Iビーム鋳型に鋳造したAl-Mg-Si系合金の 鋳造割れおよび凝固組織

I ビーム鋳型に鋳造した Al-Mg-Si 系合金の鋳造割れおよび凝固組織
研究論文
39
Iビーム鋳型に鋳造した Al-Mg-Si 系合金の
鋳造割れおよび凝固組織
才 川 清 二* 前 田 裕 樹** 池 野 進***
太 田 宗 貴**** 折 井 晋****
Research Article
J. JFS, Vol. 87, No. 1(2015)pp. 039 ~ 045
Hot Tearing and Solidification Structures of
Al-Mg-Si Alloys Cast in I-beam Shaped Mold
Seiji Saikawa*, Yuki Maeda**, Susumu Ikeno***
Kazuki Ota**** and Shin Orii****
The behavior of hot-tearing and solidification structures in Al-2~6mass%Mg-0~3mass%Si alloys cast in I-beam shaped
mold was investigated by XRD, DSC measurements and OM, SEM-EDS observations. In the as-cast state of all alloys, solidification structures mainly consisted of primary crystallized α-Al and secondary crystallized eutectics, such as Al8Mg5,
Mg2Si, and Si phases. The shape of α-Al phase changed from celler to dendritic when Mg and Si contents increased. The
area fraction of the hot-tearing region decreased with increasing amount of crystallized eutectic phases with increasing Mg
and Si contents, due to the healing effects on cracks at the hot-tearing regions. The temperature range between the liqidus
and solidus phases and the cell size of the α-Al phase had more or less no influence on the hot-tearing.
Keywords : Al-Mg-Si alloy, casting, I-beam test, hot tearing, eutectic
しかしながら,本系合金には鋳造時に割れが生じ易いと
1.緒 言
6 ~ 8)
いう実製造上の大きな課題を残しているため
,自動車
アルミニウムに主溶質として 2 ~ 6mass%(以下 % と略
分野における部品適用は未だ極めて限定的となっている.
す)程度のマグネシウムを含有した Al-Mg 合金は古くか
そこで本研究においては Al-Mg-Si 系合金の主溶質である
ら実用合金として用いられており,例えば JIS の鋳造用規
Mg,Si を種々変化させることにより,鋳造時における割
格合金としては AC7A,ADC5 並びに ADC6 がこれに相当
れ性並びに凝固組織を検討した.
し,また,展伸用の規格合金としては 5052 などが知られ
1)
ている .これらの合金は鋳放しのままあるいは均質化処
2.実験方法
理を施すことにより,比較的高い延性と強度を兼ね備えて
調査した組成,合金名称並びに略記号を Table 1 にあ
おり,加えて実用アルミニウム合金の中で最も優れた耐食
わせて示す.調査した組成範囲は,実用の鋳造合金の主
性も有することから,例えば船舶用外板,部品及び輸送車
要組成を網羅する Mg 並びに Si 含有量とした.すなわち,
2)
両用の構造部品などに使用されている .さらに近年では,
ADC5,ADC6 並 び に magsimal-59 合 金
4)
の Mg 及 び Si 含
ダイカスト用合金として,Si を従来よりも多く含有した
有量を含む Al-2 ~ 6%Mg-0 ~ 3%Si 合金の 12 組成を調査対
非熱処理型合金が欧米で開発され,自動車のフレームや内
象とした.いずれの合金とも不可避不純分として Zn,Cu,
板材として適用されることにより,車体の軽量化が従来に
Sr,Ca,及び Na をごく微量含んでおり,ここに Mg の酸
3 ~ 5)
もましてより進展しつつある
.
化減耗を防止することを目的として Be を 0.0025% 添加し
受付日:平成 26 年 6 月 11 日,受理日:平成 26 年 10 月 2 日(Received on June 11, 2014; Accepted on October 2, 2014)
* 富山大学 University of Toyama
** 富山大学大学院理工学教育部(現;シロキ工業(株))
Graduate School of Science and Engineering for Education, University of Toyama(Present address; Shiroki Corporation,
Aichi)
*** 北陸職業能力開発大学校 Hokuriku Polytechnic College
**** (株)アーレスティ Ahresty Corporation
40
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 1 号
た.合金は純 Al,Al-10%Mg,Al-20%Si 及び Al-2.5%Be の
度とすることで,鋳造時の溶湯温度を過熱度一定とした.
