第62回日本実験動物学会総会

ラットおよびマウスにおける麻酔方法の相違による
血液パラメーターに与える影響
1
節
○寺田
1
弘枝
・今
2
敏雄
・ 秋元
1
元扶
・ 篠田
1獨協医科大学実験動物センター、 2日本医科大学実験動物管理室
Effects of Different Anesthesia Methods on Hematological Parameters in Rats and Mice
1
M,
○Terada
1
H,
Kon
Akimoto
2
T,
Shinoda
1
M.
1Laboratory
Animal Research Center, Dokkyo Medical University
2Division of Laboratory Animal Science, Nippon Medical School
背景と目的
動物実験に際し、血液学的検査を行う機会は多い。特に全血球計算(CBC)および血液生化学的検査は最も汎用される検査法である。
ラットおよびマウスの血液学的検査において多量の血液を必要とする場合、麻酔下において後大静脈から採血を実施することが一般的である。しかしな
がら、これら麻酔方法の相違が血液検査結果に与える影響について詳細に解析した報告がないため、麻酔方法の選択を検証する必要がある。このた
め我々は4種類の麻酔方法を用いて、方法の相違が血液パラメーターに与える影響を検討した。
材料及び方法
血液パラメーター測定
麻酔方法
CBC:
①PB群 (n=5)
・ペントバルビタールNa
(バルビツール酸誘導体 50mg/kg i.p.)
・ブトルファノール
(オピオイド鎮痛薬 5mg/kg i.p.)
②ISO群 (n=10)
・イソフルラン
(揮発性吸入麻酔薬 5%導入 3%維持 i.h.)
③MMB群 (n=10)
・塩酸メデトミジン:α2アドレナリン受容体作動薬
(ラット::0.15mg/kg マウス:0.3mg/kg i.p.)
・ミダゾラム:ベンゾジアゼピン誘導体
(ラット:2.0mg/kg マウス:4.0mg/kg i.p.)
・ブトルファノール
(ラット:2.5mg/kg マウス:5.0mg/kg i.p.)
④AMB群 (n=10)
・アルファキサロン
ラット:Wistar
♂ 10週齢
マウス:BALB/c
♂ 10週齢
白血球数(WBC)、赤血球数(RBC)、ヘモグロビン(HGB)、
ヘマトクリット値(HCT)、血小板数(PLT)
血液生化学:
アルブミン(ALB)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、ALT、
アミラーゼ(AMY)、総ビリルビン(TBIL)、尿素窒素(BUN)、
カルシウム(CA)、リン(PHOS)、クレアチニン(CRE)、グル
コース(GLU)、ナトリウム(NA+)、カリウム(K+)、総タンパク(TP)、
グロブリン(GLOB)、コレステロール(CHOL)、高比重リポタンパク
(HDL)、トリグリセリド(TRIG)
麻酔下
後大静脈
測定方法:
採血
動物用血球計測装置(HM5)にて全血を用いてCBC測定。
血液を3500rpm 4℃ 15分間遠心分離し、血漿を100μL用いて動物
用生化学分析装置(VS2)および生化学分析装置(Piccolo Xpress)
にて血液生化学を測定(ローターとしてVCDPおよびPLP使用)。
(短時間型疎水性ステロイド麻酔薬 8mg/kg i.m.)
・ミダゾラム
(5mg/kg i.m.)
・ブトルファノール
(5mg/kg i.m.)
PB
ISO
MMB
AMB
マウス
PB
RBC
HGB
HCT
PLT ALB
ALP
ALT
AMY
TBIL
BUN
CA
PHOS
(109/L)
(1012/L)
(g/dL)
(%)
(109/L) (g/dL)
(U/L)
(U/L)
(U/L)
(mg/dL)
(mg/dL)
(mg/dL)
(mg/dL)
MMB
AMB
ラットCBC
c
5.0
6.0
(1.4)
7.4 c
(1.2) d
4.8 b
(0.8)
6.0 b
(1.1)
8.6
(0.3)
9.4 d
(1.1)
8.8
(0.7)
8.0 b
(0.5)
15.6 d 45.9
(0.4)
15.1
(0.9)
15.0
(0.7)
14.2 a
(1.2)
(2.0)
43.7
(14.9)
43.7
(3.4)
44.2
(2.8)
495
378 cb
(27) (0.2) (36.7) d
643 c 5.4 d 290 a
(231)d (0.3) (42.9) d
456 b 5.4 d 268 a
(97) (0.2) (28.2) d
403 b 5.0 b 471 ab
(38) (0.1)c (53.6) c
WBC
RBC
HGB
HCT
PLT ALB
(109/L)
(1012/L)
(g/dL)
(%)
(109/L) (g/dL)
9.8
(0.5)
(0.5)
4.3 d 9.4
(1.2) (0.4)
5.1 d 9..0
(1.3) (0.7)
2.3 ab 8.9
(0.9) c (1.3)
ISO
(動物用生化学分析用ローター:VCDP)
すべての数値は平均値±(標準偏差)で表記した。 統計処理はTukey’s HSD testを用い以下に示した。
a: vs. PB p<0.05、 b: vs. ISO p<0.05、 c: vs. MMB p<0.05、 d: vs. AMB p<0.05
WBC
d
5.6
生化学分析装置(Piccolo Xpress)
動物用生化学分析装置(VS2)
表1:ラットおよびマウスにおける麻酔方法の相違による血液パラメーター値
結果
ラット
動物用血球計測装置(HM5)
45.3 d
(4.7)
54.1 d
(4.6)
49.8 d
(7.1)
34.8 a
b
(5.7) c
832
(17.8)
838.8
(58.0)
861 d
(64.2)
790 c
(25.6)
