STマイクロエレクトロニクス株式会社

Success STORIES
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STマイクロエレクトロニクス株式会社
STマイクロエレクトロニクス株式会社
ロボットで世界ナンバーワンを目指す!
STのARM® マイコンとMEMSセンサーで
高度な制御を実現。
ST の ARM マイコンを
複数搭載してロボットを制御
ハイボットのロボットには ST のマイコンが採
大学における研究テーマをビジネスにしようと、大学発のインキュベーションが活発化している。2004 年に創業したハイボットも
用されていると伺っていますが、両社のお付き
そのような大学発ベンチャーの一社であり、東工大の広瀬・福島研究室で培われたロボット技術をコアに、社会インフラやエネルギー・
合いはいつ頃から始まったのですか?
資源開発を支援するサービスロボットの商用化を進めている。これらロボットの姿勢制御や高度な動き制御を支えているのが、STマ
ST バルトロメオ:7 年ぐらい前のことだった
イクロエレクトロニクス(以下、
ST )の「STM32」と MEMSセンサーだ。同社代表取締役のミケレ・グアラニエリ氏に取り組みを訊いた。
と思いますが、イタリア大使館で行われた技術
ミーティングで、ミケレと知り合ったのが最初
ですね。実際にビジネスが始まったのは 4 年か
株式会社ハイボット
代表取締役
工学博士
ミケレ・グアラニエリ 氏
ST マイクロエレクトロニクス株式会社
5 年ぐらい前です。
HiBot グアラニエリ:モーター制御や姿勢制
御などを行うために、ロボットに組み込むマイ
コンにはそれなりのパワーが必要で、当初は日
IMS コンピテンス センター
マネージャー / スタッフ エンジニア
工学博士
ルカ・バルトロメオ 氏
本産のマイコンを使っていたのですが、いずれ
リモートで点検が可能です(図 1)。また、配管
は ARM マイコンを使いたいと考えていたんです。
余裕がなくて、小型化がいつも課題になってい
やダクト内を点検する「ACM-R4H」や「Pipetron」
そこでルカに頼んで、ST から評価ボードやサン
ました。またローパワー化も必須です。一般に
などのヘビ型ロボット、東日本大震災の際に消
プルなどを提供してもらいました。
ARM マイコンは搭載されているペリフェラルが
防庁に提供した水中ロボット「ANCHOR DIVER
IV」など、数多くのロボットの商用化を進めて
います。
サービスロボットを商用化
まずはじめに、ハイボットの概要を教えてく
ださい。
れているのですか?
は ARM の実績が多いこともポイントでした。た
だ、ハイボットが製品開発を始めた頃、まだ日
産ラインで活躍する溶接ロボットや組み立てロ
(笑)。外国人が入ると英語で話しますし、今日
本では ARM がそれほど有名ではなかったことも
のような席では日本語で話します。
ヒューマノイド型(ヒト型)ロボットもあれ
HiBot グアラニエリ:普段は、よくサッカー
ば、玩具のようなロボットなどもあります。ハ
の話をしていますね。ナカータ(中田英寿)は、
イボットが手掛けるようなサービスロボットは、
引退してしまいましたが
今でも好きな選手です。
います。代表的な製品のひとつが関西電力や
これまではどちらかというと研究や実証実験レ
ド文彦先生(現・大学院理工学研究科准教授)、
ジェイ・パワーシステムズと共同で開発した
ベルでの取り組みが多かったはずで、その意味
イタリアから留学していた私とブラジルから留
高圧送電線の点検ロボット「Expliner」
(エクス
で実用化を前提とするハイボットの取り組みは
話を戻して、グアラニ
学していたパウロ・デベネストほかが創業メン
プライナ)です。鉄塔から鉄塔へと張られた高
とてもユニークだと感じています。なお、当社
エリさんはARMマイコン
バーです。
圧線を点検しようとすると、これまでは作業
の実績でいうと、岐阜県情報技術研究所が開発
を使ってみたかったと言
者が高所にある高圧線を這っていく必要があ
した水田用小型除草ロボットの「アイガモロ
われましたが、その理由
り、きわめて過酷な作業を強いられていました。
ボット」の制御部に当社の STM32F103 を採用し
は何ですか?
でヘビ型をはじめとするさまざまなロボット技
どういった製品を手掛けているのですか?