インゴットを目標組成となるように秤量して鋳造に供した.
鋳造割れ性の評価には雄谷ら
Al-2 ~ 6%Mg 合金における液相及び固相線温度の断面状
造法を用いることとした.Fig. 2 に鋳型の模式図を示す.
態図を,DSC 測定結果及び P. Villars らの三元状態図
9)
を
10)
が考案した I ビーム鋳
I ビーム形状の凝固収縮部分である長手方向の長さが 70,
基に作成した.この結果を Fig. 1 に示す.ここで示される
95, 及 び 140mm の 3 種 類 の 鋳 型 を 使 用 し た( 以 下,70
各合金の液相線温度より 50℃高い温度をそれぞれの注湯温
mm 鋳型,95 mm 鋳型並びに 140mm 鋳型と略す).鋳型
Table 1 Chemical composition, mass%.
は幅 5mm,140mm 鋳型は幅 7mm,縦 25mm の断熱材を
の長手方向の中央部に 70mm 鋳型は幅 3mm,95mm 鋳型
接着し,最終凝固部が鋳物中央部となるようにした.この
化学組成.
部分で凝固途中で鋳物の収縮応力がその時の熱間強度を
Mg
Si
Fe
Mn
Al
Code
上回ると鋳造割れが発生する.
Al-2Mg
1.802.54
0.43
0.08
<0.01
bal.
2Mg
秤量した材料を 700℃の電気炉で溶解し保持後,溶湯中
Al-2Mg-1Si
1.92
0.86
0.08
<0.01
bal.
2Mg-1Si
Al-2Mg-2Si
2.02
1.66
0.08
<0.01
bal.
2Mg-2Si
Al-2Mg-3Si
1.951.97
2.873.22
0.12
<0.01
bal.
2Mg-3Si
Al-4Mg
3.764.28
0.50
0.11
0.01
bal.
4Mg
Al-4Mg-1Si
3.80
0.95
0.11
<0.01
bal.
4Mg-1Si
Al-4Mg-2Si
4.12
2.14
0.11
<0.01
bal.
4Mg-2Si
Al-4Mg-3Si
4.28
3.47
0.11
<0.01
bal.
4Mg-3Si
Al-6Mg
6.126.13
0.07
0.15
0.01
bal.
6Mg
Al-6Mg-1Si
60.8
0.81
0.15
<0.01
bal.
6Mg-1Si
Al-6Mg-2Si
5.99
1.95
0.15
<0.01
bal.
6Mg-2Si
Al-6Mg-3Si
5.966.76
2.342.79
0.16
0.02
bal.
6Mg-3Si
へ黒鉛パイプを挿入してアルゴンガスによるバブリング
を約 120 ~ 180s 行い脱ガスした.約 15 分間の鎮静後,各
30
55
55mm
cavity
(depth:25mm)
Temperature, ℃
(a)
(b)
Liquidus
650
L
Fig. 2 Schematic drawing of “I-beam” tested mold. L is
distance between flanges, 70, 95, and 140mm were chosen.
I-ビーム試験鋳型の模式図.Lはフランジ間の距離であり,
70, 95 並びに140mmが選択される.
(b)
(a)
Zn,Cu and Ti:0.01>, Sr:0.0001, Ca:0.0007>,
Na:0.0004~0.0007, Be:0.0016~0.0047
700
insulator
35 20
15
Alloy
(c)
Liquidus
Liquidus
50μm
(c)
600
Solidus
Solidus
550
Solidus
500
0
1
2
3
0
1
2
3
0
1
2
3
Si, mass%
Fig. 1 Cross-section diagrams of(a)Al-2%Mg-0~3%Si,
(b)Al-4%Mg-0~3%Si, and(c)Al-6%Mg-0~3%Si alloys.
● means results of DSC in this study and symbols ■
means derived from ref. 9.
(a)Al-2%Mg-0 ~ 3%Si,(b)Al-4%Mg-0 ~ 3%Si 及び(c)
Al-6%Mg-0 ~ 3%Si 合金の各断面状態図.●印は本研究
8)
でのDSCによる測定結果であり,■は参考文献
引用である.
