マクドナルド社、ファストフード精神 マクドナルド社、ファストフード精神を

マクドナルド社、ファストフード精神を追求
マクドナルド社、ファストフード精神を追求する
を追求する
ニューヨークタイムズ オンライン版
年 3 月 7 日号
Stephanie Strom 著
2015
マクドナルドはアイデンティティ・クライシス(自己喪失)
状態にある。
何年もの間、マクドナルドは、その定番商品であるビッ
グマックやフライドポテトへの懐古を破壊すべく、新しい
商品-例えば、サラダや、エッグホワイト・デライト・マッ
クマフィン(全卵のではなく卵白のみの卵焼きを挟んだ
朝食マフィンメニュー、アメリカで販売)やリンゴのスライ
ス等―を発表することに傾倒してきた。マクドナルドの
コアな客は今でも安くて速いコーヒーやハッシュポテト
を求めてドライブスルーに列をなしているが、同社はま
た、Smashburger や Chipotle(アメリカのファストフー
ドチェーン、高品質な材料やメニューのカスタマイズを
売りにしている。) 等の新しく現われた競争相手へ移っ
ていった食にうるさい人々をも取り込もうと努めている。
マクドナルドは速さとオーダーメード性を両立できるのだろうか?また、安さと高品質は同時に実
現が可能なのだろうか?
Steve Easterbrook はそれを可能だと考えているようだ。Easterbrook 氏は 3 月 1 日付でマクドナ
ルド社の最高経営責任者の職務を引き継ぎ、ラスベガスでフランチャイジーらとサプライヤーらに
マクドナルドの新しいビジョンを示した。実際に使用された言葉を引用すると、「目的地」は、「カス
タマイズとオーダーメード」を本質とし、経営陣が「顧客が思うところの品質と価値を中心として、
我々の食の方向性を定める」、「現代的で革新的なバーガー・ブレックファストレストラン」としての
マクドナルドなのだそうだ。
3 月 3 日火曜日にミーティングが開始するまでに、同氏はマクドナルドの提供する食の方向性を定
めなおした。Easterbrook 氏の CEO としての最初の大きな行動は、2 年以内にマクドナルドのレス
トランで提供される全ての鶏肉を抗生物質不使用のものか、または少なくとも人間にも用いられる
抗生物質を不使用のものにすることを発表したことである。これは、最大級の鶏肉購買主である
マクドナルドにとっては大きな動きであり、また、人間の健康にとって深刻な脅威である、家畜の飼
育における抗生物質の過剰使用―そして結果、抗生物質に対して耐性を持つバクテリアが発生
する―を問題視している政府保健担当官を喜ばせるものであった。
47 歳のイギリス人である Easterbrook 氏は、そのキャリアのほとんどをヨーロッパで、またその大
部分をマクドナルド社で築いた。彼はイギリスの 1200 店舗の業績を改善したことで評価されたが、
その業績改善の方法はフライドポテトの塩分を減らしたり、オーガニック牛乳を加えたりすることで、
より健康志向の強い顧客へ訴求することであった。
アナリストの中には、新しいことへの取り組みをやめ、コアであるバーガー事業に集中すべきだと
促した者もいたが、Easterbrook 氏は今年、投資家達が参加するミーティングの場でその意見を
押しのけた。そのミーティングに参加したアナリストの一人は、「彼は成長回復のためには新しいこ
とに挑戦する必要があるという考えに明らかに固執しているように見えた。」と言っている。
Easterbrook 氏、彼はインタビューを拒否したのだが、アメリカでの挑戦を特に困難だと思うことに
なるかもしれない。彼の前任者は確実にそう思ったはずだ。マクドナルドは全世界で 36000 店以
上、アメリカ国内には約 14000 店を有する世界最大のレストランチェーンだが、その業績は急速
に落ち込んでいる。既存店売上高は 5 年連続で下落し続けており、昨年の業績はみじめなもので
あった。
バーガー、フライドポテト、そしてシェイクを販売するマクドナルド、この今や古いレストランが 1950 年代にカリフォルニアのダウニ
ーに登場した時には、より高級な商品を提供しているファストフードチェーンと競争しようとしていた。
かつて、マクドナルドはどんなアメリカ人もがたまに食事をする場所であった。しかし、ファストフー
ド市場は、他の経済と同様、持てる者と持たざる者に分離した。Smashburger や Chipotle の様な
高級カジュアルファストフードレストランは、クラシック・スマッシュ・バーガー(「手作りで」、「注文を
受けてから作る」)に 5 ドル 99 セントや、ステーキ・ブリトー(「オーガニックで、可能な限り周辺地域
で生産された材料を使用」)に 6 ドル 65 セントを払う顧客を集める。メニューはカロリーが高いかも
