してコンダクタンスが小さくなる。この
考察から直ちに解ることは、準粒子の感じるペアポテンシャルの符号変化 (位相)が重要な役割を
果たし ZES が発生するということである。そして、ZES の発生条件は、
exp[i(ϕ− − ϕ+ )] = −1 あるいは ∆+ ∆− < 0.
(5.26)
と表すことが出来る。このとき E = 0 近傍では干渉効果によって出来た ZES を使って常伝導体
から超伝導体への共鳴トンネルが生じ、 Andreev 反射率 |rhe |2 が増大しノーマル反射率 |ree |2 が
抑制される事によりコンダクタンスにピークが現れる。
46
以上の議論は E = 0 以外のエネルギーにも拡張しても束縛状態が出来そうな説明になっている
√
2
2
が、E ̸= 0 のときは Andreev 反射の際の位相 e−i arctan( ∆ −E /E ) がつくことになり、コンダク
タンスのピークは抑制される。また、図 5.4 では、散乱過程をわかりやすくするために、Andreev
反射されたホールは入射電子とは実空間的に離れた軌跡で常伝導側に戻る図が描かれているが、実
際常伝導体中におけるホールは遡及性により入射電子と同じ軌跡をたどる事になる。同じ遡及性は
超伝導体側の準粒子にもいえる事である。この遡及性が準粒子の強めあう干渉を、即ち ZES の発
生を支えているのである。従って時間反転対称性を壊すような要因である外部磁場や s + id 波対
称性のペアポテンシャルが存在するとゼロバイアスピークは分裂することは自然に理解できよう。
反射過程の分解図は |rN |2 の展開になっており、これが小さいとき即ち障壁の透過率 |tN |2 が大
きいときに低次で展開を打ち切ってもそこそこ正しい結果が与えられる。しかし条件式 (5.26) が
成立するときは、透過率が低い場合でも展開の高次項が効いてきて ZES が発生することを示して
いる。従って高次項の寄与が小さくなるような要因、例えば不純物が超伝導体界面に存在すると、
準粒子は不純物に散乱され、ZES の発生が抑えられてしまうのである。この考察からも解ること
であるが、たとえ不純物ポテンシャルが小さくても透過率が低ければ、不純物散乱の効果は顕著に
なりコンダクタンスのゼロバイアスピークが分裂するという報告がある。実はこの報告以前にも接
合界面の乱れたポテンシャルによって ZES の発生が抑制されることは多くの理論的研究によって
知られていたが、ゼロバイアスピークが分裂を示す結果はなかった。最近オーバードープ領域にお
ける酸化物超伝導体のゼロバイアスピークが分裂することがいくつかの実験で示され、接合界面で
d 波対称性から s + id 波対称性への相転移が起きている証拠とされ大きな話題になっている。し
かし不純物散乱によってピークが分裂する可能性もあるために、この結論は早計かもしれない。
5.3
Josephson 電流の低温異常
2 つの d 波超伝導体を流れる Josephson 電流は Furusaki-Tsukada 公式 (4.52) を d 波超伝導体
に拡張された公式用いて計算出来る。
]
[
e ∑ ∑ ∆+ he ∆− eh
J=
T
r −
r
,
(5.27)
ℏ p
Ω+
Ω−
ω
n
図 5.5 にジョセフソン臨界電流の温度依存性を示す。真中に絶縁体をはさんだ場合ジョセフソン電
流は極低温を除いて J1 sin φ、という位相差依存性になり、図は |J1 | を J0 = π∆0 /2eRJ で規格化
したものである。RJ は接合の抵抗である。αL 、 αR は左右の高温超伝導体の a 軸と接合の法線
のなす角であり、この角度を変化させると極めて多彩な温度依存性を示すことが解る。まず (αL 、
αR ) = (0, 0) のときは低温で一定値に飽和している。これは s 波超伝導体のときと同じ振る舞いで
あり(図 4.7)、s 波の場合にはこの図で 1 に向かって飽和していく。(αL 、 αR ) = (π/4, π/4) の
ときには低温に向かって 1/T の関数系で急激に増加してする。詳細な計算によるとジョセフソン
