シティグループ証券寄附講座「グローバル金融市場論」 コーポレートガバナンス の基礎理論 2015年6月25日 シティグループ証券株式会社 取締役副会長 藤田 勉, Ph.D シティグループ証券株式会社 東京都千代田区丸の内1丁目5番1号 新丸の内ビルディング 本資料はシティグループ証券が情報提供を目的として作成したものであり、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘を意図したものではありません。 コーポレートガバナンス理論 1. 信託の基本概念 中世(十字軍時代)の英国が発祥(ユース、土地信託の一種)。 2. 経営者支配論(Managerialism) 1932年、バーリー、ミーンズ。株主の分散(ロックフェラー、モルガンなどの財 閥) →経営監視の動機が低下。 3. 会社は「契約の束」 1972年、アルチャン、デムセツが「契約の束」 モデルを提唱。 4. エージェンシー理論 1976年、ジェンセン、メッケリングがエージェンシーコストの概念を提唱。 信託理論を汲むエージェンシー理論が、コーポレートガバナンス理論の中核 [1]。プリンシパルが、業務執行をエージェントに委任 [2]。取締役は、自己の 利益を追求せず、株主の利益を最大化すべき [3]。 [1 ] Stephen M. Bainbridge, Mergers and Acquisitions, University Textbook Series (2003), pp 30-36 [2] Jensen, Michael and William Meckling, “Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs, and Capital Structure”, Journal of Financial Economics (1976) [3 ] ]Frank H. Easterbrook, Daniel R. Fischel, The Economic Structure of Corporate Law, Harvard Univ Pr; Reprint, (1996), p. 92. 2 エージェンシーコストの定義 1. プリンシパル(株主)とエージェント(取締役)の利益相反 ジェンセン、メッケリング(1976年)[1] プリンシパルが、唯一の株主であり、かつ、唯一の経営者である場合、その 会社を自由に経営できる→エージェンシーコストはゼロ。 上場会社の場合、多くの株主が存在し、かつ、経営と所有が分離している→ エージェンシーコストの発生。 2. 支配株主と少数株主の利害相反 パンネッズィ、ブルカルト、シュライファー(2002年)[2] →EUの研究が発達 大陸欧州や日本では、特定株主の影響大(例:親子上場、オーナー経営)。 3. 株主・経営者とそれ以外のステークホルダーの利害相反 アーマー、ハンスマン、クラークマン(2009年)[3] 例:工場閉鎖、「株主・経営者」対「従業員・地域社会」 [1],William H. Meckling and , Michael C. Jensen,"Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure," Journal of Financial Economics, Vol. 3, No. 4, 1976. [2] Fausto Panunzi, Mike C. Burkart and Andrei Shleifer, “Family Firms”, FEEM Working Paper No. 74.2002. [3] John Armour, Henry Hansmann and Reinier H. Kraakman, “Agency Problems, Legal Strategies, and Enforcement”,Oxford Legal Studies Research Paper No. 21/2009 3 会社は誰のものか? 株主(残余請求権者) 1. 「会社は株主のもの」は、「株主のみがリスクを負う」が前提。 2. 会社は「契約の束」 (ステークホルダーと会社は個々に契約を締結。会社 はそれを束ねたもの) 。 3. 契約が完全に履行される限り、株主のみが残余請求権(最終的な利益と 清算時の残余財産を無制限に得る権利)を持つ。 株主以外(確定請求権者) 1. 株主以外の契約者は、リスクを負わない。 2. 債券などの他の資本提供者は、一定の利益(金利など)を保証。かつ清 算時に、会社の財産を優先的に受け取る権利がある。従業員の給料や 取引先の売掛金も同様。 ①株主はハイリスク・ハイリターンなので、会社の利益を極大化する動機が 大きい、②株主のみ議決権を持つ(会社法)→株主主権論の根拠 [1]。 [1]宍戸善一著『動機付けの仕組みとしての企業―インセンティブ・システムの法制度論』(有斐閣、2008年)172ページ参照、 Frank H. Easterbrook and Daniel R. Fischel, “The Economic Structure of Corporate Law”, Harvard Univ Pr; Reprint (1996) Clifford W. Smith and Michael C. Jensen, “Stockholder, Manager, and Creditor Interests: Applications of Agency Theory”, Harvard University Press, December 2000. 4 不完備契約理論とCSR理論 1. 不完備契約理論(1986年~1990年、グロスマン、ハート、ムーア)は、「株 主のみが残余請求権者」を否定 [1]。 2. 現実には、会社が完全契約を締結することは不可能。債権、従業員の報 酬や年金、買掛金などの返済は不確定。 例:JALの経営破綻に伴い、退職者の年金を減額。 3. 残余請求権者は、株主だけではなく、従業員や取引先や地域社会など多 くのステークホルダーを含む。 4. 契約が不完備であれば、「契約の束」モデルから導出された株主主権論 は成り立たない。 5. 会社法第105条1項:株主は、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産 の分配を受ける権利、③株主総会の議決権を有する。 → 法律上、「会社は株主のもの」ではない。 結論:会社は、株主を中心とする多くのステークホルダーのもの。 [1] S. J. Grossman and O.D. Hart,"The Costs and Benefits of Ownership: A Theory of Vertical and Lateral Integration". Journal of Political Economy 94(1986) pp. 691719. O.D. Hart and J. Moore,"Incomplete Contracts and Renegotiation" Econometrica 56(1988 ) pp. 755-785. O.D. Hart and J. Moore,"Property Rights and the Nature of the Firm", Journal of Political Economy 98(1990) pp.1119-1158. 5 本日のまとめ 1. コーポレートガバナンスとは何か? 株主を中心とするステークホルダーと、会社の運営を委任された経営者 (CEOを中心とする取締役会)との関係。 「いいコーポレートガバナンス」の定義とは、経営者が、株主を中心とするス テークホルダーの利益を最大化すべく会社を経営している状態。 「悪いコーポレートガバナンス」の定義は、経営者が、自らの利益を優先し たり、株主の利益を軽視して会社を経営している状態。 2. 株主の利益のみを追求することは正しいことか? 従業員や取引先を軽視する企業や社会と調和できない企業が、継続して大 きな利益をあげることはできない(=株主の利益の追求ができない)。 ただし、短期的には、これが該当しない場合がある。 結論:長期的に利益を成長させることが、企業の社会的責任。 6 本資料はシティグループ証券(当社)が作成したものであり、他の第三者に過去に提供された他の資料の抜粋を含む可能性があります。本資料は、 当社又はその関係会社が作成配布したリサーチレポートに言及している可能性がありますが、本資料は調査部門が作成したものでなく、本資料に 記載された情報は、適用される規制当局により定義された「アナリストレポート」及び「リサーチレポート」に該当することを意図しているものではあり ません。本資料に記載された情報は、一般的に入手可能な情報であり、信頼に足ると思われる情報源から入手したものですが、正確性及び完全性 を保証するものではありません。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の利用者の投資目的、財務状況、資力を考慮しておりません。本資 料は、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘ではありません。先物、オプション、高利回り証券を含む特定の取引又は取引戦略は、相当の リスクを内包しており全ての投資家に適したものではありません。直接、間接、派生的を問わず、本資料に記載された情報の使用により又は本資料 に起因する損失に対して、当社は一切の責任を負いません。当社は、税務及び法律の助言を行うものではありません。お客様におかれましては、ご 自身の税務及び法務アドバイザーより助言を受けた上で、ご自身の目的、経験、資力に基づく投資判断をなさるようお願いいたします。本資料に含 まれる資料、記述、情報は当社に帰属するものであり、著作権その他の知的財産に関する法律によって保護されます。いかなる目的においても他 者への転送、再配布を行うことはできません。 Copyright © Citigroup Global Markets Japan Inc. 2015. 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