この回の予稿

応用物理学特別演習
平成 27 年 10 月 6 日
数理物理工学研究室
池谷聡
Anomalous proximity effect and theoretical design for
its realization
S. Ikegaya1, Y. Asano1, 2, 3, and Y. Tanaka3, 4
1
Department of Applied Physics, Hokkaido University, Sapporo 060-8628, Japan
Center of Topological Science and Technology, Hokkaido University, Sapporo 060-8628, Japan
3
Moscow Institute of Physics and Technology, 141700 Dolgoprudny, Russia
4
Department of Applied Physics, Nagoya University, Nagoya 464-8603, Japan
2
Physical Review B 91, 174511(2015)
電気抵抗が消失している超伝導体と電気抵抗を持つ常伝導体の接合系における合成
抵抗が、単純に常伝導体の電気抵抗になる訳ではない。これは、金属中の電子状態が超
伝導体の存在を感じて、その性質を変えるためである。とりわけ異常な振る舞いを見せ
るのが、𝑝𝑥 波超伝導体と呼ばれる特殊な超伝導体と金属の接合系である[図 1 参照]。驚
くべきことに、このような接合系では、金属中に不純物擾乱が存在するにも関わらず、
完全伝導現象が起きるのである[1]。孤立した𝑝𝑥 波超伝導体の表面には Andreev 束縛状
態と呼ばれる「Fermi 準位直上に多重縮退した」特殊な状態が存在する。これまでの研
究で、金属との接合系において、Andreev 束縛状態が金属中にまで染み出す事が分かっ
ている[1,2]。そして、この接合系が示す異常な完全伝導現象は、Andreev 束縛状態が「そ
の高い縮退度を保ったまま」金属に侵入し、共鳴状態を形成するために起きる現象とし
て物理的に解釈されている。
量子力学によれば、量子状態の縮退は量子系の持つ対称性の帰結である。ところが、乱れ
た金属中で実現する「Andreev束縛状態の縮退」が「如何なる対称性に守られているのか」
という事は不明瞭なままであった。本論文は、完全伝導現象を理解する上で最も重要なこ
の問に答えを与えるものである。我々は𝑝𝑥 波超伝導体の持つカイラル対称性と呼ばれる特
殊な離散対称性を用いてAndreev束縛状態の縮退安定性を証明している。本講演では、こ
のカイラル対称性がどのような性質
をもった対称性であるのか、そしてカ
イラル対称性がどのようにして
Andreev束縛状態の縮退を守って
いるのかについて解説する。
図 1 : 金属/ 𝑝𝑥 波超伝導体接合系
[1] Y. Tanaka, S. Kashiwaya, and T. Yokoyama, Phys. Rev. B 71, 094513 (2005).
[2] Y. Asano, Y. Tanaka, and S. Kashiwaya, Phys. Rev. Lett. 96, 097007 (2006).