「タキロングループ 環境・CSR報告書2015」を読んで 造園家、 ランドスケープアーキテクト 東京都市大学 環境学部教授 涌井 雅之 氏 第三者意見 第三者意見 1945年、神奈川県生まれ。東京農業大学農学部造園学科出身。1972年、造園会社 「石勝エクステリア」設立。2005年「愛・地球博」会場の総合演出プロデューサー、 2010年「国連生物多様性の10年日本委員会」委員長代理を務める。現在、東京都 市大学環境学部教授のほか、岐阜県立森林文化アカデミー学長、中部大学客員教 授等、多くの要職に就き、TBSテレビ『サンデーモーニング』 、毎日放送『ちちんぷい ぷい』等のコメンテーターとしても出演、活躍している。 持続的未来は、世界の人々の願いであり、そのためには古代のギ り組むよりほかありません。 リシャ人がそう考えていたように、 「エコノミー(経済)」 と 「エコロ 「3つの矛盾」 とは、 自然の容量と無縁な人間の欲望、途上国と先進 ジー」が共存する関係をしっかりと構築しなければなりません。古代 国の格差とそれによる自然資源の無際限な売却や無管理、未来の世 ギリシャ語で「エコ」に相当する言葉は「オイコス」、つまり 「家」ある 代の取り分を復元力喪失の結果奪いかねない現実、を指します。 ま いは「共同体」 という意味であり、その「ロゴス(真理)」がエコロジー た、 「3つの方向」 とは、 自然共生・再生循環・低炭素という原則に基づ の語源となり、 「ノモス(秩序)」がエコノミーの語源となったことはよ く新たな社会の構築のための必須要素であると考えてください。 く知られています。ギリシャ人達は、地球の真理と人間の所業の秩序 とりわけ経済とエコロジーを不可分の関係に戻すためには、企業 ある姿が不可分の関係にあるとしっかり考えていたのでしょう。 の哲学と姿勢、加えて抽象的な概念だけでなく、具体的にそれを製 ところが産業革命を契機に、あのデカルトが「方法論序説」 で述べ 品商品に顕在化し、かつその製造や流通の過程そのものが先の3つ たように、人間と自然とを分離する 「二元論」に基づき、 「倫理を人間 の方向と矛盾しないことが大切です。 と自然との関係に適用すべきではない」 という考えが支配的となり こうした視点から 「タキロングループ環境・CSR報告書」を熟読さ ました。 せていただくと、そこに掲げられた「14の行動指針」全てにその3つ その結果、地球は成長しないにもかかわらず、ひたすら成長を希 の方向が統制されていることが理解できます。 とりわけ「環境対策グ 求する人間の欲望だけが、人口増とも相まって膨張し、ついに地球 ランドデザイン」に示されたISO14001を取得している 「環境管理活 の環境容量を上回る事態に立ち至ろうとしています。 このままでは 動」が隅々にまで行き渡り、ゼロエミッションにまでチャレンジしてい 確実に、地球が持つ可逆性が失われ、 自律的で自然的な復元力を失 るところに強い信頼感を持つことができます。 しかも開発・生産技 う結果を招いてしまいます。つまり元に戻らない地球となってしまう 術・製造・営業に当たる社員諸氏の現場での生の声にもそうした視 のです。 点がしっかり根付いていることからもその信頼感を強めることがで 今という時代、いや瞬間こそが、人類のみならず多様な生き物が きます。 創造した自然という偉大なシステムを維持する最後のチャンスであ 中でも国連生物多様性の10年委員会委員長代理の立場から、 「第 ると言えましょう。 3回いきものにぎわいコンテスト」でサンゴ植え付けの人工基盤 半径6,500㎞の地球の大きさに比べ、わずかに30㎞の厚みしかな コーラルネットが審査員特別賞を受賞されたことに心からの喜びを い生命圏。 その極めて薄い「膜」 ともいえる範囲の中で、生き物たちの 感じます。サンゴ礁が海中の生物のゆりかごでありながら、人為的気 命と多様な存在を支える物質とエネルギーが、生物自身の食物連鎖 候変動に原因した海水温の上昇や、無謀な開発により大きな損害を を通じて自律的に循環しているのです。 まさにそのシステムの完成度 被っている現実があるが故に、 こうした製品開発に当面の利益の有 は奇跡ともいえるものです。 と同時に、 そのわずかな空間こそが、 エコ 無を超えて取り組む姿は感動的でもあります。 ロジーの概念が働く範囲であることを忘れてはなりません。人間の欲 地球が健全であるが故に、健康な経済活動が担保され、それが故 望に対して、 地球は成長しないという意味はそこにあるのです。 に企業が発展する可能性があることを、 これからも信じて行動をし この現状に歯止めをかけ、持続的未来を確実なものとするために ていただきたいと念願し、同時にそうしたコンセプトの下に展開さ は、 「3つの矛盾」を直視し、 「3つの方向」を人類共通の課題として取 れる今後の企業活動に大いなる期待感を抱いています。 第三者意見を受けて 点が根付いているとのご評価には持続的未来を目指す企業として タキロン株式会社 取締役 兼 常務執行役員 (2014年度 CSR推進担当) 村田 光生 大変心強く励みとなりました。 ご指摘にありますグループでのゼロエミッション達成に向けまし ては、 目標を設定し全力で取り組んでまいります。 また生物多様性の ための活動も今回の受賞を糧に、継続した取り組みを推進していき ます。 貴重なご意見、 ご指摘をいただき誠にありがとうございました。 ま 2015年度から始まる新中期経営計画 「CC2017 & Beyond」 では、 創 た「地球環境保護」 を第一に掲げた経営理念をもとに定められた14 立100周年を迎える2019年度までを見据え、 次の100年も信頼できる の「行動指針」、 またグループの横断的活動方針として策定された 企業として存続し、社会に貢献するための基盤を創ろうとしていま 「環境対策グランドデザイン」 をベースとした自主的な環境負荷低減 す。企業メッセージ「今日を支える、明日を変える。 」 とともに、持続的 活動にご賛同いただけたことは、役員、従業員一同に大きな支えと 未来に向けて、地球環境保護と経済活動の健全な関係を保ちつつ、 なります。 次の100年も皆様のご期待に応えられる持続可能な企業を目指して また、開発から営業にいたる各プロセスの従業員の声にもその視 まいります。 22
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