電流は
J =e
∑
¯ N | sin(φ/2) tanh
∆|t
ky
)
(¯
∆|tN | cos(φ/2)
,
2T
(5.28)
¯ = 2∆(T )k̄ p̄、 でペアポテンシャルの温度依存性を BCS 理論で記述した。
と記述できる。ここで、∆
|tN |2 は障壁の透過率に対応し、これが小さい場合右辺は 1/T となることがわかる。そして極めて
低い温度 T ≪ ∆0 |tN | になってはじめて飽和する。ジョセフソン電流が絶対零度に向かって急激に
増大する現象は低温異常と呼ばれ、左右 2 つの接合面に発生した ZES を介した共鳴トンネル効果
によってもたらされる。d 波超伝導体の場合、ZES の発生は決して特別なものではなく、α がゼロ
47
S
I
αL
S
αR
図 5.5: 2 つの d 波超伝導体で絶縁体をはさんだ接合を流れる最大ジョセフソン電流。αL 、 αR は
左右の高温超伝導体の a 軸と接合の法線のなす角。
以外の値をとるときには必ず現れる極めて一般的な現象である。従って、(αL 、 αR ) = (π/8, π/8)
にしてもやはり低温異常は発生する。さらに興味深いのは (αL 、 αR ) = (π/8, −π/8) の場合で、
ジョセフソン電流は温度の降下に伴って非単調な振る舞いをする。電流が 0 になる温度で、0 接合
から π 接合へ移行すると表現できる。ZES の発生にはペアポテンシャルの符号が関わっているが、
ジョセフソン電流の流れの向きも符号の自由度が現れてくる。同様な結果は準古典グリーン関数を
用いた方法によっても導かれている。このジョセフソン電流の低温異常は実験的にも確かめられて
いる。
48
付録 1:縮退した準位に対する摂動の効果の考察
H =H0 + V,
(
)
ϵ + δϵ 0
H0 =
,
0
ϵ
(
)
0 −t
V =
.
−t 0
(5.29)
(5.30)
(5.31)
ここで H0 は非摂動の 2 準位の Hamiltonian で,V はそれら 2 準位間の遷移を表す摂動である.
H0 の固有ベクトルは
( )
1
for E = ϵ + δϵ,
(5.32)
0
( )
0
for E = ϵ,
(5.33)
1
であるが,摂動が加わると変更を受けこれらの線型結合が固有状態になる. δϵ ≫ t のとき固有値
を t/δϵ ≪ 1 の 2 次で,固有ベクトルを 1 次の範囲で書き下すと,
(
)
1
for E = ϵ + δϵ + t2 /δϵ,
−t/δϵ
(
)
t/δϵ
for E = ϵ − t2 /δϵ,
1
(5.34)
(5.35)
となる.2 準位間のエネルギー差は 2t2 /δϵ だけ広がるが,摂動後の固有ベクトルの向きは非摂動
のベクトルと大して変わりは無い.言い換えれば状態変化はあまり無いことになる.δϵ ≪ t のと
き,上と同様に固有値と固有ベクトルを δϵ/2t ≪ 1 の 1 次の範囲で書き下すと,
(
)
1
1 + δϵ/4t
√
for E = ϵ + t + δϵ/2,
2
−1 + δϵ/2t
(
)
1
1 − δϵ/4t
√
for E = ϵ − t + δϵ/2,
2
1 + δϵ/2t
(5.36)
(5.37)
となる.δϵ ≪ t は縮退があることを意味しており, 特に δϵ = 0 のとき元々ϵ に 2 重縮退していた
準位が,2t だけ分裂し, 摂動後の固有ベクトルは元の固有ベクトルから方向を変え 45 度傾いた方
向を向くことが解る.即ち縮退のあるときには状態(ベクトルの向き)が大きく変更を受ける.
49
付録 2:演算子の期待値
Hamiltonian が
H=
∑
(ϵν − µ)a†ν aν ,
(5.38)
ν
{aν , a†ν ′ }+ =aν a†ν ′ + a†ν ′ aν = δν,ν ′ ,
(5.39)
{aν , aν ′ }+ =aν aν ′ + aν ′ aν = 0,
(5.40)
(5.41)
と対角化されているときの,演算子 A の期待値は ⟨A⟩ と表記されるが,これには量子力学的な期
待値及び統計力学的な期待値の 2 重の意味がある.