術の研究開発を進めてきた広瀬茂男先生(現・
HiBot グアラニエリ:社会インフラやエネル
「Expliner」は碍子(がいし)なども自動的に乗り
ていただいているほか、イタリア工科大学や早
HiBot グ ア ラ ニ エ リ:
名誉教授)の研究成果を実用化することを目的
ギー・資源開発を支援するサービスロボットの
越えながら、送電線を自走して表面状況や外径
稲田大学のヒューマノイドロボットなどでの採
ヘビ型ロボットなどは実
に、大学発ベンチャーとして 2004 年 4 月に創
分野で世界ナンバーワンを目指して取り組んで
寸法を測定するサービスロボットで、地上から
用が挙げられます。
装スペースにそれほど
ARM PARTNERS SUCCESS
途で活用できるだろうと。また、ヨーロッパで
ST バルトロメオ:もちろんイタリア語ですよ
業しました。広瀬先生、東工大の福島エドワー
HiBot グアラニエリ:東京工業大学(東工大)
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脱線しますが、お二人はいつも何語で会話さ
ST 立薗:ロボットと一口に言いますが、生
ボットなど、いわゆる産業ロボットをはじめ、
社会インフラの点検等を行う
多く、パッケージも小さいため、さまざまな用
あって、当初開発した製品の一部には日本産マ
イコンを採用していますが、いずれ ARM に一本
化していきたいと考えています。
図 1:超高圧架空送電線点検ロボット「Expliner」。メインコントローラに「STM32 F4」、
モーター制御には今後「STM32 F0」に切り替えを予定。
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ST 立薗:東日本大震災の海中探索でも使われ
ムで 8bit マイコン向けの要件から DSP 処理まで、
センサーデバイスからの読み込みや使いこなし
たという水中ロボット「ANCHOR DIVER IV」に
どんな用途にも幅広く使っていただけるものと
はとくに問題にはなりませんでした。
も当社製品が搭載されているのでしょうか?
考えています。
そのほか、開発の苦労があればお聞かせくだ
HiBot グアラニエリ:はい、STM32F407 を採
ロボットの姿勢検知や動き制御に
用しています。
ST の MEMS センサーを搭載
ST 立 薗:STM32 を 含 む 弊 社 の マ イ コ ン は、
ワールドワイドで 2 万 4 千社以上のお客様から
ST はいろいろなセンサーデバイスも提供して
いますね。
ている、採用製品の裾野の広いプラットフォー
ムですが、そういう用途に使われていることは、
持田 靖明 氏
われわれとしても非常に光栄に思います。
充実したライブラリの提供が
ST マイクロエレクトロニクス株式会社
マイクロコントローラ・メモリ・セキュア MCU 製品グループ
マイクロコントローラ製品部
マネージャー
たちぞの
立薗 明彦 氏
ST 選定の決め手に
今はどこにどのマイコンを使っているので
すか?
HiBot グアラニエリ:水陸両用のヘビ型ロボッ
トである「ACM-R5H」の場合では、メインコン
ト ロ ー ラ に Cortex®-M4 ベ ー ス の「STM32F4」
(168MHz)を使い、各関節部分のモーター制御
た。メインのマイコンの CAN バスに、関節の
は、さまざまなセンサーが必要です。先ほども
モーター制御マイコンを一つつないでは動か
述べたようにマイコンを含めてコンパクトに実
し、次に二つつないでは動かしと、順に進め
装したいと考え、この分野で実績と定評のある
ていきました。
気センサーなどを使っています。
えてください。
実度でも他社を上回っていると自負しています。
あって、信頼できるという印象を持っていま
を使って、それぞれを CAN バスで接続していま
が充実しているところが決め手のひとつにな
す(図 2)。
りました。
ST 佐々木:開発には当社のモーター制御ライ
ブラリを使われたのですか?
HiBot 持田:我々が必要とする機能のほとん
どが揃っていると感じました。
ST バ ル ト ロ メ オ:MEMS セ ン サ ー は ST の 強
ケットシェアを誇っています。
「STM32」や先ほ
ど出た「標準ペリフェラルライブラリ」に加え
い製品分野での STM32 ファミリの採用を後押し
ずけるのに苦労しましたね(笑)。
し、ベンチャー企業のアイデアの具現化に貢献
できれば、本当に嬉しいですね。
世界ナンバーワンを目指して
ロボット技術で社会に貢献
グアラニエリさんは母国を離れて日本で起業
されたわけですが、大学の研究テーマをビジネ
ボティクスやメカトロニクスに最適なソリュー
ハイボットは東工大発のベンチャーとして生
えに「STM32」の採用に至った事例は多いので
ションをシステムとしてトータルに提供するこ
まれましたが、そうした起業やインキュベー
HiBot グアラニエリ:東工大に留学していた
しょうか?
とができます。
ションをサポートする施策があれば教えてくだ
頃からロボット技術で人を助けたいという想い
さい。
を抱いてきました。会社として利益はもちろん
ST 立薗:選定のポイントとなるケースはかな
ARM マイコンとセンサーの両方を ST から調
出していかないといけませんが、高齢者の支援
プログラム」という取り組みを進めていて、将
であったり、災害救助支援であったり、ロボッ
来性のある研究テーマに対して、サンプルやト
ト技術を通じてさまざまな点で社会に貢献して
は増えてきています。モーションセンサーの出
レーニングの無償提供を行っています。例えば、
いきたいと考えています。もちろん起業にはリ
力にカルマンフィルターなどを適用し精度の高
早稲田大学ヒューマノイド研究所とのパート
スクもありますし、創業直後は経営が安定しな
い動き検出や予測を実現する「iNEMO Engine
ナーシップでは、学生をインターンとして当社
いかもしれませんが、若い人たちはやってみた
Sensor Fusion Suite」ソフトウェアをはじめと
で受け入れる取り組みも始めました。第二第三
いことがあるのならチャレンジすべきだと思い
してさまざまなファームウェアを用意している
のハイボットが生まれてくることを期待してい
ます。私たちのそうした気持ちを感じてくれる
ことも、採用の決め手になっています。
ます。
のか、ハイボットに入りたいという学生も増え
開発を担当していますが、「STM32」は全ペリ
定していたプロジェクトが、「標準ペリフェラ
いますが、いずれは Cortex-M0 ベースの「STM32
フェラルのドライバとサンプルコード(C 言語)
ルライブラリ」が充実していたおかげで 1 ヶ月
ST バルトロメオ:そういったお客様のニーズ
F0」
(48MHz)などに切り替えていく予定です。
がライブラリとして提供されるので、短時間
ぐらいで終わった、というお客様もいらっしゃ
います。
ところはとても助か
「STM32」の性能面はいかがでしたか?