しれないが、高い品質という後光が差している。一方で、マクドナルドのコアな顧客は、いまだにち
ょっとした休憩を求めている。つまり、迅速に提供されるビッグマックを求めているのだ。事実、マ
クドナルドへ来る客の約 3 分の 2 はドライブスルーを利用している。
もし、Easterbrook 氏がより豊かで食への関心の高い顧客を取り込もうとしているのなら、マクドナ
ルドがこれまでにすでにそうしようとしてきた中でつまずいてきた全てのことについて承知している
ことだろう。マクドナルドを 1987 年から 2006 年まで率いた Mike Donahue 氏は、ビジネスに勢い
を取り戻し、悪いイメージを払しょくするために、新製品やより健康的なオプション、値下げ、値上
げ、店舗改築、透明性アップ等のめまいがするほど多くの一連の戦略を試みたが、大して効果は
なかったと指摘した。
マクドナルド社は、これまでになく大きな 嵐 に 直面 しており、同社の 関連 性は 試 されていると
Donahue 氏は言う。彼は知っているはずだ。彼は健康的なメニューや地元食材を扱うレストランチ
ェーンである Lyfe Kitchen の立ち上げに力を貸すため、マクドナルドを辞めた。
マクドナルドのライバル達は味とイメージにおいて勝っている。彼らに追いつくため、マクドナルド
はこれまで彼らの主な強みであった速さを犠牲にする必要があるかもしれない。そしてその速さに
おいてですら、マクドナルドはよくやっているとは言えない。
「ファストフードにおける 2 つのキーワードは速さ(ファスト)
と食(フード)であるが、マクドナルドはもはや速くない。そ
して彼らのバーガーは最近の消費者レポートによると、
ランキングが最下位だった。」というのはコンサルティング
企業、Arcature の最高経営責任者であり、マクドナルド
の元重役の Larry Light 氏だ。「それらが彼らの第一の課
題であり、また第二の課題なのだが、彼らがそれを知っ
ているのかどうかは分からない。」
3 月 1 日に最高経営責任者の座に就いた
Steve Easterbrook 氏は既にいくらかの変更を
行っている。
秒で測る成功
37 秒、それが客が離れて行ってしまうまでの時間だ。
年前、マクドナルドのドライブスルーを利用
すると、大体 2 分半で(もっと厳密に言うと 152
秒 ) で 注 文 の 品 が 出 て き た 。 Janney
Montgomery Scott による分析研究によると、
今日、同じ内容の注文にかかる時間は、平均
して 3 分強(もしくは 189.5 秒)だ。30 秒多くか
10
マクドナルドのチキンスナック・ラップコンボ
かる様になったことくらい大したことがないよう
に思えるが、これは、いずれも逃すわけにはい
かない顧客と収益が失われたことを示している
Richard Adams 氏がマクドナルドのフランチャイズ店を南カリフォルニアに数件所有していた頃、
彼は屋外に座ってペーパーワークをするのが好きだった。そうすることで彼は優れたビジネス洞察
力を得られ、この時間がいかに有意義だったか彼は言う。
「私のマジックナンバーは 13 だ。」と、今はコンサルティング会社を経営する Adams 氏は言う。「ド
ライブスルーに車が 13 台並んだ時点で、そのあとに来た車はくるりと向きを変えて走り去っていく。
人々が待つのをやめるポイントというものが存在するのだ。マクドナルドは長期に渡ってこの問題
を無視している。」
待ち時間が長くなった理由は、主にマクドナルドが、より多彩になるべく、そして高級なファストカジ
ュアルの世界に足を踏み入れるべく、努力した結果なのである。この問題が最も端的に具現され
た例がプレミアム・マックラップだ。
年、マクドナルドは鶏肉を使用したメニューを加え
た。鶏胸肉のスティック数本を歯ごたえのある生地で巻
いた商品は人気を博し、フランチャイズ店はその人気に
着いていくのに苦労した。その商品は 3 個入り、5 個入り、
10 個入りで販売されたのだが、単純に、十分な数を製造
することができなかったのだ。これを解決するため、複数
個のセットで販売されていたこのメニューは、鶏肉スティ
ック 1 本を使ったシンプルなスナックラップのばら売りに
Chipotle チキンブリトー
徐々に置き換えられていった。このメニューはランチソー
スがかけられ、トッピングに、それまでと同じ細かく裂か
れたチーズと、他の商品の調理に使われていたレタスが
一緒にトルティーヤで巻かれたものだ。
そのスナックラップは、メニューの種類がアメリカに比べてもともと限られていたヨーロッパのフラン
チャイズ店で大変な成功をおさめ、より高い値で販売できるグレードアップ商品が求められた。こう
してプレミアム・マックラップが生まれたのだ。
しかし、マクドナルドがアメリカへ逆輸入したその商品は失敗した。マクドナルドは、それまでに使