まず,量子力学的な期待値をとるときに,真空を定義しなければならない.
aν |0⟩ = 0
(5.42)
aν は状態 ν にある粒子を消滅させる演算子だから,何も粒子の存在しない真空 |0⟩ から粒子を消
すことが出来ないのでこのように約束する.次に不正確なのは承知で a†νi aνj という演算子の期待
値が粒子数と関連することを見る.この演算子の真空での期待値は
⟨0|a†νi aνj |0⟩ = 0
(5.43)
と定義より直ちにゼロである. 真空に状態 ν に粒子を生成した状態を |ν⟩ = a†ν |o⟩ と書くことにす
る.この状態における量子力学的な期待値は
⟨ν|a†νi aνj |ν⟩ =⟨0|aν a†νi aνj a†ν |0⟩,
⟨ (
)(
) ⟩
= 0| δν,νi − a†νi aν δν,νj − a†ν aνj |0 ,
⟩
⟨
= 0|δν,νi δν,νj − a†νi aν δν,νj − a†ν aνj δν,νi + a†νi aν a†ν aνj |0 ,
=δν ′ ,νi δν,νj
(5.44)
(5.45)
(5.46)
(5.47)
ここで ⟨0|0⟩ = 1 を用いた.ν1 と ν2 が共に ν に等しいときにのみ 1 を与える. n̂ν = a†ν aν の期待
値は状態 ν に粒子がいなければ 0, 粒子がいれば 1 なので, 状態 ν を占める粒子数 nν を期待値に
もち, 数演算子と呼ぶ.
実際に量子力学的平均をとる状態は絶対零度では Fermi 面まで粒子が N 個詰まった状態
|F ⟩ = Πν:(ϵν ≤0) a†ν |0⟩
(5.48)
や,有限温度においていくつかの粒子が Fermi 面の下から上へ励起している状態である. そのうち
の 1 つを
|F̃ ⟩ = a†ν1 a†ν2 · · · a†νN |0⟩
50
(5.49)
と書くことにする.
a†νi aνj |F̃ ⟩
(5.50)
a†νi aνj |F̃ ⟩ = (−1)N a†νi a†ν1 a†ν2 · · · a†νN aνj |0⟩ = 0
(5.51)
|F̃ ⟩ = a†ν1 · · · a†νj · · · a†νN |0⟩
(5.52)
は |F̃ ⟩ の中に a†νj が含まれなければ
となりゼロを与える.
と a†νj を含んでいるならば,
a†νi aνj |F̃ ⟩ =a†νi (−1)j−1 a†ν1 · · · (1 − a†νj aνj ) · · · a†νN |0⟩,
=a†νi (−1)j−1 a†ν1
· · · a†νj−1 a†νj+1
· · · a†νN |0⟩.
(5.53)
(5.54)
ここでもし i ̸= j であれば,最後の状態は元の |F̃ ⟩ とは違う状態であるから,この式に左から ⟨F̃ |
をかけるとゼロになる. しかし i = j ならば,
a†νi aνi |F̃ ⟩ =a†ν1 · · · a†νi−1 a†νi a†νi+1 · · · a†νN |0⟩,
=F̃ ⟩
(5.55)
(5.56)
と元に戻り,
⟨F̃ |a†νi aνi |F̃ ⟩ = 1
(5.57)
となる.やはり a†νi aνi は状態 νi を占有する粒子数 nνi を期待値に持つ. 期待値 ⟨aνi aνj ⟩ や
⟨a†νi a†νj ⟩ はそもそも粒子数を変えてしまうので,量子力学的期待値がゼロになる.
次に統計力学的平均は以下のように考える.この Hamiltonian における統計力学の状態和は
[ ∑
]
Z =Tr e−( ν ϵν nν )/T ,
(5.58)
(
)
=Πν 1 + e−ϵν /T ,
(5.59)
と計算される.Tr はとりうる状態全ての和の意味で ν という状態は空であるか (nν = 0 第 1 項目),
1 粒子によってしめられるか (nν = 1 第 2 項目) の場合しか無いので,このように計算できる.
期待値 ⟨a†νi aνj ⟩ はこの量子力学的な期待値をとると,
⟨a†νi aνj ⟩
[ ∑
]
Tr e−( ν ϵν nν )/T nνi δνi ,νj
=
,
Z
[
(
)]
Πν̸=νi 1 + e−ϵν /T e−ϵν1 /T δνi ,νj
[ (
)]
=
,
Πν 1 + e−ϵν /T
e−ϵνi /T
δνi ,νj ,
1 + e−ϵνi /T
( ϵ )]
1
1[
νi
= ϵ /T
1 − tanh
δνi ,νj
δνi ,νj =
2
2T
e νi + 1
=
と粒子数の統計力学的期待値である Fermi 分布関数になる.