からの
5mm
50μm
Fig. 3 Observation results of I-beam castings.
(a)Appearance of fractured surface.
(b)Hot-tearing region observed by SEM-SEI in(a).
(c)Non-torn region observed by SEM-SEI in(a).
I-ビーム鋳物の観察結果.
(a)破面の外観.
(b)
(a)においてSEM-SEIにより観察した鋳造割れ.
(c)
(a)においてSEM-SEIにより観察した非鋳造割れ.
I ビーム鋳型に鋳造した Al-Mg-Si 系合金の鋳造割れおよび凝固組織
合金毎に液相線温度より 50±5℃高い過熱度を注湯温度と
(a)
して I ビーム鋳型に鋳造した.鋳型温度はいずれの注湯温
6
度においても 200±5℃にて鋳造を行った.
4
鋳造した I ビーム鋳物の評価は 2 通りの方法で行った.
1 つは雄谷らの方法
10)
と同様に目視による割れの有無の確
認である.もう 1 つは鋳造割れ面積率の測定による評価
2
11)
Al
とした.すなわち,I ビーム鋳物の割れ破面は Fig. 3 に示
すように多くの場合,凝固途中の鋳造割れと凝固後に生じ
の面積を 100% とした場合,鋳造割れによる破面の面積率
6
の割合を鋳造割れ面積率と定義し求めた.これら破面の観
4
察は SEM の二次電子像観察により行った.
2
晶出組織の同定は SEM-EDS による元素分析及び XRD
による結晶構造解析により行った.XRD の測定は Cu-Kα
Al
1
線を用い,40kV,40mA の条件で測定した.SEM-EDS は
加速電圧 15kV の条件で実施した.
6
3. 1 鋳造割れ性に及ぼす初晶 α-Al 相の影響
4
拘束長さ 70mm,95mm 及び 140mm における各合金鋳
2
物の Si,Mg 含有量別の鋳造割れ発生の有無を Fig. 4 に
Al
示す.Fig. 4(a)に示した拘束長さ 70mm の場合,各合金
1
鋳物において割れは発生しなかった.Fig. 4(b)に示した
割れが発生した.Fig. 4(c)に示した拘束長さが最も長い
140mm の場合は,その長さと共に収縮応力も最も高まっ
たため,全ての合金鋳物で割れが発生したと考えられた.
Fig. 5 に拘束長さ 140mm における各合金鋳物の鋳造割
れ面積率を示す.最も低溶質である 2Mg 及び 2Mg-1Si 合
2
3
Si, mass%
(c)
3.結果及び考察
Al-2 ~ 4%Mg-0 ~ 2%Si の低溶質の合金鋳物において主に
3
2
Si, mass%
1
(b)
た熱間割れの 2 種類が混在した状態である.この破面全体
拘束長さ 95mm の場合は,収縮応力が高まることにより,
41
2
3
Si, mass%
Fig. 4 Hot tearing tendencies of Al-Mg-Si ternary
alloys. Length between flanges are(a)70,(b)95 and
(c)140 mm. ● and ▲ show non-torn and completelytorn regions, respectively.
Al-Mg-Si 三元合金の鋳造割れ傾向.フランジ間の長さは
(a)70,(b)95 及び(c)140mm.●及び▲印は,それぞ
れ鋳造割れ無しと完全な鋳造割れを示す.
金では鋳造割れ面積率が 100% の完全破断であり最も割
れやすかった.溶質濃度が高まるにつれて鋳造割れ面積
率が減少する傾向を示し,とくに 4Mg-3Si,6Mg-2Si 及び
6Mg-3Si 合金においては鋳造割れ面積率が 70 ~ 75% の最
6
も低い値を示した.
