シティグループ証券寄附講座「グローバル金融制度論」 コーポレートガバナンス 2016年6月24日 シティグループ証券株式会社 東京都千代田区丸の内1丁目5番1号 新丸の内ビルディング シティグループ証券株式会社 取締役副会長 藤田 勉, Ph.D +81-3-6270-4885 [email protected] 本資料はシティグループ証券が情報提供を目的として作成したものであり、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘を意図したものではありません。 0612 コーポレートガバナンス理論 1. 信託の基本概念 中世(十字軍時代)の英国が発祥(ユース、土地信託の一種)。 2. 経営者支配論(Managerialism) 1932年、バーリー、ミーンズ。株主の分散(ロックフェラー、モルガンなどの財 閥) →経営監視の動機が低下。 3. 会社は「契約の束」 1972年、アルチャン、デムセツが「契約の束」 モデルを提唱。 4. エージェンシー理論 1976年、ジェンセン、メッケリングがエージェンシーコストの概念を提唱。 信託理論を汲むエージェンシー理論が、コーポレートガバナンス理論の中核 。プリンシパルが、業務執行をエージェントに委任 。取締役は、自己の利 益を追求せず、株主の利益を最大化すべき 。 [1] [2] [3] [1 ] Stephen M. Bainbridge, Mergers and Acquisitions, University Textbook Series (2003), pp 30-36 2 [2] Jensen, Michael and William Meckling, “Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs, and Capital Structure”, Journal of Financial Economics (1976) [3 ] ]Frank H. Easterbrook, Daniel R. Fischel, The Economic Structure of Corporate Law, Harvard Univ Pr; Reprint, (1996), p. 92. エージェンシーコストの定義 1. プリンシパル(株主)とエージェント(取締役)の利益相反 ジェンセン、メッケリング(1976年) [1] プリンシパルが唯一の株主で唯一の経営者である場合、その会社を自由に 経営できる→エージェンシーコストは事実上ゼロ。 上場会社の場合、多くの株主が存在。経営と所有が分離→エージェンシーコ ストの発生。 2. 支配株主と少数株主の利害相反 パンネッズィ、ブルカルト、シュライファー(2002年) →EUの研究が発達 [2] 大陸欧州や日本では、特定株主の影響大(例:親子上場、オーナー経営)。 3. 株主・経営者とそれ以外のステークホルダーの利害相反 アーマー、ハンスマン、クラークマン(2009年) [3] 例:工場閉鎖、「株主・経営者」対「従業員・地域社会」 [1] Meckling, William H. and Jensen, Michael C.,"Theory of the Firm: Managerial Behavior, Agency Costs and Ownership Structure," Journal of Financial 3 Economics, Vol. 3, No. 4, 1976. [2] Panunzi, Fausto, Burkart, Mike C. and Shleifer, Andrei, “Family Firms”, FEEM Working Paper No. 74.2002. [3] Armour, John, Hansmann, Henry and Kraakman, Reinier H., “Agency Problems, Legal Strategies, and Enforcement”,Oxford Legal Studies Research Paper No. 21/2009 会社は誰のものか? 株主(残余請求権者) 1. 「会社は株主のもの」は、「株主のみがリスクを負う」が前提。 2. 会社は「契約の束」 (ステークホルダーと会社は個々に契約を締結。会社 はそれを束ねたもの) 。 3. 契約が完全に履行される限り、株主のみが残余請求権(最終的な利益と 清算時の残余財産を無制限に得る権利)を持つ。 株主以外(確定請求権者) 1. 株主以外の契約者は、リスクを負わない。 2. 債券などの資本提供者、従業員の給料、取引先の売掛金など→一定の 利益(金利など)が保証されている、清算時に会社の財産を優先的に受け 取る権利。 ①株主はハイリスク・ハイリターンなので、会社の利益を極大化する動機が 大きい、②株主のみ議決権を持つ(会社法)→株主主権論の根拠 。 [1] 4 [1]宍戸善一著『動機付けの仕組みとしての企業―インセンティブ・システムの法制度論』(有斐閣、2008年)172ページ参照、 Frank H. Easterbrook, Daniel R. Fischel, “The Economic Structure of Corporate Law”, Harvard Univ Pr; Reprint (1996) Smith, Clifford W. and Jensen, Michael C., “Stockholder, Manager, and Creditor Interests: Applications of Agency Theory”, Harvard University Press, December 2000. 不完備契約理論とCSR理論 1. 不完備契約理論:「株主のみが残余請求権者」を否定 。 [1] 2. 現実には、完全契約締結は不可能。 3. 