51
(5.60)
(5.61)
(5.62)
(5.63)
付録 3:Laundauer の公式
ここでは delta 関数型のポテンシャル障壁の透過係数と反射係数を求め,これらを用いてこの障
壁のコンダクタンスを計算する. 考察するのは 2 次元で Schrödinger 方程式
]
[ 2 2
ℏ ∇
− µF + V0 δ(x) ϕ(x, y) = Eϕ(x, y)
−
2m
(5.64)
で記述される系である(図 5.6).y 方向には周期境界条件を課す. ポテンシャルが無い場合この方程
式の解とエネルギーは
eipy
ϕ(x, y) =eikx √ ,
(5.65)
W
)
ℏ2 ( 2
Ek,p =
k + p2 ,
(5.66)
2m
2πn
p=
,
n = 0, ±1, ±2, . . . ,
(5.67)
W
このエネルギーを k の関数として書いたのが図 5.6 の下の図である.下から,n = 0,n = ±1... と
いう具合に y 方向のエネルギーだけずれた分散関係が描け,n で指定された 1 本の分散関係をサ
ブバンド,この分散全体をサブバンド構造という.サブバンドは散乱問題の言葉では伝導チャネル
とも呼ぶ.伝導チャネル には 2 種類あって,Fermi エネルギーにおける x 方向の波数 kp が実の
ものを伝播チャネル,複素数または純虚数のものを evanescent チャネルという.evanescent には
「消え行く」と言う意味があるが,対応する日本語としては「減衰する」という意味で使う.図では
n = 0, ±1, ±2, ±3, ±4 の 9 個が伝播チャネル, |n| ≥ 5 のチャネルが evanscent チャネル である.
左側の 常伝導領域から y 方向の波数 p を持つ電子が Fermi 面上から入射した場合,左右の波
動関数は一般に,
ipy
ip′ y
∑
ikp x e
−ikp ′ x e
′ ,p e
√
√
ϕL
(x,
y)
=e
+
r
,
(5.68)
p
p
W
W
p′
ϕR
p (x, y)
=
∑
t
p′ ,p
e
ikp ′ x e
ip′ y
√ ,
W
p′
(5.69)
と書ける.Fermi 面上の波数は (kp , p) で kp2 + p2 = kF2 = 2mµF /ℏ2 である.散乱体の形状によっ
ては,p とは異なる y 方向の波数 p′ へ散乱されることもあるのでこれらの線型結合で書いてある.
tp′ ,p , rp′ ,p は伝播チャネル p から p′ への透過係数及び反射係数であり,これらの係数を要素とす
る,行列 t̂, r̂ が定義できる.この行列の大きさは伝播チャネルの数である.ちなみに図では 9 で
ある. この波動関数の接続条件の第 1 は
R
ϕL
p (0, y) = ϕp (0, y)
√
′′
である.波動関数を代入して,両辺に e−ip y / W を乗じ y に関して積分すると,


∫ W
∫ W ∑
′
′′
i(p−p′′ )y
i(p′ −p′′ )y
∑
e
e
ei(p −p )y


dy
+
rp′ ,p
=
dy
tp′ ,p
.
W
W
W
0
0
′
′
p
p
52
(5.70)
(5.71)
y
W
x
x=0
Ek p
5
k
4
3
2
1
n=0
図 5.6: 2 次元の常伝導体-常伝導体接合.接合幅は W で,ポテンシャル障壁によって隔てられて
いる.
53
直交条件
∫
′′
W
0
ei(p−p
dy
W
)y
= δp,p′
(5.72)
を用い,p′′ を p に置き換える,
1 + rp,p = tp,p .
(5.73)
となる.第 2 の接続条件は,δ-関数型のポテンシャル障壁を考慮する際には少し注意が要るが,
Schrödinger 方程式を −γ < xγ の範囲で積分した後,極限 γ → 0 をとることによって得られる.
[
( 2
)
]
∫ γ
∫ γ
ℏ2
∂2
∂
lim
dx −
+ 2 − µF + V0 δ(x) ϕ(x, y) = lim
dx Eϕ(x, y),
(5.74)
γ→0 −γ
γ→0 −γ
2m ∂x2
∂y
右辺はゼロになり,左辺で残るのは x の微分の項と,δ-関数の項である.