Fig. 6 に拘束長さ 140mm における各合金鋳物の割れ破
面近傍のミクロ組織を示す.溶質 Si 及び Mg 濃度の低い
2Mg 並びに 4Mg 合金の場合,白色で示される初晶 α-Al 相
の晶出形状はセル状であった.溶質濃度の増加に伴い初晶
α-Al 相の形状が変化しており,2Mg-1Si,2Mg-2Si,2Mg3Si,4Mg-1Si,4Mg-2Si 及び 6Mg の 6 合金においては,初
晶 α-Al 相が幾分伸長したいわゆるセルラーデンドライト
へと形状変化した.これらに比べてさらに溶質濃度の高い
6Mg-1Si,6Mg-2Si,6Mg-3Si 及び 4Mg-3Si の 4 合金におい
ては,初晶 α-Al 相のセル間隙に共晶相が比較的多く晶出
した,いわゆるデンドライト状へと形状変化したことが示
4
2
Al
98
99
100
1
91
92
100
70
92
98
2
Si, mass%
75
74
88
3
Fig. 5 Area fraction of hot-tearing region on fractured
surface in Al-Mg-Si I-beam castings(L=140mm).
Al-Mg-Si 系Iビーム鋳物(L=140mm)の破面上の鋳造割
れ面積率.
された.前述 Fig. 5 の 4Mg-3Si,6Mg-2Si 及び 6Mg-3Si の
3 合金において鋳造割れ面積率が最小となった一因として
一般に亜共晶型アルミニウム合金においては,例えば
以上のような α-Al デンドライト形状と共晶相の組織変化
Al-Si 系合金並びに Al-Cu 系合金等における鋳造割れ性の
が考えられた.
検討が以前よりなされている.すなわち,溶質濃度の増加
42
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 1 号
Fig. 7 には各合金鋳物における初晶 α-Al 相のセルサイズ
や微細化元素の添加に伴う初晶 α-Al 相の形状変化等に加
えて,凝固途中の固液共存領域における α-Al 相のデンド
を測定した結果並びに 2Mg-2Si 及び 6Mg-2Si 合金鋳物の鋳
ライトネットワーク形成時期とこれらを構成する結晶の
造割れ破面をそれぞれ示す.Mg 含有量が 2%,4% 並びに
1, 10, 12)
大きさが鋳造割れ性に大きく影響するとされる
.本
研究においては α 単相領域の比較的大きい Al-Mg 合金で
6%Mg であり,これらに Si を無添加及び 1 ~ 3% 添加した
場合,Si 添加によるセルサイズの変化は明瞭に認められな
かった.一方,Mg 含有量が 2% から 4% ~ 6% へ増加する
あったこともあり,とくに低溶質側の結晶粒径は測定困難
であった.そこで比較的測定が容易であった初晶 α-Al 相
ことによりいずれの Si 含有量においてもセルサイズは小さ
のセル幅を測定し,検討することとした.
くなる傾向を示し,約 24μm から約 20μm へと減少した.こ
のことは図の上部に示した 2Mg-2Si 並びに 6Mg-2Si 合金鋳
6Mg-1Si
6Mg
物の鋳造割れ破面の SEM による二次電子像からも推察され
6Mg-3Si
6Mg-2Si
る.しかしながら,前述したように割れ面積率が 70 ~ 75%
であり最も割れが減少した 4Mg-3Si,6Mg-2Si 及び 6Mg-3Si
合金鋳物のセルサイズが,割れ面積率が 98 ~ 99% と大きい
4Mg 並びに 6Mg とほぼ同じ値であることから,鋳造割れ性
4Mg
4Mg-1Si
4Mg-2Si
4Mg-3Si
へのセルサイズの影響はほとんどないと考えられた.
3. 2 鋳造割れ性に及ぼす共晶相の影響
前述の 3. 1 項で述べたように固液共存領域で発生する鋳
造割れにおいては,構成相である初晶 α-Al 相に加え,凝
2Mg
固末期の共晶相の晶出が大きく影響する
2Mg-3Si
2Mg-2Si
2Mg-1Si
1, 10)
.そこで本項
では共晶の影響について検討することとした.
Fig. 8 には 6Mg,6Mg-3Si,2Mg 及び 2Mg-3Si 合金鋳物
の二次電子像と EDS による点分析結果をそれぞれ示す.
40μm
Fig. 6 Optical micrographs of central portion between
flanges of I-beam castings(L=140mm).
Iビーム鋳物(L=140mm)のフランジ間の中央部におけ
る光学顕微鏡組織.