用したことがなかったキュウリの供給チェーンを整備するだけに 2 年も費やし、またそのラップは
組み立てるのが恐ろしく難しかった。フランチャイジーによると、バーガーを組み立てるのにかかる
時間が大体 10 秒であるのに対し、プレミアム・マックラップを組み立てるのにスタッフが要した時
間は平均で 60 秒だったという。
昨年の夏、マクドナルドはラップに関するこの課題を解決するために「集中調理台」を試験している
と発表した。大して売れ行きの良くない商品製造用の調理台を作るためにさらなる投資を行わなく
2002
てはならなかったため、これはフランチャイジー達の不満を一層募らせるだけだった。
「最近、Five Guys(バーガーレストランの名前:
食材は冷凍しない、オーダーを受けてから作り
始める、といったフレッシュな状態で商品を提
供することへこだわる店。)に行った人なら分か
ると思うが、問題は、客がハンバーガーを求め
ていないということではない。彼らが何をマクド
ナルドの何を待っているかと言えば、より良い
バーガーであって、ラップではない。」というの
は、退職合意によって、マクドナルドについて
Smashburger のクラシック・スマッシュ
公に話すと賠償金を請求されるという同社の元
幹部である。
(マクドナルドのキャラクターの)ロナルド・マクドナルドを生みだしたマクドナルドの元マーケティン
グ部門幹部の Barry Klein 氏も同意する。「ラップはなくなるだろう。Thompson 氏は全ての人が求
める全てのものになろうとし、ラインナップにより多くの商品を加えることで、ボリュームの維持がで
きると考えたのだろう。」と Klein 氏は Easterbrook 氏が交代した Don Thompson 氏について言
及した。「代わりに、作業は非常に複雑化し、待ち時間が延びた。そして人々は新商品を求めて運
転してくることはなかったのだ。」
Klein 氏はマクドナルドの最近の業績回復の試み―客が肉、トッピング、バンズをメニューから選
んで自分好みのカスタマイズバーガーを作ることのできる“Create Your Own(お好みのバーガー
を作ろう)”タブレット―を試す機会のあった数少ない消費者の一人だ。彼が受け取ったバーガーは、
例えて言うなら Elevation Burger(バーガーレストランの名前:オーガニックビーフのバーガーが売
り。ベジタリアンバーガーにも力を入れている。) の分厚い肉がはさまったバーガーにも引けを取
らない様なものだったという。
しかし、そのバーガーはビッグマックよりも 1.5 ドルほど高く、テーブルまで運ばれてくるのを待たな
ければならなかった。その新しいバーガーは店内のみで注文でき、なぜならそれは、通常のバー
ガーのようにパティが予め調理されておらず、注文を受けてから生の状態から焼くので調理に 7~
8 分 も要するためである。典型的なマクドナルドの客にとっては永遠のように長い時間である。
Klein 氏は言う。「3 分の 2 の売り上げがドライブスルーの様な業態で、これは解決策とは言えない
だろう。」
ハンバーガーが 1 つ 15 セントだった 1950 年代中ごろのマクドナルドレストラン
そして、フランチャイジー達はマクドナルドが高価格帯のバーガー、アンガス・デラックスを既に試
し、そして失敗したことを忘れていない。そのメニューは 4 年間販売された後、2013 年にメニュー
から外された。コンサルタントになった元フランチャイジーの Adams 氏によると、彼らは新たな“お
好みのバーガーカスタマイズメニュー”案には慎重になっているという。
Adams 氏は四半期ごとに三分の一フランチャイジーに対して調査を行っており、次のように言った。
「過去 3、4 年に渡り、彼らは最大の問題はメニューの複雑さだと言っている。経営陣はようやくメニ
ューの単純化について検討するようになった一方で、他方では、このお好みカスタマイズの案に基
づく全く新しいレストランシステムをレストラン内で展開開始している。」
お好みカスタマイズの準備に、フランチャイジーには一店舗につき約 10 万ドルの負担が発生する
と Adams 氏は言う。投資を行ったフランチャイジー達は、通常のバーガーに使われるレタスをちぎ
るのに加えて、自らの手でパルメザンチーズを削らなくてはならない。言うまでもないが、グリルオ
ニオンやハラ ペーニョ、アボカド、そしてその 他 30 種類もの材料を用意 しなくてはならない。
Janney Montgomery Scott の投資アナリストである Mark Kalinowski 氏は次のように言っている。
「マクドナルドは何十年にもわたって持ち続けてきた強みがたくさんある。だが、カスタマイズはそ
の中に含まれていない。」
(後半に続く)