0.36
(0.05)
0.39
(0.06)
0.39
(0.06)
0.38
(0.06)
ALP
ALT
AMY
TBIL
(U/L)
(U/L)
(U/L)
b
3.1
71.4
(0.2) c (17.9)
9.7 cb
19.6 d 11.1
CRE
(mg/dL) (mg/dL)
(0.2)
(2.1)
18.0
11.1
(0.3)
(1.2)
17.4
11.2
(0.4)
(1.9)
16.5 a 11.3
(0.2)
(2.2)
(0.7)
7.2 a
d
(0.6)
7.6 ad
(1.0)
10.2 bc
(0.5)
0.30
(0.10)
0.19
(0.16)
0.21
(0.17)
0.34
(0.26)
BUN
CA
PHOS
CRE
(mg/dL)
(mg/dL)
(mg/dL) (mg/dL)
(mg/dL) (mg/dL)
(mmpl/L)
(g/dL)
(g/dL)
(mg/dL)
4.8
(0.5)
4.9
(0.8)
4.5
(0.6)
4.8
(0.5)
6.2 cb
(0.2) d
6.6 a
c
(0.2) d
6.9 ab
(0.3) d
5.7 ab
(0.2) c
K+
TP
(mmol/L)
148 c
(0.4) (1.8)
(4.1)
14.5 d 47.3
(0.6) (2.4)
594 d 2.7 a 62.9 d 34.2 1058
0.40
(130) (0.3) (10.1)
(8.2) (112.5) (0.00)
17.4 a
(1.7) c
7.9
(0.5)
10.1 c 0.11
166 c
(0.6) (0.12) (23.6)
14.3 45.3
(0.8) (3.5)
523 2.4 a 65.6 d 65.6 935 d 0.40
(4.8) (101.1) (0.00)
(35) (0.4) d (8.0)
(4.2)
7.7
(0.6)
12.6 a 45.5
(2.7) b (6.7)
470 b 3.0 c 85.2 b 85.2 1156 c 0.42
(107) (0.2) (8.1) c (4.4) (98.2) (0.04)
27.2 b
(4.8)
7.5
(0.4)
12.4 b 0.17
222 a
(2.1) (0.12) (30.0) bd
11.1
0.14
180 c
(1.8) (0.14) (41.9)
ラット生化学
(mmol/L)
NA+
11.6
(1.3)
マウスCBC
CHOL
GLU
7.7
(0.2)
WBC
GLOB
(17.5)
179 c
(23.2)
328 ab
(65.6) d
162 c
(10.9)
39.0 1101
0.42
(22.1) (304.1) (0.08)
WBC
TP
137
(0.8)
138
(3.2)
137
(1.3)
135
(1.7)
494
(58)
d
25.0 b
K+
161 c
24.2 b
15.0 d 48.7
NA+
GLU
143 b
0.16
(0.15) (14.2)
(1.5)
147 a
(3.2) cd
145 b
(1.2)
142 b
(1.2)
ALP
HDL
RBC
PLT
まとめ
4.9
(0.4)
(0.3)
1.2 d
(0.2)
1.4 d
(0.2)
0.8 ab
(0.2) c
42.2
(13.1)
41.0
(5.9)
43.4
(9.9)
34.4
(6.0)
187.4 d
(24.3)
190.9 c
d
(48.6)
123.0 b
(62.4)
89.3 ab
(32.4)
GLOB
CHOL
HDL
TRIG
(g/dL)
(mg/dL)
1.4 c
(0.1) d
1.8
(0.2)
2.0 a
(0.5)
1.5 a
(0.1)
(mg/dL) (mg/dL)
b
b
62.3 186.7
(4.6) (32.5)c
94.3 d
(5.0)
92.1 d
(9.6)
86.0 d
(6.3)
76.9 a
(5.0) b
74.0 a 89.8 a
(7.3) d (17.7)d
66.9 d 68.1 a
(3.6) (11.4)
53.2 b 150.4b
c
(6.8) c (39.6)
c
ALB
TRIG
ALP
ALT
AMY
RBC
HCT
HGB
PB
ISO
MMB
AMB
GLOB
TBIL
PHOS
GLU
CRE
BUN
K+
CA
NA+
TBIL
TP
BUN
K+
HGB
5.3
(0.3)
(mg/dL) (mg/dL)
CHOL
AMY
TP
HCT
6.1
(1.1)
TRIG
71.0
(3.7)
68.5
(7.0)
69.8 d
(7.6)
61.9 c
(8.8)
d
1.1
HDL
GLOB
PB
ISO
MMB
AMB
5.6
(2.3)
ALT
CHOL
PLT
4.5
(0.3)
4.5
(0.2)
4.3
(0.2)
4.5
(0.2)
マウス生化学
ALB
TRIG
(mmpl/L) (g/dL)
HDL
PB
ISO
MMB
AMB
CA
NA+
PHOS
GLU
CRE
図1:レーダーチャートによるラットおよびマウスにおける麻酔方法の相違による血液パラメーター比較
・麻酔方法の相違によって各血液パラメーターに影響があることが示された。
・特に両種におけるMMBによるGLUの有意な高値は、ストレスまたは鎮痛不足などの要因が考えられる。
・ラットにおけるALP、TP、TRIG及びマウスにおけるALB、TRIGでは各麻酔方法間で有意差がみられ、麻酔方法の相違で容易に変動
することが示された。
・麻酔方法が異なる実験を比較検討するうえで重要な指標となると考えられ、原因の追究が今後の課題と考える。
本研究は㈱セントラル科学貿易との受託研究で行った。また、獨協医科大学動物実験委員会(動物実験許可番号第0880号)の承認を得ていてる。
※本研究第62回日本実験動物学会総会にて発表されたものです。 ※本発表には、薬事未承認の内容を含みます。
PB
ISO
MMB
AMB