2Mg-2Si
α-Al cell size, μm
2Mg
4Mg
6Mg
30
点分析結果 1 及び 5 において測定された Mg 量の値が母相
6Mg
6Mg-3Si
1
6Mg-2Si
50μm
40
先ず Si を含有しない 6Mg 及び 2Mg の両合金とも非平衡
晶出したと思われる α-Al 相の間隙及び粒界上の共晶相は,
2Mg
4
3
2
2Mg-3Si
5
7
8
2Mg-2Si
9
6
20
20μm
6Mg-2Si
Results of EDS ,at%
10
-1
0
1
2
3
4
Si, mass%
Fig. 7 Change in α-Al cell size with Mg and Si contents
in Al-Mg-Si I-beam castings.
Al-Mg-Si 系Iビーム鋳物におけるMg, Si 含有量に伴うα-Al
セルサイズの変化.
portion
1
2
3
4
5
Mg
5.6
3.2
8.9
2.5
2.5
Al
94.4
96.8
87.7
96.5
97.5
Si
0.0
0.0
3.4
1.1
0.0
portion
6
7
8
9
Mg
1.3
1.4
25.5
1.0
Al
98.7
72.2
59.2
97.9
Si
0.0
26.6
15.3
1.1
Fig. 8 SEM-EDS analysis results of crystallized phases
in as-cast I-beam castings.
鋳放ししたIビーム鋳物における晶出のSEM-EDS分析結果.
I ビーム鋳型に鋳造した Al-Mg-Si 系合金の鋳造割れおよび凝固組織
Intensity
100 CPS
○-Al, □-Al₈Mg₅, ▲-Mg2Si, ▽-Si
○
○
43
-Mg2Si,
○ □
○
○
○
-Al8Mg5,
-Si
Mg2Si
6
2Mg
2Mg-3Si
○ ○
▲
▽
○
○▲ ○
○
30
40
50
2
▲
▽
6Mg-3Si
4
○
Al
▲
60
▲
▲
70
1
80
2 θ, Degree
2
Si, mass%
3
Fig. 10 Crystallized phase diagram in Al-Mg-Si ternary
alloys cast by I-beam mold.
Iビーム鋳型で鋳造した Al-Mg-Si 系三元合金の晶出相状
Fig. 9 X-ray diffraction patterns of as-cast I-beam
castings.
態図.
鋳放しした I ビーム鋳物の X 線回折結果.
れた.第 1 のグループは 2Mg,4Mg 及び 6Mg に代表され
の 2 及び 6 の値よりも高いことから,これらの相は Al-Mg
る Al8Mg5 相のみが共晶晶出した場合,第 2 のグループは
系であると推定された.2Mg-3Si においては母相の点分析
2Mg-2Si,2Mg-3Si 及び 4Mg-3Si に代表される Mg2Si 相と
結果 9 に比べて,晶出相を点分析した 7 及び 8 の結果が異
Si 相が晶出した場合,並びに第 3 のグループは 2Mg-1Si,
なっており,点分析 7 においては Si 量が 26.6at% と非常
4Mg-1Si,4Mg-2Si,6Mg-1Si,6Mg-2Si 及 び 6Mg-3Si の 6
に高く,点分析 8 においては Mg 量が 25.5at% と最も高い
合金に代表される Mg2Si 相のみが共晶として晶出した場
値を示すとともに Si 量も 15.3at% と比較的高い値が測定
合である.ここで第 3 のグループの合金群が Mg2Si 相の
された.このことから点分析 7 で示される晶出相は Al-Si
みを晶出したことは,Fig. 10 の図中に破線で示した Al-
系並びに点分析 8 で示される晶出相は Al-Mg-Si 系の共晶
Mg2Si の擬二元共晶の平衡濃度にそれら合金の組成が近い
相である可能性が高いと判断された.6Mg-3Si においては
ことによる.前述の Fig. 5 鋳造割れ面積率の結果と Fig. 10
母相の点分析結果 4 に比べて,晶出相を点分析した 3 では
の晶出相同定結果を比較すると晶出相の種類と割れ面積
Mg 及び Si が 8.9at% 及び 3.4at% と比較的高い値が測定さ
率には明瞭な相関が認められないことが明らかであった.