スにするという経験をお話ください。
ST バルトロメオ:ST では「ユニバーシティ
す。モーター制御には日本産マイコンを使って
達される事例は多いのですか?
リのサポートがない
HiBot 持田:ARM Cortex-M プロセッサは今ま
と、リソースの少な
で使ってきた日本産マイコンに比べて処理性能
い当社では開発が難
は高いので性能面ではまったく問題ありません
ST 佐々木:当社のセンサーデバイスは基本的
ST 立 薗:ST で は 既 に 展 開 中 の 低 価 格 評 価
しかったと思います。
でした。なお、それほど大規模なソフトウェア
2
に I C バスからデータを読み込む形なので、ア
ボード Discovery Kit に加え、ARM mbed™ およ
ST 佐々木:私ども
を載せているわけではないので、OS は搭載して
プリケーションに応じてカスタマイズするのも
び Arduino 接 続 に 対 応 し た STM32 Nucleo ボ ー
日本をはじめとして各国ではインフラの老朽化
いません。
簡単なんです。
ドを発表し、今後すべての STM32 マイコン・シ
が課題になっており、ハイボットが手掛けるサー
リーズに展開予定です。また、ピン配置設定お
ビスロボットに対するニーズもますます高まって
は「標準ペリフェラ
ARM PARTNERS SUCCESS
はヘビ型ロボットが元気に動き回るので、手な
「標準ペリフェラルライブラリ」があるがゆ
り多いです。たとえば 2 ヶ月での試作完了を予
図 2:水陸両用ヘビ型ロボット「ACM-R5」。メインコントローラに「STM32 F4」を、
各関節部分のモーター制御用に「STM32 F3」を採用。
佐々木 俊浩 氏
を用意しています。これらのツールがより幅広
て MEMS センサーも取り揃えていますので、ロ
HiBot 持田:はい。私は制御ソフトウェアの
りました。ライブラ
ST マイクロエレクトロニクス株式会社
マイクロコントローラ・メモリ・セキュア MCU 製品グループ
マイクロコントローラ製品部
マネージャー
HiBot グアラニエリ:開発のはじめの段階で
みのひとつであり、世界トップクラスのマー
HiBot グアラニエリ:メインは「STM32 F4」で
で開発を進められる
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子をまたがるアクロバティックな動きの制御に
る点は ST のアピールポイントのひとつで、充
した。とくにモーター制御関連のライブラリ
何をお使いですか?
かうまく制御できないという苦労はありまし
いますが、ST のマイコンを採用された理由を教
用に Cortex-M3 ベースの「STM32 F3」
(72MHz)
ST 立薗:送電線を点検する「Expliner」には
検知や、送電線点検ロボット「Expliner」が碍
ST のジャイロセンサー、加速度センサー、地磁
トのモーター制御に「STM32」を使ったことが
けだったので、モーターが組み込まれた「動
く」ロボットの開発を担当した当初は、なかな
さまざまな機能ライブラリを無償で提供してい
実際にお使いになってみていかがでしたか?
込みソフト開発を担当してきた経験があるだ
HiBot グアラニエリ:ヘビ型ロボットの姿勢
ARM マイコンはいろいろなベンダーから出て
HiBot グアラニエリ:以前、別のプロジェク
HiBot 持田:私はこれまでデジタル家電や携
帯電話など、物理的に「動かない」製品の組
幅広いアプリケーション向けにお使いいただい
株式会社ハイボット
さい。
HiBot 持田:開発で課題になったのは「STM32」
ています。
ルライブラリ」と呼ん
ST 佐 々 木: 最 近 で は「STM32」は フ ァ ミ リ
でいますが、モーター
の品種数が 500 を超え、さらに拡大しています。
と日本産マイコンを混在させた環境で CAN バ
よびペリフェラル初期設定ファイルの自動生成
くると思われます。今後のご発展を祈念していま
制御をはじめとして
性能面や機能面を含めて、1 つのプラットフォー
スの設定がうまくいかなかったところぐらいで、
が可能な無償 PC ソフトウェア STM32 CubeMX™
す。今日はどうもありがとうございました。
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