[
]
∂
∂
ℏ2
−
+ V0 ϕ(0, y) = 0
ϕ(x, y)
ϕ(x, y)
−
2m ∂x
∂x
x=0+
x=0+
√
′′
波動関数を代入して,両辺に e−ip y / W を乗じ y に関して積分すると,
k̄ − k̄rp,p =(k̄ + 2iz0 )tp,p ,
mV0
,
ℏ2 kF
kp
k̄ = ,
kF
z0 =
(5.75)
(5.76)
(5.77)
(5.78)
k̄ は Fermi 波数で規格化した,x 方向の波数である.接続条件 (5.73), (5.76) から,透過係数と反
射係数は
k̄
,
k̄ + iz0
−iz0
=
,
k̄ + iz0
tp,p =
(5.79)
rp,p
(5.80)
と計算できる. これらは保存則,
|tp,p |2 + |rp,p |2 = 1,
(5.81)
を満たしている. 今は y 方向に関して並進対称性を壊さないポテンシャルを考えているので透過係
数や反射係数は p に関して対角的になっているが,一般には p から p′ へ散乱される係数が残る.
これらの係数を用いてコンダクタンスは
[ ]
2e2
Tr t̂ t̂† ,
h
2e2 ∑′
=
|tp′ ,p |2 ,
h
′
GN =
と表される,ここで
(5.82)
(5.83)
p,p
∑
p,p′
′
は伝播チャネル に関する和である. この公式は Landauer のコンダ
クタンス公式と呼ばれている. 散乱が全く起こらない場合は tp′ ,p = δp′ ,p であるから,コンダクタ
ンスは
GN
∫
2e2 ∑ 2e2 W kF
=
dp,
=
h p
h 2π −kF
2e2
Nc ,
h
W kF
Nc =
.
π
=
(5.84)
(5.85)
(5.86)
54
Nc は Fermi 面上における伝播チャネルの数を与える. 今考察している δ-関数型のポテンシャルの
ときには
2e2 ∑ k̄ 2
,
h p z02 + k̄ 2
)
(√

z02 +1−1
√
ln

z02 +1−1 
2e2
,
√
=
Nc 
1
+

h
2 z02 + 1 
GN =
となる.z0 ≫ 1 のときには
GN =
2e2 2
h 3z02
(5.87)
(5.88)
(5.89)
となる.
以上で考察したのは 2 次元の系であるが,当然 1 次元や 3 次元でも同様の議論が可能である.
Laudauer のコンダクタンス公式については,長岡洋介「局在・量子ホール効果・密度波」現代の
物理学 18 岩波書店,第 4 章を参照のこと. 55
参考文献
ここで挙げる参考文献は,読んだらいいだろうと思われる教科書を挙げるに留める.
超伝導の初等的な解説書
長岡洋介「低温・超伝導・高温超伝導」丸善パリティブックス.
中嶋貞雄「マクロ量子現象」講談社サイエンティフィック.
恒藤敏彦 「超伝導の探求」岩波書店.
以上は読み物であるが,どれも独特の味わいがある.
超伝導の一般的な教科書
中嶋貞雄「超伝導入門」培風館.
恒藤敏彦「超伝導・超流動」現代の物理学 17 岩波書店.
M. Tinkham, “ Introduction to Superconductivity ”2nd Ed. McGraw-Hill (1996).
J. R. Schrieffer, ”Theory of Superconductivity”, Addison-Wesley (1983).
P. G. de-Gennes, ”Superconductivity of Metals and Alloys”, Benjamin (1966).
A. A. Abrikosov, L. P. Gor’kov, I. E. Dzyloshinskii, 「統計物理学における場の量子論の方法」
東京図書.
A. A. Abrikosov, ”Fundamentals of the Theory of Metals” North-Holland (1988).
英文の教科書はいずれも歴史的なものである. 日本語の教科書も程度は高い.
Andreev 反射
古崎昭 「固体物理」28, 795 (1993).
高根美武,海老沢丕道 「固体物理」28, 721 (1993).
高柳英明「固体物理」34, 433 (1999);「現代物理最前線 3」共立出版;「パリティ」24, 14 (1999).
田仲由喜夫 「高温超伝導体の科学」裳華房 (1999)
浅野泰寛, 田仲由喜夫, 柏谷聡「固体物理」掲載予定,
Andreev 反射に焦点を絞った教科書は書かれていない.ここに挙げたのは専門家向けの解説で
ある.
56