れた.このことから点分析 3 で示される晶出相は Al-Mg-
Fig. 11 には鋳造割れ面積率と前述 Fig. 1 の結果から求
Si 系の共晶相である思われた.
めた固液共存領域の温度幅の関係を示す.図中には最も割
Fig. 9 には,Fig. 8 で示した中の 3 合金,すなわち 2Mg,2Mg3Si 及び 6Mg-3Si 合金鋳物を XRD で測定した結果を示す.
えて,Al8Mg5 と思われる回折ピークが確認された.この
ことから前述の Fig. 8 の結果を併せて考えると,2Mg 及
び溶質濃度の高い 6Mg の 2 合金における晶出相は Al8Mg5
であると同定された.これと同様にして,2Mg-3Si 合金の
測定結果から Mg2Si 相及び Si と同定される回折ピークが
測定されたことから,前述 Fig. 8 の SEM-EDS において Si
が高く検出された点分析 7 の晶出相は Si 相であり,Si 及
び Mg が高く検出された点分析 8 の晶出相は Mg2Si 相であ
るとそれぞれ同定された.6Mg-3Si 合金の場合,母相以外
110
Area fraction of Hot-tearing
region on fractured surface, %
Si を含有しない 2Mg では母相である Al の回折ピークに加
100
90
80
70
60
6Mg-3Si
6Mg-2Si
4Mg-3Si
50
-5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80
Range between solidus and liquidus temp, ℃
には Mg2Si 相の回折ピークが測定されたことから,前述の
Fig. 8 において Mg 及び Si が高く検出された点分析 3 の晶
出相は Mg2Si 相と同定された.
以上のような解析を全ての合金に対して実施し,Al-MgSi の三元組成図上にまとめた結果を Fig. 10 に示す.今
回検討した組成範囲,すなわち全 12 合金においては初
晶 α-Al 相の晶出後,3 つに大別される晶出状態が確認さ
Fig. 11 Effect of range between solidus and liquidus
temperatures on area-fraction of hot tearing region in
Al-Mg-Si I-beam castings. The value of the horizontal
axis was calculated from Fig. 1.
Al-Mg-Si 系Iビーム鋳物の鋳造割れ面積率に及ぼす固相
と液相の温度幅の影響.横軸の値はFig. 1より算出した
ことに注意されたい.
44
鋳 造 工 学 第 87 巻(2015)第 1 号
れ難かった 4Mg-3Si,6Mg-2Si 及び 6Mg-3Si の 3 合金のプ
が多い合金であることが明らかとなった.Al-Cu 並びに Al-
ロットの位置も示した.鋳造割れ面積率が約 75% と低い
Si 合金において共晶晶出量が比較的多くなると,凝固末
ことから,本研究の中でも最も鋳造割れが生じ難いと言え
期における割れの発生初期においてこれらの共晶成分で
る 6Mg-3Si 合金は,固液共存領域の温度幅が約 13℃と最
あった残存融液が初期の割れ発生部に流れ込み,癒着させ
も狭い.しかしながら,6Mg-3Si 合金と同様に鋳造割れ面
ることで割れを低減するという現象が報告されている .
積率が約 71 ~ 74% と低い 6Mg-2Si 及び 4Mg-3Si 合金にお
本研究の Al-Mg-Si 系合金の中でも,とくに Al-Mg2Si の擬
いては,固液共存領域の温度幅が約 23℃と約 54℃が測定
二元共晶組成に近く,かつ溶質 Mg 並びに Si 含有量が高
され,温度幅が比較的広いことが測定された.さらには,
い 4Mg-3Si,6Mg-2Si 及び 6Mg-3Si 合金において,とくに
10)
これら以外の合金も含めて全体的な分布を観ると,今回検
鋳造割れが低減したことは,以上のことにより主に説明さ
討した 12 合金においては固液共存領域の幅と割れ性には
れると考える.
明瞭な相関がないことが明らかとなった.一般に亜共晶型
の Al 合金の鋳造割れ性には,固液共存領域内における準
固相領域の存在の有無とその温度幅が強く影響するとい
う報告がある
1, 7)
.すなわち,デンドライトの成長が途中
4.結 言
Al-2 ~ 6%Mg-0 ~ 3%Si 合金において,I ビーム鋳造法を
用いて Si 及び Mg の含有量の変化に伴う鋳造割れ性を検
まで進みかつその間隙に残存融液が存在する領域である
討した.