債権、従業員の報酬や年金、買掛金などの返済は不確定。 例:JALの経営破綻に伴い、退職者の年金を減額。 3. 残余請求権者は、株主以外に、従業員や取引先など多くのステークホル ダーを含む。 4. 契約が不完備であれば、「契約の束」モデルから導出された株主主権論 は成り立たない。 5. 会社法第105条1項:株主は、①剰余金の配当を受ける権利、②残余財産 の分配を受ける権利、③株主総会の議決権を有する。 結論 会社は株主を中心とする多くのステークホルダーのもの。 [1] Grossman, S. J. and Hart, O. D., "The Costs and Benefits of Ownership: A Theory of Vertical and Lateral Integration". Journal of Political Economy 94(1986) pp. 691-719. Hart, O. and Moore, J., "Incomplete Contracts and Renegotiation" Econometrica 56(1988 ) pp. 755-785. Hart, O. and Moore, J., "Property Rights and the Nature of the Firm", Journal of Political Economy 98(1990) pp.1119-1158. 5 本日のまとめ 1. アベノミクスの成長戦略 コーポレートガバナンス改革を重視。独立性の高い社外取締役導入を促進。 2. 形式重視のガバナンス改革 コーポレートガバナンスコード、スチュワードシップコードの導入。 東証企業行動規範の「遵守すべき事項」:上場会社の独立役員(社外取締 役又は社外監査役)を1名以上の確保。 独立取締役導入で、日本企業のガバナンスは改善するのか? 3. 優れたガバナンスの定義 株主を中心とする全てのステークホルダーとのエージェンシーコストを最小 化する。 利益と株式時価総額の増加→株主を中心とする多くのステークホルダーの 満足度が高まる。 試験は、ガバナンスの基礎理論、法制度から幅広く出題する。 6 本資料はシティグループ証券(当社)が作成したものであり、他の第三者に過去に提供された他の資料の抜粋を含む可能性があります。本資料は、 当社又はその関係会社が作成配布したリサーチレポートに言及している可能性がありますが、本資料は調査部門が作成したものでなく、本資料に 記載された情報は、適用される規制当局により定義された「アナリストレポート」及び「リサーチレポート」に該当することを意図しているものではあり ません。本資料に記載された情報は、一般的に入手可能な情報であり、信頼に足ると思われる情報源から入手したものですが、正確性及び完全性 を保証するものではありません。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の利用者の投資目的、財務状況、資力を考慮しておりません。本資 料は、投資に関する助言又は金融商品の売買の勧誘ではありません。先物、オプション、高利回り証券を含む特定の取引又は取引戦略は、相当の リスクを内包しており全ての投資家に適したものではありません。直接、間接、派生的を問わず、本資料に記載された情報の使用により又は本資料 に起因する損失に対して、当社は一切の責任を負いません。当社は、税務及び法律の助言を行うものではありません。お客様におかれましては、ご 自身の税務及び法務アドバイザーより助言を受けた上で、ご自身の目的、経験、資力に基づく投資判断をなさるようお願いいたします。本資料に含 まれる資料、記述、情報は当社に帰属するものであり、著作権その他の知的財産に関する法律によって保護されます。いかなる目的においても他 者への転送、再配布を行うことはできません。 Copyright © Citigroup Global Markets Japan Inc. 2016. All Rights Reserved. シティ(Citi)及びシティと弧のマーク(Citi with Arc Design)は、シティグループ・インク及びその関係会社の商号及びサービス・マークであり、世界中で 使用及び登録されています。 7 この資料は、お客様に対してマーケット情報等を提供する目的で作成されたものであり、当社が行う金融商品取引業の内 容をご案内する目的で作成されたものでありませんが、金融商品取引業における販売資料として一般投資家のお客様に 交付させていただく場合、当社が行う広告等に該当しますので、広告等に関する以下の表示事項にご留意ください。 金融商品取引法第 37 条(広告等の規制)にかかる留意事項 上場有価証券の売買取引にあたっては、売買代金の他に売買代金にお客様と当社であらかじめ合意した料率を乗じ た売買手数料をいただきます。売買手数料の料率は、お客様と当社の間の合意により、都度又は定期的に決定され ますので、本書面上その料率等をあらかじめ記載することはできません。 上場有価証券を募集等により、または当社との相対取引により売買する場合は、原則売買対価のみを授受いただき ます。 上場有価証券は、発行者の信用状況の悪化等に伴う株価の変動により、損失が生じるおそれがあります。外国株式 は、為替相場の変動等により損失が生じるおそれがあります。 お取引にあたっては、契約締結前交付書面や目論見書またはお客様向け資料をよくお読み下さいますようお願いい たします。 商号等/シティグループ証券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 130 号 加入協会/日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人 第二種金融商品取引業協会 8
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