為,これが凝固末期に存在した場合,母相強度が極めて低
1) 合金の溶質濃度が高まるにつれて鋳造割れ面積率
い状態で凝固時の収縮応力が加わる事となり,鋳造割れが
は減少する傾向を示し,とくに 4Mg-3Si,6Mg-2Si 及
容易に生じ易くなる現象であり,例えば Al-Si 系合金の亜
び 6Mg-3Si 合金においては鋳造割れ面積率が 70 ~
共晶領域付近の鋳造割れ性の変化がこのメカニズムによ
75% の低値を示し最も割れ難い組成であることが示
り過去に説明されている.本研究の Al-Mg-Si 系合金にお
された.
いても,Al-Si 系と同様なメカニズムにより鋳造割れが影
2) 初晶 α-Al 相の晶出形状は,溶質濃度の増加に伴い
響されている可能性があるとも考えており,今後検討して
変化し,最も低溶質の 2Mg 及び 4Mg 合金がセル状で
行く予定である.
あるのに対して,2Mg-1Si,2Mg-2Si,2Mg-3Si,4Mg-
Fig. 12 には鋳造割れ面積率と各合金において晶出した
1Si,4Mg-2Si 及び 6Mg の 6 合金においては,セルラー
共晶相の面積率の関係を示す.この関係においては比較
デンドライト形状へ変化した.さらに溶質濃度の高
的明瞭な傾向が示されており,共晶面積率が約 10% 以下
と低くその晶出量が少ない場合,鋳造割れ面積率はほぼ
い 6Mg-2Si,6Mg-3Si 及び 4Mg-3Si の 3 合金は,初晶
α-Al 相がさらに伸長し晶出した,いわゆるデンドラ
100% であり非常に割れ易い.これに対して共晶面積率が
イト状へと形状変化し,このことが鋳造割れ面積率が
約 10% から約 20% 強へと増加すると鋳造割れ面積率は約
70 ~ 75% 付近まで減少し,その後,共晶面積率の増加に
最小となった一因と思われた.
3) 今回検討した合金の組成範囲において,共晶相は
伴い漸近した.最も割れの少なかった 4Mg-3Si,6Mg-2Si
3 種類に大別され,α-Al 相に加えて Al8Mg5 相のみ,
及び 6Mg-3Si の 3 合金はいずれもそのような共晶の晶出量
Mg2Si 相のみ,並びに Mg2Si 相と Si 相の共存の場合
Area fraction of Hot-tearing
region on fractured surface, %
がそれぞれ存在した.これらの種類の違いが鋳造割れ
110
性へ及ぼす影響は少ないと思われた.
4) 各合金の初晶 α-Al 相のセルサイズ並びに固液共存
100
領域の温度幅の差異は,これら合金の鋳造割れ性変化
と明瞭な相関を持たないことが明らかとなった.
90
5) 鋳造割れ面積率と各合金において晶出した共晶相
80
の晶出面積率には比較的明瞭な相関が認められ,この
70
4Mg-3Si
6Mg-2Si
60
6Mg-3Si
ことが鋳造割れ性に強く影響していると考えられた.
おわりに,合金の化学組成分析を行っていただいた株式
50
-5
0
5
10 15 20 25 30 35 40 45 50
Area fraction of crystallized eutectic phase, %
Fig. 12 Effect of area-fraction of crystallized eutectic
phase on area-fraction of hot tearing region in Al-Mg-Si
I-beam castings.
Al-Mg-Si 系 Iビーム鋳物の鋳造割れ面積率に及ぼす共晶
晶出相の面積率の影響.
会社アーレスティの熊谷工場の皆様に感謝申し上げます.
また,本研究の一部に協力いただいた富山大学工学部素
形制御工学研究室 ・ 学生の青島剛士君,池谷拓哉君に感謝
します.
参考文献
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技術」:(2001)
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12)才川清二,中井清之,杉浦泰夫,神尾彰彦:鋳造工学
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